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加賀 出会い編 10話

加賀教官が、迷うことなく1本のコードを切る。

サトコ
「っ‥!」

思わずギュッと目を閉じて待つが、爆発音は聞こえなかった。

サトコ
「と、止まった‥」

恐る恐る目を開けて見てみると、時限装置の表示が残り3秒で止まっている。

サトコ
「や、やった‥!教官、解除に成功したんですね!」

加賀
当然だ。俺を誰だと思ってる

立ちあがろうとした加賀教官が、ちらりと視線を落とす。

加賀
‥‥おい

その視線を追いかけると、無意識のうちに震える手でスーツの裾を握りしめていた。

サトコ
「わっ!す、すみません!」

加賀
いいから、さっさと立て

サトコ
「は、はい」

立ち上がろうとすると、無理をしてここまで走ってきたせいか、
この間、竹田の尾行時に怪我をした足が痛んだ。
よろけた私を、教官がまるで予期していたかのように支えてくれる。

サトコ
「‥重ね重ねすみません」

加賀
無理しやがって‥お前は後先考えなさすぎる
もし、あのコードが間違ってて、爆発したらどうするつもりだった?

サトコ
「‥でも、教官を信じてましたから」

加賀
‥バカな奴だ

サトコ
「わかってます」

笑う私の体を、教官が担ぎ上げる。

サトコ
「だ、大丈夫です!歩けますから!」

加賀
喚くな。まだ足が治りきってねぇんだろ
見てりゃわかるんだよ。危なっかしくて目が離せねぇ

サトコ
「教官‥」

その時、奥の方から走ってくる足音が聞こえた。

颯馬
加賀さん!サトコさん!

後藤
無事ですか

加賀
お前ら、どこから来た?

後藤
今は使われていない入口を、歩が割り出しました

颯馬
少し骨は折れましたが、このまま問題なく退避できます

颯馬教官が後ろを指して説明してくれる。

後藤
‥爆弾は解除できたんだな

サトコ
「はい‥加賀教官のおかげで、なんとか」

颯馬
2人のお手柄ですね

加賀
‥まあな

その言葉に、思わず教官を見つめてしまう。

(今まで、私を認めてくれるようなことは一度も口にしたことないのに‥)

そう思っていると、入り口の方でまた天井が崩落する音が聞こえた。

颯馬
ここもそう長くは持ちません。急ぎましょう

加賀
ああ

教官が、私を担いだまま歩き出す。そうして私たちは崩れ落ちる備蓄倉庫を脱出した。

【ホテル 外】

加賀
んだよ、いいとこ取りか

石神
あの爆弾魔‥梅田が裏口から竹田を逃がしたところを、ちょうどうちのチーム員が確保した
梅田も、お前たちを救出に行く前に後藤と颯馬が捕えた

サトコ
「そうだったんですか‥」

石神
‥氷川

メガネを持ち上げて、石神教官が私を見る。

サトコ
「勝手な真似をして申し訳ありません‥!」

石神
一歩間違えば、大惨事につながるかもしれなかったのはわかるな

サトコ
「はい‥」

石神
今回は結果的に問題なかったが、大勢の命が失われるかもしれなかった
お前の行動は、ここにいる全員の人生を左右した可能性もあることを肝に銘じておけ

サトコ
「はい!」

石神
‥まあ、お前よりも、問題は加賀だが

加賀
うるせぇよ。助けに来んのが遅すぎだろ

石神
お前があそこまで無茶をしなければ、もっと早く救出に向かえた

加賀
爆弾を処理しとかねぇと手柄になんねぇからな
それより、わざと救出を遅らせたんじゃねぇだろうな。殺す気か

石神
こちらとしてはそれでもよかったがな

加賀
あぁ?


まぁた始まった。この班長たち、学習能力がないなぁ

颯馬
フフ、ケンカするほど何とやらって話ですよ
ね?後藤

後藤
‥‥

こちらの話など耳に入っていない様子の2人は
相変わらず言い合っている。
そんな2人を眺めながら、東雲教官がため息をつく。
その脇で颯馬教官と後藤教官が成り行きを見守る。

(この人たち‥本当にいいチームなんだな)
(加賀教官と石神教官を筆頭に、後藤教官、颯馬教官、東雲教官が一丸となって任務を遂行する)

睨み合いながらも、今回の事件が無事に終わったことを喜んでいるような気がした。

サトコ
「東雲教官‥ありがとうございました」
「爆弾の解除、教官の指示がなかったらダメだったかもしれません」


いや?こっちこそ
サトコちゃんがいなければ、兵吾さんは帰ってこなかったかもしれないから

サトコ
「え?」


兵吾さんは、自分の命より手柄や人命を優先しちゃう人だからね
時限装置を解除できれば、あの備蓄倉庫と一緒に崩れてもいい、とか思ってそうだし

後藤
‥いや、なんだかんだ言ってあの人は帰ってくる

颯馬
そうですね。しかも絶対に手ぶらでは戻ってこない人ですから


まあ、殺しても死にそうにないのは確かだよね

まだ口ゲンカしている加賀教官と石神教官を見て、3人は小さく笑う。

(普段はあんなにいがみ合っているのに‥こういう時は一致団結する)
(石神教官と加賀教官は、実は見えないところですごく強い絆で結ばれてるんだな)

消火活動が進められている備蓄倉庫を眺めながら、ホッと力が抜けた。
気を抜いてふらりと傾いた私の体を、いつの間にか隣に来ていた加賀教官が受け止めてくれる。

加賀
軟弱な体だ

サトコ
「教官‥」

加賀
‥お前にしては、よくやった。上出来だ

抱き留められた体のぬくもり、さっき抱き上げられた腕のたくましさをまだ覚えている。
それと同時に、教官に触れられた瞬間、胸が高鳴るのを感じた。

サトコ
「あ、ありがとうございます」

加賀
しかし今回は疲れたな。さっさと帰ってゆっくり休みてぇ


兵吾さん、まだ報告書が残ってますよー。今回のはいつもの倍はあるでしょうね

加賀
チッ、わかってる

私の体から手を離し、教官がみんなの方へと歩いて行く。
その大きな背中を見つめながら、言いようのない気持ちを覚えていた。

ポイントサイトのポイントインカム

【教官室】

事件から数日後。

加賀
奴隷、さっき渡した資料はどうした

サトコ
「あ!すみません、忘れてました‥」

加賀
クズが。さっさと取って来い

私は再び、加賀教官の奴隷として、こき使われる毎日を過ごしていた。


あ、サトコちゃん。ついでにオレのデスクの上にあるオレンジ色のファイルも持ってきて

加賀
歩、人の奴隷に勝手に命令してんじゃねぇよ


てっきり解放してたかと

石神
ふん、くだらない独占欲ってところか

加賀
あ?文字や数字とにらめっこしすぎて、ついに脳みそまでイカレちまったか?

(相変わらずケンカしてる‥あの事件の絆はなんだったんだろう)
(でもこれが、加賀教官と石神教官なりのスキンシップなのかもしれないよね)

【講堂】

そしてついに、私たちが入学してから2か月余り。

石神
ではこれより、この2か月に渡る審査の結果を発表する

鳴子
「あ~ドキドキする!受かってるといいけど‥そもそも、脱落する人っているの?」

同僚男性
「そりゃいるだろ、特に厳しい教官の下についてたやつは‥」

みんなの憐みの視線が、私に集中する。

(いや‥自分でもわかってる。たぶん‥ううん、絶対、今回の審査で落ちてる)
(竹田の尾行の失敗、あのホテルの作戦で勝手な行動‥)
(加賀教官が合格させてくれる要素がひとつもない‥‥)

加賀
まずは俺のとこのチームからだ。氷川サトコ

サトコ
「は、はい!」

不合格の覚悟はしているものの、思わず背筋が伸びる。
教官が、じっと私を見つめ‥不意に、その口の端を持ち上げた。

加賀
合格だ

サトコ
「‥え!?」

加賀
あ?
不合格にしてほしかったんなら、今すぐ荷物まとめて消えろ

サトコ
「い、いえ!ありがとうございます!」

鳴子
「サトコ、やったあ!」

そのあと次々に合否が発表され、鳴子も無事に審査をパスすることができた。

サトコ
「鳴子、おめでとう!」

鳴子
「も~緊張したよ~」

手を取り合って喜ぶ私たちのところへ、ゆっくりと加賀教官が歩いてきた。

サトコ
「教官‥ありがとうございます!」

加賀
クズはさっさと切ってやろうと思っていたが‥少しは使える奴隷らしいからな
だがこの先もヘマを続けるようなら容赦はしない

サトコ
「わっ‥」

ぐしゃぐしゃと、教官が私の頭を撫でる。

(大きな手‥それに、今までと違う、優しい声)
(なんでこんなに、教官にドキドキしてるんだろう‥)


へえ、なんか珍しい光景

颯馬
フフ、これは‥興味深いですね


黒澤がいたら、絶対写メ撮ってただろうな

後藤
そろそろ帰国してくる頃か

石神
あいつが戻ってくると、途端にうるさくなる。最近は静かでよかったんだがな

後藤
確かに‥

みんなが珍しそうに私たちを眺めている。
加賀教官はそんなことなど気にも留めていないように、少し目を細めて私を見ていた。

ハッピーエンド

グッドエンド

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