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加賀 続編 グッドエンド

加賀
まあ、なんにしろ‥

その笑顔が不吉に歪んだ気がして、思わず後ずさる。

加賀
黙ってたことは、感心しねぇな

サトコ
「ね、ネックレスのことですか‥!?」
「その‥ちゃんと言うつもりだったんですけど、タイミングを逃して」

加賀

そうか

うなずいてから、教官が私に体を寄せる。

加賀
あとで仕置きだ

サトコ
「え‥」

加賀
しっかり準備しとけ

意味深な言葉をささやかれ、恐ろしさに震えた。
振り返った時には、もうそこの角を曲がってしまったのか、教官の姿はなかった。

(ど、どうしよう‥とんでもないことになった気がする)
(お仕置きって、何されるんだろう‥?躾と、どっちが怖いの!?)

【加賀マンション】

その夜、電話で呼び出された私は、教官の部屋の前に立ち尽くしていた。

(なんの用だろう‥いや、用事なんてひとつしかない)
(昼間言ってた、『お仕置き』が迫ってる‥うう、怖くてインターホン押したくない)

でも、逃げていてもなんの解決にならないことはわかってる。
震える手でインターホンを押すと間もなく、
ドアが開き‥

【リビング】

ドアが開ききる前に中へと引きこまれ、そのままソファに押し倒されてキスで口をふさがれた。

サトコ
「‥‥!?」

加賀
遅ぇ

サトコ
「す、すみません‥あの、ちょっと心の準備が」

加賀
首輪は‥ちゃんとしてんな

ゆっくりと、教官の指が私の首筋から胸元をなぞる。
そこには、部屋に戻ってからピンセットを使い、必死に直したあのネックレスがあった。

(こうして教官に触れられるの、久しぶり‥)
(だけど、いきなりキスなんて‥び、びっくりした)

加賀
足りねぇだろ

サトコ
「え‥?」

加賀
最近、してなかったからな

もう一度、ゆっくりと教官の唇が戻ってくる。
言葉とは裏腹の優しいキスにうっとりと目を閉じた私の鎖骨に、教官の指が触れた。

サトコ
「っ‥‥」

加賀
最近のてめぇは、一人でなんでもやりすぎだ

サトコ
「すみません‥」

加賀
駒が、勝手に離れるんじゃねぇ

話しながら、教官が何度も私の唇をついばむ。
教官の声は少し切ない響きを含んでいて、思わず自分からぎゅっと抱きついた。

サトコ
「私は、教官のものです。何があっても、もう絶対に離れません」
「交番勤務だった頃は、長野のすっぽん、って呼ばれてたくらいですから!」

加賀
‥バカが

かすれた笑い声が降ってきて、それはすぐに再び重なる唇にかき消された。

加賀
安心しろ。二度と、離れられねぇようにしてやる

サトコ
「え‥」

私を抱き上げると、教官はそのまま、奥の寝室へと向かった。

【寝室】

ベッドに投げ出されるように下されると、すぐに教官が覆いかぶさってくる。

サトコ
「ま、待ってください!なんで‥」

加賀
てめぇがいない間、他の女を抱いてたとでも思うか?

サトコ
「え‥」

加賀
ご主人様を待たせるとは、犬も偉くなったもんだ

シャツを脱ぎ捨てると、少し乱暴に私の服の裾から手を差し入れてくる。
久しぶりのその感触に、思わず肩が震え‥切ない声が口から漏れた。

加賀

待ってやった主人に、褒美くれてもいいだろ?

サトコ
「褒美‥?」

加賀
ついでに、てめぇが他の男に尻尾振ってねぇか、じっくり調べてやる

サトコ
「そ、そんなことしてませんから‥!」

慌てて否定したけど、教官の手は止まらない。
脱がされた下着が、服と一緒にベッドから落ちる。

加賀
飼い犬は、余計なこと考えねぇで黙って主人を満足させてろ

サトコ
「っ‥‥‥んっ」

教官の舌と指が、私の熱を高めていく。

(ご褒美、なんて言ったけど‥これってやっぱり、私へのお仕置きなんじゃ‥)
(だけど、教官の身体が熱くて‥何も考えられない‥)

そのまま、教官に身体の奥まで溶かされてしまいそうだった。

【寝室】

翌朝、ベッドでぐったりと横たわる私に何も言わず、教官は一人、部屋を出て行った。

(もう無理です、って言ってるのに‥まさか一晩中、抱かれ続けるなんて)
(でも、それが本気で幸せだって思ってる私って‥)

散々いじめられたことを思い出して、嬉しさと恥ずかしさに口元が緩む。

加賀
何ニヤけてやがる

その声に振り返ると、教官がマグカップを2つ持って寝室に戻ってきた。

サトコ
「いい匂い‥」

マグカップを受け取ると、おいしそうなココアが入っていた。

サトコ
「ありがとうございます。さすが教官、甘党ですね」

加賀
まだいじめられ足りねぇみてぇだな

サトコ
「い、いえ!もう充分ですから!」

加賀
そりゃ残念だ

サトコ
「え?」

加賀
せっかくの休みだから、飼い犬の散歩でも行こうかと思ったが

(それって‥デート!?)

サトコ
「い、行きます!行きたいです!」

加賀
なら、さっさと支度しろ

サトコ
「はい!」

元気よく返事する私を見て、教官が苦笑いする。

加賀
うちの犬は、相変わらず従順だな

(う‥否定できない)
(でも、また教官の傍にいられるようになってよかった)



【街】

急いで着替えて、教官と一緒に表参道にやってきた。

サトコ
「こうして、堂々と一緒に歩くのは久しぶりですね」

加賀
どこか行きてぇとこはあんのか

サトコ
「いえ、何も考えてないんですけど、せっかくなので‥」

前から行きたかったお店の名前を口にしようとした時、
大通りを挟んだ向こう側に、見慣れた人影を見つけた。

(あれってもしかして‥黒澤さんと後藤教官!?)
(ま、まずい‥信号を渡ってこっちに来る!このままじゃ‥鉢合わせ!?)

サトコ
「教官!こっちです!」

気がついた時には、教官の腕を引っ張って近くの路地を曲がっていた。

【路地】

慌てて路地裏に教官を引き込んだ私に、低い笑い声が降ってくる。

加賀
ずいぶん積極的だな

サトコ
「もう‥!わかってて言ってますよね!?」

加賀
どうする?もうすぐここを通るが

サトコ
「そ、そうだった‥!」

教官には大通りの方に背を向けてもらい、私はその体に身を隠すように縮こまる。
すると、突然抱き寄せられて口づけられた。

サトコ
「!?」

加賀
黙ってろ

サトコ
「っ‥‥」

何か言おうにも、教官の舌が絡みついて言葉が出てこない。

後藤教官たちをやり過ごしても、私たちはしばらく、唇を重ねたままでいた‥



【カフェ】

そのあと、教官にお願いして、カフェにやってきた。

加賀
‥ここか

サトコ
「はい!教官、このネックレスってこのお店で買ってくれたんですよね?」

そこは、まるでスイーツのようにかわいいアクセサリーを売りながら、
それと同じくらいかわいいスイーツの味わえる、素敵なカフェだった。

サトコ
「私も知らなかったこんなお店を、教官がチェック済みだったとは‥」

加賀
‥マカロンがいける

サトコ
「え?」

加賀
ザッハトルテも悪くねぇ

サトコ
「あの‥ここって、持ち帰りできるんですか?」

加賀
当然だろ

(だよね‥教官がここに一人で来てスイーツ食べてる姿なんて、想像できな‥)

そう思いかけて、テーブルの向かい側に座る加賀教官を見つめる。

(‥想像、できるかも)

なぜか、妙に店内になじんでいるような気がした。

加賀
なんだ

サトコ
「い、いえ‥石神教官もこういうところ、好きそうですよね」
「甘いもの、お好きだし‥もしかして、お二人で一緒に来たり」

あわあわしながら思わずそう言うと、教官に睨まれた。

サトコ
「‥来るわけないですよね」

加賀
くだらねぇこと聞くんじゃねぇ

(相変わらず、石神教官とは犬猿の仲だな‥)

頼んだケーキセットが運ばれてくると、そのかわいい見た目に心が躍った。

サトコ
「いただきます!でも食べるのがもったいないですね」

加賀
バカか。腹に入れば同じだ

そう言いながらも、教官は心なしかケーキをゆっくりと崩しながら食べている。

加賀
‥なんだ

サトコ
「ふふ‥」

加賀
ニヤけてんじゃねぇ、気持ち悪い

サトコ
「すみません、でも‥」

加賀
‥ついてる

サトコ
「え?」

教官が、自分の口元を指でトントンと指す。
テーブルに置いてあったナプキンに手を伸ばそうとすると、
それよりも前に教官が少し身を乗り出した。

(えっ‥)

口の端についた生クリームが、教官の舌に持っていかれる気配。

サトコ
「きょっ‥」

加賀
お前のケーキの方が甘いな

サトコ
「いや‥そ、そ‥」

ざわついていた店内が、一瞬にして静まり返る。
そのあと、頬を染めた女性客たちが私と教官を遠巻きに眺め、
ヒソヒソと話し始めるのがわかった。

(今の、見られてた‥!)

サトコ
「は、早く食べて出ましょう!」

加賀
なんだ、急に

(この意地悪な笑顔‥!さっきの、絶対わざとだ‥!)

教官を急かして、周りの視線を一身に浴びながらお店を出た。

【街】

お店を出ても、教官は意地悪に口の端を持ち上げている。

加賀
もういいのか?

サトコ
「教官、わかっててやってますよね‥!?」

加賀
さあな

(さっき後藤教官たちに見つかった時といい、焦る私を見て楽しんでる‥)

加賀
満足したなら、行くぞ

サトコ
「あ‥待ってください」

加賀
遅ぇ

腕を取り、教官が私を引き寄せる。

(さっき、生クリームを舐められた時といい‥)
(今日は、ケーキよりも教官の方が甘い‥気がする)

頬の熱を自覚しながら、急いで教官についていった。

【教官室】

数日後、教官室には加賀教官の他に、石神教官しかいなかった。

加賀
‥‥‥

石神
‥‥‥

サトコ
「失礼します。加賀教官、ファイル持って来ました」

加賀
クズが。遅ぇよ

サトコ
「す、すみません」

(心なしか、教官室が寒いような‥)
(この2人しかいない時って、真夏でも部屋の温度が他より低い気がするんだよね)

立ち上がった石神教官が、ドアの方へと歩いてくる。
私を見て、不意に何かに気づいたように立ち止まった。

サトコ

「なんでしょう?」

石神
「‥‥‥」
‥いや

思い直したように、石神教官が私から視線をそらす。
でもやはり気になったのか、教官室を出て行く直前、私にしか聞こえないようにささやいた。

石神
‥あまり、目立たないように

サトコ
「え?」

思わず問いかけたけど、石神教官はそのまま教官室を出て行った。

(目立たないように、って‥なんのことだろう?)

残された加賀教官が、ゆっくりと私の方へ歩いてくる。

加賀
犬は犬らしく、首輪を見せて歩け

教官の手が伸びてきて、私のシャツの第1ボタンを外す。

サトコ
「!?」

加賀
メガネが余計なことを言いやがって
目立ってなんぼだろうが

(石神教官が言ったのって‥このネックレスのこと!?)
(じゃあ、もしかして教官は私と加賀教官が付き合ってるって、気づいてる‥!?)

慌てる私とは裏腹に、加賀教官は涼しい顔だった。

加賀
他の男の言いなりになってんじゃねぇ

サトコ
「い、言いなりになったわけじゃ‥」

加賀
お前の飼い主は?

そう問われて、小さな声で、でもはっきりと答えた。

サトコ
「‥加賀教官です」

私の返事に、教官が満足そうに笑う。

(奴隷から駒、犬‥ちょっとずつ昇格できてる‥のかな?)
(いつか、『パートナー』って呼んでもらえるように、もっともっと頑張らなきゃ)

そう、決心を新たにする私だった。

Good End

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