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月夜に隠した宝物 津軽1話

好きな人に好きになってもらえたら、“ 特別な女の子 ”になれる。
“ 特別な女の子 ”の毎日は砂糖菓子のように甘く甘くーー
いや、公安刑事は、そんなに甘くない。

黒澤
そういえば、サトコさん。今年はお月見しました?

サトコ
「お月見···あれ?もうそんな時期でしたっけ···?」

黒澤
やだなーサトコさんってば、もうとっくに過ぎてますよ
今年の中秋の名月は10月1日です

サトコ
「え、そうだったんですか!?」

気が付けばもう10月どころか11月も終わろうとしていて、月日の流れというのは恐ろしい。

(今年の10月は特別だったから···)

脳裏に浮かぶのは目に染みる夕焼けと手に残された温もり。
この秋、私と津軽さんの関係は少し変わった。

黒澤
とはいっても、名月はまだまだ楽しめますよ
これからの季節、空が澄んでますから

サトコ
「そうですよね!最近はスーパームーンとかストローベリームーンとか、よく聞きますし」

黒澤
カップルで楽しむのに、ぴったりですね★

サトコ
「はは···好きな人と見られたら素敵ですね」

意味深に聞こえなくもない黒澤さんの言葉をサラッと受け流す。

サトコ
「というか黒澤さん、月に興味あったんですね」

黒澤
オレってこう見えてセンチメンタル男子なんで···
ほら、月って儚いじゃないですか?かぐや姫の話だって···

サトコ
「まあ···そう言われれば···」

(月と言えば、お月見団子のイメージしか湧かなかったとは言えない···)
(でも津軽さんにウサちゃんって呼ばれるようになってから、何となく親近感あるかも?)
(津軽さんとお月見とか···楽しい、かな···)

黒澤さんとそんな話をしてから、ロビーを歩いていると。

女性警官A
「津軽さんへの差し入れあるんですよ~♪」

女性警官B
「私も出張のお土産あります!」

津軽
ありがと

いつものように、ぞろぞろと女性警官を連れて歩いている。

(だんだん、見慣れた光景になってきた···)
(毎回、さりげなくメンバーが入れ替わってるところがすごい)

実は津軽さん不可侵条約でもあるのでは···と思ってしまう。

津軽
ん?

離れたところから見ていると目が合ってしまった。
このシチュエーションで見つかることが意外と多い。

(もしかして津軽さんも私を探してくれてたり?)

つい相手の姿を探してしまう···それが恋というものだろう。
女性の輪から抜けて、こっちに歩いてくる。
この瞬間がたまらなくくすぐったい。
だって、津軽さんはーー

津軽
優先順位はウサと同列じゃないだろ

なんて言ってくれるから。

サトコ
「津軽さんって、かぐや姫みたいですよね」

津軽
ウサちゃん···ヤキモチでどうにかなっちゃった?

サトコ
「妬いてませんって。津軽さんは顔がいいんですから」

津軽
それは事実だけどさー···

サトコ
「全国各地のお土産を献上されてる姿、なかなかのものでしたよ」

津軽
美味しいものがあったら、お裾分けしてあげるよ

サトコ
「津軽さんが美味しいと思わないものでお願いします···」

津軽
それよりさ···

話題を変えるように津軽さんが腕を組み替えた。

津軽
来週の木曜の夜、空けておいて

サトコ
「仕事ですか?」

津軽
俺の部屋に集合ね

(津軽さんの部屋に集合って···お家デートってこと?)

お互いの部屋を何度も行き来しているが、両想いになってからは特別なことに感じられる。
津軽さんも特別に思ってくれてたらいいなって···そう思った。

今日は大きな事件も起こらず、定時を少し過ぎて帰る準備をしていると。

津軽
ん、よしよし

気付けば津軽さんが真後ろに立っていた。

サトコ
「よしよしって、なにが···」

それは津軽さんの視線を追えばわかった。
彼が見ているのは私のデスクのに置かれている卓上カレンダー。
小さく〇がついている木曜日。

津軽
ピンクのペンか~。可愛い、可愛い

サトコ
「し、仕事の予定と分けてるだけです!」

恥ずかしさから、そう言ってしまったけれど。

(私の一方通行じゃないんだから)

サトコ
「た、楽しみの印です」

津軽

正直に答えると後ろの津軽さんの手がぴくッと動いて、一瞬手がぶつかった。

津軽
···俺もだよ

私でもやっと聞こえるような小さな声だった。
なのに胸の奥から熱くなって耳や頬まで赤くなりそうだ。

(落ち着いて!ここは職場!!)

指先がかすめるようなかすめないような、微妙な距離で動かしていると。

百瀬
「津軽さん!商業ビルに爆破予告です!」

サトコ
「!」

津軽
場所は

百瀬
「東京駅付近の···」

百瀬さんがPCの画面を見せる。

津軽
爆発物処理班に連絡。装備整えていくよ

百瀬
「はい」

サトコ
「はい!」

仕事モードに切り替え、私たちは急いでバンに乗り込んだ。

装備を整えた警官を先頭に、爆発物の捜索を始める。
津軽さんは全体の指示を、私と百瀬さんは周囲に怪しい人物がいないか調べていく。
インカムから聞こえる津軽さんの声。

津軽
爆破予告するような連中は、近くで様子を見ている可能性が高い
これだけ人通りの多い場所だ。留まる人間がいれば、すぐに分かる
逃がすな

百瀬・サトコ
「はい」

2人1組で行動するため、私は百瀬さんと動いていく。

百瀬
「留まるといっても、ぼーっと見てる馬鹿はほとんどいねぇ」
「場所は違っても同じ顔を見たら注意しろ」

サトコ
「はい」

一般人に紛れ込みながら様子を見て回ると。

サトコ
「···百瀬さん、あの男。さっきも別の角で見ました」

百瀬
「ああ。この周辺を3回まわってる」

津軽
爆弾、確保。処理済み。そっちは?

百瀬
「怪しい男ひとりマークしています」

津軽
じゃ、連れて来て

百瀬
「了解」
「俺は左から行く。お前は右から行け」
「騒ぎにならないように、静かに拘束するぞ」

サトコ
「はい」

(拘束した時の反応で、大体わかる)
(関係なければ戸惑って怯えるだろうし、関係者なら動揺が顔に出るか開き直るか···)

百瀬さんと歩調を合わせ、アイコンタクトを交わして男の両脇に位置を取った。

百瀬
「警察だ」


「!」

サトコ
「同行願います」


「···っ」

百瀬
「······」

百瀬さんが男を視線だけで圧する。
汗を滲ませる男を確保することに成功した。



「俺が何したっつーんだよ!!」

確保まではスムーズにいったものの。
取調室に来た男は開き直ったように暴れ始めた。

津軽
······

百瀬
「······」


「善良な市民をイジメて楽しいのかよ!証拠はあんのか、証拠は!」

男は手錠でつながれた手をバンバンっとデスクに打ち付ける。

百瀬
「一度沈めますか?」

津軽
そーだねぇ

サトコ
「沈めるって物騒な···とりあえず、話をちゃんと聞いてみましょう」

男がずっと暴れているため、まだ誰も向かいに座ってないし名前すら聞いていない。

百瀬
「こいつにやらせたらどうですか。取り調べ」

津軽
んー···

サトコ
「やらせてください」

津軽
いいけど、手の届く範囲には入るなよ

サトコ
「はい」

津軽さんの許可が下り、私は男の向かいに座る。


「あ゛あ゛!?女!?俺を舐めてんのか!」

サトコ
「あなたが今回の件と無関係なら、きちんと話を聞かせてください」
「関係があったとしても、話さなければいらぬ罪まで被ることになりますよ」


「······」

サトコ
「私たちを敵だと思わないでください。必要があれば、力になります」


「あんた···」

はっと気が付いたような顔で、男が身を乗り出してきた。


「俺が好きなのか!?」

サトコ
「!?」

津軽
······

何か言葉が発せられたわけでもないのに。
取調室の空気が鉛でも乗せたようにズンッと重くなった。

to be continued

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