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東雲 出逢い編 シークレット1

Episode3.5
「合コンNightフィーバー」

【寮 談話室】

ひったくり犯を調査しようと決めた私たち。
「まずは情報が必要」ということから···

鳴子
「所轄の人たちと楽しく合コンとか?」

サトコ
「そっか···なるほど」

鳴子
「なるほどじゃないよ。あんたも参加するんだよ、サトコ」

サトコ
「えっ、私も?」

鳴子
「当たり前じゃない。『ハニートラップ』の実践編だと思えばいいでしょ」
「じゃあ、セッティングしておくから」

【居酒屋】

白井
「どう思う?ひどいだろ?」
「こっちは駐禁のきっぷ切っただけだぜ?」
「それなのに嫌がらせの電話が毎日かかってくるんだぞ」

サトコ
「はぁ···」

白井
「県知事だか副知事だか知らねーけど、何様だって話だよな?」

サトコ
「そ、そうですよね···」

(合コンに参加してみたものの···どうしてこの人の仕事の愚痴を聞くハメに···)
(しかもこの人、交通課だったよね···)
(つまりは、ひったくりのことは何も知らないってことで···)
(困った···なんとかして盗犯係の人と話さないと···)

白井
「聞いてる、氷川さん!?」

サトコ
「は、はいっ···」

白井
「でもさー、俺気付いちゃったんだよね」
「あの政治家···」
「絶っっ対ヅラだよ、ヅラ!白髪混じってたけど、ヅラだね、アレは!」

サトコ
「は、はぁ···」

曖昧に返事しつつも、私はそれとなく周囲を見回す。

(今日の合コンの参加者のうち、盗犯係なのは赤橋さんと水沢さんだったよね)
(赤橋さんには鳴子が話しかけてるからいいとして···)
(水沢さんは鳴子の友だちと話してる···あそこをどうにかしないと···)

白井
「ねぇ、聞いてる、氷川さん!」

サトコ
「は、はいっ!白髪のカツラですよね!」

白井
「そう、それ!白髪!白髪っていえば···」
「俺、最近白髪が増えてきちゃってさー···」

(どうやて水沢さんに近づこう···)
(こういうとき、ハニートラップ的なやり方としては···)

サトコ
「······」

(あれ···そういえば私、『ハニートラップ』なんて習ってないよね?)
(鳴子は『実践編』なんて言ってたけど、よくよく考えたら基礎すら習ってないじゃない!)

白井
「それでさー、初めて髪を染めてみたんだけどさー」

(ああ、もう···こういうときってどうすればいいわけ?)
(強引に水沢さんたちのところに割り込めばいいの?)
(でも、ひんしゅく買ったらかえって話を聞き出せなくなる気が···)

ぐるぐると自問自答していたその時。

???
「どうもー!今日はお集まりいただきありがとうございます」

(あれ···この声、どこかで聞いたことが···)

何気なく振り返った私は、危うく悲鳴を上げそうになる。

黒澤
まずはオレから自己紹介を
幹事の黒澤です!好きな犬のタイプはフレンチブルドッグでーす

(あの人、黒澤さんだよね!?たまに教官室で見かける···)

黒澤
続きましては、最近できたオレの犬トモの···


「国府田慧です」
「勇敢な警備犬もいいけど、きゃんきゃんうるさい小型犬も可愛いよね」
「今日はよろしく」

(この流れ···まさか向こうも合コンなんじゃ···)

瑞貴
「はじめまして、藤咲です」
「家ではリスと鳩を飼ってますが、犬ももちろん大好きです」

(あ、あ···あの人、元アイドルの藤咲瑞貴!!)
(わ、私、一時期ファンだった···っ!)

東雲
東雲です。オレに従順なコならどんな子でも可愛いかな
どうぞよろしく

(ぎゃーっ!)

黒澤
というわけで犬好き4人組でした
じゃあ次は···

(マズい···まさか東雲教官までいるなんて)
(この合コンの本当の目的がバレたらどうなるか···)

白井
「聞いてるー?氷川さん、聞いてる?」
「それで俺、白髪が···」

サトコ
「すみません、ちょっとトイレ···っ!」

ひとまず、私は猛ダッシュでその場から逃げ出した。

【トイレ】

ドアを閉めて、まずは大きく深呼吸をする。

(落ち着け···落ち着こう、私)
(今回の合コンがバレるのは絶対にマズいよね)

特に、相手がA署の人たちだって知られるのは避けたい。
そこから、ひったくり犯調査のことがバレるかもしれないからだ。

(でも、今のところ東雲教官も黒澤さんも私に気付いてなかったよね)
(ということは、この後も背中を向けて座っていれば大丈夫なはず···)

サトコ
「···よし!」

気合を入れ直した私は、勢いよく女子トイレのドアを開け···

サトコ
「!!」

東雲
あれ、偶然だね。キミも飲み会?

(ど、どうしてー!?)

東雲
···ああ、ごめん、合コンか
だから柄にもなくメイクが濃いんだ
目の下についちゃってるよ、マスカラ

(う···っ)

東雲
で、誰狙いなの?
よく話してたのは、あのちょっと白髪が多めの···

(気づかれてるどころか、見られてた!?)

サトコ
「ししし失礼します···っ!」

(バレた···思いきりバレてた!)
(マズい···せめて合コン相手だけでもバレないようにしないと!)

冷や汗をかきながら、私は再び席に戻ってくる。

(あ、水沢さんの隣が空いてる!チャンス···っ!)

幸い白井さんは他の人と話をし始めている。
ここぞとばかりに、私はジョッキを持って水沢さんの隣に座った。

サトコ
「どうも!ビール注ぎましょうか?」

水沢
「ああ···今日はもういいかなと思って。明日早いからさ」

サトコ
「!」

(『明日は早い』···これはなにかあるかも!)

サトコ
「水沢さんって盗犯係でしたよね?」
「そうだけど···」

サトコ
「じゃあ、もしかしてアレですか?」
「明日は何か特別な捜査があるとか···」

水沢
「なんで?」

サトコ
「えっ···あ、その···」
「今『明日は早いから』って」

水沢
「ああ、明日早番だから」

サトコ
「それだけ!?」

水沢
「そうだけど···それがなにか?」

サトコ
「い、いえ···」

(なんだ···本当にそれだけなんだ)
(でも、ここから何としてもひったくり事件のことを聞き出さないと!)

サトコ
「あの···っ」

水沢
「そういえば氷川さんってさ」
「自己紹介で『婦人警官だ』って言ってたけど、本当は違うんだってね」

(げ···)

水沢
「聞いてるよ。ホントの配属先」
「ま、今日の合コン、民間人が2人も混ざってるからさ」
「やっぱり本当のことは言えないよね」

サトコ
「は、はぁ···」

水沢
「でも俺···将来的にそっち方面に行きたくてさ」

水沢さんは、私との距離を一気にグイッと詰めてくる。

水沢
「ね···いい機会だから、いろいろ教えてくれない?」
「キミの本当のお仕事のこと」

サトコ
「は、はぁ···」

(いいのかな、同じ警察官になら喋っても)
(でも私、公安の仕事に就いては一般的なことしか分からないんだけどな)

サトコ
「えっと···じゃあ簡単なことでもいいですか?」

水沢
「もちろん」

サトコ
「私の場合、公安···」

???
「失礼」

いきなり背後から、かなり乱暴に抱きしめられる。

(誰!?)

サトコ
「って、教か···っ」
「ふぐぐ···っ」

(な、なんで口元を覆われて···っ)

東雲
ごめんね、キミ。オレ、この子気に入っちゃった
このままお持ち帰りしてもいいかな

サトコ
「ふぐーっ!ふぐぐっ」

(く、首!折れる!首っ!!)

東雲
···いいよね?持ち帰っても

水沢
「は···はぁ」

サトコ
「!!」

東雲
じゃあ決まりだね。さあ、帰ろうか

サトコ
「ふぐーっ、ふぐーっ」

暴れる私を引きずって、教官は無理やり入口へと向かう。

黒澤
あれ、歩さん、帰るんですか?

東雲
ごめん。お持ち帰りしたい子、見つけちゃった

黒澤
早っ!さすがですねー

(さすがじゃない!助けてーっ!誰かーっ!)

こうして私は、東雲教官にお持ち帰りを···

【公園】

東雲
あーあ、サイアク···
今日の合コン相手、キレイ系OLだったのに

···されるはずもなく。

サトコ
「サイアクなのはこっちですよ···」

(まだ情報聞き出せていなかったのに!)

東雲
···まだ気付いてないの?
キミ、自分が公安だってこと、人に話そうとしてたよね?

サトコ
「!?」

東雲
忘れたの?民間人には言っちゃダメだってこと

サトコ
「違います!あの人は···」

(ってダメダメ、『A署の盗犯係』なんて言ったら!)
(うっかり『ひったくり調査』のことまでバレるかもしれないじゃない!)

東雲
···なにが違うの?

サトコ
「······」

東雲
答えろ、ウラグチ

サトコ
「あ···あの人は、その···」

(がんばれ!上手く誤魔化せ、私···っ!)

サトコ
「じ···『自衛官』なので民間人ではないかと」

東雲
······

サトコ
「私たちと同じ『公務員』ではないか···と···」

東雲
ふーーーん···
今のへらず口はどの口が言った?
これか?

サトコ
「ふぐぐっ···っ!」

(痛い!唇つねらないで···っ!)

東雲
それとも怒られるのが好きなの?
だったら教育方針を変えようか

サトコ
「ふぐっ!?」

東雲
せっかくだからキミに選ばせてあげるよ
『S』と『ドS』と『スーパーS』···
どのコースがいい?

サトコ
「ふぐぐ···っ」

(イヤです!どれもイヤ···っ!)

結局、私の人生初の「ハニートラップ」は大失敗に終わったのだった。

Secret End

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