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Season2 カレ目線 石神5話

「確かな真実」

【射撃場】
海斗との面会を終え学校に戻ると、射撃場に明かりが点いていた。

(まだ残っているのか?)

この時間まで残っている人物の心当たりは一人しかいない。

射撃場に行くと、サトコの息づかいが聞こえてきた。

サトコ
「はっ···はあっ···」

(いつから訓練を続けているんだ。撃てない、その身体で)

肩で息を吐き、ひどく汗をかいているのが遠目にもわかった。

石神
······

(銃を抜けなければ最終試験に受かることは厳しい)

(加賀に言われずとも、そんなことはわかっている)

サトコ
「でも、あと少しで戻れるかもしれない···いたっ」

サトコの手はその爪で傷つけたのか血が滲んでいた。

(少しは来た意味があったか)

備え付けの救急箱を手にサトコに近づいていく。

石神
手を貸せ

サトコ
「え?」
「石神さん!いつから、そこにいたんですか?」

石神
その前に手当てが先だ

(近くで見ると、思ったよりもひどい)

東雲あたりなら “女の手ではない” と揶揄しそうな手だ。

石神
この手の傷は油断していると化膿して治りづらくなる。甘く見ない方がいい

サトコ
「···はい」

この手の傷以上にサトコの心は傷ついているはずだ。

(この状況に、俺とて何も感じていないわけじゃない)

手当てをしながら、ただ守ってやりたいという気持ちも当然顔を覗かせる。

男として、彼女を想う者として···もうようやく頑張った、あとはいいと、抱きしめたい気持ちもある。

(だが、それは俺の我儘でしかない)

俺の後ろか腕の中···そこに甘んじるような女であれば、すでに公安学校にはいないだろう。

自分を傷つけ、これだけ疲労困憊になりながらも···一歩一歩、彼女は前に進んでいる。

(それを俺が “男” だから‥という理由だけで止められるか?)

(今ここで “恋人” の顔を見せるなど···)

“教官” と “恋人” の使い分けには常に悩んできた。

加賀や海斗にわかりづらいと言われようが、素直に言葉に出来ないことも多い。

石神
お前がこの試験を受けず、この二年を水泡に帰すというならば、それも選択だ

サトコ
「······」

石神
だが俺がこの二年、お前の傍にいたのには理由がある
期待をかけない人間に、俺は厳しいことは言わない

(仕事とプライベートを両立するのが、ここまで難しいとはな)

(常に仕事しかなかった俺には‥予想も出来なかったことだ)

石神
万全の姿勢で試験を迎えるには、時には休むことも必要だ
あまりに根を詰めるなよ

プライベートを知るから、導ける先もある気がしてくる。

( “他人” だと言ったのは俺だが···)

(もうそう簡単に割り切れるものではなくなっているのかもしれない)

そう考えると、少しずつ自分の本心が見えてくる気がする。

(俺は···)

漠然と考える未来に、確かにサトコの姿もあった。

【帰り道】

藤田陸斗の一件は多少の想定外の出来事はあったが、無事に解決を迎えた。

(サトコの無茶は海斗の時と同じだが···)

(今回は前回よりも突発的な行動でない分、成長したということにしておいてやろう)

一歩間違えば命の危険があったことに違いはない。

だが今回のサトコは結果こそ陸斗に襲われたが、俺や他の捜査員の存在を忘れはしなかった。

(これがお前の公安刑事としての姿か)

まだまだ未熟‥しかし壁を乗り越えたサトコの未来には期待が持てる。

石神
サトコ

サトコ
「はい」

石神
公安刑事は正義の使者じゃない。理由も手段も問わないものだ。この国を守るためならば···

サトコ
「···はい」

石神
···俺のこの考えも、藤田兄弟から見れば “悪” でしかないだろうな
これから歩む道ではきっと、いくつもの恨みを買う

あらためて公安の在り方を説く。

サトコに話しているようで、これは俺自身への言葉かもしれない。

(これはあくまで俺の持論であり、経験則に基づいた話だ)

石神
だが、俺たちが見るべきは目先の善悪ではない。それはこの二年でお前も学んできたはずだ

サトコ
「はい」

(この二年、お前はこのことで大きな葛藤を抱えただろう)

(だが葛藤があったのは、お前だけじゃない)

サトコの言葉に、“人” と向き合う真っ直ぐな姿勢に、心を揺らしかけることが何度もあった。

彼女が見せてきたのは、公安が持ち合わせてはいけない “警察” としての姿なのだろう。

(時には折衷案を探り、時にはサトコの姿勢は公安には向かないと切り捨てかけ···)

(その結果、俺はサトコの可能性に掛けたということか)

石神
お前は人が好すぎる。思っていることがすぐに顔に出るし、狡猾さも足りない
その反面、妙に責任感が強く頑固で俺相手でも譲らないことがある

サトコ
「確かに、その通りです···だから、勧めませんか?」
「あなたの後を追いかけることを」

眩しい眼差し。

真っ直ぐ受け止めることを躊躇うことさえある。

(公安刑事になっても、その瞳が曇ることはないのか)

(曇った時に、俺はどうする?)

様々な可能性を孕んだ未来。

極力計算できる道を選んできた俺にとって、サトコを公安に迎えることは···

(あまりにも大きな賭けだ)

今なら降りることも出来る。

しかしーーー

石神
···お前が公安刑事にならないのは···日本の損失だ
俺はそう、確信している

サトコ
「······」

サトコの中で答えは出ていたのだろう。

それでも言葉で告げると、彼女の目が細められて嬉しさが滲むのが分かった。

サトコ
「私、思ったんです。国には、そこに暮らす人々がいる···当たり前のことですけど」
「でも国を守ることは、そこで暮らす人々を守ることでもあるんだと···あらためて気づきました」

石神
ああ

正確な話をすれば、それは公安が意識すべき国の守り方ではないーー

そう思ったのが、それを口にはしなかった。

サトコ
「今は石神さんほど志高くいられないかもしれません」
「でも私もこの国を、ここで暮らす人々を守りたい···あなたが守るものを一緒に守りたい」
「だから、公安刑事になりたいです!」

(お前が思う国の守り方···それが間違っていると、今決めるのは早計だ)

俺に新しい道への希望を抱かせるほど成長したのかと思うと感慨深かった。

視線を絡ませていると、サトコが急に俺の手を強くつかんだ。

サトコ
「石神さん···あなたのことも守らせてください」

石神
······

(お前は···)

守ってやらなければと思った時もあった。

そのサトコに守らせてくれ···こんなことを言われるとは思ってもいなかった。

(本当に思いも寄らないことを言う)

(俺の予想を一番越えてくるのは、お前だ)

彼女がなぜ、こんなことを言うのかーー

陸斗との一件で盾となったことも関係しているのだろうが、それだけではないのだろう。

“他人” である彼女の思考をすべて理解することは出来ない。

(それでも···不思議なものだな)

(お前に言われると、そう悪い気がしない)

真っ直ぐで危ういまでの正義感の塊だったサトコ。

今の言葉の根底にも、それがあるのだと思う。

石神
···お前にしか出来ないことがある‥それを認めたのは俺だからな

(そうだ···この真っ直ぐさは磨けばいい武器にもなる)

(公安刑事として育つ姿を見ていきたい)

これは純粋な公安刑事としての思いでもあった。

だからこそ、小さな罪悪感も覚える。

(国を守るという目的のために、認めたサトコを育てたいと思う···)

(それでは部下を手駒扱いする加賀とそう変わらないかもしれない)

あいつの言う通り “大差” がなくなる。

(いや···それでもただひとつ違うことがある)

国を守るために、この身を捧げると覚悟を決めてきた。

それは変わらないが、ただひとつ例外が生まれたのも事実。

(サトコ、お前のためにも俺はこの身を捧げられる)

答えの出ない感情の波の中で。

それだけでは言い切れる、確かな真実だった。

to  be  continued

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