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あの日、僕らは隠れてキスをした 後藤2話

公安課の旅行恒例になりつつある卓球大会。

津軽
···らぁ!

石神
かすりもしないな

加賀
やる気がねぇなら、引っ込んでろ

百瀬
「次は俺がやります」

石神さん、加賀さんコンビ VS 津軽さん、百瀬さんコンビの試合が始まる。

(津軽さんのラケットが1回も玉に当たってないのが気になる···)
(ものすごい運動音痴なのでは?)

後藤
氷川

試合を見ていると、誠二さんが卓球場の外から小さく手招きしている。

(誰も見ていないよね?皆、卓球に夢中だし···)

津軽
うらぁっ!···今、当たったよね!?

百瀬
「当たりました」

石神
当たっていない

津軽
当たった

加賀
当たったなら、なんで玉が返ってこねぇんだよ

津軽
こうなったら、多数決だ!

石神
そんなふざけた方法で決められるか

加賀
徹底的につぶしてやる

津軽
意地悪コンビめ···!

(よし、今だ!)

皆さんの意識が津軽さんたちに向かっているうちに、私は卓球場をそっと抜け出した。

旅館を出て、庭園から続く竹林へと入って行く。
かつては遊歩道になっていたのか、何となく道があった。

後藤
女将に聞いたんだ。この先に小さな社と龍神の滝があるらしい

サトコ
「ここ、遊歩道の名残ありますよね?」

後藤
数年前までは、整備されていたらしいんだが···

誠二さんが、当時のパンフレットを取り出して見せてくれる。
そこには旅館と一帯の観光スポットが書かれていた。

サトコ
「すっかり寂れちゃったみたいですね···」

後藤
近くに大型スパ施設がオープンして、そちらに客を取られたそうだ
あの旅館も今の女将の代で畳むらしい

サトコ
「そうなんですね。いいお湯の旅館なのに、もったいないな···くしゅんっ」

くしゃみをすると、誠二さんが浴衣の羽織をかけてくれた。

後藤
これで、どうだ?

サトコ
「あったかいです···でも、誠二さんが···」

後藤
俺なら大丈夫だ

サトコ
「じゃあ、こうしましょう」

温もりを分けるように誠二さんの腕に自分の腕を絡めると、引き寄せる。

後藤
···同じ匂いがするな

サトコ
「え?」

後藤
温泉の匂いだ

髪に顔を寄せられると、ますます距離が縮まる。

サトコ
「今夜の誠二さん、いつもより温かい気がします。温泉効果かも」

頬を胸に寄せると、そっと髪を撫でられた。

後藤
俺でよければ、いくらでも温まれ

サトコ
「誠二さんも温まってください」

後藤
ああ

滝に向かう足を止め、私たちはしばらく抱き合っていた。

無事に社にお参りし、滝を鑑賞してから宿に戻ると。
旅館の中はシン···としていた。

サトコ
「やけに静かですね···皆、寝ちゃったんでしょうか?」

後藤
それには時間が早い気がするが···

サトコ
「確かに、宴会真っ只中でいい時間···黒澤さんも難波さんもいるんだから···」

後藤
···気になるな。とりあえず、卓球場に行ってみよう

課を見合わせて頷き、卓球場に行ってみるとーー

全員
「······」

(全員が床に突っ伏して死屍累々状態···)

サトコ
「あの、これは···」

後藤
···見なかったことにしよう

津軽
当たった···当たったんだよ···

加賀
テメェと球技は絶対しねぇ···

百瀬
「さすがです、津軽さん」

難波
いやー、全力の交流になったなー

佐々木鳴子
「イケメンの摂取しすぎで、過呼吸になりそう···」

皆さんうつ伏せ状態で話すものだから、声がくぐもっている。

後藤
行くぞ

サトコ
「み、皆さん、お疲れさまでした!」

目が合ったら逃げられなくなると思い、私たちは振り返らないと誓い卓球場に背を向けた。

サトコ
「ふー···」

卓球場をあとにしてから、夜の散歩で冷えた身体を温めるために、もう一度温泉に入った。

(気持ちいい···誠二さんもお風呂行ったかな)
(夜の滝を見つめる誠二さん、格好良かったなぁ)

サトコ
「誠二さん···」

思わず名前を呼んだ時、バチャッと水音がした。

サトコ
「鳴子?」

後藤
サトコ?

サトコ
「誠二さん!?」

湯煙の向こうに見えたのは、鍛え抜かれた肉体。

サトコ
「幻···?」

(私、そんなに誠二さんの裸が見たかったの!?)

後藤
幻じゃない。ここは男湯だ

サトコ
「え!?でも、私が入った時には、確かに女湯の暖簾が···」

後藤
ああ···そういうことか

お湯の中を歩いてこちらに来ながら、合点がいったという顔をした。

後藤
今、0時を回ったばかりだ。男湯と女湯が入れ替わる時間だ

サトコ
「そういうときって、前もって看板とか出ませんか!?」

後藤
この旅館も人手不足らしいからな。とりあえず、今のうちに出ろ
外まで一緒に···

行くーーと、誠二さんが言いかけた時だった。

東雲
卓球で汗まみれとかダサ

颯馬
歩の額にも前髪、貼り付いてますよ

石神
酒盛りよりは健全だ

津軽
え、このあと徹夜で呑むんでしょ?

ガヤガヤと皆さんの声が聞こえてくる。

サトコ
「ど、どうしましょう!」

後藤
隠れろ!

私を抱き寄せ、誠二さんは岩陰に身を隠す。
すぐに皆さんがお湯に入ってくる音がした。

サトコ
「あ、あの···」

後藤
しっ

濡れた肌がぴったりと密着する。
顔がその胸に押し当てられ、いつもより速い誠二さんの鼓動が聞こえてきた。

(ど、どうしよう···動けない···)

黒澤
それにしても後藤さん、どこに行っちゃったんでしょうね~

石神
近くに滝があるらしい。それを見に行ったんじゃないか

後藤
······

サトコ
「······」
「あ、あの、これから、どうすれば···」

小さな声で聞くと、誠二さんは岩陰から慎重に向こうを窺っている。

後藤
このあと呑むと言っているから、そう長湯はしないだろう
出て行くまで待とう

サトコ
「は、はい···」

後藤
······

サトコ
「······」

黙って抱き合っていると、お互いの肌の熱さばかりを意識してしまって。

サトコ
「あ、あの。誠二さん···」

もぞっとすると濡れ肌が擦れ合い、誠二さんが小さく息を詰めた。

後藤
···頼むから、動かないでくれ

サトコ
「す、すみません···っ」

(ダメ、頭がクラクラする···)

後藤

誠二さんが小声で私の名前を呼んだーー気がした。

サトコ
「ん···」

目を開けると、古びた天井が見えた。
次に目に入ったのは、うちわで扇いでくれている誠二さん。

サトコ
「あの、ここは···」

後藤
一部屋借りた。俺しかいないから、安心しろ
温泉でのぼせたんだ。すまなかった。そうなる前に連れ出せなくて

サトコ
「いえ、そんな···何から何まで、すみません」

後藤
気分はどうだ?

誠二さんの手が優しく髪を梳いてくれる。

サトコ
「気持ちいいです」

後藤
そうか

ほっとした顔で微笑んでくれる。

後藤
今度は、ふたりきりで温泉に入れるところに行こう

サトコ
「はい。楽しみです」

おりてきた唇に目を閉じると、触れる柔らかな感触。

サトコ
「ん···」

後藤
······

手が重なると指を絡め合って。
遠くに宴会の音を聞きながら、キスは深くなっていった。

Happy End

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