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星降る夜、君と知らないキスの味 カレ目線



【学校 廊下】

その日放課後。
教官室の前まで行くと、妙に中が賑やかだった。

(なんだ、なんだ?何の騒ぎだ?)

耳を澄ますと、サトコらしき声も聞こえてくる。

(また何かやらかしてからかわれてんのか?)
(そういうことなら、久しぶりに俺もちょっと仲間に···)

【教官室】

ガチャッ

難波
おつか···

サトコ
「室長···!」

勢い込んでドアを開けたが、サトコ以外は誰も俺に気付かない。

石神
最初に氷川を誘ったのは俺だ

東雲
男女の間に順番なんて関係ないと思うな。ね、サトコちゃん?

サトコ
「男女の間っていうのはちょっと語弊が···」

加賀
クズに男も女も関係ねぇ

後藤
それを言うなら、俺は性別を超えたサトコのベストパートナーです

(何事だ?なんでこいつら、憚りもなく俺のサトコを取り合ってる?)

気分を害しながらも、でもとっさに踏み出せない自分がいる。
何となく、目の前で取り合っている奴らの方が、
自分よりもサトコと釣り合いがいいように思えてしまったのだ。

(···なんて、何を考えてるんだか。かっこわりぃぞ、俺)

難波
おい、お前ら

意を決して割り込んだ。

石神
室長···

加賀・東雲・後藤
「!」

難波
さっきから聞いてれば、何を言い合ってる?

サトコ
「し、室長、これはですね···」

狼狽えるサトコに代わり、石神が手短に状況を説明してくれる。

難波
そういうことなら、俺が適任だろ

加賀
え···

俺は構わず、加賀から航空券の入ったファイルを取り上げた。

難波
なあ、サトコ?

サトコ
「え?あの、ええっと···」

がっしりと肩を抱くと、サトコは教官たちの手前、気まずそうに顔を俯けた。

(こいつ、まだ照れてんのか?俺たちの仲はもう公認だっていうのに···)

難波
どうだ、石神。異議はあるか?

石神
いえ、特には···

難波
それじゃ、決まりな

ニッカリと微笑む俺を残して、
教官たちはおもしろくなさそうに三々五々、どこかに散って行った。


【ベトナム】

ベトナムのホテルの部屋に設置されていたのは、キングサイズのベッドひとつきりだった。

(やっぱり俺が来て正解だったな。こんな所に、他のヤツと止まらせたら一大事だ···)
(無理にでもスケジュール調整してきてよかった···)

ひそかに胸を撫で下ろす俺の隣で、サトコは心なしか顔を赤らめている。

サトコ
「もしかして···ベッドはこれひとつですか?」

難波
まあ、そうだろうな

しかもベッドの上には、バラの花びらが散らされている。

(ハネムーンの新婚さんみたいだな···)

我ながらちょっと照れて、照れ隠しにサトコをからかってみた。

難波
キングサイズか~、これまた将来選ぶ参考になるな

サトコ
「え?そ、それって···」
「セ、セクハラです···」

(···ちょっと待て。背う払って、それは完全にオッサン相手の反応じゃねぇか?)

少し傷つくが、必死に恥ずかしさを堪えているサトコの顔を見たら、かわいさの方が先立った。

難波
おっと···ついこの間、庁内のセクハラ講習受けたばっかりだった···

言いながら、サトコのリンゴのような顔をプニッとつかむ。
サトコはますます顔を赤くするが、その表情がまた何とも言えず俺の感情を掻きたてた。

(かわいいねぇ、照れちゃって···って俺、大丈夫か?)
(ただの変なオッサンに進化、いや、退化してるような···)

その夜。
夜中にふと目を覚ますと、サトコが思った以上に離れた位置で眠っている。

(そうか···キングサイズだとゆとりがあり過ぎてこの距離が寂しいな···)
(やっぱり将来買うなら、ダブルかクイーンだな)

そんな事を思いながら、サトコの身体を思いっきり抱き寄せた。

サトコ
「···室ちょ···すき···」

難波
ん?

(なんだ、なんだ?今のは寝言か?寝言にしても、かわいすぎるだろ···)

嬉しくなって、抱き枕のようにサトコの身体を抱きしめた。

(この適度な柔らかさ、温かさ···堪らねぇな)

【海】

最終日は、2人でのんびりとプライベートビーチに繰り出した。

難波
水着とか持ってきてないのか?

サトコ
「み、水着!?そんなもの持ってきてませんよ!」

難波
なんだよ···

思わず拗ねた声が出て、我ながら子どもだなと呆れてしまう。

サトコ
「ふふっ」

サトコにまで笑われたのが照れくさくて、思わずタバコを咥えるもまたまた失敗。

サトコ
「ちょっと待ってください。プライベートビーチは禁煙ですよ」

難波
そうなのか?

サトコ
「ほら、あそこ。ベトナム語は読めないけど、禁煙マークらしきものが」

難波
え~···

(なんだかなぁ···俺ってヤツは、どうしてこうもかっこよく決めきれないかねぇ···)

ちょっと呆れながらも、そんな自分満更嫌いじゃない俺がいた。


【泉】

蛍に歓喜の声を上げたかと思えば、泉の中に落っこちるサトコ。
本当に次は何をしてくれるのかわからなくて、一瞬一瞬から目が離せない。
こんな感覚は恐らく初めてだ。

(どの一瞬も、瞬きするのも惜しいと思っちまう···)
(まったくこのオッサンは、笑っちまうほどサトコに夢中だよな···)

濡れた身体を抱き寄せ、その震える唇をキスで覆った。

(愛しいなんて言葉、こっぱずかしくて口にもできないと思っていたが···)
(この気持ちは間違いなく···)

難波
もっと知りたい。俺だけしか知らない、お前の色んな一面を···

サトコ
「室長···」

(お前のすべてを、俺のものにしたい···)

想いを込めて、何度も何度も唇を交わす。
やがて二人の体温が溶けて混ざってひとつになりかけた頃···

ザー

難波
あ···

サトコ
「わぁっ」

難波
スコールか···

乾き始めた二人の身体を、再びスコールが濡らした。

難波
行こう!

サトコの手を引いて走り出す。
元来た道を、勘だけを頼りに。
でもサトコと二人なら、絶対に行きつくべき場所に着けるはずだと信じていた。



【車】

バタン!

慌てて車の中に駆け込むが、二人の身体はびしょ濡れだ。

サトコ
「あ~、シートがビチャビチャに···」

難波
しょうがない。今は車のことは二の次だ

サトコ
「運命の出会いだったのに···」

難波
運命?ああ、この車か
でもそれを言うなら、お前の···

サトコ
「クシュン!」

難波
おい、大丈夫···クシュン!
てててて···

くしゃみをした瞬間、腰に響いて痛みに悶える。

サトコ
「大丈夫ですか?」

難波
大丈夫じゃねぇが···今夜もまた、湿布を頼む

サトコ
「はい、お任せください」

ニッコリ微笑むサトコがかわいくて、もう一度キスを落とした。

(お前との出会いの方が、よっぽど運命だよ)

そう言いたかったけれど、それはまた別の機会に仕切り直しだ。


【学校 廊下】

こうして俺たちは、あっという間に日常に戻ってきた。

加賀
昨日までベトナムで羽伸ばしてたくせに、なに辛気臭い顔してんだ?

東雲
休暇中のレポート、溜まってるからしっかりね

サトコ
「え、でも今回のベトナム行きは任務では···」

石神
任務で課題が免除されるのは、教官同伴の時のみだ

後藤
室長は残念ながら教官じゃないからな。諦めろ、氷川

サトコ
「そ、そんな···」

教官たちに絡まれて戸惑う姿も
ベトナムに行く前よりは心なしか成長している気がするのは気のせいか。

サトコ
「室長···」

難波
ま、そういうことだ
残念だが、頑張れよ

俺はサトコの頭にポンと手を置くと、教官たちに続いて歩き出した。
廊下の角を曲がるとき、なんとなく後ろを振り向いてみる。
そこには、決意も新たに走り出したサトコの姿があった。

(やっぱりなんだか、頼もしくなったみたいじゃねぇか)
(頑張れよ、ひよっこ···刑事としてのお前も、俺は全力で応援してるから···)

Happy End



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