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加賀 ふたりの卒業編 3話

【教官室】

黒澤

警察庁長官が銃撃されるなんて、前代未聞ですから

黒澤さんの言葉に、教官室の入口で立ち尽くす。

警察庁長官が銃撃される‥‥‥その重大さは、私でもよく分かった。

(だから、教官たちだけでなく室長まで集まって、こんな深刻そうに‥)

(でもまさか、こんなことになってるなんて)

黒澤

今回のことを受けて、本庁から捜査の要請です

チーム編成は、難波さんに任せるそうですよ

難波

本庁からか‥それじゃ断れねぇな

颯馬

具体的には、どういう状況で?

黒澤

長官は、出勤時に何者かに狙撃されたそうです

なんとか一命は取り留めましたけど、公務はしばらく無理だと思われます

犯人は依然逃走中で、厳重警戒中です

難波

石神

黒澤さんが話し終わると、それまで考え込んでいた室長が顔を上げる。

難波

犯人の方は、お前たちに頼む

石神

わかりました

難波

警察庁長官だけがターゲットだとは思いづらい

各方面、気を引き締めて警備に当たってくれ

全員が返事をしたあと、加賀さんが私に気付いた。

長野に帰ったと思っていたらしく、軽く目を見張ったあと、眉をしかめる。

加賀

何してる

サトコ

「あの‥」

加賀

謹慎はどうした

私の目の前まで歩いてきた加賀さんに、お母さんのことを伝えた。

加賀

過労?

サトコ

「はい‥弟のことで、心労が重なったみたいで」

「今は点滴をして、回復したら退院できるそうです」

一瞬、加賀さんの表情が緩んだような気がした。

でもそれはすぐに消えて、厳しい “教官” の顔になる。

加賀

補佐とはいえ、凡ミスは許さねぇ

テメェのミスは、テメェでカタつけろ

(私のミス‥)

それはきっと、昨日の演習のことだ。

言葉も表情も厳しいけど、ミスは自分で取り返せという加賀さんからのメッセージらしい。

サトコ

「ありがとうございます、頑張ります!」

加賀

俺たちは、長官以外の要人が狙われてないか調べる

東雲

とりあえず、警備のセキュリティをチェックします

石神

俺たちは犯人の捜査だ

後藤

はい

颯馬

仲間がいないかも気になるところですね

難波

当然、それも含めて捜査してくれ

加賀班と石神班に分かれ、すぐに行動を開始する。

私も加賀さんと東雲教官について、要人たちの警備状態を調べ始めた。

ところが、その翌日。

サトコ

「次の狙いは、外務大臣‥!?」

東雲

あくまで、そうじゃないかって疑ってる段階だけどね

次期総理大臣候補って言われてるし、かなり可能性は高いと思うよ

難波

外務大臣は、諸外国の大臣と国際テロ対策会議を行うために

数日後から、公の場に姿を現す

それはニュースでも報じられてるし、犯人の耳にも入ってるはずだ

室長の言葉に、教官たちはみんな、講義中には見せないような “現場” の顔になった。

難波

加賀、そっちはお前に任せる

加賀

分かりました

難波

さすがに、海外のメディアも注目してる中、狙撃されるわけにはいかんからな

面倒だろうが、向こうのSPと連携取ってくれ

後藤

‥‥‥

颯馬

後藤、心配しなくても、向こうは私たちの担当ではありませんよ

後藤

‥何も言ってませんが

黒澤

後藤さんの担当じゃなくてよかったですね~

警護中にSPと一触即発の雰囲気になったら、大変ですから

ゴン!と、すかさず後藤さんの拳が黒澤さんに振り下ろされる。

黒澤

痛い!昴さんに言いつけますよ!

後藤

好きにしろ

(なんの話だろう‥?昴さんって、たしか特別講師の‥?)

(とにかく、それよりも今は外務大臣の護衛のことだよね)

加賀

歩、警護計画が外部に漏れないようにしとけ

東雲

了解です。セキュリティ、ぎっちぎちに強化しときますから

東雲教官にうなずくと、加賀さんが私に視線を寄越す。

加賀

お前は、俺に同行しろ

<選択してください>

A: 謹慎は解けた?

サトコ

「じゃあ‥私の謹慎は解けたんでしょうか?」

加賀

あれから何日も経って、今さら謹慎もねぇ

もともと、謹慎のことは他のヤツらには言ってねぇ

謹慎にしようが解こうが、俺の勝手だ

(わ、悪い顔してる‥)

B: 何をすればいいですか?

サトコ

「わかりました。何をすればいいですか?」

加賀

指示はあとで出す

捨て駒になりたくなきゃ、しっかりついてこい

サトコ

「はい!」

C: 邪魔じゃないですか?

サトコ

「長官襲撃の事件に関わるなんて‥私、邪魔じゃないですか?」

加賀

テメェで邪魔だと思うなら、引っ込んでろ

黙って卒業まで待っとけ。やる気のねぇ奴を連れていくほど暇じゃねぇ

サトコ

「や、やる気はあります!」

加賀

犯人は必ず外務大臣を狙う。歩の読みは確実だ

つまり、犯人は確保圏内に迫ってくる。追わない手はねぇ

東雲

向こうもそれは感じてるでしょうね

こっちの警備をかいくぐろうと、躍起になってるだろうな

ふたりの間で話を聞いていると、少し離れたところから室長の声が聞こえてきた。

難波

ああ。そうだな‥長官を狙った犯人とは、別人の可能性もある

それも視野に入れて、動いてくれ

石神

分かりました

普段はフラッといなくなってしまう室長も、今回は厳しい表情で石神教官に指示を出している。

いつも以上の緊張感に、身が引き締まる思いだった。

【ホテル】

数日後、外務大臣警護計画がスタートした。

普段以上に物々しい雰囲気に、現場にも緊張が走る。

「加賀さん、全員配置につきました」

加賀

了解

海司

「昴さん、加賀さん、そろそろ外務大臣を乗せた車が来ます」

加賀

全員に、もう一度周囲を確認させろ

少しでも怪しい人間を見つけたら連絡しろ。うちの補佐官に追わせる

「万が一の際、別ルートはすでに確保してあります」

「場合によっては、大臣をそっちに誘導させます」

加賀

わかった。大臣の安全が確保され次第、俺は犯人確保へ向かう

「海司、全員に今のことを通達しろ」

海司

「了解です」

加賀さんの指揮で、公安の刑事もSPたちも一斉に動き出す。

いつもは単独行動が多いのに、加賀さんのその姿は久しぶりに見る “班長” だった。

『加賀さん、外務大臣が動きました』

加賀

全員、その場で待機

犯人は必ず狙ってくる。そのつもりで動け

(私の場合は、怪しい人間を探すこと)

(他の人とは違って警護の担当もないから、自由に動ける)

周囲に目を配りながらも、気になる人物を探す。

すると、みんなが背を向けている後方のビルの屋上に人影が見えた。

(こんな日に、あんなところに‥?)

(一瞬だったけど、グレーの服だけが見えた)

サトコ

「加賀さん‥‥‥」

加賀

大臣から北東の方向、ビルの屋上に人影。進路変更しろ

私が伝えるよりも先に、加賀さんからインカムで全員に指示が入る。

すぐに一柳さんたちが動きだし、大臣を乗せた車が急遽、進路を変えた。

(加賀さんの指示で、SPの人たちが上手く動いてくれた)

(よかった、これなら護衛は成功‥)

ホッと胸を撫で下ろした直後、大臣を乗せた車の方からざわめきが聞こえた。

『車が狙撃された!』

加賀

全員、厳戒態勢!

海司

『防弾ガラスに当たり、大臣は無事です!』

加賀

一柳、各国の大臣の警護にも気を配れ

『了解。海司は第二体勢を取れ』

海司

『わかりました』

大臣たちの車は次々と、用意していた第二経路へと進んでいく。

その間にも発砲は続き、現場は緊張状態に陥った。

(あの屋上にいたのが、犯人だとしたら)

(今日は、交通規制が行われてる‥関係者以外は入れない道が多い)

つまり、犯人の動きも制限されるということだ。

頭の中に叩き込んだ地図を頼りに、地を蹴った。

サトコ

「加賀さん!交通規制が行われていない道を先回りします!」

「犯人を見つけ次第尾行するので、指示を‥」

加賀

百年早ぇ

犯人を先回りしようとする私をさらに先回りして、加賀さんが少し向こうに立っていた。

サトコ

「し、指揮は‥」

加賀

発砲は止まった。大臣も無事だ

つまり、犯人が逃走を始めたってことだ

サトコ

「でも、現場を仕切らなくていいんですか?」

加賀

あとは歩に任せてある

(そっか、東雲教官はGPSで逐一、みんなの場所を把握してるから)

加賀さんから交代して指揮を執れるのは、東雲教官しかいないかもしれない。

犯人を捜して走りながらも、加賀さんは厳しい表情だ。

加賀

向こうは規制がかかって行き止まりだ

サトコ

「はい。行けるとしたらそっちの道しかありません」

「あと、時間差で数キロ先の道路が先に規制解除になります」

加賀

歩、規制解除の時間を延長しろ

東雲

了解

ちなみに、さっきの銃弾‥

もし防弾ガラスじゃないとしたら、大臣の肩を掠めるくらいの位置だったそうです

インカムから聞こえる東雲教官の言葉に、加賀さんが黙り込む。

東雲

長官も、一命と取り留めましたしね。もしかして、向こうの狙いは要人の命じゃなくて

こっちになんらかの脅しをかける‥ってことかもしれませんよ

加賀

‥わかった

(こっちに脅しをかける‥つまり、テロ行為と一緒だ)

今回、外務大臣もテロ対策会議に出席するところだった。

東雲教官が言うように、狙撃は犯人の脅しなのかもしれない。

(どっちにしても、向こうの目的は果たしてない‥)

(まだどこかに潜んでチャンスを狙ってる可能性もある)

加賀さんとともに、犯人を捜して辺りを注意深く探す。

すると、どこからかバイクの音が聞こえてきた。

サトコ

「誰でしょう?向こうは規制がかかってるから、一般人は入って来れないはずですけど」

加賀

‥‥‥

加賀さんの視線の先には、一台のバイク。

職務質問をしようとこちらが停める前に、バイクの方から私たちに近づいてきた。

奥野

「氷川!お前も来てたのか」

サトコ

「奥野さん‥!?」

それは私が以前、新聞社に潜入捜査したときの先輩記者だった。

奥野さんはマスコミに配られる、規制された中でもある程度動けるカードを首から下げている。

奥野

「この間、警察庁長官の襲撃事件があったと思ったら‥あんたらも大変だな」

加賀

マスコミに心配される筋合いはねぇ

奥野

「そう言うなよ。向こうは相当の手練れだろ」

「何しろ、この厳重警備の中、他のヤツらには傷ひとつつけず大臣のみを狙ったんだからな」

奥野さんが、持っていたデジカメの画面を見せてくれた。

そこには、ひとりの人物がはっきりと映し出されていた。

(グレーの服‥私が見たのと一緒だ!)

サトコ

「これ‥大臣を狙った人間ですか!?」

奥野

「データ、お前の携帯に転送してやるよ」

加賀

テメェ‥何が目的だ

奥野

「元部下が困ってるなら、助けてやるのが上司だろ?」

「ただし、これは貸しだからな。警察に協力したんだから、それなりの見返りをもらうぞ」

<選択してください>

A: もちろんです!

サトコ

「もちろんです!加賀さん、いいですよね?」

加賀

テメェが勝手に判断するんじゃねぇ

マスコミに借りを作るなんざごめんだ。借りは必ず返す

奥野

「交渉成立だな。犯人逮捕のスクープで手を打ってやるよ」

B: 加賀に判断を任せる

(私が勝手に、マスコミと交渉するわけには)

加賀さんを見ると、苦々しい表情をしながらも奥野さんにうなずいている。

加賀

マスコミに借り作るなんざ、ロクなことにならねぇ

犯人を逮捕したら、その第一報をテメェのところにくれてやる

奥野

「それで充分だ」

C: データはいりません

サトコ

「あの‥それじゃ、データはいりません。マスコミと交渉するというのは」

奥野

「俺たちは、警察に協力する義務がある」

「ただ、犯人を逮捕したら一番にその情報をくれって言ってるだけだ」

加賀

いいだろう

サトコ

「加賀さん‥」

加賀

マスコミに借りを作れば、面倒なことになるからな

奥野さんにお礼を言うと、急いでデータを東雲教官に転送した。

【裏路地】

データをもとに、東雲教官が割り出してくれた結果‥

画像の男は、公安の要注意人物リストに入っているスナイパーだということが判明した。

(あのあと加賀さんは私とふたりだけで、内密にスナイパーのアジトに乗り込んで‥)

(ひとりだった男を、ほとんど単独で確保したけど)

アジトで、加賀さんは早速、男の尋問を始めた。

外を見張っていろという指示を受け、さりげなく周囲を行き来しながら誰も来ないよう気を使う。

(この暑い中、水分を摂らせず長時間の尋問‥)

周りに聞こえるから大声は出さないけど、中ではかなり過激な尋問が行われているはずだ。

(だけど‥それが、加賀さんの正義だ)

(今あの男を吐かせないと、また被害者が出る)

それがわかっているから、止めるつもりはない。

しばらくすると、部屋のドアが開いて加賀さんが出てきた。

加賀

帰るぞ

サトコ

「えっ?でも」

チラリと部屋の中を見ると、男は憔悴しきった様子でベッドに倒れ込んでいる。

サトコ

「男の確保は‥」

加賀

あとだ

もう犯人に興味を失ったかのように、加賀さんはこちらに背を向ける。

まるで別の何かを追いかけるように、足早に現場をあとにした。

(あとって‥だって、逃げられたら大変なことになるんじゃ)

(どうして逮捕しないの‥?こんなの、加賀さんらしくないよ‥!)

to  be  continued

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