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ふたりの恋敵編 石神4話

【学校 廊下】

翌朝。

改めて教官室に呼び出されて告げられたのは『この件には今後一切関わらないこと』だった。

(また空回っちゃった‥)

頑張れば頑張った分、しっかりと裏目に出てしまう。

サトコ

「あ‥」

廊下の先に、石神さんの背中を見つける。

サトコ

「石神教官!」

石神

‥‥‥

サトコ

「おはようございます。あの、昨日のことなんですけど‥」

石神

他の教官から指示があったはずだ

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その件についてはもう話すことはない

サトコ

「‥はい。勝手な真似して申し訳ありませんでした」

石神

‥‥‥

(え‥)

ドクン、と胸が嫌な音を立てる。

‥まるで突き放すような目だ。

サトコ

「‥石神教官?」

私の声に、石神さんははっとした様子で言葉を続けた。

石神

‥ああ、すまない

今後は俺もまたしばらく不在が増える、何かあれば後藤を通せ

サトコ

「分かりました‥」

まるで話を断つように、背中を向けられる。

(石神さん、今‥)

何か、距離を置かれた気がした。

サトコ

「あ、あの‥!」

石神

何だ

サトコ

「‥いえ」

‥ひどく遠い。

(私は訓練生、石神さんは教官でエリートを束ねる班長)

(遠いのは当たり前だ‥)

言い聞かせてみるも、なんとなく言えない胸の疼きがキリキリと広がっていく。

まだ、私は一端の刑事ですらない。

自分がお荷物になってしまったことが情けなくて、

そうなれば、恋人としてもどんな顔をしていいか分からなくて‥

(どっちの立場でも頼りにならない‥)

少しでも石神さんに追いつきたいのに‥

もがけばもがくほど遠のいていくのが、堪らなく悔しかった。

【裏庭】

サトコ

「はぁ‥どうしよう」

もう1週間、石神さんとはぎこちないままだ。

(私が一歩踏み込めば、素っ気なくされるし‥)

(やっぱり、迷惑かけすぎて呆れられちゃったかな‥)

(いや、それならそうと石神さんならビシッと言ってくれるはずだよね)

???

「おやおや‥?」

黒澤

放課後の裏庭に物憂げな少女がひとり‥

サトコ

「‥はぁ」

黒澤

呼ばれてもないのにピンチに登場!貴女の黒澤です☆

サトコ

「‥ホント黒澤さんってびっくりするくらいタイミングよく現れますよね」

黒澤

あれ、予想外の反応ですね‥

どうでしょうか、この状況

サトコ

「私も黒澤さんみたいになれたらなぁ‥」

黒澤

‥今、何と

サトコ

「え、黒澤さんみたいになりたいって話です」

「困った時にさり気なく手を貸せたり、上官とも渡り合えるくらい仕事が出来たり‥」

黒澤

ああ‥石神さんに聞かせたい!

こんなに褒められましたって

サトコ

「ふふ、どうぞどうぞ。本当のことですから」

大袈裟なリアクションで、黒澤さんは気を遣ってくれている。

(こういうところ尊敬するな‥。いつも周りをちゃんと見てるし‥)

(それに比べて私は‥)

大事な人にすら寄り添えない。

サトコ

「‥‥‥」

黒澤

‥サトコさんは、サトコさんの思うように頑張ればいいんです

この間の件だって

これまでの失敗を踏まえてサトコさんなりに考えてたのは、みんな知ってます

サトコ

「それはそれです。結果的に迷惑かけてたんじゃダメなんです!」

黒澤

でも、そんな失敗ができるのは今のうちじゃないですか

迷惑なんて掛けたモン勝ちですよ。そのために教官陣がいるんですから

サトコ

「黒澤さんのポジティブさが羨ましいです‥」

黒澤

ハハ

これくらいじゃなきゃ石神さんや後藤さんについてけませんからね

要は、次に同じことがあったら今よりかは巧くやればいいって話です

は~い、反省終了です!

サトコ

「ふふ‥黒澤さんはそうやって乗り越えてきたんですね」

黒澤

ん~ほら、気付けたら儲けもん、くらいな感じで

何事も“今度は気を付けます”でいいと思うんです

それが“今度は”何回あってもいいんですよ。その時点で気付けてるってことですから

(たしかに‥口先だけじゃないなら、成長してるってことだもんね)

サトコ

「‥そうかも!」

黒澤

おっと、これはいいこと言ったかも

さすが黒澤透☆

サトコ

「アハハ」

「最後のひと言で台無しですよ」

黒澤

あちゃ~‥まあいいです。サトコさんが眩しい笑顔が見れましたから

とにかく、あんまり深く考えないことですよ!

‥‥‥ああっ!歩さん発見!

ではサトコさん。またお困りの時は黒澤までどうぞ!

サトコ

「えっ!黒澤さん‥!」

「ありがとうございました!」

羽根みたいに軽く、黒澤さんは東雲教官を追って駆けていく。

(黒澤さん、ホントに不思議な人だな‥)

気付いたら沈み気味だった気持ちが、少し軽くなっていた。

(そうだよね。ひとりでグルグル考えてても仕方ないし)

(今は自分にできることをひとつずつやっていくしかないんだから‥!)

【教場】

石神

‥‥‥今日はここまでだ

何日かぶりの石神さんの講義を終えたものの、やっぱり距離を置かれたままだ。

(黒澤さんの言う通り、気にしない方向で頑張りたいけど‥)

(さすがに不安になったきたかも)

ここまで来るともう、石神さんが何を考えているのか分からない。

鳴子

「サトコは今日どうするの?」

「私、これから剣道場に行くんだけど、よかったら付き合ってくれない?」

サトコ

「あ、うん‥」

鳴子

「あ、でも今日は補佐官の仕事があるか‥」

サトコ

「‥‥‥」

鳴子

「‥どうかした?」

あれから、まともな言葉を交わしていない。

自分の頑張りが空回っているような気がして、胸が詰まる。

サトコ

「ううん、なんでもない」

「付き合うよ」

石神

‥‥悪いが今日はコイツを借りてもいいか

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鳴子

「あ、はい‥!」

サトコ

「え‥」

石神

氷川。教官室だ

鳴子

「‥だってさ」

「サトコ、いってらっしゃい」

「私は千葉くんでも誘って自主練してくるよ」

サトコ

「わかった。ごめんね、今度付き合うから」

鳴子

「はいはーい」

石神

‥‥‥

(教官室って‥なんだろう)

(いよいよ専属補佐官クビとか‥?)

私は内心ビクビクしながら、石神さんの後ろをついて行った。

【教官室】

難波

おー、来たな

飄々と出迎えてくれたのは難波室長だった。

サトコ

「難波室長、先日はご迷惑をおかけしました」

難波

ん?何かあったか?

サトコ

「え‥」

(クレームの件、伝わっているはずだよね‥?)

(‥気にするなってことなのかな)

石神

‥全員揃いました。早く指示を

難波

ハイハイ

(あれ‥?)

(全員って、私まで頭数に入れられてる‥?)

よく分からないけれど、教官陣が勢ぞろいしている中に私まで紛れ込んでいる。

難波

加賀班は空港線蒲田駅

先に公安部の輩を送り込んでるから合流して駅長指示

東雲

はい

加賀

‥了解です

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難波

んで後藤と颯馬は、加賀と連携しながらスジ屋を頼む

後藤・颯馬

「わかりました」

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(な、何の指示なの‥?)

(あとスジ屋って何‥)

颯馬

鉄道のダイヤ構成する専門職の人ですよ

サトコ

「はっ、はい‥」

(颯馬教官って、絶対にエスパーだよね‥)

東雲

そんなわけないでしょ。キミが顔に出やすいだけ

サトコ

「うっ‥すみません」

「空港線蒲田駅、駅長指示、スジ屋さん‥」

とりあえず、ターミナル駅で何かするのだということだけ察しがついた。

東雲

面倒だから、石神さんに説明してもらって

サトコ

「ええっ!?」

「やっぱり私も行くんですか?」

難波

なんだ石神

お前まだ言ってなかったのか

石神

‥散々、反対していた私の話を聞かなかったのは室長です

いつものように丸投げすればいいものを‥

難波

‥石神、機嫌悪いのか?

加賀

上官の指示に文句垂れてんじゃねぇ、クソメガネ

颯馬

フフ、石神さんが毒を吐くのも珍しいですね

それと同じくらい、室長がやる気を出しているのも珍事ですが

石神

文句を言っているのではない。当然の主張をしているまでだ

加賀

フッ‥度胸ナシが

難波

すまなかったな。だが、決定は決定だ

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あとはお前に任せるから

石神

‥‥‥

石神さんは苦いため息を吐いて、デスクの上にあった車のキーを手に取る。

石神

氷川。行くぞ

サトコ

「えっと‥」

難波

氷川は石神の指示に従えばいい。決行は明朝だ。頼んだぞ

サトコ

「‥はい!」

頭の中は、まだクエスチョンマークだらけだ。

加賀

さっさと行けクズ

後ろつかえてんだよ

サトコ

「は、はい!」

難波

氷川

ふと、低いトーンで呼び止められる。

難波

前と同じだ。できないならそう石神に言え

サトコ

「‥はい」

難波室長の真剣みを帯びた表情に、すっと背筋が伸びる。

(ただ事じゃない‥)

事態の深刻さが伝わって、私は汗の滲む拳を握りしめた。

【車】

決行は明日明朝。

下見のため、石神さんと一緒に現場に向かう。

石神

‥‥‥

(何をどう切り出せば‥)

(まずはこの空気感をどうにかしなきゃ、仕事しづらいよね‥)

サトコ

「あの、石神さん‥」

<選択してください>

A: この事件について

サトコ

「教官室のやり取りだけじゃ全然ついて行けなかったんですけど‥」

石神

だろうな

サトコ

「概要は‥」

B: 補佐官クビの件

サトコ

「私、補佐官クビになるんじゃ‥」

石神

そんなことは一言も言ってないが

サトコ

「勝手なことして石神教官にクレームがあったと聞いたので‥」

石神

そんなことでいちいち補佐官を変えていたら、お前はこれまで何度クビになっていたか‥

サトコ

「う‥」

C: それまでの素っ気ない態度について

サトコ

「気のせいじゃなければ、少し距離を置かれてましたよね」

石神

‥気のせいだろう

サトコ

「すっごく嘘っぽいですけど」

石神

‥‥‥

サトコ

「あ、それでメソメソはしてませんから悪しからず‥」

石神

フッ‥逞しいな

サトコ

「よ、喜びづらい‥」

(良かった‥ちゃんと話せそう)

それだけで十分だ。

(よし、今はこの任務に集中‥!)

石神

分かっているだろうが、指示には従うように

サトコ

「はい」

石神

先日の予告テロは未遂に終わったが、岩下が負傷した爆破事件と関連があることは確信した

サトコ

「!」

石神

今回は、一連の事件を起こしているテログループが、蒲田駅に仕掛けてくる可能性が高い

サトコ

「‥そんな現場にどうして私が‥?」

「石神さんも反対してたんですよね‥?」

石神

‥‥‥

お前は‥関わるなと言われて悔しくはなかったのか?

サトコ

「!それはもちろん‥」

石神

俺が反対していた理由は、お前が足手まといだからというわけではない

‥今は室長の判断だ。お前の姿勢を評価している上官はいるということだな

そこは素直に喜んでいい

サトコ

「‥はい」

「頑張ります」

石神

‥‥‥

石神さんは目を合わせないまま、インカムでやり取りを始める。

(今度こそ足を引っ張らないようにしなきゃ‥)

与えられたチャンスを無駄にしないように。

緊張で冷えた指先を、私はギュッと握りしめた。

【蒲田駅】

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駅員

「不発弾撤去作業に当たります」

「ご迷惑をおかけしますが、北側ロータリーより臨時バスをご利用ください」

(不発弾撤去っていうことになってるんだ‥)

駅に着くと、ここへ侵入してくる電車はなく、乗員乗客もみんな駅の外へ誘導されている。

石神

警察関係者と、交通局の一部で情報を止めているみたいだ

サトコ

「それ以外の人が立ち入っているとしたら、それが犯行グループだと思っていいんですか?」

石神

そうなるな

相手はテロリスト。

岩下議員の一件でその爆破の威力を思い知っているだけに、足が竦む。

サトコ

「‥私は何をしたらいいですか?」

石神

東雲が運行指令室に入って

駅構内の全カメラをモニタリングしながら爆弾設置場所の解析に当たる

俺たちは安全だと判断されたエリアに入り、危険物及び実行犯を探すことになる

サトコ

「分かりました‥」

(こんなに大きな駅を封鎖して、明日立ち向かうんだ‥)

予告まで出してくるのなら、相手は警察がこうして対応することも見越している。

サトコ

「ひとまず今日は、死角になりそうな場所の確認‥でいいですか?」

石神

ああ。分かって来たな

サトコ

「‥‥‥」

石神さんの隣で、こっそりと喜ぶ。

まだ全然追い付けないけれど、隣で一緒に事件に臨むことができるのが、

どうしようもなく嬉しかった。

翌日‥

これから空が白み始めるという時間に、駅へやって来た。

【ロータリー】

イヤモニからの東雲教官の声を元に、構内を奥へと進んでいく。

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石神

無理もないだろうが、肩に力が入り過ぎだ

サトコ

「は、入るに決まってるじゃないですか‥」

石神

力みすぎると、見落とすぞ

サトコ

「‥はい」

(そうだよね。いざって時に頭も身体も動かなかったら意味ないし‥)

小さく深呼吸をしてみると、石神さんが口を開いた。

石神

お前がひとりで吉川を視察していた間‥

サトコ

「?」

石神

独自捜査は褒められたものではないが、個人的には助かっていた

サトコ

「え‥そうなんですか?」

石神

吉川からのクレームも予想していたことだ

お前が気に病む必要があるとすれば、利用されやすい人間になるなということだけだろうな

サトコ

「利用‥ですか」

「私は、ただ自分の欲求を満たすために動いていました」

石神

俺のためにか?

サトコ

「‥それもありますけど」

「でも、一度関わったからには真相を追及したかったので‥」

石神

‥結果的に俺はお前を利用した

おかげで事件の尻尾を掴めたが‥

サトコ

「‥?」

「なにか問題ありますか?」

石神

俺は教官で、お前は訓練生だ

<選択してください>

A: 問題ありません

サトコ

「‥問題ありませんよね?」

石神

は?

サトコ

「お忘れかもしれませんが、私だって一応警察官なんですよ」

石神

屁理屈を言うな

サトコ

「石神教官こそ」

B: でも、恋人でもあります

サトコ

「でも、恋人でもあります」

石神

‥‥‥

サトコ

「仕事と一緒に考えるなって思うかもしれませんけど‥」

「でも、だからこそ石神教官の意思も少しは汲み取れたんじゃないかと思うんです」

「呼吸とか、感覚とかが合う瞬間ってあるじゃないですか‥って、なんだか上手く言えませんけど」

石神

察していたというのか?

サトコ

「なんとなく‥」

C: その前に私も警察官です

サトコ

「でも、その前に私も警察官です」

石神

万が一、その場でテロ事案が発生してもそう言えるのか

サトコ

「言えます」

石神

‥‥‥

サトコ

「生半可な気持ちでここにいるわけじゃありません」

石神

お前は‥

周囲に気を配りながら、互いに目を合わせないまま言い合う。

(なんだ‥呆れて距離を置いてたわけじゃないんだ)

(石神さんも、気に病んでたんだ‥)

少しは‥ほんの爪の先ほどは、役に立てただろうか‥

ほっとしながら、何の気なしに後ろを振り返る。

サトコ

「あれ‥」

石神

どうした?

サトコ

「あっち側って駅員さんたちも立ち入り禁止のエリアでしたよね?」

「今、人影が見えた気がしたんですけど‥」

石神

‥このフロアに人がいること自体あってはならない

サトコ

「見間違い‥じゃなかったらもしかして大事ですか?」

石神

東雲。B-3エリアの安全確認だ

東雲

え、B-3‥?

カタン‥

何か物音がする。

(やっぱり誰か‥)

咄嗟に階段を駆け下りて、人影が見えた方に構える。

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石神

氷川!待て

サトコ

「す、すみません。つい‥」

「でも誰もいないみたいです」

石神

非常階段だ

サトコ

「‥‥‥」

石神さんは鋭い視線で鉄製の小さな階段を見上げる。

(ここから外に出た‥?)

広い構内の、かなり端まで来ている。

サトコ

「この先って‥高架下ですよね」

「時間的には人通りもないはずです」

石神

ああ‥

東雲

外部映像見る限り、高架下付近に人影は確認できません

でも死角があるかな‥

狙うには何もない場所だから、手薄になってるエリア

石神

‥氷川、外に出たら左右に分かれる

回りこんで合流だ

サトコ

「はい!」

【非常階段】

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逃げられたとしたら、相手は私たちの存在に気が付いている。

階段の素材はカンカンと私たちの足音を響かせた。

(他の人の足音なんて聞こえなかったのに‥)

(ってことは、相手は逃走経路を事前に確認して対策してたのかも‥)

なんだか、嫌な感じがする。

【外】

石神

‥いいな?

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サトコ

「はい」

頷き合って、左右に分かれる。

‥一瞬、時間が止まったような妙な感覚を覚えた。

(え‥)

ザワザワと何かが迫りくるのと同時に、頭の中で警鐘が鳴る。

(これって‥)

選挙カーの爆破シーンが、頭を過った。

石神

サトコ!

ドーン!

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地面が割れるような低い音がした。

スマホ 011

怒声とも思える、石神さんの声。

猛烈に焼けつくような熱風と‥視界の隅に、赤いのが柱のように立ち昇っていく。

焦げ臭さと、黒い粉じん‥後付けのように、やっと爆破したのだと気付く。

あまりに突然のことで、頭が追い付かない。

(石神さん‥?)

腕を引かれて抱きすくめられて‥

ほとんどぶつかるようにその胸に収まった。

石神

‥‥‥

サトコ

「石神さん‥」

わけが分からない。

ガン!と頭に何かが当たった。

力強い腕に抱きしめられたまま、瞼が下りていく。

生温かい、ぬるりとした感覚のものが首筋を伝った気がした。

“サトコ‥”

ほとんどうわ言のような石神さんの声が耳に残った。

to be continued

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