カテゴリー

加賀 恋の行方編 2話

【廊下】

加賀教官が単独の捜査に出かけてから、数日後。

(もうこんな時間か)
(少しでも刑事の夢に近づくには、こうやって地道に頑張るしかないよね)

【更衣室】

自主練を終え、着替えようと更衣室を開けた瞬間、上半身裸の東雲教官が視界に飛び込んできた。

サトコ
「わっ!?」


はぁ‥またキミ?

サトコ
「きょきょきょ、教官!?すすす、すみません!」

慌てて更衣室のドアを閉めようとすると、東雲教官が片手でドアを抑えて顔を近付けてくる。

サトコ
「教官、近いですっ‥じゃなくて、ふ、服着てください!」


別にいいよ、減るもんじゃないし。って前にも言ったか

クスクス笑う教官に、私は直視できず、顔を逸らしたまま。


あ、せっかくだし一緒に着替えようか?

サトコ
「けけ、結構です!」


そんなに慌てなくてもいいのに
そうだ、兵吾さんから例の電話の彼女の話は聞けた?

そう言われて、ドアを閉めようとしていた力が緩む。
教官はロッカーへ戻ると着替えを始める。

サトコ
「か、彼女‥なんですか?」


さあ、どうかな。兵吾さんに直接聞いてみればいいのに

(それができないって知ってて言ってるよね、東雲教官‥)


まあ、サトコちゃんが適うような相手じゃないか
諦めるなら今のうちだと思うけど

サトコ
「東雲教官は、加賀教官の、その‥彼女のこと、知ってるんですか?」


知ってるような知らないような

サトコ
「‥どっちですか」


ふふ、あの人は完璧だからね、兵吾さんも虜だよ

サトコ
「‥‥‥」

(あの加賀教官が虜になるような女性って‥)


キミが兵吾さんを満足させられるなら、勝ち目はあるかもしれないけど

サトコ
「ま、満足、ですか‥」


うん
でもサトコちゃん、経験少なそうだしなぁ。兵吾さん落とすのは難しいかも

サトコ
「!?」

(それってやっぱり、夜のこと‥なの!?)
(わ、私が教官を満足なんて、そんな‥!)

色々と想像して焦る私を見て、東雲教官は小さく噴き出していた。



【街】

(‥シャワー浴びてすっきりしたけど、気持ちはまだもんもんとしてる‥)
(こういう時は気分転換!餃子!)

お気に入りの中華料理屋へ行くため、私は街を歩いていた。

(それにしても、加賀教官に彼女、かぁ‥女には不自由しないって言ってたし)
(教官なら彼女が何人いても不思議じゃないんだよね)

サトコ
「怖いけどかっこいいし、仕事できるし‥絶対モテるだろうな」

そう考えてふと、加賀教官のことは何も知らないのだと気づく。

(専任補佐官で、他の人より近くにいると思ってたけど‥)
(何より教官は、自分のことを話すようなタイプじゃないもんね)

その時、少し遠くの曲がり角を見慣れた人が曲がって行くのが見えた気がした。
急いで角まで走り、そっと向こう側を覗き見ると、少し先に加賀教官の背中があった。

加賀
うるせぇな。お前には関係ねぇだろ

綺麗な女性
「どうしてよ。詳しく知りたいわ」

(やっぱり教官!でも、女の人と歩いてる‥もしかしてあれが、教官の彼女‥?)

どうしようと思いながらも、体は勝手に尾行を始める。

(ここって‥)

見上げると、そこは高級ホテル。
やがて2人は、目立たないビルに入って行った。

(‥やっぱり、あの綺麗な人が加賀教官の恋人なんだ‥)

サトコ
「わかってたことなのに、目の当たりにするとやっぱりショックだな‥」

???
なにをしている

落ち着いた声に振り返ると、立っていたのは石神教官だった。

石神
やはり氷川か

サトコ
「石神教官!どうしてここに‥」

石神
それはこちらのセリフだ。なぜお前がここにいる

サトコ
「それは、その‥加賀教官を」

石神
‥‥‥

言いかけた私を制して、石神教官がメガネを押さえてため息をつく。

石神
やはりな。そんなことだろうとは思っていた

サトコ
「え?」

石神
行くぞ

サトコ
「え!?あ、教官待ってください」

わけがわからない私を置いて、石神教官がさっさとビルの扉をくぐる。

(ど、どういうこと!?とにかく教官について行こう‥!)



【バー】

石神教官を追いかけてビルに入ると、すぐ近くのバーへと足を踏み入れた。
やがて、奥の席に座っている加賀教官とその彼女を見つける。

綺麗な女性
「あ、秀っち。こっちよ」

石神
‥やはりお前か

ため息をつく石神教官を通り越して、加賀教官の視線が私に向けられた。

加賀
なんでお前がいる

サトコ
「あ、あの‥」

<選択してください>

A:石神教官に連れられて

サトコ
「あの、ビルの前にいたら、石神教官に会って‥そのまま‥」

加賀
お前は誰が相手でもホイホイついていくのか

サトコ
「そ、そういうわけじゃ‥だって教官ですから」

石神
なんだ、またくだらない独占欲か

加賀
お前は家に帰ってプリンでも食ってろ

B:自分でもよくわかりません

サトコ
「自分でもよくわからないんですけど‥」

加賀
クズが‥また奴隷に成り下がたいか?

サトコ
「ええ!?どうして」

加賀
なんでてめぇがここにいるかもわからねぇような駒はいらねぇ

C:加賀教官を追いかけて

サトコ
「‥加賀教官を追いかけてきたんです」

加賀
だろうな

サトコ
「えっ?」

私の答えに、教官がしたり顔で笑う。

綺麗な女性
「で、その子は誰?秀っちの彼女かしら」

石神
笑えない冗談だな。そしてその呼び方はやめろ

綺麗な女性
「別にいいじゃないの」

サトコ
「あ‥私、公安学校の氷川サトコと申します」

綺麗な女性
「科捜研の木下莉子よ。よろしくね」

サトコ
「科捜研‥じゃあ、教官の彼女じゃ‥」

莉子
「彼女?私が?兵ちゃんの?」

(兵ちゃん、って‥もしかして加賀教官のこと?それに、石神教官のことも『秀っち』って‥)

呆然としていると、木下さんが笑いだす。

莉子
「無理無理!嫌よ、こんなめんどくさい男」

加賀
こっちの台詞だ。こんなクソアマ冗談じゃねぇ

石神
フッ、お似合いだな

加賀
なにか言ったか、クソメガネ

2人のやりとりにも動じず、木下さんは私を見てにこりと笑う。

莉子
「私はね、兵ちゃんにとって『都合のいい女』なのよ」

サトコ
「都合のいい女!?」

(なんか‥スゴイ響き‥)

莉子
「いつも何かあると、上に内緒で私から情報を引き出そうとするの」
「でも一方通行なんてずるいじゃない?だからこうして、食事に付き合ってもらってるのよ」

サトコ
「そうだったんですか‥」

(ってことは‥東雲教官、やっぱり知っててからかってたんだ!)

莉子
「ねえ2人とも、そんなとこに突っ立ってないで座ったら?」

石神
お前から『命を狙われてる、今すぐ助けてくれ』と連絡があったと思ったら‥
予想はしていたが、やはりこのくだらない集まりに呼ばれただけか

莉子
「だって普通に呼んだって、秀っちも兵ちゃんも来ないでしょ?」
「たまには3人で昔話でもしながら食事したかったのよ」

石神
悪いが、失礼する

いつもの無表情を崩さず、石神教官が私たちに背を向ける。

石神
行くぞ、氷川

サトコ
「えっ?は、はい」

加賀
おい、人の駒に手を出す気か?

石神
ここに氷川を置いて行く意味もないだろ

加賀
帰るならてめえ一人で帰れ。その駒をどうするかは俺が決める

莉子
「あら、もしかしてサトコちゃんを取り合ってるの?」

石神・加賀
「冗談言うな」

2人の声がハモり、思わず木下さんと顔を見合わせる。

莉子
「仲は悪いくせに、気が合うのよね」

加賀
どうでもいいが、駒は置いていけ。躾が必要なようだ

サトコ
「な、何もしてませんよ!?」

加賀
お前は尾行のセンスがねぇ

サトコ
「え‥」

加賀
壁に貼りついてこっちの様子を窺うっつーのは
ドラマかなんかの真似か?

サトコ
「教官‥私が後を尾けてたの気づいてたんですか!?」

加賀

クズの尾行なんざ誰でもわかる

(ちゃんと尾行できてたと思ったんだけどな‥加賀教官にはムダか‥)

加賀
基礎からやり直せ、クズが

サトコ
「す、すみません‥」

竹田を尾行した時に私のせいで失敗したことを思い出して情けなくなる。

(自主練なんてしてるけど、私、全然成長できてないかも‥)
(こんなに美人で、しかも教官に頼られてる人を前にすると、なおさら情けない)

莉子
「ちょっと兵ちゃん、いま『駒』って言ったわよね?」
「もしかしてこの子が、あなたのお気に入りの駒?」

加賀
どうだかな

石神
ふん。俺に置いて行けと言ったのはどこのどいつだ

莉子
「ねぇ、ちょっと付き合いなさいよ」

サトコ
「わ、私ですか?」

莉子
「ほら、秀っちも座りなさい」

木下さんの勢いに負けて、石神教官もしぶしぶといった様子で席に着いた。

莉子
「ねぇ、公安学校での2人の様子を聞かせてくれる?相変わらず火花バチバチなのかしら」

(木下さんって、気さくだな‥こんなに綺麗で優しいなんて、完璧な人だ‥)

サトコ
「そうですね‥お二人が生徒たちからダントツで怖がられ‥」
「あ、いえ、尊敬されてて」

慌てて言い直すと、木下さんが楽しそうに笑う。

莉子
「いいのよ。想像できるから」
「生徒たちの前でくらい、仲良くすればいいのに」

チラリと見ると、2人は目も合わせずにグラスを傾けている。

(この2人が仲良くするなんて想像できない‥)
(竹田を確保したホテルであの爆発が起きた時だって、最後の最後まで口ゲンカしてたし)

サトコ
「あの‥ずっと気になってたのですが、みなさんは昔からの知り合いなんですか?」

莉子
「そうね、警察学校からの付き合いよ」
「この2人はあの頃からほんとに仲が悪かったわ。ウマが合わないっていうか」

加賀
コイツが勝手に突っかかってくるだけだ

石神
その言葉、そっくりそのまま返そう

莉子
「‥って感じでね」

サトコ
「はぁ‥」

莉子
「でもここぞって時は、文句言い合いながらも結託するのよ。面白いでしょ?」

そう楽しそうに言った木下さんに、公安の教官たちの顔が重なった気がした。

(‥この2人の周りには似てる人たちが集まるのかな)

莉子
「だから2人が協力すれば、解決しないヤマなんて本当はないはずなんだけど」

加賀
俺の実力だ

石神
俺の情報のたまものだ

また2人の声が重なり、にらみ合いが始まる。

<選択してください>

A:仲裁に入る

サトコ
「あ、あの、お二人とも、落ち着いて‥」

加賀
あ?

石神
誰にものを言ってる

サトコ
「す、すみません!」

莉子
「もう、生徒に八つ当たりなんてみっともない」

見かねて木下さんが止めてくれた。

B:莉子に任せる

(こういうのに慣れてるみたいだし、ここは木下さんに任せよう)

莉子
「ちょっと、その辺でストップ」

加賀
ならこのメガネ野郎を帰らせろ

石神
俺は今すぐにでも帰りたいんだがな

C:加賀の肩を持つ

サトコ
「あの‥加賀教官は無茶はしますが‥す、素晴らしい教官です」

石神
ふん‥よく飼い慣らしたものだな

加賀
きっちり躾けてあるからな

(誤解を招く言い方をしないで欲しい)

莉子
「それにしても兵ちゃんも秀っちも、よく何年も飽きずにいがみ合っていられるわね」

加賀・石神
「だからその呼び方はやめろ」

サトコ
「‥‥‥」

(声がハモるの、これで何度目だろう)

思わず笑いそうになった瞬間に、2人が私を睨んだ。

サトコ
「わ、笑ってないですよ」

莉子
「ふふ、サトコちゃんって本当に兵ちゃんに従順なのね」

石神教官ではなく加賀教官に弁解する私を見て、木下さんが驚いたように笑う。

莉子
「兵ちゃんが特定の子を補佐につけてるって聞いた時は、ちょっと信じられなかったけど」

加賀
どこの情報だそりゃ

莉子
「さぁね?兵ちゃん、誰かにプライベートな情報流されてるんじゃない?」

加賀
‥‥歩か

サトコ
「東雲教官、おもしろおかしく脚色してあれこれ言いそうですもんね‥」

莉子
「あら、歩とも仲がいいのね。気に入ったわ」

サトコ
「えっ?」

莉子
「最近の子って、出世のことしか頭にないでしょ?教官に媚び売ってばっかで」
「その点、兵ちゃんについていけるサトコちゃんは根性ありそうだし」

サトコ
「そうですね、鍛えられてるので‥」

小さく言う私に教官の鋭い視線が刺さる。

莉子
「私もたまに、臨時教官として学校に行くことがあるの」
「何かあったら相談に乗るわ。兵ちゃんの弱みとかね」

サトコ
「そんなのあるんですか?」

加賀
ほう‥

木下さんの言葉に食いついた途端、ニヤリと笑われた気がして、慌てて首を振る。

サトコ
「よ、弱みを握ろうなんてしてませんから!」

石神
ひとつぐらい握っておいた方が今後のためじゃないのか

加賀
そんなもん、握りつぶしてやるよ

莉子
「ふふ、そういうところも全然変わらないわよね」

(今日は、普段の教官とはちょっと違う一面が見れたかも‥)
(それに、木下さんは教官の恋人じゃなかったんだ‥)

そう思い、喜んでいる自分がいるのも事実だった。

【帰り道】

バーを出ると、駅まで木下さんとのんびり歩く。

サトコ
「加賀教官と石神教官、一緒に帰って大丈夫でしょうか」

莉子
「同じ方向なんだから仕方ないわ」
「今ごろ文句言い合いながら仲良く電車に乗ってるんじゃない?」

サトコ
「ふふ、学校でもそうなんですよ。加賀教官、石神教官のこと『クソメガネ』とか」
「でもここぞって時には協力して‥それに加賀教官、怖いですけどすごく頼りになって‥」

莉子
「‥サトコちゃん」

サトコ
「はい?」

振り返ると、木下さんが意味深に笑ってる。

莉子
「好きなんだ?兵ちゃんのこと」

サトコ
「えっ?あ‥」

お酒が入っていたせいもあり、話しすぎたと思った時にはもう遅かった。

サトコ
「私、その‥教官のことは尊敬してますけど、教官と生徒ですから!」

莉子
「いいのよ、立場なんて気にしなくても。そんなもので気持ちは止められないわ」

サトコ
「木下さん‥」

莉子
「莉子でいいわ。サトコちゃんは一生懸命だから応援したくなっちゃう」
「でもね‥生半可な覚悟じゃ、辛いだけよ」

サトコ
「え?」

莉子
「あの人は大変よ。軽い気持ちやただの憧れなら、やめた方がいいと思うわ」

サトコ
「莉子‥さん‥?」

聞き返しても、莉子さんは小さく笑うだけで、それ以上答えてくれなかった。

to be continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする