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難波 出会い編 GOOD END

【駅】

(こんなんでよかったかなあ‥)

(でも気合い入れすぎもちょっと照れくさいし‥)

(それとも、もっと頑張るべきだった?)

室長とのお出かけに着てきたのは、一応私の一張羅。

(せっかくだからもうちょっとかわいい恰好したかったけど、何しろ最近出かけてないしな‥)

(洋服のレパートリーが足りなさ過ぎというか‥)

サトコ

「うーん、どうだろ‥」

すぐ目の前のガラスに自分の姿を映して首を捻っていると、

私の背後にいつの間にかサンダル履きのオジサンが写っているのに気付いた。

(ん?)

よくよく見ると、その顔に見覚えが‥‥

サトコ

「し、室長!?」

難波

おう、やっぱりお前か

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お待たせ~

財布を直に持った手をゆるっとあげる。

(あれ?生財布‥?)

(サンダル履きだし、服装も妙にラフな気が‥)

難波

じゃあ、行くか

室長は行き先も告げずにさっさと歩き出した。

サトコ

「あの、行くってどこへ?」

難波

ん?まあ、すぐそこだ

(すぐ、そこ‥?)

周りを見回すが、なにか特別なものがあるような雰囲気の街ではない。

(これは明らかにどこかに出かけるって雰囲気じゃないよね?)

(てことは、まさか‥)

【スーパー】

難波

これが今日のミッションだ

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室長は、ポケットからくしゃくしゃのメモを取り出した。

難波

これより、ここに書いてあるものを購入する

見つけ次第、早急に確保せよ

サトコ

「は、はい!」

「了解しましたっ!」

思わず敬礼しながら首を捻る。

(なんだかよく分からないけど、やっぱりおうちデートのレールが敷かれてるっぽい)

(しかも買い物のメモまであるって、一応は事前に色々考えてくれたってこと?)

サトコ

「あ、豆腐、発見しました!」

難波

よし、確保だ

私が豆腐を1パック、カゴに入れると室長は無言でもう2パック追加した。

サトコ

「あの、多くないですか?」

難波

いやー、このくらいは食べるだろう

(もしかして、室長は豆腐好き?)

難波

次は?

サトコ

「長ネギです!」

難波

おお、これか~

室長はさっそく長ネギを手に取る。

そのネギを、間髪入れずに私が取り替えた。

サトコ

「長ネギは白い部分が長い方が使い勝手がいいです」

「それから、薬味じゃないなら太さもある程度あった方が」

難波

おお、意外と家庭的なこと言うなあ

言いながら、ネギも2本追加した。

難波

実は、彼氏にしょっちゅうメシ作ってやってんだろ?

サトコ

「つ、作ってません!」

「じゃなくて、そもそもいません!」

思わず力説してしまった私を、室長は不思議そうに見ている。

難波

それ、威張るとこか?

サトコ

「いいんです。こういうことは、ハッキリさせておかないと‥」

(ああ、なんかもう、私また余計なことを‥)

難波

そうか~もったいねえな

サトコ

「え?」

(もったいないって、それはどういう?)

でも室長はもう、次のミッションに移ってしまっている。

難波

にんじん、にんじん‥

おおっ!?

サトコ

「どうしました?」

難波

俺、なんばじん

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サトコ

「‥‥‥」

(もう‥人の気も知らないで‥!)

(室長は何の気なしに言ったんだろうけど‥)

(『もったいない』なんて、片想い中の私には気になるよー!)

【店外】

サトコ

「すっごい買いましたね」

難波

そう言われると、そうかもな

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今さらながら、室長はちょっと弱気な声を出した。

(私はちゃんと2人分の分量考えてカゴに入れてたのに‥)

(室長が全部追加しちゃうんだもん!)

難波

まあ、いい

男たるもの、このくらいは食ってしまるべし、だ

(へえ‥室長って、大食いなのかな?)

(いつものお弁当は、そんな大きい感じしなかったけどなー)

サトコ

「それで‥これを持ってどちらへ?」

難波

俺の家だけど

(や、やっぱり!)

難波

言わなかったか?

サトコ

「言ってません。聞いてません」

「匂わされてもいません!」

(想像はビシバシしてたけど)

(でも今さらイヤですとも言えないし‥)

難波

それじゃ、行くか

サトコ

「‥はい」

4つの袋を持ち上げようとすると、室長がひょいと全部の袋を取り上げた。

サトコ

「だ、大丈夫です」

「私が持ちますから!」

難波

いいから、いいから

サトコ

「でも、上官に持たせるわけにはっ!」

難波

まあ、そう硬くなるな

今日は休みだし

お互い、プライベートだしな

(プライベート‥)

難波

今日は、女としてのお前に期待してるぞ

サトコ

「え‥?」

「女として‥?」

(って、ええっ!?)

(それは‥ど、どういうこと!?)

その間にも、室長はさっさと歩き出してしまっている。

のん気に鼻歌を歌いながら歩いていく室長を、私はドキドキしながら慌てて追いかけた。

【マンション】

難波

着いたぞ~

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鍵、出してくれ

室長は荷物を持ったままの手でズボンのポケットを指さした。

サトコ

「‥は、はい」

室長の熱でほんのり温まったポケットの中に、そっと手を滑り込ませる。

(お邪魔します‥)

(わ‥なんか、ちょっと照れくさい‥)

出来るだけ足に触れないように、ドキドキしながら鍵を出し、エントランスのドアを開けた。

サトコ

「開けました」

難波

よし、行くぞ

サトコ

「あ、はい。でも、その‥」

(どうしよう‥まだ心の準備が‥!)

(ていうか、今さらだけど、家に行っていいのかな‥?)

(奥さんがいないのは分かったけど)

(やっぱりひとり暮らしの男性の家にのこのこ上がるっていうのは‥)

あれこれ悩んでいると、いつの間にか室長に腕を引っ張られた。

難波

早く来い

サトコ

「ちょ‥やっぱりまだ、無理です」

難波

つべこべ言うな

早くしないとアイツらが‥

(ん‥?アイツら?)

一瞬考えた隙に、中に引きずり込まれた。

サトコ

「ああ~ダメですってば!」

加賀

おいクズ、そこで何してやがる

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颯馬

どうしました?何がダメなんですか?

声に振り返ると、教官たちが勢ぞろいしている。

サトコ

「あ‥あれ?加賀教官と颯馬教官‥?」

(なんで教官たちまでいるんだろう?)

すぐには状況が掴めず、ポカンとその場に立ち尽くす。

加賀

邪魔だ。さっさと入れクズ

サトコ

「わわっ!」

【部屋】

室長の家は、明らかにファミリー向けの間取りだった。

(ここに奥さんと暮らしてたのかな‥)

微妙な感慨がよぎるが、それもすぐに打ち破られた。

いつの間にか、石神教官と加賀教官がエプロン姿でキッチンに立っている。

【キッチン】

(な、なんで!?)

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(これは一体、どういう趣向?)

石神

なんだ、氷川‥?

加賀

なに、ボケッと見てんだクズが

サトコ

「す、すみません‥!」

「あの、今日はどのような‥?」

石神

室長から聞いていないのか?

サトコ

「はい、何も‥」

颯馬

それじゃあ、びっくりするのは当然ですね

後藤

室長が大家さんからうどんをたくさんもらったそうだ

東雲

だから今日は、うどんパーティーらしいよ

サトコ

「うどん‥パーティー‥?」

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難波

そういうわけで、女としてのお前に期待が集まっている

頼んだぞ

室長は私の肩に手を置き、威厳を持って頷いた。

サトコ

「は、はあ‥」

(それならそうと、最初から言ってくれればいいのに!)

(私、明らかに場違いな服装してる‥)

もじもじとスカートをいじっていると、すかさず東雲教官が食いついた。

東雲

そういえば‥いつもと雰囲気違うよね、サトコちゃん

颯馬

普段とは違って新鮮ですね

東雲

デートかと思ってた‥とか?

(ば、バレてる‥!?)

サトコ

「違います‥!たまにはオシャレしようかと思いまして‥」

加賀

フッ、ガキが色気づきやがって

サトコ

「そ、そんなんじゃありません‥っ!」

颯馬

女性は、どんな時でも可愛く見せたいんですよ

ですよね、サトコさん

サトコ

「ま、まあ‥」

東雲

‥へぇ

(本当はそうじゃないんだけど‥)

(何か突っ込まれたら困るし、そういうことにしとこうっと)

【リビング】

難波

よし、うどんすきの次は焼うどんだ

氷川、行けるか?

サトコ

「行ってきます!」

(何やってんだかな~私)

(まあ、予想外に楽しいからいいんだけど)

難波

ほら、もっと飲め、石神

石神

いえ、私はもう

難波

いいから

お前みたいなキレ者はな、少しアルコールで脳細胞を壊したくらいがちょうどいい

石神

‥いただきます

難波

おい加賀、ちゃんと野菜も食え

加賀

‥‥‥

難波

このネギはな、氷川のうんちく付きでうまいぞ

加賀

フッ‥ガキが生意気に

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難波

歳を取ってくるとな、うんちくの魅力がだんだん分かってくる

後藤

その気持ち、何となく分かる気がします

難波

なんだ、後藤。お前は枯れるにはまだ早いぞ

教官たちの盛り上がりを聞きながら、必死に焼うどんを作る。

サトコ

「焼うどん、できましたー!」

「あれ?」

いつの間にか、床に転がって寝てしまっている室長。

サトコ

「あの‥室長?」

「お望み通り、焼うどん作りましたけど!」

後藤

‥うまい

颯馬

本当だ。サトコさんはお料理が上手なんですね

サトコ

「あ、ありがとうございます」

加賀

料理が上手くても、クズには変わりねぇがな

東雲

確かに、訓練も捜査もアレだと救いようがないよね

颯馬

歩、言い過ぎですよ?料理の腕前も、そのうちなにかに活かせるかもしれないですし‥

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石神

なるほどな

サトコ

「あ、あの‥」

教官たちは勝手に納得して勝手に食べ終わり、私を置いてさっさと帰ってしまった‥

【キッチン】

サトコ

「はぁ‥結局、片付けは一人かぁ‥」

教官たちが使った大量のお皿と鍋を洗い、

残った食材を分かりやすいように個別に包んで冷蔵庫にしまう。

サトコ

「こうしとけば、室長も分かるでしょ」

(奥さんがいないのにお弁当を持って来たってことは、室長も結構料理するってことだもんね)

その室長はというと、高いびきをかいてまだスースー眠っている。

(置きそうにないし、風邪引くといけないから何か掛けるものを‥)

【寝室】

そっと寝室のドアを開けた。

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薄暗い部屋には、ダブルのベッドがひとつ。

(きっと、奥さんと暮らしてた時のままなんだろうな‥)

なんとなく切なくなって、毛布を手に取り、すぐに部屋を出た。

【リビング】

室長を起こさないように、そっと毛布を掛けてあげる。

難波

‥エコ

サトコ

「ん?」

(今、なんて?)

難波

‥リエコ‥‥

サトコ

「!」

(今のって、奥さんの名前‥?)

そう思った瞬間、想像以上のショックが襲った。

へなへなとソファに座り込む。

(室長、奥さんの夢見てるのかな‥?)

(寝言でも名前を呼ぶってことは、まだ想いが残ってるってことだよね‥)

溜息と共に視線を落とす。

と、サイドテーブルに派手な名刺が‥‥

『キャバクラ ライムライト リエコ』

サトコ

「リエコ‥!?」

(さっき、室長も確か、リエコって‥)

サトコ

「もしかして呼んだの、キャバ嬢の名前?」

「ふふふっ」

「ほんとに何を考えてるんだかなー」

「仕事はあんなにできるのに、仕事以外はただのオジサンだ‥」

ひとまずホッと一安心。

急に親近感が湧いてきて、寝ている室長の頬をちょっとつついた。

難波

ん~くすぐったいな‥

‥わかった‥わかったから、ピンクのシャンパン入れていい‥

(なんだかよく分かんないけど、こういうとこもいいんだよね‥)

それからしばらく、私は室長の寝顔を見て過ごした。

【学校 廊下】

休み明けの月曜日。

補習を終えて出てくると、隣の部屋から室長が出てきた。

難波

おお、ひよっこ

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サトコ

「室長‥」

難波

ちょうどよかった。これ、運ぶの手伝ってくれ

サトコ

「はい」

昨日の楽しい時間から一転、室長と訓練生という立場に戻ってもまだあの幸福感は続いていた。

好きだと思える人が、こうしてすぐ隣にいてくれる幸せ。

(でも‥)

やはり左手で光る指輪が気になった。

(思い切って聞いてみようかな‥)

聞きたくても聞けなかったこと。

でも昨日の2人を経ての今なら、聞ける気がした。

サトコ

「この間、奥さんはもういないって言いましたよね」

難波

ん?ああ、そうだな

サトコ

「それなら、どうして指輪、外さないんですか?」

難波

これか‥?

室長は少し切なげにため息をついた。

難波

これはな‥

外さないんじゃなくて、外せないんだ

目を伏せた室長の視線が、切なさを助長する。

(なんだろう、この感じ‥)

(もしかして奥さんは、亡くなったんじゃ‥?)

それ以上聞けない雰囲気を感じて、黙り込んだ。

(亡くなった後も指輪は外さないってことは、まだ好きってことだよね)

(それほど大切な人なんだ‥)

(亡くなった人がライバルなんて、そんなの絶対勝ち目ないよ)

【教官室】

難波

おい、どこ行くんだひよっこ

サトコ

「あ、すみません!」

ぼんやり考えていたら、いつの間にか室長は教官室のドアを開けていた。

室長に続いて中に入ると、教官たちが勢ぞろいしていた。

(なんだろう?なんか緊張感がみなぎってる気が‥)

石神

室長、今、警察庁から連絡が

加賀

永谷の野郎が、黒幕の正体を吐いたらしいです

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End

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