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カレが妬くと大変なことになりまs(略:東雲2話



歩さんが連れて来てくれたのは、以前から気になっていたカフェだった。

(ここへきて、また運気の急上昇を感じる···)
(やっぱりキノコパワー?)

店員
「こちらのテーブルどうぞ」

サトコ
「ありがとうございま···」

???
「それじゃあ皆さん、今日の出会いにカンパーイ!」

サトコ
「···ん?」

(今、隣のテーブルからすごく聞き慣れた声がしたような···)

黒澤
黒澤透、好きなタイプは優しくて冷たい人でーす!

颯馬
颯馬周介です。今日はよろしくお願いします

(く···黒澤さんと颯馬さん!?)
(えっ、何でここに···)

とっさにメニューで顔を隠す。

女性1
「お二人は警察官なんですよね?」

女性2
「同じ職場なんですか?」

颯馬
ええ、そうですよ

黒澤
毎日濃すぎる時間を共有しています

(なるほど、合コン中···)
(···じゃなくて!)
(どうしよう、せっかくの歩さんとの夜デートなのに、もし気付かれでもしたら···)

東雲
···ありえないんだけど
なんでいるわけ?

サトコ
「どうしますか···?」

東雲
出るよ

サトコ
「···」
「そう、ですよね」

(せっかく歩さんから誘ってくれたのに、このまま帰るのは寂しいけど)
(颯馬さんと黒澤さんにバレたら大変だし、仕方ないよね)

東雲
···

サトコ
「歩さん?」

東雲
べつのところ、行けばいいだけだから

(歩さん···)
(もしかして私が寂しがっていたことに気付いて···)

サトコ
「うっ···好きです···」

東雲
いきなり机に突っ伏すのやめて

サトコ
「今日一日蓄積された好きが爆発して···」

東雲
え、怖
いいから行くよ
こんなところで話してたら気付かれ···

颯馬
誰にですか?

東雲・サトコ
「!」

(この声···)

颯馬
こんばんは、偶然ですね

サトコ
「あ···」

東雲
······最悪

振り返った私たちを迎えたのは、爽やかな笑みを浮かべる颯馬さんだった。

颯馬
どうかしましたか?歩

東雲
いえ、おつかれさまです
······

(ああっ!『キミのせいでバレた』って顔に書いてある···)
(ごめんなさい···!すみません···!)

颯馬
まさかこんなところでお会いできるとは思いませんでした
2人は何を?

サトコ
「え、ええと···」
「実は私も偶然し···東雲さんにお会いしまして···!」

颯馬
そうですか
さすが元教官と教え子···随分と仲がよろしいんですね

東雲
···

(うっ···また歩さんの視線が痛い···)
(すみません···)
(これが颯馬さんの笑顔という名の圧に対して、私ができる精一杯の誤魔化しです···!)

黒澤
どうしたんですか、周介さ···
あれっ、歩さんにサトコさんじゃないですか!

サトコ
「!」

(黒澤さんにまで気付かれた···!)

颯馬
歩とサトコさんも飛び入り参加したいそうです

サトコ
「!?」

東雲

サトコ
「えっ、いや、そんなことは···」

黒澤
えっ、そうなんですか?
歩さんってば、最初から素直にそう言ってくれればいいのに!

東雲
ちょっ···押すな···

颯馬
サトコさんも、どうぞこちらへ

サトコ
「えっ」

(ええっ···!?)

数分後···

(なんで···)
(どうしてこうなったの···)

女性1
「東雲さんの髪の毛、すっごくサラサラですよね。羨ましー!」

東雲
ああ、うん

女性2
「しかも天使の輪、ありますよね?」

東雲
よく言われる

サトコ
「···」

歩さんは綺麗な女性2人に囲まれながら、淡々とグラスを煽っている。

(歩さんがモテすぎている···)
(いや、それはわかる。だって歩さんだし、かっこいいし···)
(でも···でも···!)

女性2
「髪、触ってみてもいいですか?」

東雲
オレのより、透の方がいいんじゃない?

女性1
「ちょっとつれないところもいいよね~」

女性2
「分かる~、塩対応?」

サトコ
「···」

(そうなんです。冷たいところもまたいいんです···)
(···って、違う!)

東雲
ってことで、パス

黒澤
いいですよ~!存分にオレを堪能してください

モヤモヤとする私とは反対に、歩さんはいつも通りだ。
歩さんが世界一カッコいいことも、髪のケガサラサラなことも。
冷たい態度に隠された優しさだって···
今日初めて会った彼女たちよりも、私の方がよくわかっているのに···

サトコ
「······」

(···なんて、別に歩さんはいつも通りなんだから)
(私だけヤキモチ妬いても仕方がないんだけど)

小さな嫉妬心を必死に押し込めていると、隣に座る颯馬さんがにこりと微笑みかけてきた。

颯馬
さすが歩は大人気ですね

サトコ
「···そうですね」

颯馬
元教官と大切な時間を過ごされていたのに、巻き込んでしまいすみません

サトコ
「いえ···」

(颯馬さんのこの笑顔は、悪いと思っていない顔だ···!)
(やっぱり最初から気付いていて、確信犯なんじゃ···)

東雲
······

(歩さんは歩さんで、女の人に囲まれているのに平気そうだし)
(······歩さんのバカ···キノコ···)
(もう、こうなったら···)

目の前のグラスに注がれていたお酒を一気に飲み干す。

颯馬
大丈夫ですか?そんなに一気に飲んで

サトコ
「はい、今日は飲みたい気分ですから!」
「よし、追加でサングリアも···」

颯馬
···まったく
酔ってしまうと、彼以外の人が貴女をお持ち帰りするかもしれませんよ?

(え···)

私を見つめる眼差しが、微かに揺れた気がした。
その視線はどこか色っぽくてーー

サトコ
「あの、彼以外って···」

颯馬
···

サトコ
「というか私をお持ち帰り、というのは···」

颯馬
そのままの意味ですよ
サトコさんは魅力的な女性ですから

(ち、近い近い···!)
(いつもお世話になっている颯馬さんとはいえ、綺麗な顔が近くになるのは心臓に悪い···っ)

逃げるように、グラスに入ったお酒を煽っていく。
気が付けば、いつもよりも随分と多くの量を飲んでいて···

(あ···なんだか眠気が···)
(いや、ここで寝たらダメ···ちゃんと意識をしっかり···)

サトコ
「······」

(しっかり···)



サトコ
「···ん···?」

目を覚ますと、優しく揺れる何かに運ばれていた。

(あれ···?)
(確か私、歩さんと一緒にカフェに行って颯馬さんたちと会って···)

東雲
起きた?

サトコ
「!」

(歩さんにおんぶされてる···!?)

サトコ
「す、すみません···!降ります!」

東雲
いい。もうすぐオレの家着くし

サトコ
「えっ」

東雲
タクシー使ったから

(なるほど···)
(って、んん?)
(つまり、このままお泊りコースということじゃ···)

サトコ
「すみません、ありがとうございました」
「重かったですよね···」

東雲
ほんとにね

(って、あれ?降ろしてくれない···?)
(というか、このままだと寝室に行くことになるような···!)

いつもより優しく、シーツの上に横たえられた。

(まるでお姫様待遇···)
(やっぱり今日の歩さん、なんだか雰囲気が違···)

サトコ
「!」

東雲
脱いで
つーか、脱げ

(ぬっ···!?)

驚く私の足を捕らえ、歩さんがベッドに上がってくる。

サトコ
「き···教官···!?」

東雲
だから教官じゃない
ほら、さっさとして

咄嗟にスカートを押さえた手を剥がされる。
そのまま内ももに唇を寄せられてーー

(もしかして、キッス···!!)
(今日の歩さん、本当にどうしたの···!?)

肉食獣になったのは、私ではなく歩さんの方じゃないか。
早まる鼓動と熱くなる頬とは裏腹に、変に冷静な頭がそんなことを考える。

(で、でも!歩さんのキッスならいつでも受け止めたい···!)

脚を掠める吐息と指先に、思わずぎゅっと目を閉じかけて···

東雲
···なに、その顔

サトコ
「···え」

東雲
これを脱げって言ってるだけなんだけど

サトコ
「······これ?」

東雲
キミが履いてるヤツ

(···うん?)
(履いてる···?)

サトコ
「もしかして···ストッキングの話ですか?」

東雲
そう
他に何があるの?

(あ···足にされるんじゃなかった···!)
(確かに最初に脱げって言ってたような···)

東雲
まさか、足にキスされるとでも思った?

サトコ
「!」

東雲
図星
でもキミ、まだシャワーも浴びてないよね
だから、イ・ヤ

サトコ
「うっ」

(な、なんか傷つく···!)

サトコ
「す、すぐに浴びてきます!」

東雲
待て

立ち上がった私を、歩さんの声が呼び止める。
振り返ると、ベッドに腰掛けた歩さんに見つめられていた。

東雲
そんなに期待してたんだ?
キス

サトコ
「それは···」

<選択してください>

した

(期待したのは事実だし、歩さん相手に誤魔化せる気がしない)
(ここは素直に···)

サトコ
「しました···」
「···だって、歩さん今日いつもと違うから」

東雲
何が?

サトコ
「ピーチネクターくれるし、気になってたお店連れて行ってくれるし···」
「仕事だってさりげなくフォローしてくれたし···」
「さっきだってお姫様待遇だったし···」

していない

サトコ
「ち···違います」

東雲
ふーん···この期に及んで誤魔化すんだ
目、閉じようとしていたのに

サトコ
「!」

東雲
ま、足へのキスに目を閉じるっていうのもよく分かんないけど
キミらしい反応だよね

サトコ
「!!」

(これは···誤魔化せない···)

サトコ
「本当は期待、しました···」
「···だって、歩さん今日いつもと違うから」

東雲
···なにが?

サトコ
「珍しくピーチネクターくれるし、さっきもお姫様待遇だったし···」

言い訳する

サトコ
「ま、紛らわしいことしたのは歩さんです···」

東雲
へー···責任転嫁?
勝手に勘違いしたのはそっちなのに

サトコ
「それは···」

(誤魔化せない···正直に話すしかないよね)

サトコ
「本当は、しました···」
「···だって、歩さん今日いつもと違うから」

東雲
違う?

サトコ
「珍しくピーチネクターくれたり優しいし、さっきもお姫様待遇だったし···」

サトコ
「···でも、女の人たちに言い寄られたときはいつも通りで···」

僅かに残った酔いが、隠そうと思っていた本音をずるずると引き出していく。

サトコ
「私だけ振り回されてる気がして···」

東雲
···

うつむく頭に、視線を感じる。
思わず顔を上げると、呆れたようなまなざしがそこにあった。

東雲
ふーん···いつも通り、ね
そう見えたんだ。キミには
だったら観察不足

サトコ
「え···?」

東雲
ていうか、よく言うよね。そんなストッキング履いておいて
ありえないから

(えっ)
(颯馬さんからもらったストッキングがダメってこと···?)
(でも、それって何だかヤキモチみたいな···)

じんわりと押し寄せてくる嬉しさに、頬が緩んだその時。
ぐっと腕を引かれてーー

サトコ
「!」

(キッス···!)

サトコ
「ほ、ほんとにしてくれた···!しかも唇に···っ」

東雲
うるさいから

サトコ
「えっ!そんなに言ってませんよ···!?」

東雲
顔が言ってた

サトコ
「じゃあ、アンコールお願いします···!」

東雲
無理

サトコ
「そう言わず···!」
「あと1キッスだけでも···」

東雲
1キッスって···
しないから

サトコ
「歩さん!!」

東雲
って、抱きつくな!
シャワー浴びてこい···!

サトコ
「先に歩さんを堪能させてください!」

東雲
ちょっ···

逃げられないように、ぎゅっと抱きつく。

(いろいろあったけど、やっぱり今日はいい一日だった)
(それはきっと···)

分かりづらい優しさもヤキモチも。
全部、最後にはこうして私だけに見せてくれたから。

結局ストッキングを脱がされ、歩さんの家にお泊りして迎えた翌朝。

(今日は電車が遅延することもなく、玄関先で躓くこともなく無事に登庁!)
(昨日のキノコパワー···いや、歩さんパワーが持続している気がする···)

ふと、足元に視線を落とす。
纏っているのは、今朝おろしたばかりの新品だ。

(でも、まさか歩さんが···)

今朝、ストッキングを履こうとした時のことーー

(あっ、急なお泊りだったから用意がなかった···!)
(とりあえず昨日のを履いていって、途中で着替えようかな)
(コンビニに寄ってーー)

サトコ
「あれっ!?」

(昨日もらったばっかなのに伝線してる···!?)
(ど、どうして···)

東雲

サトコ
「わっ!」

突然、洗面所から出てきた歩さんに何かをぽいっと投げられる。

東雲
履けば

サトコ
「これ···!」

(ストッキング···!)

サトコ
「あ、歩さんが私に···!?」

東雲
他に誰がいるの

サトコ
「···」

東雲
なに

サトコ
「いえ、なんだか履くのがもったいなくて···」
「······やっぱり、一生履きません···」

東雲
履け

(しかもその後、まさかまさかの歩さんからの朝キッ···)

颯馬
サトコさん、おはようございます

サトコ
「!」
「颯馬さん···!おはようございます」

颯馬
···

サトコ
「?」

颯馬
今日は無事のようですね

サトコ
「え?あっ、はい!今日は大···」

東雲
ええ、オレが朝ちゃんとチェックしましたから

(あ、歩さん!?)

颯馬
なるほど、そういうことですか
良かったです

颯馬さんは意味深な微笑みを残し去っていく。

(そういうことって!?)

東雲
不審者

サトコ
「えっ」

東雲
顔。ずっとニヤけてたし

サトコ
「そ、それは···」
「···」

東雲
···キモ

サトコ
「きもくないです!」
「つい朝キッスを思い出していただけで···」

東雲
キモ

サトコ
「2回言わないでくださ···」
「って、ちょっと待ってください···!」

あわてて、大好きな背中を追いかける。
そんな今日はきっと、昨日よりもいい一日になる予感がした。

Happy End

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