【庭園】
後藤
「アンタ、まだ顔が赤いぞ?」
サトコ
「誰のせいだと思ってるんですか‥」
手を繋いで庭園を歩きながら、反論する。
後藤
「さて、誰のせいだろうな?」
後藤さんは楽しそうに、フッと笑みを浮かべる。
(うぅ、今日の後藤さんはイジワルだ‥)
【試着室】
サトコ
「ん‥」
小鳥がさえずるような可愛らしい口づけは、次第に深いキスへと変わっていく。
サトコ
「っ‥」
求められるようなキスに、息が出来なくなる。
(確かに、一回だけど‥)
それから後藤さんが満足するまで、唇は繋がったままだった。
【庭園】
(まだドキドキが止まらない‥)
忘れようとしても、先ほどのキスが頭から離れない。
後藤
「梅の花、見ないのか?」
(そうだよね、せっかく連れて来てくれたんだもん)
(恥ずかしいからって俯いてばっかりいたらもったいないよね)
後藤さんの言葉に、顔を上げると‥
サトコ
「綺麗‥」
可愛らしい梅の花が、咲き誇っていた。
後藤
「‥やっと笑ったな」
サトコ
「え?」
後藤
「いや、なんでもない」
サトコ
「今、何て言ったんですか?気になります!」
外国人A
「Excuse me」
サトコ
「へ?」
外国人B
「May I take your picture?」
サトコ
「写真って‥え、私ですか!?」
外国人A
「Yes!」
サトコ
「ちょ、ちょっと‥」
外人に手を引かれ、梅の木の前に連れて来られる。
外国人B
「Are you ready?Say chee!」
パシャッ!
外国人C
「oh bravo!」
外国人D
「I also want to take a photo!」
サトコ
「わわっ‥!」
(外国人が一気に集まってきて‥囲まれた!?)
サトコ
「ご、後藤さ‥」
外国人女性
「oh!SAMURAI~!」
サトコ
「へ?待って‥」
後藤
「‥‥‥」
(ご、後藤さんも写真を撮られてる‥!)
(しかも、心なしか女性が多いような‥)
後藤さんはしかめっ面をしてたけど‥胸がキュッと締め付けられた。
外国人A
「Let’s take a picture together!」
サトコ
「へ?い、一緒に撮ろうって‥」
外国人B
「Are you ready?」
外国人A
「Yeah~!」
(だ、誰か助けて~!)
【車内】
後藤
「大変だったな」
サトコ
「ですね‥」
なんとか撮影を終らせた私たちは、車で次の場所へ移動していた。
(急に撮影会が始まった時は、どうしようかと思ったけど‥)
サトコ
「でも、なんだかモデルになった気分で面白かったです!」
後藤
「アンタはいつも楽しそうだな」
サトコ
「そうですか?」
後藤
「ああ。最後の方はノリノリだったしな」
サトコ
「そういう後藤さんこそ、お土産用の木刀を渡されてポーズとってましたよね」
後藤
「アレは‥無理やり持たされたんだ」
「ポーズをとったのも、早く終わらせるためだ」
<選択してください>
サトコ 「木刀を構えた後藤さん、すごく様になってて‥かっこよかったです」 後藤 「木刀なら、アンタの専門分野だろう?」 サトコ 「専門分野って‥まあ、確かにそうですけど‥」 「それでも、木刀を構えた後藤さんは凛としてて‥本物の侍みたいでした!」 後藤 「そうか‥」 後藤さんはハンドルを握りながら、フッと微笑んだ。
サトコ 「楽しかったですね」 後藤 「騒がしかったの間違いだろう?」 「せっかくアンタとのデートだったのに、まさか撮影会が始まるとは‥」 サトコ 「え‥?」 後藤 「‥‥‥」 無言で返されたけど‥後藤さんの頬は、少し赤くなっていた。
(せっかく着物を着たのに‥後藤さんとは全然撮れなかったんだよね) サトコ 「今度は一緒に撮りましょうね」 後藤 「ああ。今回はあの状況を終らせるのに、必死だったからな」 「おかげで、落ち着いて庭園を見れなかったし‥」 「‥また今度、ふたりで行こう」 サトコ 「はい!」
サトコ
「あ、そういえば‥」
私は窓の外に視線を向けながら、口を開く。
サトコ
「このあとはどこに行くんですか?」
「山道に入って、しばらく経ちますが‥」
陽が落ち、辺りは暗くなり始めていた。
後藤
「もうすぐ着く」
後藤さんは短く答えると、ハンドルを切った。
【滝】
サトコ
「滝、ですか?」
後藤
「ああ」
車から降りてしばらく歩いた先には、滝があった。
後藤
「ここなら、アンタとふたりきりになれると思ったんだ」
「‥去年のバレンタインは、なかなかふたりきりになれなかったからな」
サトコ
「あっ‥」
【ショコラバー】
???
「あれ、氷川と‥後藤教官‥!?」
サトコ
「え‥?」
男子訓練生A
「こんなところで会うなんて、ビックリですね!」
男子訓練生B
「でも、なんでふたりが一緒に‥?」
【滝】
(あのあと、後藤さんが上手く誤魔化してくれたんだっけ‥)
後藤
「今年のホワイトデーは、アンタとふたりきりで楽しみたかったんだ」
「だから、ここを選んだんだが‥」
後藤さんは辺りを見回すも、暗いせいか景色は良く見えない。
後藤
「ライトアップされてるはずだったんだが‥」
サトコ
「ライトアップですか?」
後藤
「ああ。ここの滝は日が落ちると、ライトアップされるんだ」
「アンタ、イルミネーションが好きだろう?」
「前に来た時は点灯していたんだが‥」
チラリと滝に視線を向けて、小さく肩を落とす。
サトコ
「‥後藤さん、ありがとうございます」
私はそんな後藤さんの手を、そっと握る。
サトコ
「全然いいんです。私‥後藤さんが連れて来てくれたことが、何よりも嬉しいですから」
後藤
「アンタは‥」
後藤さんは手を握り返して、私を引き寄せると‥
サトコ
「ん‥」
唇に、優しいキスが降ってきた。
サトコ
「後藤さん‥」
後藤
「大丈夫だ。ここには俺たちしかいないし‥」
「誰か来たとしても、暗いから見えないだろ」
サトコ
「ふふ、そうですね」
顔を見合わせ笑い合っていると、再び顔が近づいてくる。
後藤
「サトコ‥」
暗闇の中、優しい口づけを贈られる。
ゆっくりと顔が離れると、後藤さんは柔らかく微笑んだ。
後藤
「アンタといると、なにがあっても笑っていられる気がするな」
サトコ
「私もです。後藤さんと一緒にいられるだけで‥」
その時、暗闇の中に光が差す。
青や赤、黄色に紫‥ライトアップされた滝が、幻想的な姿を見せる。
サトコ
「わあ、綺麗‥」
後藤
「ああ」
後藤さんはフッと笑み、私の頬に手を添える。
後藤
「アンタがくれたクッキー、美味かった」
「また‥作ってくれるか?」
サトコ
「はい!」
後藤
「それと‥これ、お返しになるか分からないが‥」
サトコ
「わ‥!」
(真っ赤なバラの花束だ‥!)
受け取ると、バラの甘い香りが鼻をくすぐる。
(何か大きな荷物持ってるなと思ったけど、これだったんだ‥)
後藤
「全部で99本ある」
サトコ
「99本‥?」
(そういえば、前に鳴子が言ってたっけ‥)
【寮 自室】
鳴子
「サトコ、バラの花束は本数で意味が変わるって知ってた?」
サトコ
「え、そうなの?」
鳴子
「うん。3本だと『愛してる』、7本だと『密かな愛』、11本だと『最愛』」
「それで、99本が‥」
【滝】
サトコ
「永遠の愛‥」
後藤
「‥知ってたのか?」
サトコ
「はい。前に鳴子から聞いたことがあって」
後藤
「そうか‥」
後藤さんは恥ずかしそうに、視線を逸らす。
後藤
「たまには柄にもないことしたっていいだろう」
サトコ
「ふふ、私は何も言ってませんよ?」
後藤
「‥‥‥」
満面の笑みで返すと、後藤さんは照れ隠しをするように私の頬にキスをする。
そして手を取り、背中を向けた。
後藤
「‥そろそろ宿に戻るぞ」
繋がれた手は、少しだけ汗ばんでいて‥
後藤さんの想いが、これでもかというほど伝わってきた。
【宿】
サトコ
「ふぅ、気持ち良かった」
大浴場から戻ると、すでに後藤さんの姿があった。
後藤
「遅かったな」
サトコ
「すみません。つい、長湯してしまって」
浴衣姿の後藤さんは、湯上りというせいもあるのか、いつもより色っぽく見える。
後藤
「のぼせたのか?顔、赤くなってる」
後藤さんの手が、頬に触れた。
サトコ
「い、いえ‥」
慌てて手を振ると、あるものがないことに気付く。
サトコ
「あ、大浴場にクシを忘れて来ちゃいました」
「ちょっと取りに行ってきますね」
後藤
「‥待て」
サトコ
「あっ‥」
ドアに手を掛けると、後ろから後藤さんの手が重ねられる。
サトコ
「どうかしましたか?」
後藤
「‥‥‥」
後藤さんは少しだけ気まずそうに‥だけど、ハッキリとした口調で告げる。
後藤
「浴衣姿のサトコは、誰にも見せたくない‥」
サトコ
「え‥?」
後藤
「昼に庭園で、写真を撮られてただろう?」
「情けないが‥少し、嫉妬したんだ」
サトコ
「後藤さん‥」
<選択してください>
サトコ 「私もです。後藤さんが女性に囲まれてて‥胸が苦しかったです」 後藤 「サトコ‥」 サトコ 「んっ‥」 後藤さんは私の手を引いて正面を向かせると、強引に唇を重ねる。 サトコ 「っ‥」 激しくて‥だけど、どこか優しいキス。 そんな我儘なキスに、翻弄される。 サトコ 「‥はぁ」 唇が離れると、後藤さんは私の耳元に顔を寄せる。
サトコ 「嬉しいです」 後藤 「嬉しい?」 サトコ 「はい。後藤さんはいつもクールだから‥その、嫉妬してくれて嬉しいなって‥」 後藤 「‥好きな女が男に囲まれてたら、誰だって嫉妬くらいするだろ」 サトコ 「あっ‥」 後藤さんは私を後ろから抱きしめて‥ サトコ 「んっ‥」 肩口に、鈍い痛みが走った。 サトコ 「後藤、さん‥」 後藤 「‥痛かったか?」 サトコ 「ちょっとだけ‥」 後藤 「悪い、アンタを前にするとどうしても抑えられないな‥」 サトコ 「っ‥」 今度は慈しむように、後藤さんの唇が私の肌に触れる。
サトコ 「ごめんなさい‥」 後藤 「別に謝ってほしいわけじゃない」 「勝手に嫉妬したのは、こっちなんだからな」 添えられている手に力が込められ、ギュッと胸が締め付けられる。 サトコ 「後藤さん‥」 振り返ると、そっと後藤さんを見上げると‥ サトコ 「んっ‥」 強く抱きしめられ、唇を塞がれた。 (後藤、さん‥) 彼の背中に腕を回し、必死に後藤さんの想いに応える。 後藤 「サトコ‥」 荒い息のまま、後藤さんの唇が耳元に近づく。
後藤
「今夜は‥俺がアンタを独り占めだな」
サトコ
「きゃっ!」
後藤さんは私を抱き上げ、そのまま布団へと移動する。
サトコ
「あっ‥」
後藤さんは布団に背中をつけると、そのまま私の身体を抱きしめた。
(こ、この格好は‥)
まるで私が後藤さんを押し倒しているようで‥顔から火が出そうだった。
サトコ
「ご、後藤さん‥」
後藤
「ん‥?」
後藤さんの頬を撫でる手つきが、こそばゆく感じる。
後藤
「たまには‥サトコからしてくれないか?」
サトコ
「私からって‥」
後藤さんの唇が目に入り、鼓動が逸る。
サトコ
「や、やっぱり‥今日の後藤さんはイジワルです‥」
後藤
「‥サトコ」
サトコ
「っ‥」
甘い声音で名前を呼ばれ、覚悟を決める。
サトコ
「ん‥」
そっと後藤さんの唇に触れると‥
サトコ
「んっ‥!」
後藤さんから、愛情を深く注ぎ込まれる。
激しいキスは衰えを見せずに、私を捕らえたまま離さない。
息苦しさを感じたところで、僅かに唇が離れた。
後藤
「‥悪い、少しやり過ぎたな」
サトコ
「後藤、さん‥」
目元に涙が溜まるのを感じながら、後藤さんの胸に倒れ込む。
後藤
「サトコ‥」
サトコ
「あっ‥」
くるりと視界が反転する。
後藤さんの向こう側に、天井が見えた。
後藤
「今度はちゃんと、優しくするから‥」
愛しげに唇を撫でられ、再び繋がる。
先ほどのキスとは違い、とにかく優しくてとろけるような甘いキス。
身体に重みを感じると、私は全身で後藤さんの愛情を受け止めた。
Happy End