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クリスマス2018 颯馬

難波
よーし、元難波室の精鋭たち集合~

ビンゴでまさかの大当たりを出すと、なぜか難波室長がご機嫌な声をあげた。

石神
難波さん、大丈夫ですか

後藤
飲みすぎです

難波
氷川のビンゴ大当たりを祝して、皆でラーメンを食べに行くか

サトコ
「え」

(ビンゴとラーメンに何の繋がりが?)
(祝ってもらうことでもないし、そもそもラーメンはちょっと···)

サトコ
「すみません、今日はもう遅いので」

難波
そうか···

サトコ
「加賀さんももう帰られたみたいですし」

難波
ん?

後藤
歩の姿もないな

難波
あいつらいつの間に···

石神
いつものことです

難波
アツアツのラーメンで旧交を温めようかと思ったが···またにするか

後藤
そうしま···

難波
今夜はお前らだけで我慢しよう

難波室長はご機嫌なまま後藤さんと石神さんの肩を叩いた。

後藤
······

石神
恐縮です···

後藤
周さんも···

颯馬
私は氷川さんを送り届けます
主役を1人で帰すわけにはいかないので

(颯馬さん···!)

難波
まあ、そうだな
じゃあ氷川のことは颯馬に任せて、3人仲良く絶品ラーメンを食いに行くとしよう

石神・後藤
「···はい」

(申し訳ないけど、せっかくのクリスマスだし、やっぱりラーメンより颯馬さんと帰りたい)

難波室長たちを見送りながら思っていると、不意に津軽さんが不敵な笑みを浮かべた。

津軽
ウサちゃんとは俺も同じ方向なんだよねぇ

颯馬
···

津軽
彼女は俺が送り届けるから、周介くんもラーメン食べに行っておいでよ

颯馬
生憎、私はもう満腹なので

津軽
締めのラーメンは別腹でしょ~

颯馬
別腹は甘いものでないと

津軽
ならラーメンに生クリームをトッピングするといいよ

颯馬
津軽さん好みの味になりそうですね

津軽
何事もチャレンジだよ、周介くん

颯馬
その精神には賛同します。チャレンジの方向性さえ間違えなければ

(うぅ、また謎のバトルが始まってしまった···!)

どうしようか戸惑っていると、突然津軽の背後から手が伸びてきた。

???
「とぅ~がるしゃんっ!」

津軽
なっ!?

黒澤
つ~かまえた~

(く、黒澤さん!?)

黒澤
あそびまひょ~よ、とぅがるしゃ~ん

津軽
酒臭~···

百瀬
「おい!」

酔った黒澤さんに抱きつかれた津軽さんが顔をしかめると、百瀬さんがすっ飛んできた。

百瀬
「その手を離せ」

黒澤
イヤです~

百瀬
「離せ······って!」

黒澤
くろしゃわとーる、狙った獲物は逃がしましぇーん!

津軽
イタタタ···っ、爪が食い込んでる

(ぷっ···申し訳ないけど、この3人面白い···!)

思わず笑ってしまったその時、ツンツンと肩を突かれた。

サトコ
「?」

颯馬
···

振り向くと、颯馬さんが『しーっ』と人差し指を立てて微笑んだ。

颯馬
今のうちに

サトコ
「···はい」

耳元で囁かれ、じゃれ合う3人に気付かれないようそっと離れていく。

颯馬
透にしっかりと飲ませておいてよかった

サトコ
「え?」

颯馬
相変わらずいい働きをしてくれます

(颯馬さんの計画的犯行だったんだ···)

会場から私を連れ出す颯馬さんの背後に、悪魔の尻尾がちらついていた。

颯馬
うまく抜け出せましたね

パーティー会場のある倉庫街を抜けると、そっと手を繋がれた。

颯馬
ここまでくればもう誰の目にも留まりません

サトコ
「そうですね」

(黒澤さんには申し訳ないけど、2人になれて嬉しいな)

颯馬
せっかくですから

颯馬さんは繋いだばかりの手を解くと、自分の手袋を外して私を見る。
『サトコのも取っていい?』と聞くように。
返事の代わりに微笑むと、颯馬さんはそっと私の手袋も外し、素手でしっかりと繋ぎ直してくれる。

サトコ
「颯馬さんの手、あったかいです」

颯馬
こうすればもっと温かいですよ

手を繋いだまま自分のポケットに入れ、颯馬さんは穏やかに微笑んだ。
そのままゆっくりと、人出が少なくなった夜の街を歩く。

颯馬
クリスマスにしては静かな夜ですね

サトコ
「もう遅い時間ですし、みんな家で温かいクリスマスを過ごしているのかも」

颯馬
静かな冬の街もいいものです

サトコ
「はい···」

イルミネーションの輝きも、心なしかいつもより澄んで見える。

サトコ
「今年も2人で過ごせて幸せです」

颯馬
···

そっと頷いてくれた颯馬さんが、ふと足を止めた。

颯馬
少し待っていてください

サトコ
「はい···」

駅前に私を残し、颯馬さんは閉まりかけた小さな店へと走っていく。

(何のお店だろう?)

入口以外は既にシャッターが下りていて、何お店なのか分からない。
言われた通り待っていると、暫くして颯馬さんが店から出てきた。
大きな花束を抱え、小走りで私の元まで戻ってくる。

颯馬
メリークリスマス、サトコ

サトコ
「!」

(これを買いに行ってくれてたんだ!)

サトコ
「ありがとうございます!」

花束を受け取ると、キンと冷え切った空気の中に甘い花の香りが広がった。
赤と緑のクリスマスカラーに仕上げられた花束には、金色の星型ピックが添えられている。

サトコ
「可愛くって素敵」

颯馬
少々無理を言って作ってもらいました

見ると、お店の前で店員さんが私たちを見守るように笑みを浮かべていた。
颯馬さんと一緒に頭を下げると、店員さんもぺこりと頭を下げて店の中へ入って行く。

颯馬
間に合ってよかったです

颯馬さんが微笑むと同時に、お店の電気が消えた。

サトコ
「本当にありがとうございます。すごく嬉しいです」
「私もお返ししたいけど···すみません、今日はプレゼントを持ってきてなくて」

颯馬
もう貰ってますよ

サトコ
「え?」

颯馬
2人でいるこの時間を

サトコ
「···!」
「でも、それだけじゃ···」

颯馬
じゃあ、この後の貴女の時間もいただけますか?

サトコ
「···もちろんです!」

笑顔で頷く私に微笑み返すと、颯馬さんは再び私の手を取って駅へと向かった。

サトコ
「そういえば···」

終電少し前の電車内で、バックの中を覗く。

颯馬
どうしました?

サトコ
「ビンゴの景品って何だったのかなって思って」

颯馬
まだ見てなかったんですね

サトコ
「はい。いきなり『ラーメン行くぞ!』ってなってしまったので」

颯馬
ふふ。そうでしたね

話しながら、景品として渡された封筒を開けてみる。

サトコ
「わあ!高級エステサロンのチケット!」
「しかもこれ、カップルで招待ですって」

颯馬
ちょうどよかった

サトコ
「え?」

颯馬
降りましょうか

サトコ
「···ここで?」

(颯馬さんの家の最寄り駅でもないし···)

私の家の最寄り駅でもない。

颯馬
行きますよ

サトコ
「は、はい···」

(って···どこへ?)

戸惑う私の手を取ると、颯馬さんはどこか楽し気に電車を降りた。

サトコ
「ここって···」

連れて来られたのは、降りた駅からほど近い高級ホテル。

サトコ
「チケットのエステサロンがあるホテル···ですよね?」

颯馬
ええ。駅を通り過ぎる前に封筒を開けてくれてよかったです

(どういうこと···?)

颯馬
実はその景品、私の案で決めたものなんです

サトコ
「えっ?」

颯馬
サトコと一緒に行けたらいいな、と思いまして

サトコ
「···カップルで招待なのはそれで?」

颯馬
そういうことです

(まさか、颯馬さんの仕込みだったなんて!)

サトコ
「で、でも、私が当てるとは限らないじゃないですか」

颯馬
それはもちろん···ちょっとした細工を

サトコ
「細工って···いったい何をどうしたんですか!?」

颯馬
ふふ、経過より結果を楽しめばいいんです、クリスマスですしね

(なんていうか······)
(私の彼氏、すごい)

謎めいた微笑みに丸め込まれるようにして、一緒にエレベーターに乗り込んだ。

スタッフ
「では、仕上げのオイルトリートメントに入ります」

ホテルの最上階のセミスイートに付属したサロンで、極上のマッサージを2人で受ける。
程よく温められたオイルの香りと感触が、とても心地いい。

(あ~、最高~)

うっとりと目を細めていると、隣のベッドでは颯馬さんも目を細めていた。

サトコ
「気持ちいいですね」

颯馬
この上なく

(このまま眠ってしまいそう···)

あまりの気持ちよさにウトウトしてしまい···

颯馬
サトコ

(わ···本当に寝落ちしちゃった!)

気付けば颯馬さんと二人きりになっていた。

颯馬
夢見心地のまま眠ってしまったようですね

サトコ
「すみません···あまりに気持ちよくて···」

颯馬
そのままでは風邪を引いてしまいますよ

(ハッ···この格好のままだったんだ!)

バスタオルを巻いたままの姿だったことに、今更ながら恥ずかしくなる。

(颯馬さんも上半身裸のままだし···)

颯馬
おいで

サトコ
「···」

肌かであることを気にする様子もなく、颯馬さんは手を差し伸べた。
少しドキドキしながら、その手を取る。

颯馬
さっき繋いだ時よりもしっとりしてますね

サトコ
「···丁寧にマッサージしてもらったので」

颯馬
その肌、もっと感じさせて

颯馬さんは妖しく微笑みながら、サロンから続く備え付けのジャグジールームへ私を誘う。

(ジャグジーまで付いてるなんて、本当に豪華)
(でも、一緒に入るのはやっぱりちょっと恥ずかしいな···)

そう思った瞬間ー

パチッ

(え···)

颯馬
これなら恥ずかしくないでしょう?

サトコ
「!」

颯馬さんがライトを消すと、ガラス越しの夜景がキラキラと輝いて目に飛び込んできた。

サトコ
「綺麗···」

颯馬
明かりはこれだけあれば十分です

サトコ
「はい······東京の夜景を独り占めしてるみたい」

優しく促され、2人で一緒にジャグジーに入った。

サトコ
「なんだかとっても贅沢ですね」

颯馬
ええ。サトコの肌を照らすのは、月と星と街の灯りだけ···
こんな美しいものを独り占めできるなんて、贅沢の極みです

(あ···)

そっと肩先に落とされたキスに、トクンと鼓動が跳ねた。
そのまま後ろから優しく包み込むように抱き締められる。
泡立つお湯の中で触れ合る素肌に、跳ねた鼓動はドキドキと高鳴っていく。

颯馬
一段と綺麗になりましたね

マッサージしたての私の肌に、颯馬さんはゆっくりと手を滑らせる。

サトコ
「···くすぐったいです」

颯馬
黙って

サトコ
「んっ···」

振り向いた私の唇は、そうなることが当然のように甘く塞がれた。
そのまま前を向かされ、向き合う形で抱き締められる。
オイルでしっとりした2人の素肌が、ピタリと吸い付くように密着する。

サトコ
「んん···」

唇から離れたキスが、首筋を通って再び肩先に落とされる。
逆にまた首筋を通り、唇にキスが帰ってくる。
そんなキスを何度も繰り返しているとーー

ザバッ

サトコ
「きゃっ」

突然ジャグジーの中から抱き上げられた。
露になる裸体に、一気に顔が熱くなる。

颯馬
のぼせてしまいそうだったので

サトコ
「······」

颯馬
ほら、そんなに赤くなって

(これはただ···恥ずかしくて···)

恥じらう私を見て、颯馬さんはほんの少し嬉しそうに微笑んだ。

颯馬
本当に可愛い人ですね

柔らかな微笑みと共に、再び唇を塞がれる。
裸で抱き上げられたままのキスに、私は燃えて無くなりそうなほど身も心も熱くした。

(······颯馬さん···)

仄かな光を感じて目を覚ますと、すぐ横に颯馬さんの寝顔があった。
規則正しい静かな寝息を立てている。

(よく眠ってる)

穏やかな寝顔を見つめているだけで、幸せな気持ちになれる。

(···素敵なクリスマスだったなぁ)
(またこうして一緒に過ごせますように···)

思わず手を伸ばし、颯馬さんの前髪にそっと触れた瞬間ーー

サトコ
「あ!」

颯馬さんにまだプレゼントを渡していないことを思い出し、思わず声が漏れてしまった。

颯馬
···どうしました?

サトコ
「あ、すみません、起こしちゃいましたね」

小さく微笑んで、颯馬さんはチュッと優しくおはようのキスをしてくれる。

颯馬
今日は早起きですね。眠れませんでしたか?

サトコ
「いえ、エステ効果でぐっすり眠れました」

颯馬
ならよかった

サトコ
「素敵なクリスマスにしてくれてありがとうございます」

颯馬
景品のおかげです

サトコ
「···不当当選ですけど」

颯馬
すみません、悪戯が過ぎましたね

(って···全然悪びれてないんですけど、その微笑み)

そこがまた颯馬さんらしくて、思わず私も微笑んでしまう。

(用意したプレゼント、お礼の意味も込めてあとでちゃんと渡さなきゃ)

数日後ーー

サトコ
「クリスマスももう終わっちゃいましたね」

颯馬
そうですね

部屋に飾っていたオーナメントを、仕事終わりに寄ってくれた颯馬さんも一緒に片付けてくれる。

颯馬
そういえば、私が出したあの手紙は見ました?

颯馬さんは、キャビネットの上に置きっぱなしだった封筒を見て言った。
黒澤さんが仕掛け人の『Team・K』の怪文書と一緒に届いた、あの差出人不明の手紙だ。

サトコ
「これって、颯馬さんが出したんですか!?」

颯馬
ええ

(そうだったの!?まだ見てない···!)

早速その場で封筒を開けてみるとーー

『パーティーで貴女が手にするビンゴカードは、最後の1枚でなければならない』

サトコ
「これって···」

颯馬
ふふ、やっぱり悪戯が過ぎましたね

そこには、不正行為への『指示』が書かれていた。
まるで今の颯馬さんの微笑みのような、妖しくも麗しい真っ黒な筆文字でーー

Happy End

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