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ふたりの卒業編 後藤5話



【警察庁】

翌日。
昨日クラブで確保した構成員······高田の取り調べが始まるという事で。
私たちは警察庁を訪れていた。

後藤
高田の取り調べは俺にやらせてください

石神
めずらしいな。お前が取り調べをやりたがるのは

後藤
どんな小さな情報でも、洩らさず聞きだしてみせます

石神
いいだろう

サトコ
「あの···私も取り調べを見学させてもらっていいですか?」

後藤
氷川···

サトコ
「現場には出ていますが、取り調べの経験はほとんどありません」
「取り調べの経験も積みたいんです」

後藤
俺は構わないが···いいですか?石神さん

石神
ああ。取り調べの経験も積んでおく必要がある。いい機会だ、参加してこい

サトコ
「はい!後藤さん、よろしくお願いします」

後藤
ああ

頷く後藤さんのあとに続いて、私は取調室に向かった。


【取調室】

薄暗い部屋に構成員の高田が俯いて座っていた。

(ここが警察庁の取調室···何か私の方が緊張してきたかも)

後藤
アンタは俺の後ろに

サトコ
「はい」

後藤さんが高田の前に座る。
それでも高田が顔を上げることはなかった。

後藤
これから取り調べを開始する。高田重人で間違いないな?

高田
「······」

後藤
黙秘か?時間の無駄だ。お前には持っているすべての情報を吐いてもらう

後藤さんの声が普段よりもずっと低くなった。
後ろに立っているために後藤さんの表情は見えないけれど、その気迫に気圧される。

(これが取り調べの時の後藤さん···)
(···怖い、かも)

後藤
高田

もう一度名前を呼ばれ、高田が渋々といった感じで顔を上げる。

高田
「!」

けれど次の瞬間、後藤さんの顔を見て顔面蒼白になった。

後藤
今のうちに話した方がお前のためだ

高田
「ひっ···は、はい!」

(ここまで高田の態度が急変するなんて···後藤さん、どんな顔してるの!?)

サトコ
「······」

(後藤さんの顔が見たい···でも見てしまったら、取り返しのつかないことになるような···)

<選択してください>

A:後藤の顔を覗き込んでみる

(けど、やっぱり見てみたい!)

さりげなく移動して、後藤さんの顔を覗き込もうとすると······

後藤
氷川

サトコ
「は、はい!」

こちらを振り向かないまま後藤さんに名を呼ばれ、私は固まる。

(顔を見ようとしたのがバレた!?)

B:ぐっと我慢する

(気になるけど、今は取り調べ中なんだから、それどころじゃないよね)

後藤
氷川

サトコ
「は、はい」

私を呼ぶ声もいつもより硬く、私も緊張した声で返事をする。

C:チラ見できないか移動してみる

(少しでいいから、見えないかな···)

私は少しだけ前に出て、後藤さんの横顔を見ようと試みる。

後藤
氷川

サトコ
「は、はい!」

(私が動いたのがわかったの!?)

後藤
録音を頼む

サトコ
「わ、わかりました」

私は後藤さんの顔を見ることを諦め、元の位置に戻るとレコーダーの録音ボタンを押した。

後藤
お前の名前は高田重人。過激派組織エル・シャオラの構成員に間違いないな?

高田
「···はい」

後藤
二件起きている警察官襲撃事件について知っていることはあるか?

高田
「俺は何もやってない!俺の役目は情報を伝えるだけの運び屋だ!」
「上の連中がやっていることは知らない!」

後藤
その上の連中は、どこにいる?この間のような集会を度々開いてるんじゃないのか?

高田
「会合は行われている······だが、それを知るのは参加している上層部だけだ」
「組織を探ろうったって、そう容易じゃないぞ」

後藤
どういうことだ?

高田
「上は馬鹿じゃない。常に警察の潜入捜査に気を配っているからな」
「よほど組織に貢献してきた人間じゃない限り、上とはコンタクトをとれないことになっている」

後藤
······

(高田から組織の上に辿り着くのは難しいってことか)

後藤
お前は情報を伝える運び屋だと言ったな

高田
「あ、ああ······」

後藤
ならば、お前が運んだ情報を全て吐いてもらおうか
それで充分だ

(高田の顔が完全に青白くなってる······)

後藤さんは高田が持っているすべての情報を聞き出すことに成功したけれど。
肝心の上層部に関する情報は何も得られないままだった。


【警察庁】

高田の取り調べから数日後。
石神班の会議が警察庁の会議室で開かれた。

颯馬
高田から得た情報は、組織内部の詳細を知るのに役立ちましたが······

石神
実行犯であろう上層部へは簡単に辿り着けないようだな

黒澤
向こうも自分たちがどういう組織か···は重々理解していますからね
警察に目を付けられること前提で動いてることろは面倒です

教官たちは難しい顔をしていて、それが捜査の難航を物語っている。

(このままだと捜査が行き詰まってしまうかもしれない)

石神
高田から出た情報に、組織の婦人会の話があったな

颯馬
ああ、構成員の妻たちが集まるという···

石神
構成員ではなく、その妻の集まり···ということになれば、一段階ガードが緩くなる
そこから組織内部に関する情報を得たい

後藤
しかし、婦人会となると···

皆の視線が自然と私に集まった。
同時に後藤さんがガタッと席から立ち上がる。

石神
潜入捜査の訓練、経験も豊富な氷川なら適任だ

後藤
反対です

石神
なぜだ?

後藤
卒業が近いとはいえ、氷川はまだ学生です!
いくらなんでも、ひとりでの潜入捜査は危険だ

石神
···氷川、お前はどう思う?

石神教官と後藤さんの目が私に向けられた。

サトコ
「わ、私は···」

<選択してください>

A:潜入捜査がしたい

(石神教官が適任だと言ってくれてるんだから、私にできるはず!)

サトコ
「潜入捜査、やらせてください!」

後藤
氷川···

サトコ
「婦人会なら女性が多いわけですし、むしろ危険は少ないと思います」
「捜査に参加しているからには、できることはやらせてください!」

石神
後藤、教官として考えろ。お前は氷川に潜入捜査は不可能だと思うか?

B:後藤の判断に従う

(潜入捜査はやりたいけど、後藤さんが反対なら···)

サトコ
「私は後藤教官の判断に従います。私はまだ後藤教官の補佐官ですから」

石神
では、教官としての後藤に改めて聞こう
今の氷川に潜入捜査が無理だと思うか?

C:他の人にやってもらう

(潜入捜査はやりたいけど、後藤さんが反対なら···)

サトコ
「後藤教官が反対なら、他の方にやってもらう方がいいかもしれません···」

黒澤
他っていうと···

サトコ
「たとえば、黒澤さんが女装するとか···」

黒澤
オレですか!?女装だったら颯馬さんの方が向いてませんか?

颯馬
私には無理ですよ。見るからに女装になってしまいます

石神
冗談はそこまでだ
女装で誤魔化せるほど甘い捜査じゃない
後藤の意見は関係なく、俺はお前の意見を聞いている

サトコ
「私は···できるなら、潜入捜査をしたいと思っています」
「後藤教官が許可してくれるなら···」

石神
後藤、教官として考えろ。お前は氷川に潜入捜査が不可能だと思うか?

後藤
それは···

後藤さんが一瞬沈黙する。

後藤
···不可能だとは思いません

石神
「決まりだな」

後藤
······

石神教官の決断に後藤さんが唇を引き結ぶのがわかった。

(私の身を案じてくれてるんだよね···)

サトコ
「私なら大丈夫です!後藤教官と一緒に、いろいろ経験させてもらいましたから!」

後藤さんを見てそう告げると、後藤さんが小さく息を漏らした。

後藤
氷川に潜入捜査を任せるのは分かりました。ただ、ひとつだけ条件を付けさせてください

石神
何だ?

後藤
俺がインカム越しにサポートをします。盗聴には重々注意を払ったうえで
万が一の時···俺から指示を出せる体勢を作らせてください

石神
いいだろう

黒澤
後藤さんの愛···ですね!

後藤
······

黒澤
ひっ!そんな取り調べの時みたいな顔で睨まないでください!

(あ、後藤さんの顔みたいけど、この角度じゃ見えない!)

石神
では、氷川の潜入捜査で内容を詰めていく

颯馬
エル・シャオラの次の婦人会は···

こうして私の単独潜入で捜査方針が固められていった。


【公園】

迎えた潜入捜査の日は雨だった。
しとしとと降り注ぐ雨は、これ以上気温が下がれば季節外れの雪となりそうだ。

後藤
大丈夫か?

サトコ
「はい!」

潜入先となる婦人会の会場近くまでは、後藤さんが車で送ってくれた。
助手席を降りる私に、後藤さんが傘をさしてくれる。

後藤
よりによって雨とはな···

後藤さんの眉間にシワが寄る。

(後藤さん、雨···苦手なんだっけ)

夏月さんを失った晩は、冷たい雨の夜だったと聞いている。

サトコ
「必ず情報を掴んで、無事に帰ってきます!」

後藤さんの不安を払拭するように、強い声で後藤さんに告げる。

後藤
サトコ···

過去の記憶と戦っているのだろうか···後藤さんが私をじっと見つめる。

(私は絶対に後藤さんのもとに帰ってきます!)

瞳で伝えるように彼を見つめ続ける。
どれくらい、そうしていただろうか···ゆっくりと一度、後藤さんの目が閉じられた。
そして、再び私を見つめる後藤さんの瞳には強い光が宿っている。

後藤
俺がついてる。何も心配せずに行って来い

サトコ
「はい!」

後藤さんが私の肩に手を置く。
その手の温もりに勇気をもらい、私は潜入先である会場へと向かった。


【会場】

会場に入る瞬間は、さすがに緊張したものの。
高田の名を出すと簡単に会場に入ることができた。

(一段階ガードが緩くなるっていう石神教官の読みは正解だったんだ)

婦人会の年齢層は30代~50代がメイン。
服装は上品なワンピースやスーツが多く、雰囲気はいいところの幼稚園のママ会のように思える。

女性A
「あら、あなた見ない顔ねぇ」

(きた···!)

話しかけられ、私は笑顔で振り向く。

サトコ
「今回から参加させていただいています。高田の妻です」

女性A
「あら、高田さん、ついにご結婚なさったの!」

女性B
「まあ···全然知らなかったわ」

サトコ
「皆様へのご挨拶が遅れておりまして、申し訳ございません」
「いつも主人がお世話になっております」

女性A
「ここでは独自のルールもたくさんあるから、早く覚えて失礼のないように」

サトコ
「はい」

深く頭を下げると、女性たちはヒールの音を鳴らして去っていく。
すると、インカムから後藤さんの声が聞こえてきた。

後藤
初回のコンタクトは成功だな

サトコ
「はい」

小声で答え、私は引き続き会場の様子を窺う。

(特別なことをしてるわけじゃなくて、ただの奥様たちの雑談の場なのかな···)

何か雑談の輪に交ざって、情報を得たいと思っていると···

女性C
「いらしたわよ!」

女性D
「今日も素敵でいらっしゃるわねぇ」

突然聞こえてきた黄色い声に、そちらを振り返る。
すると会場にひとりの若い男性が入ってきた。

杉山
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

(あの人は···イケメン敏腕秘書って呼ばれている杉山さん!)
(どうして、杉山さんがこの組織の婦人会に?)

サトコ
「あの···どうして、杉山さんが婦人会に?」

女性A
「ご主人が政治関係のお仕事に就いている方も多いのよ」

女性B
「杉山さんには、お世話になっているの」

サトコ
「そうなんですね···」

(突っ込んで聞きたいけど、あんまり聞くと怪しまれるよね···)

杉山
「次の選挙に向け、一丸となって頑張りましょう!」

杉山さんは奥様方に爽やかな笑みを振りまき、穏やかな空気のまま婦人会は無事終了した。



【個別教官室】

潜入捜査を終え、私は後藤さんと学校の個別教官室で合流することになった。

(杉山氏のことも報告しないと!)

潜入捜査後すぐに後藤さんに呼び出しが入り、報告はまだ済ませていない。

サトコ
「失礼します」

後藤
サトコ!

ノックして部屋に入った途端、後藤さんが駆けてきた。
その腕が伸びてきて強く抱きしめられる。

サトコ
「ご、後藤さん!?」

後藤
無事でよかった

サトコ
「会場を出るまで、ちゃんと確認したじゃないですか」

後藤
それでも顔を見るまでは安心できない

私の顔を確認するように、後藤さんの両手が私の頬を包む。

後藤
サトコ···

サトコ
「後藤さ···んっ···」

そのまま唇を塞がれ、私は目を瞬かせた。

(こ、こんなところでキスするなんて···)

冷静に考えられるのも短い時間だった。
すぐに後藤さんのキスに思考を奪われる。

サトコ
「後藤さん···」

後藤
···おかえり

サトコ
「ただいま帰りました···」

ゆっくりと唇が離れ、吐息が触れる距離でお互いを見つめていると、

颯馬
後藤、入るぞ

一柳昴
「···お前ら、何やってんだ?」

サトコ
「!」

ドアが開くと同時に、颯馬教官と一柳教官が入ってくる。

(ど、どうしよう!完全に後藤さんに抱きしめられてる!)

後藤
ノックぐらいしろ!

一柳昴
「ノックされなきゃ困るようなことしてんじゃねーよ」

颯馬
サトコさんが潜入捜査から無事に帰って来たんです。まあ、大目に見ましょう

サトコ
「そ、そうなんです。後藤教官は私を心配してくれて···」

一柳昴
「で?有力な情報は手に入ったのか?」

後藤
報告を受けるのは俺だ。お前は引っ込んでろ

一柳昴
「色ボケは引っ込んでろ」

後藤
お前は部外者だろうが!

一柳昴
「周さんからの要請で協力してやってんだ。感謝しろ」

後藤
周さん!どうして一柳を···

颯馬
それは後藤、お前が一番よくわかってるんじゃないか?

後藤
······

颯馬
この事件が読み通りなら···“俺たち” で解決したい事件だろう?

後藤
それは···

後藤さんが目を伏せる。

(後藤さんと一柳教官と颯馬教官···夏月さんの元同僚たち)
(この事件が夏月さんの事件につながっているなら、一柳教官だって捜査に参加したいよね)

サトコ
「有力かどうかわかりませんが、ひとつ報告があります」

後藤
聞かせてくれ

サトコ
「婦人会にイケメン敏腕秘書で有名な杉山氏が姿を見せました」

後藤
なに?杉山が?

一柳昴
「サトコ、上出来だ」

颯馬
ええ。潜入捜査の甲斐がありました

杉山の名前を出した途端、後藤さんたちの顔つきが変わる。

サトコ
「杉山氏が、今回の事件に何か関係してるんですか!?」

私の問いかけに頷いて答えたのは後藤さんだった。

to be continued



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