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最愛の敵編 加賀 購入特典


【警察庁 廊下】

サトコが公安刑事として配属され、仕事にも慣れてきたころ。

サトコ
「ひゃああああーーー!!!」

絹を裂くような悲鳴が聞こえ、思わず立ち止まる。

(···なんだ?)

それから、少し足早に公安課ルームの扉を開けた。


【公安課ルーム】

サトコ
「む、無理無理無理!アレだけはダメです!」

津軽
大丈夫でしょ、たかがゴキ···

サトコ
「いやああ!!!言わないでください!」
「アレの話をすると寄ってくる、って言うじゃないですか!」

津軽
それ、幽霊か何かと間違えてない?

百瀬
「···」

公安課ルームでは、津軽に抱き着くサトコの姿。
一瞬で、苛立ちが募る自覚があった。

(あのクソ犬が···何やってやがる)
(テメェの主人は誰なのか、もう一度教えてやる必要があるな)

サトコ
「そっ、そっ、それで···アレはアレは···」

百瀬
「んなもん、最初からいねぇよ」

サトコ
「···いない?」

津軽
ごめんね~。君のデスクがあんまりにも散らかってたから
驚かせようと思っただけで。ホラよく見て

サトコ
「え、あ、アーモンドチョコ···?」

百瀬
「見りゃわかるだろ」
「虫くらいでギャーギャー騒ぐな」

津軽
ウサちゃんは、呼び声にも色気がないねぇ

サトコ
「ほっ、ほっといてください···!」

津軽の腕に抱き着いたままぶるぶる震えながら、サトコがこっちに気づく。
俺の顔を見るとようやく自分が置かれてる状況を思い出したのか、顔面蒼白になった。

サトコ
「かっ、かっ、加賀警視···!」

加賀
······

津軽
兵吾くん、お疲れ~。何か収穫あった?

津軽の笑顔が、鼻につく。

(···こいつは、どこまで知ってやがる)
(だが、今はそれより···)

サトコ
「あのっ···こ、これは、その···」

加賀
······

舌打ちしてサトコに背を向けると、公安課ルームを出た。


【廊下】

サトコ
「加賀警視···!待ってください!」

バタバタと、サトコが俺を追いかけて廊下を走ってくる。
その騒ぎに、周りの視線が集中した。

刑事1
「なんであのふたりが一緒にいるんだ···?班が違うだろ?」

刑事2
「それに、氷川はこの間入ったばかりのはずじゃ···それなのに」

サトコが公安学校出身だということをしらない奴も多い。
はたから見れば、俺とサトコの組み合わせは異質だろう。

(なんでそんなこともわからねぇ···ここは公安学校じゃねぇってのに)

これ以上目立つのは避けたかったので、とりあえず立ち止まった。

加賀
なんだ

サトコ
「さっきのことですけどっ···あの」
「私、大騒ぎして···すみませんでした」

加賀
···洞察力の欠片もねぇな

まだ、周りの目は俺たちに集中している。
それを承知の上で、あえて強い口調で言った。

サトコ
「え···」

加賀
あの程度でギャーギャー騒ぐなら、学校からやり直してきやがれ

サトコ
「······!」

目を見張った後、サトコが悲しそうに顔を伏せる。

サトコ
「も、申し訳ありません···」

俺に深く頭を下げ、肩を落としながら公安課ルームへ戻っていった。

加賀
······

(···どうしようもねぇな)
(手間のかかる駄犬だ)

ため息をつき、スマホを取り出す。
LIDEを起動させて、サトコとのトーク画面を開いた。


【ショッピングモール】

LIDEでサトコに連絡を取り、映画のレイトショーにやってきた。
観たい観たいと騒いでいた映画が、ちょうど上映されていると思い出したからだ。

サトコ
「雨、すごかったですね」

加賀
ああ

サトコ
「あ、雷も鳴ってる。天気予報大当たりですよ」

レイトショーまではまだ時間があったので、
映画館には行かずにショッピングモールをぶらぶらする。

(そういや、最近忙しくて買い物してねぇってぼやいてたな)
(新しい服がなんとか···とか言ってたが)

加賀
来い

サトコ
「え?まだ映画には早いですよ?」

加賀
わかってる

サトコを連れて、近くの服屋に入った。

【ブティック】

サトコ
「これはどうでしょう?」

加賀
却下だ

サトコ
「じゃあ、これは!」

加賀
似合ってねぇ

サトコ
「よし···これなら!」

加賀
テメェの目は節穴か?

サトコ
「もう!加賀さん!」

自分の服に着替えて試着室から戻ってきたサトコが、憤慨しながら歩いてくる。

加賀
なんだ

サトコ
「どれを試着してもダメダメって!」

加賀
事実を言ったまでだろうが

サトコ
「そこまで言うなら、加賀さんが選んでください···!」

(···仕方ねぇな)

店の中を適当に歩き回り、サトコに似合う服を見繕う。
それを渡して、試着室を顎で指した。

加賀
着替えてこい

サトコ
「は、はい···」

試着室から出てきたサトコは、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。

サトコ
「今までで一番しっくりきます···」

加賀
そりゃそうだろ

サトコ
「加賀さんは普段からこのくらい、私のことを見てくれてるんですね···!」

加賀
黙れ

サトコ
「ハイ···」
「じゃあ、これにします。着替えてくるので、ちょっと待っててくださいね」

加賀
そのままでいい

サトコ
「え?」

店員を呼び、服についている値札を取るように言う。
その間に会計を済ませて、サトコを連れて店を出た。

【エレベーター】

服屋を出るとちょうどいい時間だったので、映画館に向かうためエレベーターに乗り込む。

サトコ
「加賀さん、すみません···選んでもらっただけでなく、お会計まで」
「公安デビュー記念に、服を買ってもらったばっかりなのに」

加賀
俺が選んだ服なんだから、当然だろ

サトコ
「当然···ですか···」

嬉しそうにサトコが笑った時、軽い衝撃とともにエレベーターが止まった。

サトコ
「えっ!?」

加賀
···停電か

サトコ
「く、暗い···!」

(···さっき、雷が鳴ってたな)
(あれが原因か···)

暗闇の中、目を凝らして非常用電話のボタンを探り当てる。
数コールで担当者が出たが、向こうも少し慌てている印象だった。

担当者
『すみません!雷の影響で、モール全館の電気系統が停止してしまったようで』
『復旧まで、少し時間がかかりそうです』

加賀
そうですか

担当者
『そちらは何人くらい乗ってますか?』

加賀
ツレとふたりです

現状を伝え終えて振り返ると、サトコはどうやら、近くの壁に背中をつけているようだった。

サトコ
「しばらくはこのままですか···」

加賀
死にゃしねぇだろ

サトコ
「そう···ですよね」

原因とおおよその復旧時間がわかったおかげか、サトコは少し落ち着いたらしい。
普段はギャーギャー騒ぐくせに、こういうときは変にやせ我慢する。

(···だから、ほっとけねぇんだがな)

だが少ししても動き出さないエレベーターに痺れを切らしたのか、暗闇にサトコの声が響いた。

サトコ
「そ、そばに行っていいですか···?」

加賀
自力で来れるならな

サトコ
「声で、だいたいの場所はわかりますから···!う、動かないでくださいね!」

加賀
···めんどくせぇ

こっちのほうが夜目がきくので、伸びてきたサトコの手をつかんで引き寄せる。
安心したように、珍しく自分から身を寄せてきた。

サトコ
「あ、ありがとうございます」

加賀
······

サトコ
「なんだか、くっついてると安心します···」

そのぬくもりと柔らかさ、そして無防備さに一瞬波立つものがあった。
だがその欲求の直後に脳裏を蘇ったのは、この間の津軽とのやり取りだ。

(あの野郎···どこまでわかってるんだかはっきりしねぇ)
(だが、それより···)

サトコがあいつに騙され、バカみたいに抱き着いていたことが腹立たしい。
思い出すと同時に、サトコの身体を自分から引きはがしていた。

サトコ
「ええ!?なん···」

喚くサトコの顎を持ち上げ、頬や鼻の位置ですぐに唇を探り当てた。
ふさぐようにしてキスして、身じろぎするサトコを押さえつけてさらに舌を絡める。

サトコ
「ッ······」

加賀
······

サトコ
「······---!」

復旧したのか、エレベーターが動き出した。
慌てたようにサトコは俺の胸を叩いて逃れようともがいたが、腕の力を強めて抱きしめる。

サトコ
「かっ···」

エレベーターが停まり扉が開く直前で解放してやると、涙目で俺に寄り掛かってきたのだった。


【加賀マンション 寝室】

結局レイトショーには行かず、ほとんど無言のまま家に帰ってきた。
エレベーターでのキスから、こいつの潤んだ目をどうにかしたくて仕方がなかったからだ。

(だからって帰ってくるなんざ、ガキか)
(こいつが関わると、制御がきかなくなる···)

俺に続いて寝室に入ってきたサトコは、雨のせいか少し寒そうだ。
ベッドに座らせて、両手を上げさせる。

サトコ
「なんですか?ばんざい?」

加賀
そうだ

サトコを下着姿にしてほっぽり出すと、自分もさっさと服を脱いでベッドに潜り込む。

サトコ
「あ、あの···」

身体を隠しながら戸惑った様子で俺を見るサトコに向けて、シーツを持ち上げる。
自分の分の空いたスペースを見て、サトコが驚いたように瞬きを増やした。

加賀
さっさと来い

サトコ
「で、でも···」

加賀
抱いてやる

サトコ
「······」

頬を染めて、おずおずとサトコがベッドに入ってきた。
その腕をつかんで組み敷くと、首筋を唇でなぞる。

サトコ
「んっ···」

加賀
何考えてた

サトコ
「何、って···」

加賀
期待した目で見やがって

言葉で攻めてやれば、サトコが恨めしそうに俺を睨む。

(···逆効果だって言ってんのがわかんねぇのか)

涙目で睨まれても、怯むどころか煽られる一方だ。
背中に手を回して下着を外し、サトコの弱いところを執拗に攻め立てる。

サトコ
「そ、こ、ばっかり···っ」

加賀
これがいいんだろ

サトコ
「ちが···加賀、さ···」

小動物のように啼く甘い声は、ベッドの中でしか聞けない。

津軽
ウサちゃんは、叫び声にも色気がないねぇ

(誰が、色気がねぇって?)

ふっと笑うと、吐息がサトコの首筋にかかったらしく、ピクリと身体が揺れた。

加賀
ずいぶんと敏感だな

サトコ
「加賀さん、が···エレベーターで、あんな···っ」

(あれは、テメェが余計な事を思い出させるからだろ)
(次他の男に抱き着いてみろ···あんなもんじゃ済まさねぇ)

指先で弄んでやれば、サトコが腰をかすかに震えさせる。
控えめな嬌声も、ただただ俺の中の “男” を呼び覚ます。

(こいつがこの顔を見せるのは、俺にだけだ)

他の奴には、この声すら聞かせたくない。
もっと感じている顔を見ようと、手加減なしでサトコの身体を味わった。

立て続けに何度か抱いた後、疲れたらしいサトコは俺の隣で規則正しい寝息を立てていた。
その姿に、さっきまで俺の下で気持ちよさそうにしていた余韻はない。

(だが···)

シーツから見えているサトコの二の腕に手を伸ばし、いつものように揉んでみる。
今まで、ここまで絶妙に自分好みの柔らかさと出会ったのは初めてだ。

(···まあ、だからそばに置いてるわけじゃねぇが)
(柔らかさだけなら、何度か抱きゃ満足してどうでもよくなる)

ところがこいつは、抱けば抱くほど深みにハマっていくようだった。
飽きないどころか、今はもう、手放せなくなっている。

加賀
······

悩みのなさそうな寝顔を眺めながら、鼻をつまむ。
しばらくはそのまま眠っていたが、やがて苦しそうに首を振り始めた。

サトコ
「もがっ···んん···」

(何度抱いても飽きない女がいるってことを、テメェに会って初めて知った)
(だから、ガキみてぇにムカついたりもするんだろうな)

くだらない独占欲。くだらない嫉妬。
何も必要ないと思っていた感情が、サトコといると次々に押し寄せる。

加賀
こんな間抜けな顔で寝てるやつがな···
···テメェは俺にしか効かねぇフェロモンでも出してんのか?

それならそれでいい。むしろ好都合だ。

(···誰も気づくな。俺だけでいい)
(この女の色気は全部まとめで、俺のもんだ)

鼻から手を放し、柔らかいその身体を腕の中に包み込む。
サトコを起こさないように目を閉じ、二度寝に引きずり込まれていった。

Happy End



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