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本編① 津軽4話

オモチャ売り場で迷子を保護しようとしていると。
突然女性に頬をビンタされた。

サトコ
「······」

(···なにごと?)

女性
「この子に何しようっていうのよ!」

サトコ
「迷子のようなので、案内所に連れて行こうと···」

女性
「余計なことしないで!こっちに来なさい!」

美少女
「······」

女性は女の子の手を掴んだ。
どこか引きずるように私から引き剥がす。

美少女
「······」

(あの子、こっちを気にしてるけど、逆らう様子はない···大丈夫かな)

女性
「今度変なことしたら警察呼ぶわよ!」

(私が警察なんですが···)

客A
「ねぇ、あれ···」

客B
「見ちゃダメよ」

店員
「お客様、大丈夫ですか?」

サトコ
「···はい。問題ありません」

女性
「ふん!」

サトコ
「······」

女の子は何回かこちらを振り返りながらも去っていく。

(迷子かと心配しただけなんだけどな)
(あれが噂に聞くモンペってやつ?)

ひりつく頬を押さえながら、遠ざかる小さな背中を見る。

(かなり可愛い子だったし、危ない目によく遭ってるのかも。それで過敏になってるとか···)
(それより、“ラブピュア” ステッキ!)

“ラブピュア” のコーナーを見つけた私は、そちらに走った。

お遣いを終え、公安課に戻った私に再び視線が集まるのを感じる。

公安員A
「おい、あいつの頬···」

公安員B
「見るなよ。関わらない方がいい」

(今朝の占いを見てたら、『特別注目されるラッキーデー』とか言われてたのかな?)

黒澤
あらら、サトコさん。初日からほっぺに可愛いモミジが···大丈夫ですか?

サトコ
「いろいろありまして」

颯馬
班長とおそろいにするのが贖罪?

サトコ
「まあ、そんなところです」

(因果応報ってやつ?)
(津軽さんが戻ってきたら、一応謝った方がいいのかな···)

公安員A
「あいつの手にあるの、 “ラブピュア” の···」

公安員B
「津軽さんも人が悪いよな。新人の氷川を使う気なんて、さらさらないだろ」

公安員C
「まあ、ぶっちゃけどんだけ成績優秀でも、現場では使えないのがほとんどだし」

公安員A
「だから、十数年前のあの事件も···」

聞こえる声を雑音に変えようと努力していると。

黒澤
だーれだ?

後ろからパフッと耳を塞がれた。

サトコ
「黒澤さん、見え見えです」

黒澤
そう見せかけて違うかも

サトコ
「ここで遊んでると怒られますよ」

(陰口が聞こえないように、気を遣って···)

いかにも黒澤さんらしい気遣いだと思う。
有り難いけれど。

(私はもう訓練生じゃない。自分のことは自分で解決しないと!)

サトコ
「ほら、やっぱり黒澤さんだった」

耳から両手を外し、笑顔で振り返る。

サトコ
「ありがとうございます」

黒澤
······

大丈夫だというように頷くと、黒澤さんも笑みを返してくれた。

黒澤
次は簡単に見破られないように仕掛けますね

サトコ
「負けませんよ」
「···負けてられないです。噂話に振り回されるほど子供じゃないですし」
「捜査に出してもらえるか、津軽さんに直接聞いてみます」

黒澤
前向きですね

サトコ
「だって、今日は初日ですよ。笑顔で行くって決めたんだし。張り切っていかないと!」

自分で自分をそう鼓舞し残りの時間を書類仕事にあてていると、あっという間に夜になる。

津軽
ただいま~

20時になろうかという頃、百瀬さんを連れて津軽さんが戻ってきた。

(話をしよう!)

戻ってきた津軽さんに頭を下げて、会議室まで来てもらった。

津軽
捜査に出たいって?さっき行ってきたばっかりじゃない
あ、“ラブピュア” ステッキは?

サトコ
「ここに。ですが、これは捜査じゃなくてお遣いです」
「百瀬さんのように同行させてください!」

津軽
まあ、そう焦らないで。初日でしょ

サトコ
「何事も初めが肝心といいますし」

津軽
久しぶりの大型新人だから、じっくり育てたいんだよね

津軽さんは “ラブピュア” ステッキの箱を開け始めた。

サトコ
「それ、長官のお孫さんに渡すものじゃ···」

津軽
単四電池2本別売りだって

サトコ
「電池も一緒に買ってあります。袋の中に入ってます」

津軽
あった、あった
え、これ電池入れるのにドライバーいるじゃん
ドライバーは?

サトコ
「すみません。そこまでは···」

津軽
電池入れられないなら、遊べないね

津軽さんは電池の入っていない “ラブピュア” ステッキをクルクル回して遊ぶ。

サトコ
「津軽さんが遊ぶために買ってきたんじゃないですよね?」

津軽
ウサちゃんがコレ持ってきて交通安全とかやったら、盛り上がりそう
交通課に企画出してみようか?

<選択してしまう>

私は交通課じゃありません

サトコ
「私は交通課じゃありません」

津軽
交通課の制服似合うよ

サトコ
「そういう話をしてるんじゃなくて···」
「私が配属されたのは公安課です!だから、私に仕事をください!」

真面目に話をしてください

サトコ
「真面目に話をしてください」

津軽
もっと真面目にやりたい?
衣装もレンタルしなきゃダメってことか···

サトコ
「だから、そういう話じゃなくて···」
「私が配属されたのは公安課です!だから、私に仕事をください!」

津軽班の仕事ならやります

サトコ
「それも津軽班の仕事だと言うならやります」

津軽
え、やりたいの?もしかしてコスプレ願望ある?

サトコ
「それが仕事ならって話です!仕事はやります」
「私が配属されたのは公安課です!だから、私に仕事をください!」

津軽
そう騒がないの。 “焼きウサギ” は、そんなふうにギャーギャー言ったりする?

サトコ
「 “焼きウサギ” ?」

津軽
 “焼きウサギは” お喋りしない。マスコットは余計なことは言わない

サトコ
「!」

津軽さんの顔は笑ってる。
いや、正確にはーー目だけが笑っている。

(···怖い)

本能的な恐怖心。
口の中が渇く。

津軽
だよね?

サトコ
「······」

(私はマスコット···お飾りってこと?)
(ここで頷いたら、きっとずっと仕事はもらえない!)

サトコ
「私は···!」

津軽
これ、お土産にあげる。出張で行った福岡土産の明太胡麻チョコレート

サトコ
「今、お土産は結構です。それより私を捜査に出してください!」
「津軽班のマスコットになる気はありません」

津軽
ふーん

サトコ
「ふーん···じゃなくて!雑用からでも何でもやりますから!」

ぐっと身を乗り出すと、目の前で “ラブピュア” ステッキがくるりと回った。

津軽
はい、ここで津軽クイズです

サトコ
「はい?」

津軽
この人は誰でしょう?

津軽さんが1枚の写真を机に出した。
そこには髪がボサボサで眼鏡をかけた男性が写っている。

サトコ
「この人は···」

ニュースや新聞で見たことのある顔だった。

サトコ
「遺伝学で注目されてる博士ですよね?」
「遺伝形質について新説を出すのではと騒がれている、研究チームのリーダー···」
「ええと、ご···」

津軽
五ノ井慧悟(ごのい けいご)博士
はい、津軽くん5ポイント!

サトコ
「出題者が答えるなんて反則です!」

津軽
この博士の食生活をみっちり調べ上げることができたら、捜査に参加させてあげるよ

サトコ
「!?」

また津軽さんが笑う。
この人の笑顔ーー

(嫌い···)

かもしれないーー

to be continued

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