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本編③(後編) 津軽2話



百瀬さんの車で被害者の子どもが搬送された病院へと向かった。
所轄の刑事には正直歓迎されていなかったが、百瀬さんの威嚇と共に病室に入ると。

男の子
「······」

サトコ
「!」
「あ···」

百瀬
「知ってんのか」

サトコ
「はい」

答える声が少し喉に張り付いた。

(この子はノアと初めて遊園地に行ったとき···)

男の子
「うわああぁぁん!」

母親
「うるさい!泣くんじゃないの!勝手にどっか行ったあんたが悪いでしょ!」

父親
「······」

(あの時、泣いてた子···)
(この子のご両親が···)

被害者の顔が目に浮かべば、さらに心は重苦しくなった。

刑事
「何か覚えてることはないかな?」

男の子
「······」

男の子は唇を引き結んでただ首を振り続けている。

(今この子から話を聞くのは無理だろうな)

百瀬
「······」

百瀬さんがあごで廊下で出るように指示を出した。

廊下に出て、あの子と会ったいきさつを説明する。

百瀬
「やっぱり新玉の野郎か」

サトコ
「はい」

(新玉の犯行だとしても、今回も物証が出てない···)

サトコ
「新玉は監視していたんですよね?犯行時刻のアリバイは?」

百瀬
「仕事からアパートに帰宅後、外出したという報告はないが」
「家にいたという証拠もない」
「現場の周囲の目撃情報は確認中だ」

サトコ
「そうですか···」

(有効な情報が得られたとして、確たる証拠にはならない)
(欲しいのは物証···新玉と接触していた時に、何か···)
(何か···)

サトコ
「あ!」

百瀬
「何かあんのか」

<選択してください>

遊園地で撮った写真

サトコ
「遊園地で撮った写真···そこに新玉の動きが写ってる可能性も···」

百瀬
「現場は遊園地じゃねぇんだ」

サトコ
「そうですが、ターゲットになる家族を品定めしてたなら···」

(あ、そうだ!あの家族が···あの子が飴をもらってた!)

サトコ
「新玉が子供に飴をあげてて···私もそれをノアから貰ったんです!」

ノアの飴

サトコ
「飴!新玉があの子に飴をあげてて、ノアには最初にくれなかったんです」
「でもノアが欲しいって言ったら、くれて···」

百瀬
「飴をやる相手を選んでたってことか?」

サトコ
「泣いてる子だけにって言ってました」
「私、ノアから貰ったんです!」

迷子センターの監視カメラ

サトコ
「迷子センターの監視カメラを調べるのは?」

百瀬
「調べてねぇと思ってんのか。何も出てねぇ」
「あいつは時々迷子の相手をしてただけだ」

(新玉が迷子の相手をしてる時···)

その時の光景を必死に思い出す。

(そうだ、あの子は飴をもらって···!)

サトコ
「新玉が子どもに飴をあげてて···それ、ノアから貰ったんです!」

(このバッグの中に入れてたはず···)
(あの飴の成分を調べれば、何か出るかも!)

サトコ
「あれ···ない、ない···!」

百瀬
「ったく、役立たずが!」

百瀬さんが私のお尻を蹴飛ばそうとした、その時。

津軽
何か出た?

サトコ
「被害者は私たちが迷子センターで出会った一家でした」

百瀬
「まだ聴取に応じられる段階ではありません」

サトコ
「あの日、新玉がノアにあげた飴があったはずなんですが」
「それが見つからなくて···」

津軽
新玉が配っていた飴に何かあるなら、他でも回収できる
現場周辺の聞き込みと調査、新玉の監視を強化する

百瀬
「はい」

津軽
それから、氷川

サトコ
「はい」

津軽
囮捜査は解消された。あの家の荷物は君の家に戻してあるから

サトコ
「え···」

(一方的に···)

サトコ
「ここで捜査を中断するんですか?」
「新玉を追い詰めるなら、まだ私たちでできることが···」
「証拠だって···」

津軽
次の捜査で出るかもしれないしね
無駄なことを続けても時間の無駄
ノアも十分役目を果たしてくれた

サトコ
「次の捜査でも証拠が出なかったら、どうするんですか?」
「もう少し現状維持で様子を見た方が···」

津軽
俺たちが本当に引っ張るべきは新玉じゃない
あいつに固執すれば、本来の目的を見失う

サトコ
「ですが、そこにつながるのが新玉だったんじゃ···!」

津軽
黙れ

サトコ
「!」

見下ろされ、凍ったような視線に貫かれた。
銀さんを彷彿とさせる圧力。

津軽
お前は俺に従えばいい
従えないなら、マスコットに戻りな

サトコ
「······すみません」

私に選択肢はない。
夢のような暮らしは、夢のように消えていくーー



久しぶりに自分の家に戻る。
終電直前の電車に揺られている。

(疲れた···しっかり寝て、仕切り直さないと···)

サラリーマンA
「なぁ、知ってるか?また一家惨殺事件が起こったって」

サラリーマンB
「ああ。これで3件目だっけ?警察は何やってんだか···」

(懸命に捜査は続けてるんですが···)

人々が安全に暮らせるために、私たち警察官がいるのに。
事件解決には新玉を追い込むことが1番の近道だと思うのに。

(どうして、このタイミングで?)
(次こそ私たちが狙われる可能性だってあるのに···)

サラリーマンA
「一家惨殺事件といえばさ、俺らが子どもの頃もあったよな」

サラリーマンB
「ああ、兄一家を殺したっていう···犯人は男?捕まったんだよな」

サラリーマンA
「女じゃなかったか?」

サラリーマンB
「バカ、男だよ」
「読み方がミオってだけで」

(······え?)
(読み方がミオの···男···)

引き出される記憶は津軽さんの部屋で見つけた手紙と、後藤さんから聞いた話。

後藤
···それはおそらく、“みお” ではなく “ひでひろ” だ

サトコ
「え?未央を “ひでひろ” って読むんですか?」

後藤
普通は読めないよな。俺も初めては読めなかった
読めたのは···その人が津軽さんの叔父、津軽未央だったからだ

(後藤さんは津軽未央さんが、ある事件に関わってると···それだけ教えてくれた)

津軽さんが両親を亡くしていると言った声が蘇って。
···まさか。
うるさかったはずの電車の音が急に遠くなる。
頭が殴られたように、グワンと揺れた。



翌日の帰り、警察庁近くのコンビニに寄ると。

難波
だからな、違うんだって···
すぐに財布とってくるから

店員
「この辺りのコンビニで最近万引きの常習犯が出てるんです!」
「犯人もヒゲのうだつの上がらない男だって···」

難波
俺じゃねぇって!

サトコ
「私がお支払いします」

難波
ひよっこ!

店員
「え···いいんですか?この人···」

サトコ
「私の上司なので」

タバコと缶コーヒー、それからタブレットミントと電子マネーで払った。

難波
いや~、お前は恩人だ。うっかり財布忘れちゃってな~

サトコ
「次は気を付けてくださいね。でも、久しぶりにお会いできて嬉しいです」

難波
元気にやってるか?

サトコ
「ええ、まぁ···」

難波
この恩は忘れねぇ。1コ何でも言うこと聞いてやるから、覚えとけよ

サトコ
「あ···」

難波
あるんだろ

サトコ
「···もしかして、気付いてました?」

難波
目がな、助けてください~って言ってたぞ
仮にでもお前の上司だからな

サトコ
「す、すみません···」

難波
いいんだよ、使えるもんは使えば

やっぱり、この人には敵わない。
お願いがあって下心で近づいたのを見透かされた上に、私が言えるように誘導までされた。

サトコ
「···お願い、今すぐでもいいですか?」

難波
ん?

(昨日の夜から調べ続けたけど、分からなかったこと···)

難波
構わねぇよ

サトコ
「お願いします!」

難波さんと共に、私は警察庁に引き返した。

to be continued



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