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Season2 カレ目線 石神6話





「ふたりきりの卒業式」

【新幹線】

日程の関係で弾丸ツアーとなった二泊三日の大阪旅行の帰り。

サトコ
「······」

(よく眠っているな)

旅行ではしゃいだせいか、今はぐっすりと眠っていた。

石神
······

新幹線の振動に合せるように、サトコの頭が揺れている。

サトコ
「ん···」

こちらの肩に頭を預けるか‥と思いきや、姿勢を立て直す。

その姿がサトコらしくて、笑みが零れた。

(お前が甘え下手なのは、今に始まったことじゃない)

(自分でも気づいていないだろう。それなら···)

サトコの頭に手を回すと、肩に寄りかからせた。

(俺も気付く方ではないが、なるべく息抜きさせてやらなければな)

仕事でもプライベートでも生真面目な彼女の息抜きになれるのは、それこそ恋人の特権だろう。

サトコ
「ん···もう食べられない···」

サトコがニヤッと頬を緩ませる。

(あれだけ食べたのに、夢の中でもまだ食べているのか?)

(気を抜きすぎたか?)

もぐもぐと動かしているような頬に触れると‥

サトコ
「で···き···さ···」

石神

(夢で俺の名前を···?)

ドキッとして手を止めると、更にサトコの口が動く。

サトコ
「でき···たて···サムゲタン···」

石神
······

(お前は···)

思わず頬を挟んで口をタコのようにしてみる。

サトコ
「むにゅ···」

石神
ふっ

(名前で呼ばれるのは新鮮だった)

(俺もこの旅行で相当浮かれているな)

サトコの頬から手を離すと、その拍子にサトコの頭が肩から落ちそうになる。

(これでも目を覚まさないとは、よほど熟睡しているようだ)

仕事柄、眠りが浅いことが多い。

そんな彼女がここまで寝ているのはリラックスしている証拠でもあった。

石神
少しは···変わっているのかもな

あどけない寝顔を見せるのは、以前よりも甘えられているからかもしれない。

そして、その根底にあるのは俺たちの信頼関係なのだろう。

(帰れば、あとは卒業を待つだけ)

(ここしばらくを振り返るだけで、様々なことがあったが···)

眠るサトコの穏やかな顔を見つめる。

(サトコのこんな顔を見れるということは···この道で合っていたということか)

厳しい選択の連続だった。

それでも彼女と共に選んだ道はーー

石神
······

新幹線がトンネルを抜ける。

夕日の眩しさに俺は眼鏡を外すと、サトコに寄り添うように目を閉じた。




【校門】

卒業式はあいにく突入の日と重なったが、予想通り昼には全て引き上げることが出来た。

式は終わっている時間だが、“卒業式” と書かれた看板を見ると区切りを実感する。

(今年は桜の開花が遅いと言っていたが···ちょうどいい時期に咲いたな)

(この時間なら、サトコはまだ残っているか···)

このあとは謝恩会が予定されている。

謝恩会先で合流するという手もあったが···

(サトコの教官として、ここを歩くのも今日が最後だ)

そう思うと、もう少しここで過ごしたいという思いもあった。

千葉

「石神教官···?戻られたんですか」

声を掛けられ振り向くと、そこには千葉が立っていた。

石神
千葉···卒業おめでとう

千葉
「ありがとうございます。式に教官がでられないこと、皆、残念がってましたよ」

石神
ほっとしていた、の間違いじゃないのか?

千葉
「そんなことありませんよ。卒業すれば、全部いい思い出です」

石神
お前らしい答えだ

(突出した能力があるわけではないが、精神的に安定していてすべての能力が平均的に高い)

(千葉のような男は重宝されるだろう。本人には大変なことも多いだろうが)

サトコがよく一緒にいたこともあり、千葉や佐々木のことは目に入る機会が多かった。

千葉がサトコに想いを寄せていたことも知っている。

千葉
「···氷川に会いましたか?」

石神
いや。まだ残っているのか?

千葉
「いると思いますよ。石神教官が戻って来たって知ったら、きっと喜びます」

石神
···そうか

千葉の笑顔を見れば、既にサトコへの気持ちに決着がついているのが分かる。

石神
これからの活躍に期待している。しっかりやれ

千葉
「はい!」

背筋を正す千葉に微かな笑みで応え、俺は再び歩き始めた。




【体育館】

(卒業式に立ち会えなかったのは残念だったが···)

(こうして校内を歩いているだけでも、その空気を感じられる)

千葉との短い会話でさえも、卒業の今日でしか出来なかったものだ。

(公安学校設立当初は、その意義に疑問を持つこともあった)

( “教官” という任務は仕事の枷にしかならないのではと思ったこともあったが···)

校内の景色を見れば、そこで過ごした時間が思い出される。

訓練生たちが日々励んでいた姿も同時に胸を過ぎった。

(彼らはこの二年で間違いなく成長を遂げた)

(この学校での日々は無駄ではなかったのだと、今はハッキリ言える)

そう思えるのも成果を出した訓練生たちがいるからだ。

石神
···訓練生諸君、卒業おめでとう

式では言えなかった言葉を呟き、目を閉じる。

吹き込んだ春風が呼んだのは桜の香りとーー

サトコ
「石神さん!」

石神
······

(サトコ···)

その声と足音だけで彼女がどんな顔をしているのかが分かる。

わずかに口元を緩ませると、背中に飛びついてきた。

(まあ、今日くらいはいいか)

石神
卒業しても、そういう慌ただしいところは相変わらずだな

サトコ
「今日は特別です」

俺が思っていたことと同じことを口にするサトコが愛おしい。

(この学校があったから、お前とも出会えた)

(いわばここは俺たちの始まりの場所···か)

サトコ
「このあとの謝恩会には一緒に出られますか?」

石神
ああ。その前に、少し時間をくれ

サトコ
「はい。構いませんけど···」

(この俺が思い出に浸るなど···)

らしくないと思いながらも、今日だけは···と校舎へと向かった。




【資料室】

(本当にいろいろなことがあった)

(冷静に考えれば、サトコは訓練生の中でも飛びぬけて事件に巻き込まれていたんだな···)

共に過ごした日々を思いながら聞く彼女の答辞は深く胸に響く。

(お前の教官を務められたこと、俺は誇りに思う)

石神
この学校でやり残したことは、もうないか?

サトコ
「やり残したこと···」

俺はもうないつもりで問うと、意外な答えが返ってきた。

サトコ
「ここで···キスしたいです···」

石神
······

(そうきたか···)

(······)

(いや、何もそう驚くことではないのかもな)

学校だから···と言いながらも、俺たちの関係がここで育まれたのも事実だ。

この資料室で彼女の気持ちに気付きかけ、遠ざけ···そして多くのことに気付かされた。

サトコ
「い、いえ、今のは、あの···っ」

石神
先ほどの問いの答えがまだだったな

サトコ
「え···」

石神
恋愛はそう悪いものではないと思えるかどうか‥という話だ
これが答えだ

サトコ
「ん···」

桜の花びらが舞う中、彼女に口づける。

仕事とプライベートは完全に分ける···頑なにそうしてきた俺の壁を破ったのは、

他でもないサトコ。

(この複雑な思いが恋愛だというのなら···踏み込みたくないと思った時もあった)

(だが···)

石神
答えになったか?

サトコ
「···はい、充分」

石神
なら、いい

口づけの後に微笑む彼女を見れば、恋愛もそう悪くはないーーー今は、そう思える。

石神
そろそろ行くか。あまり遅れると、他の奴らがうるさい

サトコ
「もうこんな時間···秀樹さんと二人で過ごしていると、あっという間です」

資料室を出る時に手を取ると、サトコがその目を丸くした。

サトコ
「いいんですか?学校で···」

石神
これが最初で最後だ

明日からは公安刑事として肩を並べる。

薄曇りの日も、霧雨の日も土砂降りの日も、

そして晴れた日もーーー変わらぬ眼差しで前を見続けていた君に。

心から、卒業おめでとう。

Happy  End






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