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俺の駄犬が他の男とキスした話(前) 加賀3話

駅前でイ···イチャイチャしている加賀さんと美女を見たその足で、出勤したものの···

(違う···あれは違う···)
(見間違い···ではなかったけど、でも違う、絶対に···)

津軽
ウサちゃん、どうしたの?顔死んでない?

サトコ
「いひゃひゃひゃひゃ···!はんへ頬ひっはるんれすは!」

津軽
あ、ごめん。なんか面白そうな顔してたから

サトコ
「私の顔はオモチャじゃないんですよ···!」

津軽
福笑いじゃないんだ···

サトコ
「残念そうにしないでください···」

津軽さんに引っ張られた頬を撫でながら、加賀さんのデスクをチラリと眺める。

津軽
兵吾くんなら、午前休取ってるよ

サトコ
「えっ!?」

津軽
ん?今デスク見てなかった?

(あの一瞬で···?め、目敏い···)

津軽
もしかして、他の班の班長に何か用?

サトコ
「い、いえ···とんでもない」

慌てて首を振り、必死に自分に言い聞かせた。

(あの美女はきっと加賀さんの協力者、そうに違いない)

相信じてるから、大丈夫。
でも···

(···それでも、早く確かめたいな···)

サトコ
「あ···そうだ。津軽さん、私、協力者ができたんです」

津軽
へぇ、ようやく?

百瀬
「···物好きな奴がいるもんだな」

サトコ
「百瀬さん、聞こえてますよ···」

津軽
初めての協力者でしょ?それにしてはずいぶんと喜びが少ないね

サトコ
「それは···」

ガタン、と公安課ルームのドアが開き、お昼よりも少し前に加賀さんが入ってくる。

サトコ
「!」

東雲
兵吾さん、おはようございます

加賀
ああ

話しをしたいのになかなかタイミングがなく、ただただ時間だけが過ぎていく。
お昼は済ませて来たのか、来るとすぐ加賀さんは仕事に取り掛かってしまった。

(こうなったら、帰りまで待つ···?先にメッセージ送っておくとか···?)
(ううっ···一体どうすれば···)

それでも必死にいsごとに集中していると、デスクに置いてあるスマホが鳴った。

(加賀さんからメッセージ···!)
(『仕事終わったら車に来い』)
(うれしいな、久しぶりに二人で話せる···)

即座に返事して、大急ぎで仕事を終わらせた。

退勤後、加賀さんの車へ急ぐ。
私を乗せると加賀さんは適当に走り、ひと気のないところで車を停めた。

加賀
で?

サトコ
「え?」

加賀
いいたいことがあるならさっさとしろ

(ば、バレてる···)

サトコ
「あの」
「えっと」

加賀
···

サトコ
「これは疑ってるとかそういうのじゃないことだけは、わかってくださいね···?」

加賀
前振りが長ぇ

(ううっ···!)

サトコ
「···今朝、一緒にいた女の人は···協力者、です、か···?」

加賀
······

尋ねてから、少し後悔した。

(テメェには関係ねぇ、って言われるかも···)

たとえ私が同じ班だったとしても、加賀さんが誰と協力関係を結ぼうが何も言えない。
逆に言えば、私が奥野さんを協力者にしても加賀さんには関係ないことだ。

(だけど···)

膝の上でぎゅっと握る拳が、掌の中で少し汗ばんだ。

加賀
エスだ

サトコ
「え?」

加賀
知りたかったんだろ、あの女との関係

サトコ
「そうですけど···」
「そ、そんなにあっさり教えてくれていいんですか?」

加賀
別に隠す必要もねぇ
テメェにギャンギャン喚かれるほうが面倒だ

サトコ
「うっ···でも私は信じてましたよ!きっとあの人は加賀さんの協力者だって!」

加賀
そのわりに、ずいぶん不安そうだったがな

サトコ
「そっ、それは···だって、すごい美人だったので···」
「でもあんなに儚い感じの人がエスなんて、ちょっと意外です」

加賀
箱入りだからな、那古組の

サトコ
「···ナコグミ?」

加賀
那古絢未。那古組組長のひとり娘だ

サトコ
「······」
「···那古組のお嬢様!?」

(えっ···え!?津軽班で追ってる那古組の娘が、加賀さんの協力者···!?)
(そんな偶然、あるの···!?)

サトコ
「で、でもどうして、あんな早朝から···」

加賀
朝から会ってたわけじゃねぇ。その前の夜からだ

サトコ
「夜から!!!」

加賀
黙れ

サトコ
「すみません···」

加賀
人目につかねぇように夜に待ち合わせして情報引き出してたが
途中であの女がぶっ倒れたから、朝まで病院に付き添ってただけだ

サトコ
「倒れた···?もしかして、病気とか···?」

加賀
元々身体が弱いらしい。いつも咳してやがる

サトコ
「そうだったんですか···だから上着貸してたんですね」

加賀
他には

サトコ
「え···」

加賀
あとは何が聞きたい

サトコ
「あとは···」

頭に浮かんだのは、あの決定的なシーン。

サトコ
「ほっぺにキス!」

加賀
あ?

サトコ
「してたじゃないですか、別れ際···!」

加賀
あ゛あ゛?

サトコ
「ご、誤魔化されませんよ···!だって、だって···」
「私だって、最近全然!」
「ぜんっっっっっっぜん!!!」

加賀
······

サトコ
「ぜんっぜん、加賀さんとキスしてないんですよ!!!」
「なのに!協力者の女の人と!いくらほっぺとはいえ!!!」

加賀
······

サトコ
「ほんのちょ~~~っとですけど、妬いちゃうじゃないですか!」
「ちょっとですけどね!仕事だって分かってますから!」
「でも···か、彼女としては!」

加賀
······
······

( “間” が怖い···)

サトコ
「すみません、完全に私情です···」

加賀
クズ

腕を引き寄せられ、ぶつかるように唇が合わさる。
角度を変えて激しく攻め立てられ、吐息を漏らす余裕すら与えられない。

サトコ
「っ······、加賀、さっ···」

加賀
してぇなら、その時に言え

サトコ
「こっ、今度からはそうします···」

あまりの激しさにぐったりと力が抜け、加賀さんに寄り掛かる。
私の肩に手を添える加賀さんの態度も声音も、いつも通りだ。

加賀
あとは

サトコ
「あと、は···」

(···奥野さんが協力者になったことって、言ってもいいのかな)
(加賀さんも教えてくれたんだから、業務上は言っても大丈夫なはずだけど)

でも加賀さんの新しいエスは、那古組のひとり娘。
津軽班と奥野さんが追っているのも、那古組。無関係ではない。

(だとしたら、まだ言わない方がいい···?)
(内情を探るだけなら、奥野さんに協力してもらえばそう時間はかからないし)

加賀
してぇなら言えって言ってんだろ

サトコ
「あ···」

再び、今度はさっきよりも優しく唇が重なる。

(···今抱えている案件が終わったら、改めて言おう)
(きっと、そのほうがいい)

そう決めて、今は奥野さんの件は黙っていることにした。

那古組の本格的な捜査が始まると、奥野さんと連絡を取り合うことが増えた。

奥野譲弥
「なるほど。なんで公安が那古組の情報を欲しがるのかと思ったら」

サトコ
「まだ確固たるものはないんですけど···やっぱり放っておくわけにもいかなくて」
「でも、奥野さんのお陰で徐々に絞れてきました」

奥野譲弥
「こっちも、公安の情報が手に入るのは助かる」

もちろん、すべての情報を渡しているわけではない。
流しても問題ないと判断したものを、奥野さんが持っている情報と交換している。

サトコ
「情報もそうですけど、奥野さんといるとカモフラージュができていいですね」

奥野譲弥
「ああ、それは言えてるな。ひとりで行動すると逆に目立つことがある」

サトコ
「はい。話しながら歩いていると、こうしてても不自然じゃないですし」

言葉をぼかしたけど、今は絶賛尾行中だ。
奥野さんの情報から割り出した矢野という組員を、付かず離れずの距離で尾ける。

サトコ
「最近急に勢力を伸ばしてきたってことは、裏に別の組織がいる可能性が高いです」
「もしあの男がその仲介役だとしたら、定期的に相手と会ってるはずなんですけど」

奥野譲弥
「ん···?おい、見ろ」

奥野さんの視線を辿ると、矢野が女性と合流したところだった。
遠目から見ても綺麗な人だとわかるけど、どことなく不自然さを感じる。

(なんだろう、にじみ出る怪しさ···?)
(こんなひと気のないところで落ち合うなんて···)

ふたりは肩を組み、そのまま近くのラブホテルへと入って行った。

サトコ
「······!」

奥野譲弥
「······」
「無理に追うこともねぇ。今日はここで···」

サトコ
「いえ···大丈夫です!」

奥野譲弥
「氷川···」

サトコ
「こういうときって、じょ、常時の最中に情報を渡すことが多いんです」
「チャンスですから、追いましょう!」

奥野譲弥
「···ああ」

(これも仕事だし、それに奥野さんとは今は協力関係···)
(お互いへの信頼がなければできない···だから、大丈夫!)

気を引き締め直し、奥野さんとともに矢野を追いかけてラブホテルにチェックインした。

to be continued

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