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元カレ 加賀 1話

加賀
······

サトコ
「ヒィ!」

加賀
何ビビってやがる

サトコ
「す、すみません···」

ハジメとの電話を切ると、加賀さんが恐ろしいほどのオーラを放って立っていた。

(今の会話···聞かれてない···よね···?)

加賀
メシ、行くのか?

(聞かれてたーーー!)

サトコ
「も、もちろん断りました···忙しいからって」

加賀
忙しいから、か

サトコ
「い、今の短い時間では、恋人がいるって説明できなかったんです!」

加賀
なんでだ?

サトコ
「へ?」

加賀
『狭霧一(さぎり はじめ)』は、なんでテメェの番号を知ってた

(もう、ハジメのフルネームを突き止めてる···!)
(これは絶対、東雲教官の仕業に違いない···!)

サトコ
「な、鳴子が私の連絡先を言っちゃったみたいで」

加賀
······

サトコ
「それで昨日、ちょっとだけLIDEでやり取りしました···」

加賀
佐々木か

サトコ
「待ってください!鳴子にはよーく言って聞かせますから!」

追いすがるように、加賀さんに抱きつく。
このまま見過ごせば、鳴子が危ない。

サトコ
「ハジメとは、もう完全に別れてますから!ヨリを戻すとかもありえないし」
「大学からは、全然連絡を取ってないんです!番号もアドレスも知らなかったんです!」

加賀
わかってる

サトコ
「えっ?」

加賀
テメェが飼い主を複数持てねぇことくらいな
それとも、駄犬から野良犬に降格するか?

<選択してください>

A: 捨てるつもり?

サトコ
「ま、まさか捨てるつもりですか···!?」

加賀
さあな
あちこちに飼い主がいる犬なんざ、興味もねぇ

サトコ
「い、嫌です!駄犬でいいですから!」

B: それでもいいです

サトコ
「それでもいいですから、捨てないでください!」

加賀
そいつに拾ってもらえ

サトコ
「加賀さんでないとダメなんです!」

加賀
······

サトコ
「駄犬でも野良でも、なんでもいいですから!」

C: クズに昇格させて

サトコ
「できれば、駄犬からクズに昇格させていただけると···」

加賀
捨て駒に戻りてぇのか?

サトコ
「そ、それなら駄犬のままでいいです!」

加賀
···チッ

慌てて言うと、渋い顔をしたまま加賀さんはいなくなってしまった。

(っていうか、自分から『駄犬でいい』って認める私って···)
(それにしても、加賀さんのあの不機嫌オーラ···)

サトコ
「嫉妬してくれてるのかも、って素直に喜べない···」

(駄犬が、他の男に尻尾振りやがって···とか思っているんだろうな)
(はぁ···恋人のはずなのに、クズとか犬扱い···もう慣れたけど)

誤解は解けたものの、なんとなく肩を落としながら寮へと戻った。

【寮 自室】

(今日の監守は加賀さんじゃないし、明日まで会えないのか···)
(でもなんか、あんな状態のままだと気まずいな···ちょっとメールしてみよう)

スマホを手に取った時、突然メールの着信を告げた。

(もしかして、ハジメかな···?)
(いや、違う!加賀さんからだ!)

急いでメールを開くと、『週末空けとけ』とだけ書いてあった。

(ま、まさかこれ···デートのお誘い!?)
(いや、そう思わせて実は捜査とか···?ど、どっち···!?)

サトコ
「とりあえずこのメールは保護しておこう」
「えーと···『わかりました!···もしかして、デートですか?』送信···っと」

(また返信が来た···『テメェがそう思いたきゃ好きにしろ』···)
(ってことは、やっぱりデートなんだ···!)

サトコ
「加賀さんからデートのお誘いなんて信じられない···」
「怒ってるかと思ったけど、そんなことなかったんだ」

地獄から天国に救い出されたような気持ちで、早速デートのための服を選ぶことにした。

【教場】

翌日、東雲教官の講義中。

(この間、鳴子と買い物してよかった。可愛い服を買ったんだよね)
(あの服と···そうだ、買ったばっかりのグロスをつけて)

東雲
じゃあ次、氷川さん答えて

サトコ
「えっ?は、はい!」

慌ててテキストに集中して、何とか答える。
ホッとしたの束の間、東雲教官がこちらに歩いて来た。

東雲
はい、じゃあその次のページの答えは?

サトコ
「え?」

東雲
キミに聞いてるんだけど?

サトコ
「ま、また私ですか···?」

不吉な笑みを浮かべて、東雲教官が私の横に立つ。

東雲
ずいぶんと楽しそうだね。ずーっと気持ち悪い笑顔浮かべて
もしかして、デートのお誘いでもあった?

サトコ
「···!!!」

私にしか聞こえないように、東雲教官が小声で話しかけてくる。
慌てる私ににっこり微笑み、テキストを指さした。

東雲
じゃあ、ここからここまで全部答えて

サトコ
「全部ですかっ!?」

東雲
できるよね?

サトコ
「うっ···」

(ここで逆らったら、何を言われるか···!)

なんとか答えると、また間髪入れずに当てられる。
その日の講義が終わる頃には、ヘトヘトになってしまった。

【街】

そして、週末。

サトコ
「加賀さんがデートに誘ってくれるなんて、本当に嬉しいです!」

加賀
黙れ

サトコ
「ハイ···」

いつもの調子ではあったけど、不機嫌そうではない。

サトコ
「そういえば、少し遠いんですけど新しい甘味処が出来たそうですよ」
「持ち帰りもできるようなので、行ってみませんか?」

加賀
甘味か···

(あ、ちょっと惹かれてる···こういう加賀さんって、ほんとにかわいいな)

サトコ
「お餅系が多いみたいですよ!特に羽二重餅が絶品らしいです!」

加賀
羽二重餅···

サトコ
「はい!あとは、ふわふわのどら焼きとか···」

???
「サトコ!」

(この声は···)

サトコ
「ハジメ···!」

ハジメ
「偶然だな!この間は急に電話してごめん」

加賀
······

恐る恐る加賀さんを見ると、明らかに眉間のシワが深くなったのがわかる。

ハジメ
「もしかして、サトコの彼氏?」

サトコ
「う、うん···実は今、デート中で」
「加賀さん、こちら、この間話した私の幼馴染です」

ハジメ
「狭霧一です。サトコとは同郷で」

加賀
どうも

いつも以上に無愛想な態度で、加賀さんがさっさと歩き出した。

サトコ
「か、加賀さん!待ってください!」
「ハジメ、ごめんね!もう行くね!」

ハジメ
「ああ···」

慌てて加賀さんを追いかけると、私を待つことなく近くの路地裏に入っていった。

【路地裏】

加賀さんを追いかけて路地裏に曲がった瞬間、
強く腕を引っ張られ、壁に背中を押しつけられた。

サトコ
「か、加賀さん···?」

加賀
テメェは誰のもんだ

サトコ
「も、もちろん加賀さんのです···!」

加賀
ずいぶん、アイツに愛想振りまいてんじゃねぇか

<選択してください>

A: そんな風に見えた?

サトコ
「そ、そんな風に見えましたか···?」

加賀
躾が足りねぇみてぇだな
テメェが誰のモンか、身体の奥に刻み込んでやる

サトコ
「し、躾も教育もお仕置きも、もう充分ですから···!」

B: 加賀さんだけですよ

サトコ
「わ、私には加賀さんだけですよ···!」

加賀
当然だ
あっちにもこっちにも尻尾振る犬なんざ、必要ねぇ

サトコ
「そんなことしませんから···!」

C: ハジメとはそんなんじゃない

サトコ
「こ、この前も言いましたけど···ハジメとはそんなんじゃないんです」
「小学校の頃から知ってて、お互いに気を許してるだけで」

加賀
テメェには、主人が大勢いるってことか

サトコ
「違います!ご主人は加賀さんだけですから···!」

加賀
気に入らねぇ

サトコ
「え···」

加賀
テメェは黙って、俺の躾だけ受けてりゃいい

サトコ
「加賀さん!お、落ち着いて!」

必死に加賀さんを押しとどめようとすると、誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。

ハジメ
「サトコ!」

加賀

サトコ
「ハ、ハジメ···?」

ハジメ
「大丈夫か!?こっちに来い!」

私の腕を引っ張ると、ハジメが私を加賀さんから引き離す。
加賀さんは、恐ろしいほど冷たい表情でハジメを睨んだ。

加賀
他人がしゃしゃり出てくんじゃねぇ

ハジメ
「他人じゃない···サトコは俺の大事な幼馴染です」
「ヤクザみたいな男に、渡すわけにはいきません」

サトコ
「ヤ、ヤクザ···!?」

(確かに···否定はできない···)
(って、納得してる場合じゃない!)

サトコ
「ハジメ、あのね···加賀さんは私の···」

ハジメ
「サトコ、目を覚ませ!お前は昔から、ちょっと危なっかしかったけど」
「やっぱり、変な男に付け込まれてたんだな」

(どうしよう、ハジメ、完全に誤解してる···!)

ハジメ
「悪いが、あんたにサトコは渡せない」

加賀
···チッ

ハジメ
「俺には、サトコを守る義務がある!」

サトコ
「ハジメ···」

(小学校の頃は、年上なのに泣き虫でいつも私の後ろを追いかけて来てたのに···)
(高校に入ってからは、困ってる人を助ける、って少し男らしくなったけど)

でも今はこうして私の前に立ち、勘違いとはいえ加賀さんから守ろうとしてくれている。

(ハジメの背中って、こんなに広かったっけ···)
(頼りになる人だったんだなぁ)

なんとなく感慨深いような気持ちで、ハジメの背中を眺める。

加賀
······

そんな私を、加賀さんはどこか驚いたような表情で見つめていた···

【カフェ】

なんとか誤解を解くと、ハジメに誘われて近くのカフェにやってきた。
ハジメが勘違いしたことを、何度も加賀さんに謝る。

ハジメ
「本当に申し訳ありませんでした···俺の一方的な勘違いで」

加賀
······

(加賀さん、ものすごく不機嫌そう···)

サトコ
「あの···ハ、ハジメにも悪気はなかったんです!」

ハジメ
「俺の悪いクセなんです。後先考えないっていうか···」
「でも加賀さんのあの凄みかた、さすが刑事さんですね!」
「刑事なのに、後進の育成のために教鞭を執るなんて、すごいです」

加賀
···たいしたことじゃねぇ

(ダメだ···完全にご立腹だ)

ハジメ
「すみません···初対面なのに馴れ馴れしかったですよね」
「サトコ···加賀さん、やっぱり怒ってるよな」

サトコ
「怒ってるけど···ある意味、通常営業というか」

ハジメ
「じゃあ、普段からこういう人なのか···」
「あの凄み方とかさ‥カタギとは思えないんだけど」

(ある意味、カタギではないけど···)
(それに、ハジメが加賀さんをヤクザと勘違いしたのも、なんとなくうなずけるし)

ハジメ
「本当に失礼しました。ここは俺が出しますので、お好きなの頼んでください」

サトコ
「あ、じゃあ私、チョコレートパフェ」
「加賀さんは何にしますか?桜餅パフェもありますよ」

加賀
コーヒーでいい

ハジメ
「お前って、昔からパフェだよな」

サトコ
「ストロベリーパフェがあると、ちょっと悩むところだけど」
「あ、でもこっちにフルーツパフェもある···す、捨てがたい」

ハジメ
「覚えてるか?昔、うちとサトコの家族、みんなで出かけたことあっただろ」
「あの時、サトコがどうしてもソフトクリームとアイスクリーム、両方食べたいって言うから」

サトコ
「そうそう。それで、ハジメがアイス買ってくれたんだよね」

ハジメ
「でも結局、ほとんどお前に取られたけどな」
「それで、次の日お腹壊して病院行かなかったっけ?」

サトコ
「よ、よくそんなことまで覚えてるね」

笑い合う私たちを眺めていた加賀さんが、突然立ち上がった。

サトコ
「加賀さん?」

加賀
勝手にやってろ

(あ···!マズイ、機嫌悪かったんだった!)

昔話に花が咲き、ついそれを忘れてしまっていた。
慌てて立ち上がった時には、加賀さんはもう店の外に出て行ったあとだった。

(どうしよう、追いかけなきゃ···!)
(···でも、もういない!)

追いかける暇もなく、加賀さんの姿は街の雑踏の中に消えてしまった。

ハジメ
「···もしかして、まずかった?」

私の隣に立ったハジメが、気遣わしげに顔を覗き込んでくる。

ハジメ
「そうだよな···自分の恋人が他の男と仲良くしてたら、面白くないよな」

サトコ
「ううん···ハジメは悪くないよ」
「ごめんね、私、加賀さんに連絡とってみるから」

ハジメ
「ああ」

ハジメに謝ると、カフェを出た。

【街】

何度か電話をしてみたけど、加賀さんは出てくれなかった。

(どうしよう···本当に怒らせちゃったかもしれない)

(せっかく加賀さんがデートに誘ってくれたのに···何やってるんだろう、私)

結局その日は、加賀さんから電話もメールもなかった。

【学校】

翌週の月曜日。

(はぁ···週末は加賀さんと連絡が取れなかった···)
(今日は学校に来てるよね‥なんとか謝って、許してもらわなきゃ)

黒澤
あれ~?サトコさん、どうしたんですか。浮かない顔して

サトコ
「黒澤さん···なんで毎日学校にいるんですか···」

黒澤
それはアレですよ。色々と情報収集しなきゃいけないことがあって
ちなみにサトコさんは、週末は加賀さんとお出かけだったようですが

(そんなことまで調べてるんだ···黒澤さんって、いったい···)

サトコ
「それが···加賀さんを怒らせてしまったみたいで」

黒澤
やや!もしかして、例の元カレの存在ですか?

サトコ
「いや、あの···」

東雲
どうせ、キミがまたなんかやらかしたんでしょ

振り返ると、東雲教官がニヤニヤしながら立っていた。

サトコ
「い、いつの間に···!」

東雲
ちなみに兵吾さん、さっき教官室にいたよ
まあ、キミに捕まるとは思えないけどね

サトコ
「え?」

東雲
なんでもないよ。早く行ったら?

サトコ
「は、はい!ありがとうございます!」

東雲教官の言葉が気になりつつも、急いで教官室へ向かった。

【資料室】

(こ、ここにもいない···!)

教官室に加賀さんの姿はなく、颯馬教官から『教場にいた』と言われ、
教場に駆け込んだけどそこでも会えず、そこからモニタールームなどを探し···
(後藤教官に『資料室に入っていくのを見た』って言われて来てみたけど、やっぱりいない···)
(もしかして私···避けられてる!?)

東雲

まあ、キミに捕まるとは思えないけどね

東雲教官の言葉を思い出して、打ちのめされた気分だった‥

to be continued

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