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本編① 津軽12話

朝、津軽さんの部屋で目覚め、朝食をとったーーそのことには現実味がない。
けれど、ある部分だけはやけにリアルに記憶に残っていた。

(津軽さんの部屋に積まれてた郵便物···)
(見えたのは一部だったけど、差出人の名前は『未央』。名前的に女性だよね)
(消印の日付は···バラバラだった)

サトコ
「······」

(何通も来てたのに全部開封されてなかった)
(それでも送り続けてるってことは、何か大事な要件が···?)
(津軽さんは、どうして無視してるんだろう)

<選択してください>

津軽に聞いてみる

(津軽さんに直接聞いてみるとか?)
(さりげなく聞けば···)

サトコ
「···いや、やめておこう」

(津軽さん相手に探りを入れるのは危険すぎる)

忘れる

サトコ
「······」

(うーん···いくら考えたってわかるわけもない)
(こういう時は忘れるのが1番!)

かつての教官に聞いてみる

(教官たちに相談してみる?何かわかるかも···)

サトコ
「···いや、ダメだ」

(私はもう訓練生じゃないんだから、安易には頼れない)

(それに、そもそも私には関係ないことだよね)
(こうして詮索するのは職業病···よくない、よくない)
(それより、どうやって借りたTシャツを返すか考えないと)

職場に持ってきた日には百瀬さんに抹殺される可能性があるし、また家に行くのは躊躇われる。

(ポストに入れておくか···)

木下莉子
「サトコちゃん、いたいた」

サトコ
「莉子さん」

曲がり角で鉢合わせたのは莉子さんだった。

木下莉子
「探してたのよ。一緒に来て」

サトコ
「何かあったんですか?」

木下莉子
「ええ、ちょっとね···」

莉子さんは私の手を引いて歩き始める。

木下莉子
「あなたが連れて来た “証拠” ···あの子、ずっとだんまりなのよ。保護してから」

サトコ
「え···大丈夫なんですか?」

木下莉子
「体調は問題なくて騒いだりといった症状もなく、落ち着いていると言えば落ち着いてるんだけど」
「全然喋らないから、取り調べが進まないのよ」

サトコ
「そうなんですか···」

(いきなり知らない場所に連れて来られて不安なんだよね。きっと)

例え彼女が人為的に造られた子だとしても。
心はきっと···普通の子どもと変わらないーーそう思いたい。

木下莉子
「その子がさっき、一言だけ口を開いたの」
「『おねえちゃんに会いたい』って」

サトコ
「姉がいるんですか?」

木下莉子
「何言ってるの。あなたのことよ」

サトコ
「私!?」

木下莉子
「『一緒に来たおねえちゃんがいなきゃイヤ』だそうよ」

サトコ
「なぜ、私なんでしょうか···?」

木下莉子
「わからないけど、そういうわけだから一緒に来てくれる?」

サトコ
「はい!」

とにかく頷くと、私は莉子さんの後ろを急いでついて行った。

美少女
「おねえちゃん!」

サトコ
「大丈夫?元気?」

美少女
「あんまり元気じゃない···でも、おねえちゃんが来たから大丈夫」

サトコ
「ほんとに?私となら、お話してくれる?」

美少女
「うん」

彼女は私の腰に腕を回して、ぎゅっとしがみついてくる。

公安員A
「じゃあ、これで話してくれるね?」

美少女
「おねえちゃんになら話す」

木下莉子
「こうなったら、彼女に取り調べさせるしかないわね」

公安員A
「この新人にですか!?」

木下莉子
「あなた、取り調べできるの?」

公安員A
「それは···」

木下莉子
「決まりね。サトコちゃん」

莉子さんんが近付いてきて、私の耳元に唇を寄せる。

木下莉子
「五ノ井博士のことや、研究室のことを聞いて」

サトコ
「わかりました」

私は腰にくっついている女の子の髪を撫で、椅子に座らせた。

サトコ
「おねえちゃんに、いくつか教えて欲しいことがあるんだけど、いいかな」

美少女
「うん」

サトコ
「じゃあ、まず···名前は?」

美少女
「···ノア」

サトコ
「ノアちゃんね。ねえ、ノアちゃんは私と会った建物で暮らしてたの?」

ノア
「うん」

サトコ
「この人は見たことある?」

五ノ井博士の写真をノアに見せる。

ノア
「五ノ井博士」

サトコ
「五ノ井博士は、どんな人?」

ノア
「優しいよ。お勉強とか教えてくれるの」

サトコ
「そう。じゃあ、こっちの人は知ってる?」

今度はALILAND社長、有島秀哉の写真を見せる。

ノア
「たまに来るおじさん。その人はコワイからキライ」

サトコ
「そう···怖い人は嫌だよね」

(五ノ井博士は優しくて、有島秀哉は怖い人···か)

サトコ
「他の子も同じふうに思ってるの?」

ノア
「たぶん」

サトコ
「あそこには何人くらいの子がいるかわかる?」

ノア
「···わかんない。いなくなったり、増えたりするから」

サトコ
「そっか。あの時のこと···玩具売り場で会った時のこと覚えてる?」

ノア
「うん、覚えてる」

サトコ
「あのとき一緒にいたのは、お母さん?」

ノア
「ううん、先生」

サトコ
「先生?」

ノア
「時々お外に行く練習で、出かけられるの。その時についてきてくれる人」

サトコ
「そうだったんだ···」

(つまり、外に出る時の監視役ってところか)

ノア
「ねえ、おなか空いてきた」

サトコ
「もうすぐ6時···そうだよね。お腹空くよね」
「莉子さん、今日はこの辺で···」

木下莉子
「そうね。これくらいにしておきましょう」

サトコ
「ノアちゃん、ありがとう。ご飯食べてきて」

ノア
「おねえちゃんと一緒がいい」

サトコ
「え?」

ノア
「全部、おねえちゃんと一緒じゃなきゃ、いや」

サトコ
「そう言われても···」

助けを求めるように莉子さんを見ると、軽く肩を竦められた。

木下莉子
「しばらく、彼女に預けるしかないんじゃない?」

公安員A
「いや、それは···!」

サトコ
「預けられても!」

ノア
「···おねえちゃん」

サトコ
「う···」

抱きつかれたまま大きな瞳で訴えかけるように見上げられれば、首を横に振れなくなる。

木下莉子
「この子、大事なのよね?VIPは丁重に扱わないと」

公安員A
「···わかりました。氷川、君に預ける。ただし、なるべく早く戻るように促せ」

サトコ
「は、はい。じゃあ、ノアちゃんは···」

木下莉子
「さあ、ノアちゃん。おねえちゃんのお家でお泊りだよ~」

ノア
「やったあ!」

(やっぱり、私の家に連れて帰るんですね···)

ノア
「温かいプールに行くの?」

サトコ
「プールじゃなくて、銭湯だよ。大きなお風呂に入るの」

ノア
「ふーん···ねえ、あそこで光ってるのは、なあに?」

サトコ
「自動販売機···知らない?」

ノア
「知らない」

サトコ
「お金を入れるとジュースが出てくるんだよ。帰りに買ってみようか?」

ノア
「うん!」

部屋のお風呂はまだ壊れていて、ノアを連れて先頭に向かっていると。

津軽
ウサちゃんにミニキノコちゃん

サトコ
「津軽さん!」

ノア
「ミニキノコ?」

前方から歩いてきた津軽さんと偶然会う。

(マンションが同じなんだから、この辺で会っても不思議じゃないか)

津軽
こんな時間にどこ行くの?

サトコ
「銭湯です。私の部屋のお風呂、まだ直ってなくて」

津軽
銭湯か。じゃあ、俺も行こうかな

サトコ
「え」

私の答えを待つまでもなく、津軽さんが隣に並んだ。

to be continued

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