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このドキドキはキミにだけ発動します 加賀2話

鳴子たちの方へ歩き出したその瞬間、バケツをひっくり返したような雨に襲われた。

サトコ
「ええ···!?ゲリラ豪雨!?」
「と、とにかくどこかに避難しないと!」

近くの木陰まで走った頃には、全身水遊びしたかのようにずぶ濡れだった。
他の人たちが来る気配はなく、どうやらこの辺には私しかいないらしい。

サトコ
「はあ···せっかくシャツが乾き始めたと思ったのに···」

仕方なくシャツを脱ぎ、思い切り絞る。
ゲリラ豪雨はまだ続いていて、ここから出られる気がしない。

(困ったな··加賀さんや鳴子たち、どこにいるんだろう?)
(早めに合流して、後片付けしないと···)

ぼんやりと雨を眺めていると、肩に無造作に上着をかけられた。

サトコ
「···え?」

(この上着···この匂い···もしかして)

加賀
···テメェ

加賀さんのもの、と思った直後、背後から恐ろしい声が降ってきた。

サトコ
「ひぃ···全然気配感じなかった···」

加賀
なんで俺に差し入れしに来ねぇ

サトコ
「は、はい···?」

顔だけ振り返ると、鬼でも逃げ出しそうなオーラを纏った加賀さんがそこに立っていた。

サトコ
「差し入れ···?な、なんのことでしょう···?」
「今日は大福持ってきてませんよ···もちろんプリンとかも」

加賀
そうじゃねぇ

ダン!

後ろから、加賀さんが乱暴に木に手をつく。
木と加賀さんの間に閉じ込められて、完全に逃げ場がなくなった。

(これは···壁ドンならぬ、木ドン···!)
(さっきの顎クイも怖かったけど、これは···っ)

加賀
室長やサイボーグには差し入れすんのに、俺には来ねぇ···どういう了見だ

サトコ
「室長と石神さん···?えーと、それは一体···」

加賀
酒注いでただろうが

サトコ
「あ、そのことですか!」
「そりゃ、私だって加賀さんが近くにいたらお酌に行きたかったですけど」
「あれは···その、加賀さんが···」

もごもごと言い淀む私に、加賀さんがさらにイラついたように木を蹴る。

サトコ
「ひえええぇぇ···」

加賀
クズが生意気に俺のせいか

サトコ
「そ、そうじゃないですけど」
「···加賀さん、楽しそうだったじゃないですか」

後ろは見えないものの、加賀さんからものすごいオーラを感じる。

加賀
なんの話だ

サトコ
「女子大生に、こう···お、押し付けられて!」

加賀
······

サトコ
「しかも、振り払わないで···!黒澤さんと津軽さんと一緒に、デレデレデレデレ···」

加賀
誰がデレデレした?あ?

サトコ
「すみません。デレデレはしてなかったです···」
「でも、楽しそうでしたよね···?む、胸とか押し付けられて」

加賀
あの肉の塊か

サトコ
「肉の塊···」

(塊って言えるほどもない私は、どうしたら···)

背中に加賀さんの手が伸びてきて、その弾みでかけてもらった上着が肩から落ちた。
加賀さんの指先がゆっくりと背中を這い、やがて水着の紐に辿り着き···

サトコ
「······っ」
「か、加賀、さっ···」

加賀
······

つ···と指で背中をなぞられたかと思うと、不意に紐を解かれた。
危うく胸元から露になりそうになり、慌てて水着を押さえて肌を隠す。

サトコ
「何するんですか···!?」

加賀
反論するとは、偉くなったもんじゃねぇか
テメェがどんなふうに啼くか、他の野郎に見せつけてやろうか?

サトコ
「······!」

水着が外れた背中を、加賀さんの指先が伝う。
背後から耳元で囁かれると、そのまま腰から崩れ落ちそうになった。

(こんな声で、そんなこと言われたら···!)

耳に、首にと加賀さんの柔らかい唇が触れる。
力が入らず、後ろから支えられて立っているのがやっとだ。

サトコ
「加賀、さ···」

加賀
なんだ

サトコ
「さ、さっき···女子大生と一緒にいたのに」
「私が室長や教官たちのところに行ってたの···見ててくれたんですか?」

加賀
······

返事がない、ということは肯定の意味だ。

(私が他の人たちのところに行くの見て···待っててくれたんだ)

振り向く隙すら与えられないまま、加賀さんの指先が後ろから胸元へと伸びてきた。
止めようとしても、力が入らず相手にすらされない。

加賀
いっちょまえに抵抗か

サトコ
「だっ···」

じわじわと与えられるもどかしい快感を、必死に振り払う。
夢中で言葉にしてしまったのは、決して口にしてはいけないことだった。

サトコ
「わ、私···加賀さんのこと、大好き、ですけどっ···」

加賀
······

サトコ
「加賀さんだって、私のことっ···」
「だ、大大大好きなくせに···っ」

その瞬間、強引に振り向かされて唇を塞がれた。
水着が落ちそうになり、加賀さんの両手が後ろから胸元を包み込む。

サトコ
「待っ···」

加賀
ずいぶんな口きくじゃねぇか
それなりの覚悟はできてんだろうな···

サトコ
「で、できてな···っ」

噛みつくようなキスが繰り返され、吐息は影しい雨音に消えていく。
皆がいたところからは離れているとはいえ、いつ誰が通りかかるか分からない。

サトコ
「加賀さん、待っ···ここじゃ、っ···」
「ここじゃ、やっ···です···っ」

加賀
······

必死の懇願に、加賀さんの手が止まった。
落ちた上着を拾い上げて再び私の肩にかけると、背中で水着の紐を結んでくれる。

サトコ
「あ···」

加賀
帰るぞ

(よかった、わかってくれた···)

そのタイミングでようやく、雨が小降りになった。
加賀さんにかばわれるようにして木陰から出ると、みんながいるほうへと走る。

鳴子
「あっ、サトコ!よかった~大丈夫だった?」

千葉
「急に降ってきたから、急いで戻ってきたんだけどさ」
「氷川と加賀警視がいないから、心配してたんだよ」

サトコ
「ご、ごめん···あっ、片づけ手伝うね!」

鳴子
「いいよいいよ、ほとんど終わったから」
「っていうかサトコ、その上着···」

サトコ
「あ、えっと···」

加賀さんに借りた、とも言えず口ごもっていると、先に千葉さんが気付いた。

千葉
「加賀警視の···だよな?」

サトコ
「そ、そう···偶然同じ木陰で雨宿りしてて」
「私のシャツ、雨でまた濡れちゃったから」

鳴子
「そうだったんだ。ずぶ濡れだし、風邪ひかないといいね」

サトコ
「うん···ごめんね、なにも手伝えなくて」

千葉
「オレたちこそ、ついはしゃいでお酌とかひとりでやらせてごめんな」

サトコ
「ううん、好きでやってることだから大丈夫」

加賀さんは私の後ろで、石神さんたちと一緒に荷物を車に運び込んでいる。
いつもと変わらず淡々とした様子で、
鳴子と千葉さんがなんとなくそわそわしていてもそっちのけだ。

(なんか···こうやって、加賀さんの上着を当たり前のように着てると)
(加賀さんのものだって言われてるみたいで、ちょっと恥ずかしい···)

サトコ
「えっと···加賀さん、上着ありがとうございました」
「車の中に自分のものがあるので···」

加賀
いいから着てろ

サトコ
「でも···」

加賀
グダグダ言うな

ぴしゃりと言われて、すごすごと荷物運びの手伝いに戻る。
鳴子と千葉さんは、やっぱり何か言いたげに私たちを見比べていた。

鳴子
「なんか···厳しい中にも、愛のある発言に聞こえる···」

千葉
「···そうだね」

(ど、どうしよう···!?このままじゃ鳴子たちにも加賀さんとの関係を知られちゃうかも)
(ふたりにはいつか話そうと思っていたけど、できれば自分の口から言いたいし)

それに、公安課では銀室長が “恋愛禁止” の雰囲気を醸し出している。

(それもあるから、二人に話すときは慎重に、タイミングを見て···って思ってたんだけど)
(···ダメだ。なんか頭が上手く働かない···)

雨に濡れたせいか、それともバーベキューで疲れたのか、なんとなく眠い。
それでもだるい身体に鞭打ち、荷物運びを手伝った。

鳴子の隣に乗り込むと、そのあとから加賀さんがやってきた。
私の隣に座ったものの、特に何も言わない。

(お、怒ってる···?ううん、これはデフォルトか···)
(もしかして、さっき木陰で拒んだのが気に入らないとか···?)

サトコ
「いや、まさかその程度のことで···」
「けどそういえば、今までもそういうことが···」

加賀
うるせぇ

サトコ
「すみません···喋ってないと、眠っちゃいそうで」

加賀
寝りゃいいだろうが

サトコ
「そういうわけにいきませんよ。運転してくれてる人に申し訳ないですし···」

黒澤
みんなそれぞれ楽しみましたから、眠いなら寝ちゃった方がいいですよ!

津軽
そうだねえ。ウサちゃんには特に、上司の接待頑張ってたし

サトコ
「いえ、そんな···」

とはいえ、周りからそうやって温かい言葉をかけられると、途端に睡魔が激しくなる。

(でも、ダメだ···頑張らないと···)

そう思ったのを最後に、意識を手放した。

サトコ
「···ハッ!」

加賀
······

目を覚ますと、加賀さんに寄り掛かっていた。

サトコ
「すっ、すみません!」

加賀
······

黒澤
みなさんお疲れさまでした~。それでは、ここで解散ということで!
またこの黒澤透が楽しい企画を考えますから☆

石神
やめろ。お前が考えるとロクなことにならない

黒澤
まったまた!なんだかんだ言って楽しんでたじゃないですか~

みんなが次々に車を降り、私も寝惚け眼でそれに続く。



(はぁ···結局車の中で寝てしまった···)
(さてと···今日は帰ったらすぐ晩ご飯を作って、明日の準備して···)

加賀
行くぞ

私にしか聞こえないように、加賀さんがすれ違いざまに告げる。

サトコ
「えっ?」

振り返った時にはすでに加賀さんはひとりで歩き出し、私たちから遠ざかっていた。

(『行くぞ』···ってつまり、そういう意味だよね)
(加賀さん、今日はお酒飲んでるから電車のはずだし···)

鳴子
「サトコ、この後まっすぐ帰る?」

サトコ
「う、うん。晩ご飯の買い物して帰ろうかな」
「じゃあ···皆さん、お疲れさまでした」

津軽
ウサちゃん、またね

千葉
「気を付けてな」

すでに姿のない教官たちもいる中、私も自分の駅の方へ向かって歩き出し···
と見せかけて途中の路地に入って方向転換し、加賀さんを追いかけた。



無事に合流した後、加賀さんの部屋にお邪魔した。
玄関のドアが閉まるなり抱きしめられキスで口をふさがれ、
もつれ込むようにソファに押し倒される。

サトコ
「かっ、加賀さん!?」

加賀
黙れ

サトコ
「でもっ···どうして急に」

加賀
テメェが、あそこじゃ嫌だって言ったんだろうが

サトコ
「だって、さすがにあんな場所じゃ···!」

加賀
だから今まで我慢してやったんだろ

サトコ
「あのっ···あ、雨にも打たれましたし、まずはシャワーとかお風呂···」

加賀
あとにしろ

サトコ
「加賀さん···!」

加賀
喚くな

必死の攻防もむなしく、ソファに身体を押さえつけられた。
言葉通りの黙らせるような強引なキスに、すべてを奪われていく。

(今日···いつも以上に···っ)
(もしかしてさっきの木陰で、加賀さんに火を点けてしまった···!?)

自分の言葉を思い出そうとするのに、それすらさせてもらえない。

加賀
···このまま抱かせろ

サトコ
「ぁっーーー」

いとも簡単に身に着けていたものを外され、肌を這う加賀さんの舌にぞくぞくと快感が走る。
それ以上抗うことなどできず、言われるまま、身体の力を抜いた···

ソファで加賀さんの熱を受け止めた後、寝室に場所を移してさらに求められ···
加賀さんが満足したころには、力尽きたようにベッドに横になる私の姿があった。

サトコ
「···何も、あんなにいじめなくても···」

加賀
······

サトコ
「鬼···悪魔···」

加賀
上等だ

弱々しく背中を丸める私を、加賀さんが後ろから抱きしめる。
少しして身体を離すと、背中に唇が触れた。

サトコ
「んっ」

加賀
日焼けしてんじゃねぇ

サトコ
「東雲さんにも言われました···日焼け止め塗ってるのか、って」
「東雲さんの女子力を前に、私なんて無力です···」

加賀
赤くなってんな

サトコ
「跡···残るかな···」

加賀
別に構わねぇだろ

サトコ
「恥ずかしいじゃないですか。水着の跡がくっきり、なんて」

加賀
見られて恥ずかしい奴に見せる予定でもあんのか

サトコ
「え?」

加賀
俺しか見ねぇだろ

(確かに···)
(···って、素直に納得してる場合じゃない!今ちょっと、甘い言葉言われた···!?)

加賀
ニヤけてんじゃねぇ。気色悪ぃ

サトコ
「背中向けてるのになんでわかるんですか···!?」
「そういえば···帰りの車で、すみません」

加賀
なんの話だ

サトコ
「加賀さんに寄り掛かって寝ちゃってましたよね」
「重くなかったですか?加賀さんも疲れてるのに···」

加賀
別に大したことじゃねぇだろ
それより···

シーツで隠している私の身体を暴こうと、加賀さんの指先が後ろから回ってくる。
その動きに身体は従順に反応するものの、必死に待ったをかけた。

サトコ
「も、もう···今日はもう無理です···!」

加賀
寝言言ってんじゃねぇ。まだまだこれからだ

サトコ
「でも、さっきだってあんなに···」

加賀
諦めろ。何しろ俺は、テメェのことが『大大大好き』らしいからな

サトコ
「!」
「あ、あのときはとんだ失礼な発言を···!」
「でも···あの」

チラリと振り返ると、腕を引っ張られて正面を向かされた。

加賀
もういっぺん言ってみろ

サトコ
「え···」

加賀
あんだけ堂々と言うってことは、自信あんだろ

サトコ
「そ、それは···加賀さんが、私のこと大大大す···」

加賀
違う。その前からだ
テメェは?俺のことを何だっつった?

サトコ
「私、は···」

思い出すのは、勢いで言ってしまったあのときの言葉。

サトコ
「その···私は、加賀さんのことが大好き、で···」

加賀
···悪くねぇ

満足そうに笑い、加賀さんが大きな手で私の頬を撫でた。

加賀
で?そのあとは

サトコ
「そのあとは···加賀さんだって私のこと、大大大···」

好き、という前に唇が重なる。
今度は正面から伸びてきた手が、私の肌をくすぐるように撫でて行った。

サトコ
「ず、ずるっ···言わせてくれない、なんて···っ」

加賀
テメェがトチ狂ったこと言うからだ

サトコ
「トチ狂う···」
「じゃあ···違うんですか?」

加賀
······
さあな

試すように笑う加賀さんが、なんだか悔しい。

(でも否定しないってことは、絶対···いや、きっと···たぶん···)
(···もしかしたら、当たってるのかも!)

サトコ
「いつか絶対、加賀さんの口から言わせてみせますから」

加賀
ほう。なんてだ?

サトコ
「え···だから、私のことが大大大す···」

またも言わせてもらえず、その続きは加賀さんの唇に絡め取られた。

サトコ
「···言わせてください」
「というか···言ってください」

加賀
言わせてみるんだろ、俺の口から
望むところだ。やってみろ

今度は私の言葉を邪魔するためではなく、優しく慈しむようなキスをくれる。
ほだされるように、その口づけの応えた。

(加賀さんに言わせる···なんて、一生無理かも)
(本当は、言ってくれなくてもいいって思ってるんだけど)

言葉はなくても、こうして態度で示してくれる。
それだけで、充分だと思えるのだった···

Happy End

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