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元カレ 石神 2話

料理が運ばれ、話をしながら食事を進めていく。

石神
狭霧さんは、医者なんですね

ハジメ
「はい。とはいえ、まだ研修医なんですけど···」

サトコ
「ハジメ、昔から頭が良かったもんね」

ハジメ
「まあ、医者になるためにずっと勉強していたからな」
「そういうサトコだって、夢を叶えて警察官になったんだろ?」

サトコ
「確かに警察官にはなったけど···私の目標は、刑事になることだから」
「例え刑事になったとしても、そこで終わりなわけじゃないからね」

ハジメ
「そっか···サトコの前向きさは昔から変わらないんだな」

ハジメは、にっこりと微笑んだ。

(最初は不安だったけど···)

あれから特に問題もなく、時間は進んでいた。

(こうして石神さんとハジメが話しているなんて···なんだか、不思議な感じ)

ハジメ
「サトコ、そこの醤油とってもらっていい?」

サトコ
「うん」

近くに置いてある醤油を取り、ハジメに渡す。

サトコ
「あっ···」

醤油を受け取ろうとするハジメの手が、私の手に触れた。

ハジメ
「······」

ハジメはまじまじと、私の手を見つめる。

ハジメ
「警察官になっても、手は綺麗なままなんだな」

ハジメは醤油を置き、私の手を優しく取った。

サトコ
「そ、そうかな···もうゴツゴツになっちゃったよ」

ハジメ
「そんなことないよ。指が長くて真っ直ぐなとこ、変わってない」
「高校の時プレゼントした、安いオモチャみたいな指輪も似合っていたもんな」

ハジメはそう言いながら、私の薬指をそっと撫でた。

サトコ
「っ···」

ハジメ
「あっ、悪い」

私が咄嗟に手を引くと、ハジメは照れ臭さそうに頬を掻く。

ハジメ
「ごめんな、なんだか懐かしくなっちゃって」

サトコ
「う、ううん···」

(ハジメからもらった指輪···)

高校生が買えるものだから、そう高いものではない。
だけど当時の私にとっては、何よりのプレゼントだった。

(懐かしいな···)

過去の記憶に、想いを馳せる。

(過去があるから、今の自分があるんだよね)

それは全て、石神さんへの出会いに繋がっている···そう思った。

石神
······

サトコ
「···?」

視線を感じ、顔を上げると石神さんと視線がぶつかる。
石神さんは気まずそうに、私から視線を逸らした。

ハジメ
「サトコが警官になってしばらく経ったけど、刑事にはなれそうなのか?」

サトコ
「それは···」

公安学校のことは、外部には極秘。
そのため、当たり障りがないように言葉を選ばなければならない。

(間違ってでも、裏口入学で公安学校に入りました···なんて、言えないもんね)

サトコ
「頑張ってはいるんだけどね···」

山のような課題に厳しい教官たち、それに補佐官の仕事。
今は目の前のことをこなしていくだけで、やっとだった。

ハジメ
「それじゃあ···上官の石神さんから見たサトコはどうですか?」

石神
そうですね···

石神さんは私に視線を向け、口を開く。

石神
警官としてはまだまだで、要領も悪いです

(うっ···!本当のことなんだけど···)

石神さんのストレートな言葉が、胸に深く突き刺さった。

石神
···ですが、いつも前向きでガッツがあって···育て甲斐がありますよ

サトコ
「本当ですか!?」

嬉しい言葉を言われ、思わず声が大きくなってしまう。

石神
···氷川

サトコ
「あっ!すみません···」

注意を受けシュンっとするも、私の心はポカポカと温かい。

ハジメ
「ははっ、サトコは昔から変わってないな。そうやって、すぐ顔に出るところとか」

サトコ
「そうかな···?」

(確かに、東雲教官に散々『分かりやすい』って言われてるけど···)

ハジメ
「そうだよ。それに···サトコが変わってなくて良かった」
「サトコは昔から夢に向かって頑張っていて···いつも刺激を受けていたよ」

サトコ
「ハジメ···」

ハジメの本心に触れ、なんだかこそばゆく感じる。

石神
狭霧さんにも、何か夢があるんですか?

ハジメ
「はい。俺は海外派遣の医師になって」
「世界中の苦しんでいる人々を救いたいって思っています」
「そのために今は、修行を積んでいるんです」

サトコ
「昔からの夢だったもんね」

ハジメ
「ああ、もうすぐで研修が終わるんだ」
「そうしたら、恵比寿病院の脳外科に勤務することが決まってる」

石神
恵比寿病院···一流の病院だと耳にしています
そこに行くまでに、相当な努力を積んだのでしょうね

ハジメ
「そうですね···決して楽なものではありませんでした」
「ですが、夢をかなえるためには、いくらでも努力したいと思っています」
「恵比寿病院で経験を積んで、ゆくゆくは海外に···」
「そのために、まだまだやるべきことはたくさんありますから」

(ハジメも夢に向かって、一歩を踏み出したんだ···)
(私も初めに負けないように、もっともっと頑張らなきゃ!)

石神
私も応援しています。頑張ってください

ハジメ
「ありがとうございます」
「···そうだ。石神さん、仕事場でのサトコのことについて聞いてもいいですか?」

サトコ
「ちょ、ちょっと、ハジメ···」

ハジメ
「いいだろ?それに、実際の警官がどういうことをしているのか気になるしな」

石神
そうですね···

石神さんは少し考えるようにして、言葉を紡ぐ。

石神
無鉄砲なところがあるので、勢いだけで動くことも多いですね
後先考えず、とにかく突っ込むという節があるというか···

サトコ
「うっ···」

私は、今までの事件を思い返す。
石神さんの指摘に、ぐうの音も出なかった。

石神
ですが、そのおかげで解決した事件もあります
私としてはもっと周りを見てほしいと思うこともありますが‥
彼女のガッツは、見習うべきところがあるのも確かです

ハジメ
「ははっ、サトコらしいですね」

石神
ええ
それに氷川はいつも前向きで明るく、それが周囲にも伝染しているように感じます
彼女がいるだけで、現場の雰囲気も大分変わるんですよ

(石神さん、そんな風に思っててくれたんだ···)

褒められ慣れてないせいか、妙に照れ臭く感じてしまう。

石神
······

そして石神さんは私に視線を向け、優しく微笑む。

石神
···私自身、いつも彼女に勇気をもらっています
彼女に負けないように、私自身も努力しなければいけない···そう思っています

サトコ
「石神さん···」

<選択してください>

A: その···ありがとうございます

サトコ
「その···ありがとうございます」

石神
いや···

(あ、石神さんの頬が少しだけ赤くなってる···ふふっ照れてるのかな?)

石神さんの反応に、頬が緩むのを感じる。

ハジメ
「···そっか。サトコも、見つけたんだな」

サトコ
「え?今なにか言った?」

ハジメ
「なんでもない。ただ、良かったなって思ったんだ」

B: もっと褒めてくれてもいいんですよ?

(ど、どうしよう···石神さんがこんなに褒めてくれるなんて···!)

嬉しい反面、照れ臭い気持ちが一気に押し寄せてくる。

サトコ
「石神さん!もっと褒めてくれてもいいんですよ?」

気付いたら、照れ隠しにそう口をついていた。

石神
ほう?

(···ハッ!私ったら、なんて大胆なことを···!)

石神
少し褒めたら、すぐこれだ。お前は調子に乗るところがあるからな
まあ、それが悪いとは言わないが···

石神さんは先ほどとは違い、今度はニヤリと笑みを浮かべる。

石神
そんなに褒めて欲しいなら···氷川が止めてくれというくらい、思う存分褒めてやろう

サトコ
「や、やっぱりいいです!今のは忘れてください~!」

ハジメ
「プッ···」

サトコ
「ハジメ···?」

ハジメ
「ああ、ごめん。···やっぱり、仲が良いなって思ったんだ」

C: 石神を褒める

(石神さんこんなにも褒めてくれるなんて···!)

感極まり、お礼に石神さんのことを話したいという衝動に駆られる。

サトコ
「ハジメ、石神さんって、とてもいい上官なんだよ」
「真面目で厳しくて、時にはついていくのもやっとなこともあるけど···」
「それも全部、優しさの裏返しだって思ってる」
「私、石神さんの下につけて‥石神さんと出逢えて、よかったって思ってるんだ」

石神
···コホンッ

石神さんは少し居心地が悪そうに咳払いをする。

サトコ
「あっ···す、すみません!いきなりこんなこと言うなんて···」

石神
いや···

頬を染め、視線を逸らしながらメガネを押し上げる石神さん。

(もしかして···石神さん、照れているのかな?)

ハジメ
「···幸せそうだな」

サトコ
「え···?」

ハジメ
「なんでもないよ」

ハジメはそう言って、嬉しそうに笑みを浮かべた。

食事を終えた私たちは、レストランを出る。

ハジメ
「サトコ、今日は楽しかったよ」

サトコ
「うん、私も楽しかった。会えてよかった」

ハジメ
「そうだな」

ハジメはニコッと笑うと、石神さんに向き直る。

ハジメ
「石神さん。サトコのこと、よろしくお願いします」

サトコ
「ハジメ···」

真剣な表情で、石神さんを見るハジメ。

石神
···ああ

ハジメ
「ありがとうございます」

サトコ
「······」

(たとえ別れても、ハジメは私と誠実に向かい合ってくれている)
(やっぱり、石神さんとのことを隠したまま別れたくない···!)

サトコ
「あの、ハジメ!」

ハジメ
「ん、どうした?」

サトコ
「あの、ね···実は···」

私は一度石神さんに視線を向け、真っ直ぐハジメを見据える。

サトコ
「実は、石神さんはただの上官じゃなくて···私、お付き合いをしてるの」

石神
サトコ···

私の告白に、石神さんは驚いたように呟く。

ハジメ
「···そんなの、見てたらわかるよ」

サトコ
「え···?」

ハジメ
「言っただろ?サトコは分かりやすいって」
「それに···恋人って似るんだな」
「石神さんも、サトコのことを気にしているようだったから···」

ハジメは満面の笑みを浮かべ、片手を上げる。

ハジメ
「愛されているな、サトコ。幸せにな!」

そう言って、ハジメはその場から去っていった。
ハジメと別れ、私たちは帰路につく。

サトコ
「石神さん、すみません。隠していたのに、彼氏って言ってしまって」
「でも、どうしてハジメにバレたんでしょうか···?」

(私ならともかく、石神さんの様子からも気づいていたって感じだったよね?)

石神
···もう、それ以上言うな

怒気をはらむような強い口調に、目を丸くする。

サトコ
「石神、さん···?」

石神
······

石神さんはバツが悪そうに、小さくため息をついた。

石神
···悪い、大人げなかった

サトコ
「いえ···」

石神
でも···もう、アイツの話はするな

サトコ
「えっ···?」

石神
······

石神さんは視線を逸らしながら、メガネを指で押しあげる。

(もしかして···)

サトコ
「石神さん···ヤキモチ、ですか···?」

石神
···俺が妬いたら、悪いか?

足を止めると、石神さんは私の瞳を見つめる。

石神
惚れた女性に対して、それくらいの感情は人並みに持っている
いや···人並み以上に、な

サトコ
「石神さん···」

(元カレのことなんて気にしてないって思ってたけど···)

いつも冷静な石神さんが見せる可愛らしい嫉妬に、嬉しさがこみ上げてきた。

<選択してください>

A: 嬉しいです

サトコ
「こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど···嬉しいです」

石神
···あまり俺をからかうな

サトコ
「からかってなんていません。本心、ですよ?」

石神
そうか···

石神さんはフッと笑みを浮かべ、私の頭をポンポンと撫でる。

石神
まあ、勘づかれたのは癪だが···アイツと会えて、良かったと思ってる

B: 石神さん、可愛いですね

サトコ
「石神さん、可愛いですね」

石神
は?可愛い···?

サトコ
「はい!まさか、嫉妬してくれるなんて思わなくて···」
「普段の石神さんからは想像できなくて、なんだか可愛いなって思ったんです」

石神
······

(あ、あれ···?)

石神さんは、苦虫を噛み潰したような顔をする。

石神
···彼女から可愛いと言われて、喜ぶ男がいるわけないだろう
それに···可愛いというのは、お前のことだろう

フッと笑みを浮かべ、石神さんは私の頬をそっと撫でた。

C :石神に抱きつく

サトコ
「っ、石神さん!」

石神
っ!?

私は勢いよく、石神さんに抱きついた。

石神
サトコ

サトコ
「あっ···す、すみません!」

私はハッと我に返り、石神さんから離れた。

サトコ
「その、石神さんが嫉妬してくれたと思うと嬉しくて、ですね‥」

石神
だからと言って、公衆の面前で抱きつくことはないだろう?

サトコ
「おっしゃる通りです···」

石神
全く···サトコは本当に手が掛かるな

口ではそういうものの、石神さんは柔らかい笑みを浮かべる。

石神
まあ···そんなサトコだから、惚れたんだろうな

そして石神さんは自身の指と私の指を絡め、恋人繋ぎをする。

サトコ
「石神さん···?」

首を傾げながら見上げると、私の手を握る手に力が込められた。

石神
今日はもう、ずっと離さない
···いや、今日だけじゃない。これから先もずっと···

手のひらから温もりと共に、石神さんの想いが伝わってくる。

サトコ
「っ、はい!」

私は満面の笑みで、石神さんに返す。

そして私たちは、ゆっくりと歩き始めた·····

Happy  End

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