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本編① 津軽17話

五ノ井慧悟
「······」

津軽
······

サトコ
「五ノ井博士!?」

五ノ井博士のラボに突入すると、博士は血まみれでイスに縛られていた。
そしてーー

有島秀哉
「ちっ、邪魔が入ったか」

サトコ
「有島···」

博士の傍らに立っているのはALILANDの社長、有島秀哉。
有島の手には拳銃があり、その手には血がついていた。

(有島が博士を?仲間割れ?博士は···)

うなだれている博士の生死はわからない。

有島秀哉
「あと少しだったのに。まぁ、いいか···」

有島の声は抑揚がなく、表情の動きもほとんどない。

サトコ
「津軽さん、有島は···」

津軽
犯行時の特殊な精神状態にある。刺激はするな

サトコ
「はい。私が前に出ます」

銃を持ってる有島に、津軽さんの前に立とうとすると。

津軽
後ろに下がって。有島が次に動いたら、振り返らず防火シャッターまで走れ

津軽さんは有島を注視したまま、私に指示を出した。

(でも、五ノ井博士の確保は?任務の目的が果たせなくなる···)

<選択してください>

何も言わずに承諾する

(指示の意図は読めないけど、津軽さんは班長であり、この任務のバディ)
(信頼するしかない)

サトコ
「分かりました」

津軽

五ノ井博士のことを聞く

サトコ
「五ノ井博士の確保は?」

津軽
できるようなら、俺がする。とにかく指示に従え

サトコ
「···はい」

(この任務のバディは津軽さん。信頼するしかない!)

有島の確保を提案する

サトコ
「五ノ井博士の安否が気になります。有島の確保を最優先にしては?」

津軽
次、有島が動いたらシャッターまで走れ

繰り返される言葉。

(決定権は津軽さんにある。それにこの任務のバディは津軽さん···)
(指示に従うしかない!)

サトコ
「わかりました」

有島秀哉
「はぁ···面倒なことになったな。一度で済ませるか」

(一度で?何をする気?)

有島が防護マスクを取り出した。
そして有島が視線を送ったのは壁にある非常ボタン。

サトコ
「撃ちますか!?」

津軽
ダメだ、ここは危険物が多すぎる

銃にかけた手を戻した、次の瞬間。
ガシャン!と非常ボタンを覆うケースを壊すと、有島はボタンを押した。

津軽
走れ!

津軽さんの声と同時に部屋に流れ込むガス。
部屋から飛び出しながら、鼻がツンとする。

(催涙ガス!)

有島秀哉
「待て!」

追いかけてきた有島が発砲する。

サトコ
「応戦しますか!?」

津軽
逃げる方が優先。有島の腕じゃ命中しない

津軽さんの言う通り、銃弾は的外れな当たり方で弾けた音だけが響く。

サトコ
「シャッターが閉まりかけてる!」

津軽
だから走ってる

(全力で走ってるけど···間に合う!?)

サトコ
「はっ···!」

津軽
······

防火シャッターまで、あと数メートル。
シャッターは私の腰くらいまで降りてきている。

(間に合わない!)

あと数歩、シャッターが閉まり切るのも、あと少しーーという時。

津軽
行け!

サトコ
「!?」

津軽さんの声と同時に背中に強い衝撃を感じた。
シャッターの外に蹴り出された身体。

サトコ
「···っ!」

冷たい床に頬と肩が叩きつけられる。
痛みを覚えるよりも。

サトコ
「津軽さん!?」

身体を起こして振り返る。
見えたのは数十センチのシャッターの隙間と津軽さんの足。

サトコ
「津軽さん!」

津軽
行け!

サトコ
「できません!」

有島秀哉
「逃がすかぁ!」

津軽さんに迫る有島の靴。

サトコ
「津軽さん、津軽さん!」

(シャッターを止めるボタンはないの!?)

ガシャンと無情に閉まるシャッター。
向こう側の音が遮断される。

サトコ
「津軽さん!!な、な···っ!」

何やってんですか!という叫びは声にならなかった。
詰まるような呼吸をしながら、ひたすらにシャッターを叩く。

(津軽さん!)

両手が痺れ感覚がなくなり、私は床に膝をついた。

(どうしよう、どうしよう···津軽さんが取り残された)
(銃も持ってないのに、有島と!催涙ガスも流れてるのに!)

サトコ
「···っ、落ち着け!」

激しく取り乱しそうな自分を戒めるために一喝する。

(考えろ、考えるんだ!)
(非常事態の対応だって山ほど学校で習ったはず!)

縋るようにかつての教官たちの姿を思い浮かべる。

石神
正しい判断を下せるのは、健全な精神状態の時のみだ

加賀
突破できねぇ局面なんかねぇ。心が折れた時が負けだ

後藤
相棒とは一心同体、絶対見捨てるな

(諦めない、見捨てない!これが冷静に出した結論!)
(絶対に津軽さんと帰るんだ!)

奥歯を噛んだ立ち上がる。
シャッターに耳をあててみるも、向こう側の音は一切聞こえない。

サトコ
「救助申請を出す?それよりもシャッターの向こうに今すぐ戻る方法を考える?」

(案は出るけど、決められない···ああ、もう私は···!)

これが経験不足と未熟さなのだと知る。

サトコ
「······」

颯馬
信じること。それが道を拓く時もある

(信じる、津軽さんを信じる···津軽さんは私だけでもと思って、こっちに逃がした?)
(いや、でも津軽さんだし···自力で生き残る自信があるのかもしれない)

サトコ
「救援を出して、ここで待機するのがベストか···」

守りに入った選択なのはわかってる。

(津軽さん···)

答えを教えて欲しいと思うのは間違ってる。
今こそ、決断の時ーー

ノア
「死ぬ時はキレイなお花畑がいいなー。おじさんは?」

津軽
お兄さんはねー、殺されちゃうからな~

サトコ
「殺され···ちゃう···」

(あの時の津軽さんは、どんな顔をしてた?)

縁日の灯りにぼんやりと照らされた、彼はーー

to be continued

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