カテゴリー

本編① 津軽13話

ノアと銭湯に行く途中で津軽さんが合流し、一緒に行くことになった。

サトコ
「じゃあ、私たちはこっちで···」

ノアの手を引いて女湯に行こうとすると、津軽さんがノアの手を掴んだ。

津軽
お前はこっち

サトコ
「え?」

ノア
「ちぇ」

サトコ
「ま、待ってください!いくら子供でも、こんな可愛い子を···」

津軽
そう、どんなに可愛くても男。女湯はダメ

サトコ
「男?···男!?」

ノア
「······」

ノアから否定の言葉はない。

サトコ
「男の子だったの!?」

ノア
「女って言ってないよ」

サトコ
「それはそうだけど」

津軽
行くよ

(ノアが男の子···美少女じゃなくて、美少年!?)

銭湯帰り、私たちはノアを真ん中に3人で手を繋いで歩いていた。

津軽
俺がいてよかったでしょ

サトコ
「はい···だから、ついてきてくれたんですね」

津軽
風呂まだだったしね

ノア
「銭湯、気持ちよかったー」

ノアは私たちの手を引っ張って、ぴょんぴょん飛び跳ねている。

ノア
「パパとママ」

津軽
えー

<選択してください>

私だって嬉しくないです

サトコ
「···私だって全然嬉しくないですよ」

津軽
まあ、俺みたいな男と結婚できるなんて夢物語すぎて想像もできないよね

(津軽さんと結婚できるのは、百瀬さんか宇宙人くらいだよ)

不満そうですね?

サトコ
「不満そうですね?」

津軽
だって俺とウサちゃんだよ?まさに月とスッポン

サトコ
「ウサギの方が、月、似合いますよ」

津軽
だから俺が精一杯照らしてあげるよ

(く···あくまで月のポジションは譲らないつもり!)

そんなに喜ばないでください

サトコ
「そんなに喜ばないでください」

津軽
ウサちゃんの耳って節穴だよね

サトコ
「それ、津軽さんに言われたくないです」

(全然、人の話聞かないくせに···)

ノア
「ねー、ジャンプ、ジャンプ!」

サトコ
「いいよ、ほら!」

腕をぐっと引っ張り上げると、ノアの半身が浮く。

ノア
「パパ、ちゃんとして!」

津軽
お前、こんなの囚われた宇宙人だからね

ノア
「なにそれー」

津軽さんは苦笑しながら、ノアの腕を引っ張った。

ノア
「手、強く握り過ぎ!」

津軽
強くしないと落っこちるだろ

ノア
「ママはもっと優しくしてくれてる」

津軽
男は力が強いんだよ

(津軽さん、いつもと口調が違うような···?)

いつもはフワリとノラリクラリしているのに、今は何だか普通の男の人っぽい。

(男の子相手に話してるから?)
(それとも···子どもが苦手とか?)

ノア
「あ!」
「ねー、じはんき!」

津軽
自販機?

サトコ
「そうそう、帰りに自販機でジュース買ってあげるって約束だったね」

津軽
「そういうの甘やかしじゃない?」

ノア
「あまいの好き」

津軽
ろくな大人にならないな

サトコ
「津軽さん、子どもにはもっと優しくしてください」

津軽
いつもの100万倍優しいでしょ

ノア
「パパってヘンな人」

サトコ
「ねー」

津軽
俺、イジメられてかわいそー

ジャンプさせて空中散歩させたり、自販機でジュース買ったり。

ノア
「ね、アタリってピカピカしてる!」

サトコ
「当たったら、もう1本もらえるんだよ!やったね!」

津軽
ありがとね

ノア
「これはママにあげるの」

津軽
ケチ

ノア
「ケチって言った方がケチなんだよ」

(ノア、津軽さんにも負けてない!この組み合わせ、面白いな)

津軽さんとノアーー不思議な取り合わせが生み出す時間は微笑ましくて。

(私···津軽さんと一緒でも自然に笑えるようになったんだ)

前に進めた証な気がして、嬉しかった。

翌日は出勤前にノアを一旦施設に預け、登庁した。
午前中はUSBに入っていたデータについて調べを進め、やっと迎えた昼休み。

(わからない専門用語だらけで、頭が疲れた···栄養補給が必要···)

警察庁近くの定食屋に入ると。

津軽
ウサちゃん

百瀬
「······」

サトコ
「津軽さん、百瀬さん」

2人がすでに先客でいた。

津軽
ここ空いてるよ

津軽さんが自分の向かいの席を箸で指す。

百瀬
「······」

(百瀬さんの顔には『来るな』って書いてある···)

津軽
モモ、俺のトンカツの残りあげるから

百瀬
「!···いただきます」

自分の皿を空にしていた百瀬さんが津軽さんのトンカツにかぶりつく。
その隙に私は津軽さんの前の席に着いた。

津軽
ウサちゃんもトンカツにしなよ。元気出るよ

サトコ
「じゃあ、トンカツ定食ひとつ!」

津軽
キャベツもいっぱいお食べ。ウサちゃん

サトコ
「それ、百瀬さんにも言った方がいいですよ」

(見事にキャベツだけ残してるし)

津軽
モモは肉食だから

私のもとにトンカツ定食が運ばれてくると、私の皿からも百瀬さんは肉を奪っていく。

サトコ
「あ!」

(まあ、ひと切れくらいいいか···)

サトコ
「そういえば、津軽さんはどうしてノアが男の子だって分かったんですか?」

津軽
むしろどうしてウサちゃんは女の子だって思ったの?

サトコ
「それは···あれだけ可愛い顔してたら···」

百瀬
「男か女かなんて匂いで分かんだろ」

サトコ
「え、百瀬さん、犬?」

百瀬
「······」

サトコ
「あ!ちょっと!私のトンカツそんなに取らないで!」

(2切れしか残ってない!)
(このトンカツ定食1800円もしたのに!)

津軽
人は表にあるものだけじゃ判断できないからね

サトコ
「表にあるもの···」

津軽さんのその一言が重く胸に落ちてくる。

(五ノ井博士の食生活を調べた時も、私は表面的なことしか気付けなくて)
(ノアのこともそうだよね。先入観で見なければ、男の子だって分かったはず)
(もっと物事の本質を見られるようにならなくちゃ)

サトコ
「···これからは気を付けます」

津軽
いいの?

サトコ
「え?」

津軽
トンカツ、全滅

サトコ
「!」
「百瀬さん!?私はキャベツ定食を食べに来たんじゃないですよ!?」

百瀬
「隙を見せたお前が悪い」

津軽
うん、ウサちゃんが悪い

サトコ
「えぇ!?」

百瀬さんが残したキャベツも追加された山盛りキャベツ定食を前に固まっていると。

???
「どけ」

???
「座るぞ」

サトコ
「え?」

私の両サイドに男性が2人ドカッと腰を下ろした。

to be continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする