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ホワイトデー 東雲2話


しばらくの間、妙な沈黙が漂った。

そして‥

東雲

へーそう‥

ふーん‥

(お、怒ってる‥絶対怒ってる‥!)

東雲

ま、頭上げれば?

サトコ

「は、はい‥」

「!!」

(笑顔‥っ、笑顔が怖いんですけど!)

東雲

‥で?

ウソついた理由は?

サトコ

「そ、それは‥」

<選択してください>

A: 牧場で遊びたくて

サトコ

「牧場で遊びたくて‥」

東雲

あっそう

じゃあ、一生遊んでいれば?

サトコ

「ウソです。それだけじゃないです!」

「デートが‥どうしてもデートがしたくて‥!」

B: 教官とデートがしたくて

サトコ

「教官とデートしたくて‥」

東雲

‥‥‥

サトコ

「最近、週末も忙しかったし‥」

「その‥学校でしか会えなかったし‥」

東雲

‥‥‥

サトコ

「学校だと、やっぱり教官と補佐官だし‥」

「それで、つい‥」

C: 言わないとダメ?

サトコ

「言わないとダメですか?」

東雲

いいよ、嫌ならそれでも

そのかわり好き勝手に解釈するけど

キミには虚言癖があるとか

純真なオレをもてあそぼうとしてたとか

サトコ

「違‥っ」

「デートです!本当はデートしたかったんです!」

東雲

へー

東雲

‥‥‥

サトコ

「だからってウソついていいわけじゃないですよね‥」

「それは重々わかってます」

東雲

‥‥‥

サトコ

「でも、どうしてもデートを‥久しぶりのデートをし‥」

バチンッ!

サトコ

「痛っ!」

(な、なんでデコピン‥)

東雲

生意気

オレを騙そうとするなんて

サトコ

「す、すみません‥」

東雲

しかもウソのレベル低すぎ

サトコ

「そうですよね、レベルが低すぎ‥」

(‥ん?)

東雲

ほんと、びっくり

まさか本気で騙せたつもりでいたなんてね

(‥あれ?)

東雲

ま、仕方ないか

しょせん『ましなバカ』なわけだし

サトコ

「えっ、あの‥」

「もしかして、ウソだって気づいて‥」

東雲

当然。少しは頭を働かせなよ

もともと任務でここに来たのに

施設のイベント関係を把握してないわけがないでしょ

(言われてみれば、確かに‥)

納得したとたん、身体中の力が抜けそうになる。

(そ、そうだよ、バレてないわけがないよ)

(相手は教官だし、そんな『恐竜展』なんてウソ、絶対に‥)

東雲

でもさ、ウソはよくないよね?

恋人相手に

(え‥)

東雲

反省する気は?

サトコ

「あります!めちゃくちゃあります!」

東雲

そう、じゃあ‥

罰ゲーム、受けてもらおうか

それもとびきりのヤツ

サトコ

「え‥」

東雲

いいよね、もちろん

サトコ

「は、はぁ‥」

そんなわけで、帰り道‥

不安と緊張でガチガチになりながら、私は電車に揺られていた。

(罰ゲームってなにをさせられるんだろう‥)

(マッサージ1時間?)

(超レアな『幻のピーチネクター』を買いに行かされる?)

(それとも、ひたすら資料のスキャンニングとか‥)

東雲

あー楽しみ

どのコースにしようかな

(コース!?)

(そんなに選択肢があるのっ!?)

東雲

『S』と『激S』と『激レアS』‥

どれがいい?

サトコ

「ど、どれもちょっと‥」

「せめて『ソフトS』な感じで‥」

そうこうしているうちに、教官の自宅の最寄駅に到着する。

東雲

さ、降りようか

サトコ

「は、はい‥」

(ダメだ、頭の中で『ドナドナ』が流れてきた‥)

(半日以上、牧場にいたせいかな‥)


部屋に着くなり、教官はドカッとソファに座った。

東雲

さて、どうしようかな?

サトコ

「‥‥‥」

東雲

まず最初は‥

サトコ

「なんでもします!」

「買い物でも掃除でも、パシリでもなんでも‥!」

「だから、その‥優しめな罰ゲームで‥」

東雲

あっそう

だったら‥

教官の視線が、キッチンへと動く。

東雲

『バラ』を持ってきてもらおうか

サトコ

「バラ‥?」

(ってことは、つまり‥)

サトコ

「今から花屋へ行けと‥?」

東雲

違う。冷蔵庫

中にあるから取って来て

サトコ

「はぁ‥」

(なんで冷蔵庫にバラ?置き場所がなかったとか?)

(‥そんなことないよね。場所ならいくらでもありそうだし)

疑問に思いつつも、私は冷蔵庫の扉を開ける。

サトコ

「え‥」

(これ‥透明なバラ‥?)

東雲

「見つけた?」

サトコ

あ、はい‥

(バラってこれのこと?)

(でも、これ‥本物のバラじゃないよね)

(たぶん、飴細工かなにかでできていて‥)

(飴細工‥飴‥)

サトコ

「ああっ!」

東雲

うるさい

サトコ

「でも、これ飴細工で‥!」

「今日って3月14日‥」

東雲

気づくの遅すぎ

ほんと抜けてるよね、キミ

(じゃあ、本当に?)

(本当にこれ、ホワイトデーだから‥?)

東雲

え‥なに?

なんで涙目?

サトコ

「だ、だって教官‥イベント嫌いなのに‥」

「こんな‥ホワイトデーにこんな素敵なの‥」

東雲

別に‥

買うよりは作った方が安かっただけだし

それに、まぁ‥

キミもバカなりに、バレンタインのときに頑張って‥

サトコ

「教官‥っ!」

感極まって、教官の胸にダイブする。

とたんに、本気でイヤそうにグイグイと顔を押しやられた。

東雲

やめてくれない?

鼻水つく‥

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サトコ

「好きです!」

「教官、好きです!本当に大好きです!」

東雲

‥知ってる。そんなの

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拒絶していた手が、ようやく私を受け入れてくれる。

東雲

ま、とにかく

その飴細工、全部食べてね

罰ゲームとして

サトコ

「はい!」

東雲

‥ウザ

それでも教官からは笑うような気配が伝わってきた。

とは言っても、やっぱりすぐに食べる気にはなれなくて。

サトコ

「うーん‥」

(この角度でもう1枚‥)

カシャ!

(あと、こっちの角度からも撮らないと‥)

カシャ!

東雲

‥あのさ、いつ食べるの?

サトコ

「待ってください。写真を撮り終わったら‥」

東雲

それ、20分前にも聞いたけど

サトコ

「うっ、でも‥」

<選択してください>

A: 思い出に‥

サトコ

「思い出に‥」

東雲

その思い出作りにどれだけメモリ使ってるの

サトコ

「メモリはよくわからないですけど‥」

「枚数なら、たぶん50枚くらい‥」

東雲

怖っ

サトコ

「だって、食べたら消えちゃうんですよ?」

「そうしたら、もう‥」

東雲

ハイハイ

教官は、私の手からスマホを取り上げる。

B: もう二度とないかも

サトコ

「こんなこと、もう二度とないかもしれないし」

「もしかしたら、今年だけの教官の気まぐれかもしれないし‥」

東雲

あっそう

じゃあ、来年はコンビニののど飴で‥

サトコ

「ウソです!来年もぜひお願いします!」

東雲

キミと付き合ってたらね

(うっ‥)

東雲

ま、新しい恋の予定はないけど

サトコ

「!」

私が思わず顔を上げたすきに、教官は素早くスマホを取り上げる。

C: 待受けにしたくて

サトコ

「待受けにしたくて」

「だから、綺麗に撮りたくて‥」

東雲

なにそれ

リア充アピール?

サトコ

「違っ‥」

「ていうか、そんな本気で嫌そうな顔しなくても‥」

東雲

あーハイハイ

教官は適当な返事をしながら、私の手からスマホを取り上げる。

東雲

はい、罰ゲーム

さっさと食べて

サトコ

「‥‥‥」

東雲

‥なに?食べないの?

サトコ

「だって、やっぱりもったいなくて‥」

「すごくきれいだし、作るのも時間がかかってそうだし」

東雲

そうでもないけど

砂糖水と水あめを溶かして、食紅を混ぜて固めるだけだから

サトコ

「でも、この花びらとか‥」

東雲

粘土遊びの延長でしょ

飴のかたまりを、こうやってうまく伸ばして‥

教官は、そばにあったメモ用紙をちぎって作り方を説明してくれる。

サトコ

「でも、これ‥飴に直接触って作るんですよね」

「熱くないんですか?」

東雲

意外と低温でも作れるから平気

むしろ鍋に気を付けないと‥

サトコ

「そうですよね。うっかり触るとやけどして‥」

(ん?)

ふと目が行ったのは、教官の指先の絆創膏だ。

(あの傷、もしかして‥)

私の視線に気づいたのか、教官はさっと手を隠した。

東雲

なに?

サトコ

「あ、その‥」

‥なんとなく、わかってしまった。

あの指の傷の正体が。

東雲

‥ま、とにかく

こんなの簡単だから、さっさと食べれば?

サトコ

「‥はい!」

簡単だなんて、きっとウソだ。

それでも、そのウソに乗っかって、私は飴細工に手を伸ばす。

(食べるの、やっぱりもったいないけど‥)

網目のような茎の部分を折って、花びらに口をつけてみる。

(うわぁ、甘い‥)

東雲

また虫歯になるかもね

1ヶ月前みたいに

サトコ

「大丈夫です。今度は念入りに歯磨きしますんで」

「それより、教官は食べないんですか?」

東雲

べつに。昨日食べたし

でも、まぁ‥キミが味見してほしいなら‥

してもいいけど

パキン、と別の茎を折ると、教官は私の前に差し出してきた。

東雲

咥えて

サトコ

「!」

東雲

味見してほしかったら

サトコ

「‥じゃあ」

茎の端っこをかじると、反対側の端っこに教官が口をつける。

口の中に甘さが広がれば広がるほど、2人の距離が縮まって‥

(あ、こ、これは‥!)

(もしかしなくても、もうすぐキス‥)

バキッ!

(ああっ、茎が!)

(っていうか教官、今、自分で折って‥)

東雲

やっぱりやーめた

これ、罰ゲームだし

(ええっ)

サトコ

「ひどいです!教官から言い出したのに、こんなの‥」

東雲

え、なに?

そんなにオレとキスしたかったの?

それともただの欲求不満?

サトコ

「違‥っ」

東雲

じゃあ、いいじゃん

途中放棄しても

(そうだけど‥そうかもしれないけど‥!)

東雲

‥ウソ

味見したい。やっぱりさせて

(え‥)

サトコ

「んっ‥」

やわらかく唇を食まれて、私は思わず息を飲む。

キスが長くなればなるほど、甘さの正体がわからなくなりそうだ。

(ずるい‥なんかずるい‥)

バラの形だった飴は、多分とっくに溶けて消えている。

それでもなんだか離れ難くて、私は教官を受け止める。

甘い甘い罰ゲームが終わるのは、まだまだ先になりそうだった。

Happy  End



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