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加賀 出会い編 9話

【ホテル前】

(5歳の男の子が行方不明‥!きっと加賀教官が探しに行ったんだ!)

石神
全員いるか!?各チーム、班員の点呼を取れ!

サトコ
「石神教官!まだ加賀教官が中にいるかもしれません!」

石神
なんだと?なぜそんなことになった

サトコ
「男の子が見当たらないんです。母親に言われて、その子を探しにいったのかも」

石神
またあいつは、一人で無茶を

サトコ
「お願いです!私も捜索に‥」

???
「あーあ、たいした騒ぎになってないな‥もう一個爆発させるか」

(!?)

咄嗟に振り返ったけど、辺りは刑事や生徒、それに客でごった返していて、声の主がわからない。

(でも今、確かに聞こえた‥『爆発させる』って‥!)

サトコ
「誰か、今の聞いてなかった!?不審な男、探して!」

同僚男性A
「なんだよ、どうした?」

颯馬
サトコさん、何があったんですか?

サトコ
「男の声で『もう一個爆発させる』って聞こえたんです!」
「中に、まだ加賀教官と男の子が残ってるんです!お願いです、男を探してください!」

石神
この人混みから探すのは現実的ではない。それより、子供の確保が優先だ

石神教官が他の刑事たちに指示を出している傍らで、
ヒソヒソと話す刑事たちの会話が聞こえてきた。

公安刑事A
「なぁ‥加賀さんが中にいるって。罰が当たったんじゃないか?」

公安刑事B
「だよな‥仲間殺しの罰だよ。裏切られた仲間の呪いじゃないか?」

サトコ
「何を‥!」

振り返った私の前に、後藤教官が立ちはだかった。

後藤
くだらないことを言ってる暇があったら、子供を捜索しろ


そうだね。もしかしてホテルから一人で出てきてるかもしれないし
でも、今の言葉はしっかり覚えておくからね

公安刑事たち
「は、はい‥すみません!」

2人に睨まれて慌てたように人ごみの中に消えていく。

(でも、どうしよう‥こうしてる間にも、さっきの男が本当に爆発させたら)

同僚男性A
「石神教官、この辺り一帯を探しましたが、迷子の子はいないようです」

石神
「‥ではやはり、ホテルの中と考えた方が妥当か

同僚男性B
「でもホテル内は各フロア、一通り確認が終わってるよな」

同僚男性C
「ああ‥部屋は全部鍵を開けて中を見てるはずだし」

同僚の話を聞いて、不意に思い出したことがあった。

(もしかして‥確認できなかったあの場所かもしれない!)

石神
とにかく、生徒は全員待機して一般人を落ち着かせる方に回れ
公安課は各員、非常時の‥

石神教官の意識がそれた隙に、私はホテルの入口に向かって走り出した。

同僚男性A
「氷川!どこへ行く!戻れ!」

サトコ
「加賀教官と男の子を探しに行く!」

同僚男性B
「命令に背くと退学になるかもしれないぞ!」

(退学‥刑事の夢が終わるかもしれない)
(でも‥どうせ裏口入学がバレたら、何したって退学になるんだ!)

鳴子
「サトコ!」

サトコ
「鳴子‥ごめん」

みんなが止めるのも聞かず、私はホテルの入口のドアを開けた。

【ホテル内】

エレベーターは止まり、階段でなんとか20階まで上がる。
誰もいないフロアを走り、目的の場所を目指した。

(どこかに非常用のエレベーターがあるはず‥もしかして加賀教官はそっちにいるのかも)

ここに来るまで、声を張り上げて男の子を呼び続けてきたけど、返事はない。

サトコ
「こんなに大きなホテルだし、もしかして聞こえてないのかも‥」

怪しい男
「おっと、そこまでだ」

非常階段からフロアに出た瞬間、目の前に銃を突きつけられた。

サトコ
「!?」

怪しい男
「まさかあのアナウンスを聞いても戻ってくる奴がいるとは‥」
「お前、さっき外で喚いてただろ」

(じゃあ、この人が‥!)
(そうだ、この声‥さっき聞いたのと同じだ。それに、スピーカーから聞こえてきた声とも似てる)

怪しい男
「ここまで来た勇気は認めてやるよ。でも悪いが、爆破の邪魔をされたらかなわないからな」
「お前はその前に、ここで殺してやる」
「死‥」

パン!

突然、何かが爆発するような音が聞こえた。
次の瞬間には、男の手にあったはずの銃が弾けて廊下の端まで吹き飛ぶ。

怪しい男
「くそっ‥またお前か!」

(え‥?)

手を押さえる男の視線をたどると、
そこには男のを背負って銃を構えている加賀教官の姿があった。

加賀
また、ってことは‥前に竹田の尾行中に襲ってきたのはお前か

怪しい男
「お前が邪魔するからだ!腐りきった日本の政界と警察を粛清してやろうと思ったのに!」

(何言ってるの、この人‥)

怪しい男
「ア、ハハ‥これで済むと思うな‥お前ら、必ず殺してやるからな!」

止める間もなく、男が走り去る。
追おうとする私を教官が止めた。

加賀
バカ野郎!なんで戻ってきた!

サトコ
「教官‥」

加賀
使えねぇと思っていたが、ここまでクズとはな

<選択してください>

A:教官が心配だったから

サトコ
「すみません‥でも、教官が心配だったんです」

加賀
お前に心配されるほど落ちぶれちゃいねぇ
一歩間違えれば、あのイカれた男に殺されるところだったんだぞ!

(教官、本気で怒ってる‥こんなふうに怒鳴られるの初めてだ)

B:子どもを探しに

サトコ
「その子を探しに‥母親から、教官が探しに行ったって聞いて」

加賀
ならなおさら、なんで戻ってきた。俺に任しときゃよかっただろ

サトコ
「そうですけど‥男のがいるかもしれない場所に心当たりがあったので」

加賀
足手まといになるくらいなら、いねぇ方がいい

C:自分でもわからない

サトコ
「自分でもわからないんです。でも‥気がついたら走り出してて」
「すみません‥刑事失格ですよね」

加賀
‥‥‥

加賀教官が、じっと私を見下ろす。

公安課刑事A
「加賀さん!無事ですか!?」

公安課刑事B
「氷川!?お前、本当に来てたのか!」

加賀
お前ら‥

公安課刑事A
「子供はオレたちが連れて行きます」

加賀
ああ

加賀教官の背中から、突然のことで恐怖に震える男の子が刑事たちに抱き上げられる。

男の子
「ママは?ママは?」

公安課刑事A
「外で君を待ってるよ。行こう」

(よかった‥もう大丈夫)

サトコ
「教官、他に逃げ遅れた人は」

加賀
途中でアナウンスをかけたが、出てきた人間はいなかった
おそらく、あのガキで一般人は全員避難完了だ

サトコ
「よかった!それじゃ私たちも‥」

その時、ドォン!とさっきとは比べ物にならないほどの轟音が響いた。
建物が揺れたような気がして、慌ててしゃがみ込む。

サトコ
「何‥!?」

加賀
くそっ

加賀教官が急いで窓の方へと走ると、外を見て顔を歪ませた。

加賀
「‥入口が爆破された

サトコ
「え!?」

加賀
あのガキとあいつらは‥無事だな

窓の外を見ると、間一髪、男の子を抱いた刑事たちが外へ駆けて行くのが見えた。

(でも、入り口が爆破されたなんて)

サトコ
「急いで他の出口を探しましょう!」

加賀
待て!

非常階段の方に走り出そうとした私の腕を、加賀教官がつかんで止める。
その時、スピーカーからあの男の声が聞こえてきた。

怪しい男
『最後の時限爆弾はもう作動してる。これでお前らは終わりだ!』
『アハハ!お前らみたいな人間は、警察には必要ない!オレの爆弾で塵になれ!』

サトコ
「時限爆弾‥!?」

加賀
チッ‥イカれた野郎ほど、そういうことには頭が回るもんだな
まずはその爆弾を見つける方が先か

サトコ
「待ってください!爆弾を見つけるよりも、ここから逃げ出す方が‥」

加賀
お前はさっさと退路を確保して外へ出ろ。俺は爆弾を解除してから行く

サトコ
「そんな無茶な‥!」

加賀
こんなでかいホテル、爆発させちゃ手柄になんねぇんだよ
しかし、爆弾か‥

ぶつぶつ言いながら、加賀教官が走り出す。

サトコ
「どこに行くんですか!?」

加賀
何ついてきてんだ!お前はさっさと逃げろ!

サトコ
「だって‥もしかして、加賀教官の勘ですか!?」

加賀
ああ、そうだ。石神に言わせりゃ、なんの根拠もねぇ
だが俺は、何よりも自分の勘を信じてる

サトコ
「‥‥!」

教官について走ると、やがて非常用のエレベーターが見えてきた。

加賀
お前はこれで降りろ

サトコ
「教官は‥」

加賀
あいつが爆弾を仕掛けるとすれば、備蓄倉庫だ
盛大に燃えるものもあるし、一瞬でこっちまで火が回る
そして事前に仕掛けるとした場合、侵入しやすく発見されなそうな場所だ

サトコ
「じゃあ‥私も行きます!」

私の言葉に、加賀教官が軽く目を見張る。

加賀
‥役立たずは必要ねぇ

サトコ
「それでも行きます!」

加賀
クズが‥勝手にしろ

吐き捨てるように言うと、教官が走り出す。
置いていかれないように、必死にその後を追いかけた。

ポイントサイトのポイントインカム

【倉庫】

備蓄倉庫につくと、一番手前で時限装置を見つけた。
私をグイッと押しのけると、教官が装置を見てすぐに分解を始める。

サトコ
「だ、大丈夫ですか?」

加賀
このくらいの分解はお前らでもそのうち教わる
プロが作ったもんなら別だが、素人が作る程度のものなら止められるはずだ

ひとつひとつ慎重に、教官が蓋を外していく。
やがて、残り時間を表示した時計が出てきた。

サトコ
「これ‥!あと10分しかありませんよ!」

加賀
なくても、やるしかねぇんだよ

サトコ
「無理です!今ならまだ間に合いますから、ここから退避‥」

私の言葉など聞く耳持たず、教官は真剣な顔で時限爆弾と向き合っている。

(どうしてここまで‥今ならまだ逃げられるのに)
(だけど、そのかわりホテルは爆発する‥)
(そうだ、そうなったら表にいる人たちも無事ではすまない)

サトコ
「教官‥どうして、手柄のためだなんて」

加賀
うるせぇ、気が散るから黙ってろ

(違う‥教官は手柄のためにやってるんじゃない)
(爆発が起きたら、ホテルが崩壊する‥その二次被害を避けるためにやってるんだ)

サトコ
「私もお手伝いします!何かできることないですか!?」

加賀
お前‥

サトコ
「なんでもいいです!教官の力になれることなら!」

その時、轟音と共に私の背後の天井が崩れてきた。

サトコ
「きゃっ!」

加賀
くっ‥

咄嗟に、教官が私の腕を引っ張って天井の崩落から守ってくれた。

<選択してください>

A:ありがとうございます

サトコ
「あ、ありがとうございます‥」

加賀
チッ、余計な時間食ったな

サトコ
「すみません、爆弾は‥!」

加賀
幸か不幸か、無事だ

B:怪我してないですか

サトコ
「教官‥怪我してないですか!?」

加賀
俺の心配するなんて千年早ぇんだよ
次はない。覚えておけよ

C:どうして私なんて

サトコ
「どうして私なんて‥」

加賀
「‥さあな

サトコ
「え?」

加賀
体が勝手に動いちまった。それだけのことだ

態勢を立て直して振り返ると、備蓄倉庫の入口は完全に塞がってしまった。
さらに今の天井崩落の衝撃で、火災が起こり始めている。

加賀
体を低くしろ。煙は吸うな

サトコ
「は、はい‥!」

(このままじゃどっちにしても私たちは‥)
(いや、こういう時こそしっかりしなきゃ。この爆弾を止めないと、もっと犠牲者が出る!)

サトコ
「なんとか、外と連絡取る方法を探してみます!」

加賀
その辺の電話がまだ生きてるかもしれねぇ

サトコ
「わかりました!片っ端から試してみます!」
「‥教官、爆弾も止めて絶対脱出しましょうね」

加賀
‥‥
‥お前は

サトコ
「なんですか?」

加賀
なんでもねぇよ

時限装置をいじりながら、教官が小さくつぶやく。

加賀
昔‥一緒に仕事した奴らに少し似てるってだけだ

サトコ
「私が‥ですか?」

加賀
もう、誰も残ってねぇけどな

(誰も残ってない‥それってもしかして‥)

加賀
お前だって聞いたことぐらいあるだろ。俺は仲間殺しって呼ばれてる
その通りだがな。‥だがそれでいい

サトコ
「‥私はそうは思いません!」

加賀
‥‥

サトコ
「だって‥加賀教官は、あの捜査員を助けたじゃないですか!」
「今だって本当は手柄なんかより、二次被害を出さないようにしてるじゃないですか‥!」

私の言葉に加賀教官は小さく笑うと、爆弾へ視線を戻した。

加賀
奴隷のくせに、言うようになったじゃねぇかよ

サトコ
「‥奴隷に戻れるんですか?」

加賀
なんだ、奴隷になりてぇのか?お前、マゾか

サトコ
「そ、そうじゃないです!いや、そうなのかな‥?」

慌てる私に、教官がフッと笑う。

加賀
もしここから生きて帰れる悪運があれば、報酬でもやるよ

サトコ
「報酬?いえ、そんな!」

加賀
あの男の不意をつけたのは、お前がいたからだ
さすがにガキを背負って俺一人じゃ、不利だったからな

(‥教官)

サトコ
「じゃあ‥甘いものをごちそうしてください」

私の言葉に、教官が少しだけ目を見張る。

サトコ
「教官と一緒に、スイーツが食べたいです」

加賀
‥俺は本気出したらハンパなく食うぞ

サトコ
「知ってます」

私たちはいつの間にか笑い合っていた。
その時、建物が焼ける音に混じってどこからか電話の音が聞こえた。

サトコ
「教官!この電話、生きてます!もしもし、氷川です!」


サトコちゃん?石神さん、つながりました!

石神
氷川、石神だ。加賀は?

サトコ
「隣で、時限装置の解除をしてます!」

石神
ならば奴に伝えろ。現在、外から消火活動を急いでいる
同時に、後藤と颯馬が別経路で侵入してお前たちの退路を作っている

サトコ
「退路‥」

加賀
貸せ

石神
加賀か。‥本来であれば、優先すべきは人命だ
爆弾解除をあきらめ退避せよ

加賀
‥‥‥

石神
‥と言いたいところだが、お前は聞かないだろうな

加賀
わかってるじゃねぇか

石神
これから東雲が爆破処理の指示を行う
それに従い時限装置を解除し、なんとかしてでもホシを上げて無事に帰還しろ

加賀
了解

石神
わかってるな。無事に、だぞ。お前の骨を拾うつもりはないからな

加賀
ハッ、こっちだってお前に拾わせるつもりはねぇよ

その光景に、思わず加賀教官を見つめる。

(いつも喧嘩ばっかりなのに‥石神教官と意見が一致してるところ、初めて見た)
(前の竹田の捜査の時も、なんだかんだ言ってすごい連携プレイだったっけ‥)

加賀
おい、電話かわれ、俺はこっちに集中する

サトコ
「は、はい!」


サトコちゃん?今から指示するから、それを兵吾さんに伝えて
まず最初に、右下のスイッチを切って

東雲教官の言葉を、加賀教官に伝える。

加賀
‥よし、次

途中までは指示された通り順だったけど、徐々に電話に雑音が混ざり始めた。

サトコ
「東雲教官、すみません!ちょっと回線が‥」


‥ん、火事の‥で、‥が

そこで、電話は切れてしまった。

サトコ
「教官‥電話が」

加賀
火災がひどくなってる。電話線が切れたんだろうな
よりにもよって、ここでか‥

見ると、教官の手元には、2本のコード。

加賀
どっちかを切れば止まる
もし間違っている方を切れば‥

思わず教官を見る。
そうしている間にも、火の勢いが増してきた。

加賀
‥サトコ

サトコ
「は、はいっ」

(今、名前‥!)

加賀
お前に決めさせてやる。どっちでも恨みっこなしだ
助かりゃラッキー、ダメなら2人仲良くお陀仏だ

教官の額には汗が滲んでいる。
こんな姿を初めて見た気がした。

(加賀教官‥)

サトコ
「それなら‥教官の勘に賭けたいです!」

加賀
あ?

サトコ
「私も、教官を信じます!恨みっこなしです!」

加賀
フッ‥‥
いい度胸だ

教官が口の端を持ち上げて笑う。
そして‥1本のケーブルを選び出し、躊躇することなく、切った‥

to be continued

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