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誕生日 石神2話

パーンッ!と軽快な音が鳴ったかと思うと、紙テープや紙吹雪が舞う。

石神

お前ら‥

突然現れた黒澤さんや石神班の教官たちに、石神さんは眉間にシワを寄せた。

石神

これは、なんの真似だ?

後藤

すみません‥止めたんですけど

黒澤

もちろん、石神さんのお誕生日とお祝いしに来たに決まってるじゃないですか~!

颯馬

まだお仕事をしているようでしたので、皆でお祝いをしようと黒澤に声を掛けられたんです

石神

誕生日‥?

石神さんは考えるそぶりをし、思い出したかのように呟く。

石神

ああ、そういえば今日だったな

後藤

忘れていたんですか?

石神

もう誕生日を祝うような歳ではないからな

黒澤

もう、そんなこと言ったらダメですよ?いくつになっても、誕生日はお祝いするものです!

ね、サトコさん?

サトコ

「は、はい‥そうですね」

いきなり話を振られ、コクコクと頷いて答える。

(まさか、黒澤さんたちも同じことを思っていたなんて‥)

(『おめでとう』って、先に言われちゃったな)

颯馬

‥サトコさん

颯馬教官は、少しだけ申し訳なさそうに笑みを浮かべる。

颯馬

すみません。もしかしてお邪魔でしたか?

サトコ

「いえ!ちょうど今、仕事が終わったところですから」

颯馬

そうですか‥それなら、よかったです

黒澤

それじゃあ、皆でお祝いしましょうか!

後藤

黒澤、あまり騒ぐなよ

黒澤

分かっていますって!

黒澤さんはそう言いながら、イチゴの乗ったバースデーケーキを取り出す。

後藤

石神さん。これは俺からです

石神

ほう‥

後藤教官が差し出したプリンを見て、石神さんは小さく声を漏らした。

石神

これは、あの有名店の‥

颯馬

これを手に入れるため、かなりの時間並んだそうですよ。ね、後藤?

後藤

しゅ、周さん!それは‥

颯馬

フフ、部下が上司のために頑張るなんて素敵な話じゃないですか

後藤

っ‥

後藤教官は照れくさそうに、視線を逸らす。

サトコ

「ふふっ、皆さん仲が良いんですね」

黒澤

もっちろんです!オレたちは仲が良いことで有名ですからね

石神・後藤

「気色悪いことを言うな」

黒澤

ガ~ン!

そんなこと、声を揃えて言わないで下さいよ~!

鳴き真似をしつつも、どこか楽しそうな黒澤さん。

(こうして部下からお祝いされるなんて‥)

(やっぱり石神さんって、愛されているんだな)

微笑ましい光景に、笑みがこぼれる。

(もうケーキもプリンもあるし、私の作ったケーキはもう渡せないかな‥)

そんな思いが過るも、ぐっと飲み込んだ。

(せっかくの石神さんの誕生日だもん‥私も笑顔でお祝いしなきゃ!)

黒澤

それでは、バースデーソングを歌いましょう!

石神

結構だ

黒澤

即答ですか!?

うぅ‥ロウソクもちゃんと用意してきたのに‥

後藤

ケーキ切り分けます

サトコ

「あ、私がやります!」

黒澤

サトコさんまでスルーだなんて‥

まぁ、石神さんと後藤さんのコンビネーションには、もう慣れましたけど‥

黒澤さんはがくりと項垂れる。

颯馬

あ、そういえば‥飲み物を忘れちゃいましたね

石神

お茶でいいなら、冷蔵庫にある

石神さんは冷蔵庫に行き、扉を開ける‥

石神

‥ん?

すると、石神さんの動きが、ピタリと止まった。

黒澤

どうかしましたか?

あっ、もしやお茶が切れてるとか‥

後藤

それなら、今から買いに行ってきます

石神

いや、お茶ならある

石神さんは短く言うと、お茶を取出しグラスに注いだ。

ケーキと飲み物の用意ができると、皆がグラスを手にする。

黒澤

それでももう一度、皆さんでご一緒に‥せーの!

全員

「お誕生日おめでとうございまーす!」

教官室に、グラスがぶつかりあう音が鳴り響いた。

それから、ささやかながらも賑やかなパーティーが続く。

ケーキを食べ終わると、石神さんがおもむろに口を開いた。

石神

今日はありがとう。明日も早いのに、悪いな

黒澤

えー、なんですかその締めの挨拶は!?

これから、飲みに行きましょうよ~!

後藤

もう遅いし、帰るぞ

颯馬

そうですね。我々はこれで失礼します

ほら、黒澤も行きますよ

黒澤

ちょ、ちょっと、おふたりとも~!待ってくださ~い!

黒澤さんを引きずりながら、後藤さんは石神さんに視線を向ける。

小さく微笑みながら会釈すると、教官室を後にした。

(後藤教官たちも帰っちゃったし、あまり遅くなると明日に差し支えるよね‥)

本当は、このまま石神さんをお祝いしたいという気持ちがあった。

だけど、石神さんは一週間に及ぶ捜査を終えたばかり。

あまり無理をしてほしくない。

(ケーキとガーランドは、明日回収すればいいよね)

サトコ

「それでは、私もお先に失礼して‥」

石神

サトコ

サトコ

「っ‥」

ドアノブに手を掛けようとすると、石神さんに手を掴まれる。

突然のことに驚いて振り返ると、苦笑する石神さんの顔が目に入った。

石神

‥すまない。せっかく、お前が祝ってくれようとしたのに

サトコ

「え‥?」

(もしかして‥気づかれてた?)

石神さんの言葉に、目を丸くする。

石神

いくつか、引っかかる点はあったんだが‥

第一に、平日の夜に珍しくサトコから食事に誘ってきた

第二に、仕事を手伝ってくれている間、お前はしきりに本棚を気にしているようだった

それに‥資料を取る際に、飾りつけが隠してあるのを見つけた

(ウソ!ちゃんと隠したはずなのに‥!)

さすがは、公安の洞察力と言ったところだろうか‥

石神

第三に、冷蔵庫に見覚えのないケーキが入っていた

つまり‥お前は俺を祝うために準備してくれていたんだろう?

サトコ

「はい‥」

私は観念し、小さく頷いた。

石神

サトコ‥ありがとう

石神さんは柔らかく微笑むと、私を腕の中に閉じ込める。

サトコ

「失敗しちゃいましたけどね」

石神

‥お前の気持ちが、何よりも嬉しい

私の頬をそっと撫でると、瞳をじっと覗きこんでくる。

石神

その‥お前から、まだ聞いていないんだが‥

少しだけ照れ臭そうに、頬を染める石神さん。

そんな石神さんに、私は満面の笑みを向ける。

サトコ

「石神さん‥お誕生日、おめでとうございます!」

石神

ああ‥ありがとう

そして私たちは見つめ合うと、どちらともなく口づけを交わした。

サトコ

「本当に、食べるんですか?」

私のケーキを目の前に、石神さんはフッと微笑む。

石神

俺が甘党なのは、知っているだろう?

何より、お前の作ってくれたものが食べたいんだ

石神さんはそう言うと、ケーキを口元へ運ぶ。

(急いで作った割には、上手くできたと思うんだけど‥)

ドキドキしながら、感想を待つ。

石神

‥ん、美味い

サトコ

「本当ですか!?よかったぁ‥」

ホッと息をつくと、石神さんが私の口元にケーキを差し出してくる。

石神

ほら、お前も食べてみろ

サトコ

「え?で、でも‥」

石神

こんな美味いものを独り占めなんて、できないからな

サトコ

「それじゃあ‥」

パクリと口にすると、プリンの優しい甘みが口の中いっぱいに広がった。

サトコ

‥美味しいです

石神

そうだろう?

石神さんは満足げに言うと、パクパクとケーキを食べていく。

そして、あっという間に平らげてしまった。

石神

ごちそうさま

サトコ

「全部食べてもらって、こちらこそありがとうございました」

ケーキを食べ終えると、寄り添いあうようにソファに座る。

石神

‥誕生日も、悪くないな

サトコ

「来年は、忘れないでくださいね?」

石神

そうだな‥

石神さんは苦笑すると、私の肩をそっと抱き寄せた。

石神

誕生日なんて、祝うほどのことではないと思っていたが‥お前に祝ってもらえるなら、特別だ

サトコ

「ふふっ、それじゃあ来年はサプライズを成功させますね!」

石神

言っていしまったら、サプライズにならないだろう?

サトコ

「ん‥」

そう言って微笑むと、石神さんから優しいキスを受ける。

少しだけ長いキスをすると、僅かに唇が離れた。

石神

今日のサトコの唇は‥甘いな

石神さんが話すたびに微かに唇が触れ合い、こそばゆく感じる。

石神

‥止まらなくなる

サトコ

「っ‥」

再び唇が触れ合うと、キスはどんどん甘く深いものへとなっていく。

このまま、石神さんと触れ合いたい‥愛し合いたい。

その思いが強くなるも、頭の片隅でいつか見た夢のことを思い出していた。

(だ、ダメ‥ここは、教官室なのに‥!)

長い長い口づけが終わりを告げると、私は石神さんから少しだけ身体を離す。

サトコ

「い、石神さん!後藤教官からもらったプリンを冷やすの忘れてますよ」

石神

プリン?‥ああ、そうだったな

サトコ

「冷蔵庫に入れておきますね」

紙袋からプリンを取り出そうとすると、封筒が一緒に入っているのを見つける。

封筒には『アナタの黒澤より』と書かれていた。

サトコ

「石神さん、これ‥」

石神

‥‥‥

石神さんは訝しげに眉をひそめると、封を切った。

石神

これは‥

封筒の中に入っていたのは、有名ホテルのスイーツビュッフェのチケットが2枚。

サトコ

「あっ、私ここ知ってます!プリンが美味しいって評判なんですよ」

石神

あいつ‥

石神さんは苦笑しながら、私に視線を向けた。

石神

せっかくだ。週末に、一緒に行かないか?

サトコ

「はい!」

満面の笑みで返事をすると、石神さんは私の頬に手を添える。

石神

さっきの続きは‥週末だな

サトコ

「ん‥」

触れ合うだけのキスに、もどかしさを感じる。

そんな私の心を見透かしたかのように、石神さんはいたずらに微笑んだ。

Happy  End

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