「幼稚園のとき何組?」
【教官室】
加賀
「···チッ」
教官室に、加賀の舌打ちが響く。
デスクに投げ出した報告書はあまりにもひどい出来で、舌打ちくらいでは気が済まないようだった。
加賀
「使えねぇゴミばっかりが集まりやがって」
「いっそ、幼稚園からやり直させるか」
黒澤
「いいですね~幼稚園。意外と効果あるかもしれませんよ」
今日も懲りずにやってきている黒澤が、加賀の独り言を聞きつけて笑顔になる。
加賀
「相変わらず、耳ざとい奴が···」
「用事もねぇのに、毎日毎日よく来るもんだな」
黒澤
「加賀さん、相変わらず辛辣···」
「それで、実際に作るとしたら何組にします?」
加賀
「あ?」
黒澤
「オレの幼稚園、全クラスが花の名前だったんですよね~」
「ちなみにオレは、あさがお組でした!」
颯馬
「私の幼稚園は、動物の名前が入ってましたね。私はペンギン組でしたが」
黒澤
「みなさんは?何組でした?」
後藤
「果物の名前だったな···確か、さくらんぼ組だった」
黒澤
「さくらんぼ組の後藤誠二くん!かわいいじゃないですか~★」
後藤
「······」
黒澤
「歩さんは?」
東雲
「え、普通に1年2組だったけど」
黒澤
「味気ない···」
難波
「なんだぁ?面白そうな話してんな」
黒澤
「難波さんは幼稚園のとき、何組でしたか?」
難波
「そんな大昔のこと、おっさんの記憶の中にはねぇよ」
「いや···そうだな、確か霊峰組だったか、白雲組だったか···」
加賀
「···日本酒の名前ですか」
難波
「さすが加賀!よくわかったな」
難波に肩を叩かれ、加賀が小さくため息をつく。
すると、相変わらず空気を読まない黒澤がぐいぐい迫ってきた。
黒澤
「それで、加賀さんは何組でした?」
加賀
「なんでテメェに言わなきゃならねぇ」
黒澤
「いいじゃないですか~、別に隠すことでもないし!」
東雲
「むしろオレは、兵吾さんに幼稚園時代があったことに驚きだけど」
颯馬
「歩、知っていますか?人には等しく子どもだった頃があるんですよ」
なおさら苛立った様子で、加賀が仕事に戻ろうとする。
が、黒澤は加賀が答えるまで付きまとい続けるのではというほどしつこかった。
黒澤
「ヒント!ヒントだけでいいですから!」
「チューリップ組?猫さん組ですか?」
加賀
「そんなもんねぇ」
黒澤
「じゃあ、地球組?銀河組?」
東雲
「なんで急に宇宙規模になるの」
黒澤
「だって加賀さんって、そういう感じじゃないですか」
「間違っても、桃組とかキリン組とかじゃないですよね」
加賀
「···明王」
加賀が答えた瞬間、全員が動きを止める。
黒澤
「え?」
加賀
「明王組だ」
後藤
「明王組···!?」
石神
「そんな組があるのか···?」
東雲
「明王って、アレですよね。仏なのに鬼みたいな顔してる···」
加賀
「仏教系の幼稚園だったんだから仕方ねぇだろうが」
黒澤
「ほ、他には?どんなクラスがあったんですか?」
加賀
「···菩薩組と如来組、天部組だ」
一同が驚いた様子で自分を見ていることに気付き、加賀は心の中で再び舌打ちする。
加賀
「この話は終わりだ」
黒澤
「あ~、もっと詳しく聞きたいのに」
難波
「菩薩組や天部組がある中で、よりによって明王組か···」
東雲
「しっくりきすぎてません?」
石神
「あいつが菩薩組だったら、保護者から苦情が出るだろう」
颯馬
「明王という名前が似合いすぎてて、怖いくらいですね」
加賀が出て行ったあとも、ざわざわし続ける教官室であった。
Happy End