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俺の駄犬が他の男とキスした話(後) 加賀カレ目線

『信用できねぇ奴と一緒にいる意味、あんのか』

あの言葉をサトコに投げたあと、運悪く仕事が忙しくなり始めた。
本庁に顔を出す時間もなく、忙しくマルタイの動きを追いかけている。

(そろそろ絢未に連絡とって、那古組の動きを探るか)
(向こうの組織も、いい加減デカい動きがある頃だ)

あれから当然、サトコと話をしていない。
アイツの頭が冷えるまでは、少し距離を置くつもりだった。

(嘘ついたって誤魔化したって、どうせすぐボロが出る)
(それならさっさと吐いちまえば、躾一回で済んだものを)

サトコと話していないこと以外は、いつも通り。
ーーーその、つもりだった。

東雲
加賀さん、マルタイ、次の路地を曲がった雑居ビルに入りました

加賀
ああ

東雲
···大丈夫ですか?普段よりも不機嫌2割増しって感じですけど

加賀
······

生意気なガキの言葉にも、反論する気すら起きない。

(あいつ・に嘘をつかせたのは俺だ)
(奥野とあったことが話せないほど俺を信用できねぇのに、そばにいる意味あんのか···)

その問いかけに対するサトコからの答えは、まだない。

アカネ
「か・が・さぁーん!」

鬱陶しいほどの勢いで入ってきたと思ったアカネは、そのまま腰に抱きついた。

加賀
うぜぇ···

アカネ
「加賀さんの生『うぜぇ』···!ぞくぞくするぅ···!」

加賀
······

盛大にため息をついてみせても、アカネは動じる様子もない。
俺に抱きついたまま、サトコに手を振った。

アカネ
「氷川さん、おはよ~。映画ぶり」

サトコ
「あ···は、はい」

加賀
······

(···まさか、ふたりきりで会ってんじゃねぇだろうな)
(こんな奴でも男だってこと、忘れてんじゃねぇぞ)

一瞬目が合ったが、サトコの方から勢いよくそらされた。

(···さっさと答え出せよ、クズが)
(テメェは俺だけの駄犬だってこと、さっさと思い出しやがれ)

エレンの身柄を確保し矢野を那古組に引き渡した数日後。
俺と絢未、サトコと奥野の協力関係は切れることなく、仕事上ではつながったままだった。

サトコ
「でも奥野さん、最近なんだかよそよそしいんです」
「仕事に関する情報はもらえるし、私も必要なものは渡してるんですけど」

<選択してください>

二度と会うな

加賀
あいつとは二度と会うなよ

サトコ
「えっ···ようやく見つけた協力者を、早々に手離せと···?」

加賀
プライベートで、って話だ

サトコ
「あ、なるほど···」

隙見せるなよ

加賀
もう、あいつに隙見せるなよ

サトコ
「···加賀さんがすっっっごくかわいがってくれたら、絶対見せません」

加賀
あ?いつも声が枯れるほどかわいがってやってるだろうが

サトコ
「かわいがるの意味が違う···!」

そのくらいでちょうどいい

加賀
協力者との距離なんざ、そのくらいでちょうどいいだろ

サトコ
「···でも加賀さんは、那古さんにほっぺにちゅーとかされてるじゃないですか」

(···根に持ってんな)

加賀
テメェはすぐ公私混同する。一緒にすんな

デコピンしてやると、痛がりながらもサトコは嬉しそうだ。

(···マゾが)

サトコ
「うーん、でもわからない···なんで急によそよそしくなったんだろう」
「私、何かしちゃったんですかね」

加賀
他の男の相談を俺にしてくるとは、いい度胸だな

サトコ
「そ、そういう意味じゃ···!」
「でも本当に難しいですね、協力者との距離の取り方って」

加賀
自力で学べ

もちろん仕事に関係することは言わないが、それ以外のことはこうして隠すことがなくなった。
それがいつまで続くものかは知らねぇが。
一応駄犬なりに、俺に誠意を見せようとしているらしい。

(今さら、サトコを疑ったりはしてねぇが)
(よそよそしいか···アレが効いたな)

『三度目はない』---それは、奥野への言葉だ。
他の男に抱かれる声を聞けば、もうちょっかいを掛けようという気にはならないだろう。

テレビ
『···で、那古組のひとり娘である絢未さんを誘拐した容疑で逮捕された自称 “エレン” 』
『実はこの女性、なんと全身に整形を施していることが判明しました』

サトコ
「あ、加賀さん!エレンですよ!』

加賀
喚かなくても見えてる

サトコ
「···全身整形だったんですね」

確かに、テレビに映し出されているエレンの昔の写真は完全に別人だ。

加賀
あの世界では、こうでもしなきゃ生きていけねぇってことだろ

サトコ
「整形かぁ···たとえば捜査対象がしてたら、追跡って可能ですかね」

加賀
その程度にもよるだろ。実際、整形を繰り返して逃げおおせた例はある
喉潰せは声は変えられる。指を焼けば指紋も変わる。そうなれば追えなくなる

サトコ
「確かに···凶悪犯ならそこまでしてでも逃げるでしょうね」
「···加賀さんも、私が整形したらきっと誰なのか分からないんだろうな」

加賀
わかる

サトコ
「え?」

加賀
わかるっつってんだろ

ぽかんとバカみてぇに口を開けていたサトコが、ようやく我に返った。

サトコ
「そうか···!さすがです、加賀さんの “刑事の勘” !」

加賀
······

的外れなことを言って感動しているサトコは無視して、テレビに意識を戻す。
さっきのワイドショー番組は終わり、そのあとは薔薇園の特集が始まった。

サトコ
「あっ、私、この前ここ行きましたよ」

加賀
こんなところに、ひとりでか

サトコ
「···あっ」

(···あいつとか)

キョドキョドと視線を彷徨わせた後、サトコは意を決したようにこちらを見た。

サトコ
「す、すみません!奥野さんとっ···」

口にしかけた言い訳を、キスで塞ぐ。
唇を離すと、サトコがへらっと笑った。

サトコ
「へへへへへ···」

加賀
気色悪ぃ

サトコ
「我慢してください」

加賀
無理だろ

サトコ
「ふふふふふ···」

加賀
······

もう、嘘はつかない。
そう思っているからこそ、あいつと行ったことを話そうとしたのだろう。

(だが···もうどっちでもいい)
(お前が嘘つこうが誤魔化そうが、俺が信じてりゃいいんだろ)

顔が変わろうが声が変わろうが、着ているものが変わろうが。好きな女ならすぐに気づく。

(男ってのは···そういうもんだ)

Happy End

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