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カレが妬くと大変なことになりまs(略:颯馬カレ目線

【颯馬マンション】

(相変わらず無防備な寝顔だな···)

そう思う自分の顔が緩んでいることに気付きながら、静かにサトコの寝顔を見つめる。
もう何度となくこうした朝を迎えているが、飽きることはない。

(飽きるどころか、愛しさが募るばかりだ)

自嘲していると、サトコの眉が可愛らしくハの字に下がった。

サトコ
「ん~···」

颯馬
お目覚めですか?

(また見つめ過ぎてしまったのか)

サトコ
「···おはようございます」

颯馬
おはよう

サトコ
「······」

そっとおでこにキスをすると、彼女は寝惚け眼でじっと見つめてきた。

(まだ夢の中?それともキスの余韻に浸ってる?)
(余韻なら、俺もまだまだ感じていたい)

颯馬
このままこうしていたいですね

サトコ
「はい···でももう起きないと」

颯馬
では、あと10秒だけ

サトコ
「あっ」

愛しさが余って、俺は布団ごと彼女を抱きしめた。

颯馬
準備はできましたか?

サトコ
「はい、なんとか···!」

バタバタと支度をするサトコを、朝食の後片付けをしながら見守る。

サトコ
「洗い物お願いしちゃってすみません」

颯馬
構いませんよ。家事はできる方がやればいいんです

サトコ
「はい」

エプロンで手を拭きながら言うと、彼女はにっこりと笑って頷く。

(いつか夫婦になる日が来たら、毎日こんな風に助け合っていくんだろうな)

サトコ
「そろそろ出かけます」

颯馬
忘れ物はないですね?

サトコ
「大丈夫ーー」

颯馬
ではないみたいですが

サトコ
「え?」

颯馬
スマホ

サトコ
「あっ!」

ダイニングテーブルに置きっぱなしのそれを見て言うと、彼女は焦って取りに来る。

サトコ
「危ない危ない···!」

颯馬
持ち物チェックは念入りに

サトコ
「はい···公安学校では装備品点検の訓練もしてたのになぁ」

颯馬
ふふ、あの頃の方が優秀でしたね

サトコ
「ううっ」

颯馬
ほら、急がないと予定の電車に乗り遅れますよ

サトコ
「あ、はい!」

慌てて玄関へ向かう彼女のあとをゆっくりとついて行った。

颯馬
いってらっしゃい

サトコ
「···」

玄関先で頬にキスをすると、彼女はその頬をほんのり染めて俯く。

颯馬
庁内でそんな顔をしてはダメですよ

サトコ
「···気を付けます」

颯馬
ああ、今夜は私が貴女の家に行きますから

サトコ
「はい」

頷いた彼女の顔が、一瞬不安げに曇った。

(来て欲しくないのか···?)
(ああそうか、部屋が綺麗か気にしているのかもしれないな)
(ふっ、サトコらしい)

思わず零れる笑みを隠すように、彼女を抱き寄せその髪に顔を埋める。
その瞬間、使い慣れているシャンプーの香りが鼻をくすぐった。

(俺の髪と同じ匂いだ···)

そう思って安堵するこの気持ちが、独占欲という醜い感情であることは承知している。

(情けないけど···許して)

浮かべた苦笑を誤魔化しながら、彼女を抱き寄せた肩を解いた。

サトコ
「じゃあ、いってきます」

(一緒に登庁できないのは残念だ)

笑顔で出て行く彼女を見送り、僅かな寂しさを感じながら踵を返した。

リビングへ戻ると、眩しいほどの日差しに思わず目を細める。

(今日もいい天気だ)

テレビの天気予報でも1日よく晴れると言っている。

颯馬
さて、俺も支度をするか

そう口にしながら、後ろ手でエプロンのリボンを解いた。
その余りにも自然な仕草に、自分でも驚いてしまう。

(···まさかエプロン姿で恋人を見送る日がくるとは)

改めて浮かべた苦笑いに、ひとり照れる俺だった。



【公安課】

颯馬
おはようございます

黒澤
おはようございます、周介さん

サトコ
「おはようございます」

サトコと時間差で登庁すると、黒澤のすぐ隣で彼女も何食わぬ顔で挨拶を返してきた。

(課内でのポーカーフェイスもだいぶ板についてきたみたいだね)

心の中で満足しながら、もちろん自分も何食わぬ顔で彼女の隣を通り過ぎる。
その瞬間にも、僅かではあるが彼女の髪の香りが感じられた。

石神
黒澤、午後の会議の資料、できてるな

黒澤
ハッ!だ、大丈夫です!会議までにはまとめます!

(そうか、今日は午後から捜査会議だったな)
(メインは後藤と黒澤が動いている案件だが、俺も出ておこう)



難波
よう、颯馬!

午後、会議室へ向かう途中、難波さんに会った。

颯馬
お疲れ様です

難波
いいところで会った。お前、今日これから時間あるか?

颯馬
···これから捜査会議なのですが

難波
そうか~

颯馬
どうかされましたか?

難波
いや、実はこのあとにある講演会に出てもらおうかと思ったんだが、会議じゃ無理だな

颯馬
講演会、ですか?

難波
公安学校におけるあれこれをお偉いさんの前で語るんだよ

(それはまた面倒そうだ)
(行こうと思えば行けなくもないが···)

颯馬
すみません、今日は外せない会議ですので

難波
まあ仕方ない。ここは若手の歩に行かせるか

(歩には悪いが、子愁傷様だな)

颯馬
お力になれず申し訳ありません

軽く手を上げて去っていく難波さんに一礼し、再び歩き始めると黒澤が追いかけてきた。

黒澤
周介さん!もしかして難波さんに誘われました?講演会

颯馬
ええ。丁重にお断りしましたが

黒澤
これから会議ですもんね
オレも会議がなかったら参加したかったのにな~

颯馬
出たかったのですか?

黒澤
元教官と卒業生が集まるっていうし、同窓会みたいで楽しそうじゃないですか!

颯馬
卒業生も

黒澤
はい。サトコさんたちも参加するみたいですよ

(そうだったのか···)

一瞬後悔が過る。

(まあ、断ってしまったものは仕方ない)
(夜には彼女の家で会えるわけだし)

(ん?)

絶妙なタイミングで、彼女からメッセージが届いた。

『急な仕事で外出することになったので、終わり次第連絡します』

(例の講演会のことだな······了解)

彼女が喜びそうなクマのスタンプを返した。

黒澤
誰からですか~?

颯馬
重要人物からです

黒澤
今度の捜査の?

颯馬
それより、会議の資料はまとめられたのですか?

黒澤
もちろんバッチリです!

必要以上に胸を張る黒澤と、会議室へ向かった。



【会議室】

会議が終わり、時計を見ると17時。

(思ったほど長引かなくてよかった)

サトコもそろそろ会場を出る頃かと思い、ふと窓の外を見る。

(雲行きが怪しいな···)

空には一面の分厚い雲で覆われ、窓にポツポツと雨粒が当たりだす。

後藤
降ってきましたね

颯馬
天気予報では1日快晴と言っていましたが···

黒澤
うわ、一気に強くなってきた!

(サトコ、傘は持っているだろうか)
(こんな酷い雨に濡れなければいいのだけど···)

みるみる豪雨となる窓の外を見ながら、彼女のことばかり心配していた。

【公安課ルーム】

課に戻ってしばらくすると、雨の勢いは少し落ち着いてきた。
外ももう暗くなり始めている。
が、まだ彼女からの連絡はない。

(講演会はもう終わっているはずだが···)

同行している歩もまだ戻ってきていない。

津軽
了解。酷い雨だったもんね~、お疲れ様

(ん?もしやあの電話は···)

津軽さんの話声が引っかかり、席を立つ。
手早く帰り支度をして、敢えて津軽さんの前を通る。

津軽
あれ、周介くん今日は早いね

電話を切った津軽さんが予想通りに食いついてきた。

颯馬
雨が落ち着いているうちにと思いまして

津軽
そうだよね、歩くんたちもずぶ濡れになって足止め食らったって

颯馬
ああ、今日の講演会に参加していたんでしたっけ

津軽
そうそう。雨宿りしているうちに遅くなったからそのまま直帰だってさ

(やはりそういう電話だったか···)
(歩が津軽さんに連絡してきたってことは、サトコも直帰させるということだろう)

上手く聞き出せたことに満足し、公安課を後にした。

【駅】

彼女の家の最寄り駅で待ち合わせをしようと連絡するため、携帯を手にした時だったー

東雲
じゃ

サトコ
「色々とありがとうございました」

(···!?)

ちょうど駅のロータリーに入ってきた車から、サトコが降りてきた。
運転席にいるのは、歩だ。

(送ってもらったのか······それは良かったが)

そう思いつつ、スマホを握る手に力が籠る。
モヤモヤした感情を抱いたまま彼女に電話を掛けると、さらに思いもよらない事実を聞かされる。

サトコ
『それで···同行した東雲さんのお宅で雨宿りさせてもらってたんです』

(お宅···!?)
(送られただけならまだしも······)

走り去る歩の車のテールランプを睨みつけるように見送りながら、必死に冷静を装う。

颯馬
そうでしたか、歩の家に

サトコ
『連絡が遅くなってしまってごめんなさい』

颯馬
いえ、色々と大変でしたね

沸々と湧いてくる醜い感情を何とか抑えて電話を切ると、すぐさま彼女の元へ急いだ。

颯馬
お待たせしました

サトコ
「いえ。早かったですね」

颯馬
···

彼女が微笑んだ瞬間、何とも言えぬ違和感を抱く。

(この匂い···)

彼女から漂う香りは、彼女の物でも、自分の物でもない。

(今朝は間違いなく俺と同じ匂いを漂わせていたのに)

サトコ
「あの、何か···」

颯馬
何でもありません。さあ、行きましょうか

努めて柔らかな笑顔を作り、彼女の手を取った。

(話はあとでゆっくり聞けばいい···)

サトコ
「美味しかったですね!」

颯馬
ええ、ご馳走様でした

予定通り彼女の家にお邪魔し、料理も作って食事も終えた。

(楽しく幸せな時間ではあるが、どうにも落ち着かない)
(料理中も彼女の髪から香る匂いが気になって仕方なかったし···)
(そろそろ本題に入るとするか)

颯馬
ところで···

ソファに座る彼女の隣に腰を下ろし、俺は切り出した。

颯馬
どうして貴女から、こんなにも彼の匂いが?

サトコ
「彼···?」

颯馬
この匂いは歩の匂いですよね?

サトコ
「!」

彼女の髪に鼻を近づけ詰問すると、彼女はギクリとして素直に白状する。

サトコ
「実は、東雲さんのお宅でシャワーもお借りしました」

颯馬
···

サトコ
「雨で全身ずぶ濡れになってしまったので···」

颯馬
なるほど···それで···

(予想はついていたが、やはり···)
(他の男の家で、しかもあの他人を寄せ付けない歩の家でシャワーまで···)

怒りとも悲しみとも言えぬ感情を抱きながら、彼女の髪を指を絡ませる。

(一刻も早く俺をイラつかせるこの匂いを消し去らなければ)

颯馬
俺にこの髪、洗わせて?

サトコ
「え···?」

颯馬
さあ

立ち上がり見下ろした彼女の顔には、戸惑いの色が浮かんでいた。

颯馬
お疲れ様でした

洗面台で彼女の髪を洗うと、少し気持ちが落ち着いた。

(不意に思い立った美容院ごっこだが、思いのほか楽しかった)
(サトコも気持ちよさそうにしていたし)
(まあ、最初はかなり戸惑っていたみたいだけど)

颯馬
では、乾かしていきますね

サトコ
「はい···」

ドライヤーを当てると、彼女がいつも使っているシャンプーの香りが広がった。

(ああ、この匂いだ···)
(俺が知ってる、サトコの匂い···)

実感すると共に、ささくれ立った心が安らいでいく。

颯馬
貴女以外の匂いがすると落ち着かないんです

サトコ
「え···」

思わず本音を零してしまった。

(···引かれてしまったか?)

颯馬
器量の狭い男でごめん···でも···

(これが本当の俺なんだ)
(嫉妬深くて、独占欲が強くて、サトコのことになると自制が利かなくなる···)
(それだけサトコが好きだから)

溢れる想いを抑えきれず、彼女の小さな背中を抱きしめた。
洗いたての髪に顔を埋め、彼女の匂いを胸いっぱいに吸い込む。

颯馬
やっと俺のサトコに戻った

サトコ
「···颯馬さん」

振り返った彼女の唇にキスをする。
何度も何度も、自分だけのサトコに戻ったことを確かめるように。

(元は教え子だった彼女に、これほどまでに執着してしまうとは···)

幾つも年下の女の子に抱くこの感情は、正直俺を戸惑わせ惨めにもする。

颯馬
馬鹿な男だと思ってる?

サトコ
「いえ···颯馬さんはとってもーー」
「んっ」

答えを待たずにその唇を塞いだ。

(自分で聞いておいて、その答えを聞くのが怖いなんて)
(ふっ···どこまで情けない男なんだ)

颯馬
そろそろ本気のお仕置きを始めようか

自分の弱さを誤魔化すように甘く彼女に微笑みかける。
そんな俺を真っ直ぐに見つめ返すサトコの唇が、静かに動く。

サトコ
「颯馬さんが怒ってくれるのは嬉しいです。それに···」

颯馬
それに?

サトコ
「颯馬さんの匂いに包まれていると···安心します」

(サトコ···)

颯馬
そんな殺し文句、どこで覚えたんだい?

(でも、そんな言葉に殺されるのも、悪くない···)

颯馬
それなら、もっと俺に染まって

サトコ
「あっ···颯馬、さん···」

尽きることのない想いを熱く甘く注ぎ込むように、ただひたすらに彼女を愛した。

Happy End

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