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カレが妬くと大変なことになりまs(略:後藤2話

警察関係の船上パーティー。
石神さんの同伴者としての役目はダンスタイムの終了と共に終わった。

(誠二さん、どこかな)

踊ってる時、石神さんの肩越しに姿を見たのが最後。
ダンスが終わった時には、ホールにその姿を見つけることはできなかった。

(お役目も終わったことだし、誠二さんと過ごせれば···)

彼を探して船内を歩いているうちに、ドアが並ぶ客室エリアまで来てしまった。

サトコ
「さすがに、こっちには来てないよね」

会場から離れすぎたと思い、戻ろうと踵を返した時だった。
横から伸びてきた手に捕まり、より狭い通路へと引っ張られた。

サトコ
「なっ···!」

後藤
サトコ

サトコ
「誠二さん!?」

気が付けば力強い腕の中。
顔を上げれば、彼の瞳がじっと私を見つめている。

サトコ
「あの···」

どうしてここにいるのか、どうしてここで抱き締められているのか。
聞きたいのはいろいろあるけれど、先に口を開いたのは誠二さんの方だった。

後藤
このまま、アンタが見えないところにいようと思ったのに
こんなところにいていいのか?

そう聞きながらも、誠二さんの腕の力が緩む気配は全くない。

サトコ
「ダンスが終われば、私の役目も終わりみたいです」
「あとは誠二さんと過ごしたいと思って···でも、姿が見えなかったから···」

後藤
···探しに来たのか?

サトコ
「はい」

腕の中で頷くと、さらに抱き寄せられた気がした。

サトコ
「誠二さんは?私が見えないところにいようって言うのは···」

後藤
···我慢、できなかった

サトコ
「え?」

軽く首を傾げて訊ね返すと、誠二さんはいささか居心地が悪そうに視線を逸らせた。

後藤
こんなに綺麗なアンタが他の男と一緒にいる姿を大人しく見てなんかいられない
石神さんだけの話じゃない。アンタのことを見る奴ら全員···ダメだ

サトコ
「いやいや、そんなに誰も見てませんよ?」
「見てたとしても、加賀さんや東雲さんなんて鼻で笑ってくるし···」

誠二さんが心配するようなことは何もないのだと言っても、納得はしてくれなかった。

後藤
油断しすぎだ。触られたの忘れたのか?

サトコ
「あれは、女なら誰てもいい部類の人たちかと···」

後藤
···頼む、もう少し危機感を持ってくれ

あまりに切実な顔で言われてしまえば、私もとりあえず言葉を飲み込んだ。

(考えすぎだと思うけどなぁ)

後藤
石神さんも石神さんだ。連れて行ったなら、責任を持つべきだ

誠二さんの口からめずらしく石神さんへの批判が出る。

(いや、だから、私は放っておいても大丈夫っていうのが、世間の評価なのでは···)

ーーと思ったけれど、繰り返しになりそうなので、ここは言わずにおく。
そして代わりに口にするのは、自分の正直な気持ち。

サトコ
「私は誠二さんと踊りたいなって思ってました。あのダンスタイムの時」

後藤
ああ···あの時か···

その時間を思い出すように、誠二さんの目が細められた。
そしてそっと私の頬に手が当てられる。

後藤
あの時は正直言って、石神さんが相手だからと手放したことを後悔した
誰相手でもダメだ。アンタだけは···

首筋に顔が埋められる。
妬いてくれているのだと思うと、誠二さんには申し訳ないが、どうしても頬が緩んでしまう。

サトコ
「私もずっと誠二さんのことを考えてました」

そっと耳にキスをしながら囁くと、その肩が小さく動く。

サトコ
「一番の望みを言うなら、誠二さんと恋人同士で正式な同伴者になれたらなぁって···」

後藤
本当か?

顔を上げた彼に笑顔で頷くと、誠二さんの表情もやっと和らいだ。

サトコ
「石神さんの話を引き受ける前に相談すれば良かったですね」

後藤
石神さんからの頼みなら、断れないだろう

どうすることも出来ない流れだった···そう言いたげだった誠二さんが、
ふと何かを思いつくような顔をした。

後藤
アンタのせいじゃないのは、よくわかってる
だが今日、石神さんに取られた分の時間···俺にもくれるか?

サトコ
「それって、どういう···」

後藤
今度、出かける時は···全部、俺の言うことを聞いてくれ

サトコ
「!」

(誠二さんから、まさかの俺様的な発言が!?)

目を丸くしながらも、相手が誠二さんなら···と、勇気を持って頷いた。

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そして、パーティーから数日後。

(今日は誠二さんの言うことを聞くっていう、特別なデートの日)
(誠二さんのリクエストって、どんなことだろう?)

どちらかというと、いつも私の希望を中心に動いてくれることが多いので、
むしろ楽しみでもあった。

サトコ
「どこに行きますか?」

後藤
あそこに行こう

誠二さんが顔を向けたのは、駅前のファッションビル。

サトコ
「あそこって···レディスアパレルがほとんどのビルですけど···」

(誠二さんが用事あるようなテナントあったかな?)

後藤
服を買いたいんだ

サトコ
「メンズのアパレルだったら、駅向こうのビルの方がいいと思いますよ?」

後藤
俺の服じゃない。アンタの服を···
俺がアンタに似合う服を選びたいんだ

サトコ
「誠二さんが私のファッションコーディネーターを!?」

後藤
そこまで大袈裟な話じゃない

思わず大きな声で聞いてしまうと、誠二さんが照れた顔になる。

後藤
センスはあまり期待できないと思うが···いいか?

サトコ
「はい!もちろんです!」

(誠二さんが選んでくれる服ってことは、誠二さんの好みってことだよね)
(これまで、どんな格好が好きなんだろうって思うことが多かったから嬉しい!)

ひとしきり心の中で喜んで、はたと気が付く。

サトコ
「···私、そんなに同じ服ばっかり着てましたか?」
「確かに、最近新しい服全然買ってないですけど···」

後藤
そうじゃなくて···俺が選んだ服を着て欲しいってだけだ
···黒澤が選んだ石神さん好みのドレスを着たんだから、俺のも着てくれるだろう?

ものすごく言いづらそうに話してくれた誠二さんに、ようやく合点がいく。

(つまりヤキモチの延長の話···鈍感で、すみません!)

サトコ
「じゃあ、早速行きましょう!楽しみにしてますね」

後藤
ああ

意気込むように気合を入れると、私たちはファッションビルへと向かった。



後藤
···ここ全部、女物の服が売っているのか

様々なタイプの服が並ぶレディスファッションフロアの中で、誠二さんが一瞬遠い目をする。

(この中から選ぶ自信がなくなりかけてる!?)

後藤
アンタは服を買う時、どうやって選んでるんだ?

サトコ
「自分が着る服のタイプって、だいたい決まってませんか?」
「そういう服が売ってる店に行くようになるので、自然と行くお店も決まってきますね」

後藤
アンタがいつも着てるような服は···

サトコ
「私がいつも着てるものじゃなくて、誠二さんの好みで選んでくださいね?」

後藤
ああ、そうだったな

自分で言っておきながら、自信なさそうな誠二さんが彼らしくて胸が温かくなる。

後藤
俺がサトコに着せたい服···か

フロアをざっと周り、誠二さんが立ち止まったのは、
ややスポーティーなカジュアルファッションの店だった。

後藤
アンタには動きやすい服がいいと思うんだ

サトコ
「なるほど···」

(誠二さんは見た目の好みより、機能性重視なんだ)

後藤
いや、だが···

誠二さんが一着の服に目を留めている。
それは深いブルーのシャツワンピだった。

サトコ
「このワンピースの青···誠二さんがいつも着てる青に似てますね」

後藤
俺は無意識に、この色を選ぶ習性があるのかもな···
代わり映えがなくて悪い。そっちのシンプルな服に···

サトコ
「でも、自然にこの色を選ぶってことは、これが誠二さんの好きな色ってことかも」
「誠二さんの好きな色が着られるなら、私も嬉しいです」

後藤
アンタは、どうしてそう···

誠二さんはグッと言葉に詰まりながら、考える様子を見せた。

後藤
···この青いワンピースでいいか?

サトコ
「誠二さんが決めるんですよ?」

後藤
これにしよう。この方が、この後の都合もいいしな

サトコ
「このあと?」

後藤
いや、何でもない

青のシャツワンピに合わせて、誠二さんが店員さんに聞きながら靴まで決めてくれた。

(普段なら手を出せないブランドだけど、誠二さんが選んでくれたんだから···)
(明日からの食費に泣いてもらおう!)

会計するために財布を出すと、誠二さんに止められた。

後藤
俺が出す

サトコ
「いえ、そういうわけには···特別な日でも、何でもないんですし」

後藤
俺が着て欲しい服なんだ。それに今日は俺の言うことを聞いてくれる約束だろう?

ふっと微笑む誠二さんに胸を撃ち抜かれる。

(こんなかたちで俺様テイストをぶつけてくるなんて、ズルすぎる···!)

私が心の中で悶えている間に誠二さんが会計を済ませ、
この場で着替えていくことになったのだった。



服を買った後、最近話題になっているロールアイスを食べたり、
久しぶりのデートを満喫したあと。
誠二さんが連れて来てくれたのは、ピアノコンサートが楽しめるビュッフェレストランだった。

サトコ
「素敵なお店ですね。着替えてきて良かったです」

後藤
気に入ったなら、良かった

(さっき『この方が、このあとの都合もいいしな』って言ったのは)
(このレストランに来るからだったんだ)

上品なラインのシャツワンピは色合いも含め、派手過ぎずカジュアル過ぎず、
ちょうど雰囲気に合っていた。

後藤
好きなもの、たくさん食べてくれ

サトコ
「メインのお料理も種類もたくさんあって、デザートもあんなに···」
「あ、でも、今日は誠二さんの言うことを聞く日だから、食べるものも?」

後藤
俺の望みは、アンタが好きなものを食べることだ

(本当に誠二さんは優しすぎる···)

シェアしたりしながら美味しいものをたらふく食べると多幸感に包まれる。

サトコ
「幸せです···」

後藤
まだ、もうひとつやりたいことが残ってる

そう言われたとき、店内の照明がやや暗くなった。
それぞれのテーブルの男女がゆっくりと席を立つ姿が見える。

サトコ
「これって···」

後藤
ダンスタイムだ

誠二さんの手が王子様のごとく差し伸べられる。

(私が誠二さんと踊りたかったって言ったから···)

そっと手を取ると、腰をグッと引き寄せられてダンスの輪に加わった。

サトコ
「あの、実は私、ダンスが下手で···石神さんの足も何度も踏んじゃったんです···」

後藤
問題ない。身を任せていろ

石神さんの時と比べ、緊張がないせいか前回よりも上手く動くことができる。

後藤
アンタの願い、叶えられたか?

サトコ
「はい···」

今見るのは、他の人の肩越しに見る遠い誠二さんじゃない。
ぴったりと寄り添う温もりを心地良く思いながら、彼との時間に没頭した。

食事の後は誠二さんの部屋へと一緒に帰ってきた。
お風呂も済ませてリビングでくつろいでいると、こんなに幸せでいいのかと思ってしまう。

(今日のデートはいつもと一味違って、これはこれで良かったなぁ)

サトコ
「ふふ···」

後藤
どうした?急にニヤけて

サトコ
「誠二さんに妬いてもらうのも、たまにはいいなぁって。いつも私ばっかりだから」

後藤
アンタが妬くことなんてないだろう。俺の周りは男ばかりだぞ

サトコ
「公安課のエースは特別な存在なんですよ···」

下手に話しかけようものなら、周囲からの視線が物凄いことを誠二さんは知るまい。

サトコ
「今は誠二さんを独り占めです」

隣に座る誠二さんの腰に抱きつくと、そのままソファに倒れる。

後藤
俺はいつだって、アンタだけのものだ

唇が重なるのは自然な流れ。
お風呂で温まった身体が熱を帯びるまで、そう時間はかからなかった。

翌日、誠二さんと時間をずらして出勤すると、廊下で津軽さんに会った。

サトコ
「おはようございます」

津軽
おはよう。今日はいつもと出勤時間違うね

サトコ
「そ、そうですか?ちょっと今朝は早起きだったからかも」

(微妙な時間の差を突っ込んでくるなんて···やっぱり、油断できない!)

津軽
そういえば、ウサちゃん知ってる?昨日の会議で聞いたんだけどさぁ
秀樹くんが爪先が痛くて難儀してるんだって

サトコ
「え、爪先···?」

津軽
何かに踏まれたのかもね

サトコ
「···何かに」

津軽
何かに

(津軽さんのこのニヤけた顔···絶対に私が踏んだせいだって言いたいんだ!)
(でも···)

冷静に考えれば、私のせいだろう。

サトコ
「···湿布買ってきます!」

津軽
あ、じゃあ俺のおやつも

サトコ
「津軽さんが食べたがるようなものは、ドラッグストアには売ってませんよ!」

石神さんに献上すべく、私は売っている中で一番高い湿布を購入したのだった。

Happy End

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