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加賀 続編 3話

鳴子
「今度は、半年後に控えてるサミットの警備体制がネットで拡散」
「構想段階の情報まで漏れたから、やっぱり犯人は内部なんじゃないかって‥」

【教官室】

サトコ
「失礼します」

鳴子の言葉に急いで教官室に行くと、そこには教官たち全員が揃っていた。

颯馬
‥では、今のことろ、内部犯の可能性も視野に入れて動くということですね

石神
まだ、外部からの攻撃の可能性も捨てきれない
だが、きわめて低い‥そうだな、東雲

東雲
少なくとも、まったくの第三者からアクセスされた形跡はありません
いくら海外のプロキシ経由したとしても
公安のセキュリティは何重にもかけられてるし
外から攻撃したら必ず形跡が残りますから

後藤
内部犯、か‥

重い空気が立ち込める中、加賀教官が私に気づいた。

加賀
コソコソと何してやがる、クズ

サトコ
「す、すみません!サミットの警備体制の管理情報が漏れたって聞いて」

加賀
ガキはめんどくせぇくらいに耳が早いな

颯馬
公にはされていないはずなんですけどね

東雲
悪意ある誰かがバラしたんじゃないですか?
オレたちの存在を煙たがっているオジサン、とか

(な、成田教官‥?)

最初にその顔を浮かんできた瞬間、私を見て東雲教官が笑う。

東雲
サトコちゃん、悪い子だなぁ。誰も、成田教官だなんて言ってないよ

サトコ
「え!?私、口に出してましたか!?」

後藤
いや、出てない

サトコ
「え!?」

東雲
キミって、ほんとにわかりやすくてからかいやすいよね

石神
遊びはその辺にしておけ。今回の捜査にあたる者を決めるぞ

加賀
俺と歩がやる

加賀教官の言葉に、全員の視線が集中する。

石神
まあ、それが妥当だな

後藤
犯人追跡は歩の十八番だ

東雲
そうですね。もし外部からの攻撃だとしたら、セキュリティを見直さなきゃいけないし

颯馬
外からの侵入を簡単に許したなんて知られたら、また色々面倒でしょうね

サトコ
「あの‥私に何か手伝えることは」

みんなの話を聞きながら、おずおずと手を上げた私を、一斉にみんなが振り返った。

東雲
オレ、喉乾いたな

後藤
‥コーヒーが飲みたい

サトコ
「は、はい!いま持ってきます!」

加賀
人の駒、勝手に使ってんじゃねぇよ

東雲
あれ?兵吾さん、嫉妬ですか?

加賀
‥くだらねぇ

その声を背に、急いで給湯室へ向かった。

(きっと、今の私に手伝えることはない‥でも、資料整理やお茶をだすくらいならできる)
(内部犯とか、ハッカーとか‥どれも信じられないし、早く解決しますように‥)

【教場】

数日後、東雲教官の追跡の甲斐あり、被疑者が確保されたと颯馬教官が教えてくれた。

サトコ
「さすが東雲教官、割り出すのが早いですね」

颯馬
被疑者は里田恒彦。警視庁生活安全局の職員です

サトコ
「え?じゃあ、内部犯ってことに‥」

颯馬
なるでしょうね

少し残念そうに、颯馬教官が目を伏せる。

颯馬
警視庁のパソコンからアクセスしていたせいで
セキュリティにも引っかからなかったんでしょう

サトコ
「すぐに取り調べに入るんですか?」

颯馬
そうですね。取り調べは加賀さんの担当になると思いますが
歩も立ち会って、どうやって情報を引き出したのか細かく聞き出すと思いますよ

サトコ
「あの‥その人は、確実に犯人って決まったんでしょうか?」

颯馬
取り調べしてみなければなんとも言えませんが、ほぼ確実にそうでしょうね
あの歩が、セキュリティに残ったわずかな証拠を間違えるはずありませんから

(確かに、東雲教官がつかんだ証拠なら、きっと間違いないよね)

(でも、取り調べか‥あとで、加賀教官に状況を聞いてみよう)

【教官室】

その日の講義と報告書作成が終わって教官室へ行くと、加賀教官も東雲教官も不在だった。

サトコ
「あの‥加賀教官か東雲教官、いらっしゃらないでしょうか?」

後藤
あの2人なら、取り調べ中だ

サトコ
「取り調べって‥もしかしてあの情報漏洩の‥?」

颯馬
けさ早くから始めたはずですけど、遅いですね

サトコ
「取り調べは、確か1日8時間って決まってるんじゃ」

石神
‥また違反だな

時計を見て、石神教官がため息をつく。

(朝から始めてるとしたら‥もう10時間以上経ってる!)

サトコ
「これは、難波室長はご存じなんですか?」

石神
報告はしていない

サトコ
「そんな‥っ!?」

そう思った時には、教官室を飛び出していた。

【取調室】

いそいで取調室へ向かうと、ドアから中を窺う。
心配した通り、加賀教官と東雲教官、そして見たことのない男性が中にいるのが見えた。

(まさか、本当に朝からずっと取り調べを‥!?)
(これがバレたら、加賀教官も東雲教官も、始末書くらいじゃ済まないのに‥!)

ハラハラしながら中を覗いていると、ふと異変に気づいた。
立っている加賀教官に睨まれている被疑者の里田らしき男性が、苦しそうに胸を押さえている。

(でも、東雲教官は冷たい目で見てるだけ‥どうして助けないの!?)

気がついた時には、ドアを開けて中に飛び込んでいた。

ドアを開けると、教官たちがこちらを見る。

東雲
何?取り調べ中なんだけど

加賀
何しに来た

サトコ
「お二人が、まだ戻ってきてないって聞いて」

里田
「ゴホ‥ッ!ゴホッ」

サトコ
「大丈夫ですか?」

加賀
退け

サトコ
「ダメです!教官!」
「長時間の取り調べは禁止されてるはずです!お願いですから、もう‥」

東雲
もしかして、具合の悪い演技してる場合もあるよね?
オレたち、いままでそういう人間を何人も見てきたんだ

里田
「薬‥せめて、薬を‥!」

サトコ
「大丈夫ですか!?どこか悪いんですか!?」

里田
「成人ぜんそくが‥バッグの中に、薬が‥」

慌てて里田さんに駆け寄る私の腕をつかみ、加賀教官が引っ張り上げる。

加賀
邪魔だ。役立たずは出て行け

<選択してください>

A:せめて薬だけでも

サトコ
「お願いします、せめて薬だけでも‥!命にかかわることなのに」

加賀
俺たちのやり方に口を挟むな

サトコ
「でも、まだ犯人って決まったわけじゃないんですよね‥!?」

(そうでなくても、これは違法な取り調べなのに‥!)

B:こんなことしちゃダメです

サトコ
「こんなことしちゃダメです‥!規律違反です!」

加賀
規律違反なんざクソ食らえだ

東雲
兵吾さん、それ、堂々と言っちゃダメですよ

サトコ
「お願いします、今日だけは!」

C:東雲を見る

サトコ
「東雲教官!加賀教官を止めて下さい!」

懇願するように東雲教官を見たけれど、その冷たい視線に跳ね返された。

東雲
規律に従うことだけが正しい道じゃないでしょ

サトコ
「そんな‥!」

里田さんの傍から離れようとしない私に、加賀教官が冷めたような視線をよこす。
そして軽く舌打ちした後、ドアの方へ歩いて行った。

加賀
白けた。後処理頼むぞ、歩

東雲
‥了解

肩をすくめると、東雲教官がポケットから錠剤を取り出した。

里田
「それは‥!」

サトコ
「もしかして、里田さんの薬ですか?」

東雲
よかったね、兵吾さんが優しい人で

微笑みながら、東雲教官が薬と水を里田さんに手渡す。
それを一気に飲み干すと、呼吸が整うまで里田さんは机に突っ伏すように座って動かなかった。

サトコ
「東雲教官‥」

東雲
ん?

(もしかして‥加賀教官も東雲教官も、いつもこんなやり方してるの‥?)
(薬を持ってたなら、いつでも渡すことができたのに‥)
(こんなふうになるまで放っておくなんて)

東雲教官は、その悪魔のような笑顔を崩さないままだった‥。

【個別教官室】

そのあと、教官室へ向かうと加賀教官が不機嫌そうに顔を上げた。

加賀
で?邪魔した理由は?

サトコ
「それは‥」

加賀
もう少しで吐いてた
吐かせたあとに、薬を渡すつもりだった。お前のせいでブチ壊しだ

サトコ
「だけど、呼吸困難に陥りそうになってました」

加賀教官の視線にたじろぎながらも、ぎゅっと手を握り締めて答える。

サトコ
「あれじゃ、喋ろうとしても喋れません」

加賀
吐こうとしてるかどうかぐらい、見ればわかる
奴にその気があるなら、吐く前に薬を飲ませるつもりだった

サトコ
「でも‥規律違反で、加賀教官が捕まってしまいます」

加賀
‥里田は、最後まで『何も知らない』と言い続けた

サトコ
「本当に何も知らないのかもしれな‥」

バサッと書類をデスクに投げつけると、教官が吐き捨てるように言った。

加賀
やっぱりクズだな
本当に知らねぇなら、どんな些細な情報でもしゃべるはずだ
それがヤツは知らないの一点張りだ

サトコ
「で、ですが、知らないから言いようがなかったんじゃ‥」

加賀
そういう人間こそ、関係ねぇことでも吐く
あれだけの時間、拘束されてんだからな。さっさと釈放されてぇだろ

サトコ
「じゃあ‥わざと、規律を破ってまで長時間の取り調べをしたんですか?」

加賀
精神的に追い詰められれば、忘れてたことを無意識に口にする場合がある
奴が白だろうが黒だろうが関係ねぇ。犯人に結び付く情報が得られりゃな

(長時間の取り調べには、意味があった‥自白させるためには必要だったんだ)
(でも、それでも‥)

サトコ
「だけど里田さんは自白しなかったんですよね‥?」
「それはやっぱり、何も言うことがないからじゃないんですか‥」

加賀
奴が何か隠してることは間違いねぇ
めんどくせぇから今日1日でケリつけようと思ったのに、計画が水の泡だ

<選択してください>

A:謝る

サトコ
「すみませんでした‥そこまで考えてなくて」

加賀
わかったんなら、もう二度と邪魔すんじゃねぇ
今度無断で取調室に入ってきたら、容赦なく追い出すからな

サトコ
「あの‥でも私、やっぱり‥」

納得できない、という言葉が、喉に引っ掛かって出てこない。

B:納得いかない

サトコ
「‥すみません。やっぱり、納得できません」

加賀
何がだ

サトコ
「もしあの人が犯人だとしても、人権を無視するような取り調べはおかしいと思います」
「それに‥あんなやり方じゃ、いくら手柄をあげたって‥」

加賀
俺たちの仕事は、未然に事件を防ぐ‥起きた事件を速やかに解決することだ

サトコ
「それは‥そう、なんですけど‥」

C:それが公安のやり方?

サトコ
「それが‥公安のやり方、なんですか?」

加賀
違うな。俺のやり方だ

真っ直ぐに私を見てそう告げる教官に、圧倒される。

(教官は、信念を持って公安の仕事をしている‥それはわかるけど、でも)

加賀
‥お前は、許容しなくていい

サトコ
「え?」

加賀
無理にこのやり方を理解する必要はねぇって言ってんだ

サトコ
「教官‥?」

(でももし、事件を解決するためにこういうことが必要なら‥)
(いつか私も、このやり方に納得しなきゃいけないのかな)

そう思うと、今日のことが胸に重くのしかかってくるようだった‥

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【警視庁】

結局、里田恒彦は証拠不十分でいったん釈放されることになった。

(加賀教官は、不満そうだったけど‥あの違法な取り調べを石神教官に指摘されて)
(それ以来、8時間を超える取り調べができなくなったんだよね)

この間、警察に転出した刑事の忘れ物を届けに警察署にやってくると、
ちょうど、奥の部屋から里田さんが歩いてくるのが見えた。

里田
「あなたは‥」

サトコ
「あ‥」

加賀教官の強引な取り調べのことを謝ろうかとも思ったけど、
上官のことを部下が謝るのは、おかしい気がした。

(でも、このままっていうのは‥)

サトコ
「あの‥お身体、お大事にしてください」

里田
「本当にありがとうございます。あなたのおかげで命拾いしました」

昭夫
「父さん、この人は?」

里田
「昭夫にも話しただろう。取り調べ中に発作がおきた時、この人が助けてくれたんだ」

里田さんを支える男の子は、どこか見覚えがある気がした。

サトコ
「あ!前に、この警察署に社会見学に来てた‥」

昭夫
「‥あ、あの時ぶつかった刑事さんですか」
「父から聞きました。助けて下さって、本当にありがとうございました」

サトコ
「いえ‥」

教官たちが関わっていることなのでなんと答えていいかわからず、曖昧に首を振る。
昭夫と呼ばれた子は、キラキラと輝く瞳で私を見つめた。

昭夫
「弱い人を助けてくれるなんて、正義の味方みたいですね」

サトコ
「そんな‥」

里田
「それじゃ‥ワタシたちはこれで」

ペコペコと頭を下げて、里田親子が警察署を出て行く。

(正義の味方、か‥だけどあの日の取り調べは、正義の味方がやることなの?)
(昭夫くんが言ったように、弱い人たちを守るのが私たちの役目だと思ってたのに)

先日の取り調べを思い出して、ギュッと胸を鷲掴みにされたようになる。
加賀教官のやり方は、それとは違う。
2人の背中を眺めていると、ポン、と肩を叩かれた。

難波
氷川、こんなところで会うとはな

サトコ
「な、難波室長!」

(あのお見合い話があってから、返事をしにくくて、ずっと避けてたのに‥!)

難波
見合い、お前から一向に返事がないからこっちで進めておいた
日取りも決まったから、空けとけよ

サトコ
「ええ!?」

難波
その日は仕事を入れるなって、加賀にも言っておくから

サトコ
「ま、待ってください‥!」

慌てて室長を追いかけたけど、いつもの飄々とした態度で結局押し切られてしまった。



そして、お見合い当日。
私の席には室長、向かい側には好青年とその父親である『お偉いさん』が座っている。

(お見合いするなんて、結局親にも連絡できなかったし‥)
(加賀教官にだって‥)

幹部
「いやぁ、うちの息子はずっと氷川さんのことばかりでね」

難波
ほぅ‥

幹部
「親の私が言うのもなんだが、自慢の息子で‥」

サトル
「お父さん、やめてください」
「氷川さん、突然すみません。でも、来ていただけて嬉しいです」

サトコ
「い、いえ‥」

笑顔が引きつらないように必死になりながらも、爽やかな笑顔に驚いてしまう。

(なんだろう‥最近、一癖も二癖もあるあの教官たちに囲まれてるせいかな‥)
(もしこれが加賀教官なら『いつまで待たせやがる、クズ』とか罵りそう‥)

サトル
「公安学校には、女性が2人しかいないそうですね」

サトコ
「はい。私ともうひとり‥」

サトル
「女性なのにあんなに厳しい訓練にも耐えているなんて、素晴らしいです」

(‥教官だったら、『男ばっかりのことろに来るなんて、飢えてんのか?』とか言うだろうな)
(こんな優しい話し方でもしないし、睨まれただけで震えあがるような視線で‥)

自分が教官のことばかり考えていると気づき、慌てて首を振る。

(室長の顔を潰すわけにいかないし‥とにかく、今日だけは我慢我慢)
(とりあえず、お開きになりそうな頃を見計らって遠回しにお断りを‥)

でもそのタイミングを窺う私に、男性が笑顔を向けた。

サトル

「今日一日、氷川さんとお話しして僕の心は固まりました」
「正式にお付き合いしたいと思っています。考えておいてくれますか?」

難波
おっ‥!

サトコ
「ええっ!?」

サトル
「返事は急ぎません。ゆっくり考えてみていただけませんか?」

いいえ、とは言えず、曖昧なまま、その日はお開きとなってしまった。

(はぁ‥どうしよう)

難波室長とも別れると、一人で帰り道を歩く。

(室長は『あとはお前に任せる』って言ってくれたけど)
(断る場合は、室長になんて言えばいいのかな‥)

サトコ
「加賀教官に連絡したいけど、でもこの前、喧嘩したみたいになっちゃったし」
「あれからすぐ連休に入って、電話もメールもない‥」

ため息をついた時、すぐ横で車が停まった。

???
おい

(教官に相談しても、『てめぇで決めろ』って言うよね‥)
(私のこと信用してくれてるって言ってたのは、ケンカ‥)
(っていうか、ちょーっとゴタゴタする前だったし)

???
無視するとは、いい度胸だな

サトコ
「え?」

振り返ると、停まっている車から誰かが下りてくる。

加賀
シケたツラしてんじゃねぇ

サトコ
「‥教官!?」

to be continued

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