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脱出ゲームご褒美ミニストーリー ~東雲~

【東雲 マンション】

家に帰ってくると、東雲教官はさっさとシャワーを浴びに行ってしまった。

脱衣所のドアが開いた音がして、そのあとはキッチンに足音が移動する。

(たぶんこのあと、アイスコーヒーを淹れて戻ってくるはず)

(そうしたら、私のこの想いを伝える‥!)

予想通りコーヒーのグラスを手に戻ってきた東雲教官が、リビングに入って来た。

正座で待っていた私を見て、ギョッとした様子で立ち止まる。

東雲

ちょっと‥なに

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サトコ

「教官を助けたお礼なんですけど」

東雲

は?

サトコ

「助けたお礼なんですけど!」

東雲

うるさい

サトコ

「すみません‥」

「それで、お礼なんですけど‥ひとつだけ、お願いしてもいいですか?」

東雲

ムリ

サトコ

「即答!」

(くっ‥普段ならここで諦めるところだけど)

(今日の東雲教官には、私に助けられたという負い目があるはず!)

サトコ

「お願い事をするなら、今しかない!」

東雲

キミ、考えがダダ漏れなんだけど

お礼なんて要求するんだね

助けたのは、キミの “愛” じゃなかったの?

サトコ

「そっ、それはそうなんですけど‥!」

「お願いします!後生ですから!」

テーブルにグラスを置いて私の隣に座る東雲教官に、必死ですがりつく。

私の懇願に、教官が心から嫌そうなため息をついた。

東雲

‥しつこい

サトコ

「わかってます!」

東雲

怠‥

‥で?何、お願い事って

サトコ

「聞いてくれるんですか!?」

東雲

聞きたくないよ

サトコ

「ですよね‥でもお願いします!」

食い下がる私に諦めたのか、東雲教官はようやく折れてくれたらしい。

少しだけ聞く体勢になった東雲教官に、思い切って告げた。

サトコ

「私の、すっ‥」

東雲

‥‥‥

(私の『好きなところを教えてください』って言おうと思ったけど)

(ダメだ‥そんなこと言ったら、どんな顔されるか容易に想像できる)

サトコ

「‥私の、いいところを言ってください!」

言い直したのに、東雲教官が毛虫を見るような目を私に向けた。

サトコ

「そんな顔しなくても‥」

東雲

怠‥

サトコ

「今日二度目ですよ、早くも‥」

東雲

はぁ‥なんとかひねり出すか

助けてもらったし

サトコ

「はい!ありがとうございます!」

東雲

いいところ‥キミのいいところね‥

‥‥‥

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サトコ

「‥‥‥」

東雲

‥‥‥

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サトコ

「‥‥‥」

東雲

‥‥‥

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サトコ

「‥そんなに悩まないと、思いつかないですか」

東雲

うるさいな。考えてるんだから黙ってて

(考えてる、か‥普段だったら適当にあしらわれて、絶対答えてくれないけど)

(助けたお礼とはいえ、ちゃんと答えてくれようとしてるのは嬉しいかも)

少し緊張しながら待っていると、ようやく東雲教官が重い口を開いた。

東雲

‥めんどくさい

サトコ

「あれ!?いいところを言ってくれるはずだったんじゃ」

東雲

うるさい。諦めが悪い

いちいち細かいことを気にする。ツッコミが激しい

1を理解するのに、10説明しないとダメ。エビフライを毎回焦がす

(‥まさかこれが、私の“いいところ”!?)

(どっちかって言うと、クレームに近いような)

東雲

あと、オレの言うことを全然聞かずに勝手に突っ走る

そのおかげで、どれだけ迷惑を被ったか

サトコ

「す、すみません‥」

東雲

オレの補佐官なのに、仕事できないし

たまに他の教官たちにいいように使われてるし

しかも、それを断れない意志の弱さ‥

サトコ

「も、もういいです!」

いたたまれなくなり、思わずストップをかける。

東雲教官は、スッキリした様子でコーヒーを飲んだ。

東雲

満足した?

サトコ

「むしろ、不満が募りました‥」

東雲

仕方ないでしょ。すぐ思いつかないんだから

でも見事に欠点ばっかりだね、キミ

サトコ

「くっ‥わかりました、こうなったら最終手段です」

「この際、うそでもいいので褒めてください‥」

東雲

必死すぎるでしょ‥

深い深いため息をつくと、教官が空になったアイスコーヒーのコップを差し出した。

東雲

それはそうと、おかわり作ってきて

サトコ

「‥嫌です」

東雲

へえー

サトコ

「今日はコーヒー終わりです!つ、作りません!」

思わず反抗すると、教官がやれやれといった様子で立ち上がる。

何も言わず、キッチンへと消えて行った。

(‥クレームの多さに、つい拗ねちゃってあんな態度取っちゃったけど)

(教官、呆れてるかな‥ただでさえ、子どもっぽいって思われてるのに)

(‥やっぱりめんどくさいお願いだったよね)

立ち上がると、教官を追いかけて慌ててキッチンへ向かった。

【キッチン】

こちらに背を向けている教官に、思わず後ろから体当たりするように抱きついた。

サトコ

「東雲教官!」

東雲

うわっ、何

ちょっと‥コーヒーこぼれるところだったじゃん

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サトコ

「すみません‥いつも教官になじられてばっかりだったので」

「たまには、ちょっとだけでも褒められてみたかっただけなんです」

東雲

‥‥‥

サトコ

「わがまま言ってごめんなさい‥本当は、好きなところを言って欲しかったんですけど」

「‥たぶん、言ってもらえないだろうなと思って」

東雲

よくわかってるじゃない

サトコ

「だって、あんまり褒められたことないですから」

東雲

褒められたいなら、もうちょっと努力したら?

(うう‥面と向かって言われると、やっぱり傷つく‥)

(これでも、努力してるつもりなんだけど‥)

東雲

‥いいから、離れて

サトコ

「はい‥」

しょんぼりしながら、教官の背中から離れる。

でも身体が離れた瞬間、ぐいっと腕を引っ張られて唇が触れ合った。

サトコ

「!」

「な‥!?」

突然のことに驚く私とは裏腹に、教官はいつものように憮然とした表情のままだ。

でも一瞬だけ、その表情が和らいだ。

東雲

‥悪いところも全部ひっくるめて、こうして一緒にいるんだけど

その理由、考えてみれば?

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サトコ

「理由‥」

東雲

理由もなく一緒にいないでしょ、キミみたいな面倒なのと

ま‥キミの頭じゃ、思いつかないかもしれないけど

最後にもう一度、軽く唇が触れ合う。

サトコ

「んっ‥」

東雲

‥‥‥

はぁ‥何やってんだか

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サトコ

「きょ、きょうか‥」

顔を見る間もなく、教官は私の手を離してさっさとキッチンを出て行った。

(一緒にいる理由‥理由‥)

(それって‥)

嬉しくて、勝手に頬が緩んでしまう。

カラン‥とグラスの中で氷が溶ける音がリビングから聞こえて、ハッとなった。

サトコ

「きょ、教官!あの、今のって‥!」

改めて“理由”を尋ねるため、走ってリビングへ戻る私だった。

Happy  End

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