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クリスマス 後藤1話



後藤
クリスマスパーティの途中で抜け出さないか?
少しでもいいからアンタと2人のクリスマスを過ごしたい

(後藤さん‥)

後藤さんから来たメールに思わず携帯をギュッと握ってしまう。

(賑やかなパーティも楽しいだろうけど‥)
(2人で過ごしたいって思ってたのは、私だけじゃなかったんだ)

サトコ
『私も後藤さんと2人で過ごす時間、欲しいです』

すぐに返信すると、後藤さんからは『よかった』という短い返事が返ってきた。

(よかったのは私の方です‥)
(初めて後藤さんと迎えるクリスマスだもんね)

カレンダーを見てクリスマスまでの日を数えてると、ドアがノックされる。

鳴子
「サトコ、そろそろ夕飯食べに行かない?」

サトコ

「うん、すぐ行くから、ちょっと待ってて!」
(後藤さんになにか素敵なクリスマスプレゼント用意したいなぁ)



食堂で夕飯を食べてから談話室に行くと、テレビではクリスマス特集の特番が流れていた。

鳴子
「どうりで男子がいないわけだ」

サトコ
「え?どうして?」

鳴子
「公安学校に来るエリート男子はクリスマスも仕事のこと考えてそう」

サトコ
「確かに‥恋バナしてる男子とか見かけないけど」

鳴子
「教官たちを見れば言わずもがなじゃない?イケメン揃いでもラブラブっぽい人いないし」

サトコ
「う、うん」

(後藤さんは私と‥って言えないのが心苦しい‥)

アナウンサー
『今年のイチオシプレゼントはこちら!クリスマス限定のテディベアでーす!』

サトコ
「わ‥可愛い!」

鳴子
「肉球がハートの形になってる!」

アナウンサー
『こちらのテディベアは期間限定の予約のみで手に入るクマちゃんです』
『数量限定となっておりますので、彼女へのプレゼントをお考えの方はお早めに!』

サトコ
「今のテディベア、本当に可愛かったね」

鳴子
「欲しいけど、ああいうのを自分で買うのもねー。予約とかハードル高すぎ!」

サトコ
「それにテレビで紹介されたから、たちまち売り切れちゃうんじゃない?」

鳴子
「だよねー。テディベアとかサプライズでくれる彼氏欲しいなー」

サトコ
「今度は男性に贈ると喜ばれるプレゼントランキングだって」

鳴子
「後学のために見ておきますか」

テレビ
『まず10位から‥』

次々に発表されていく男性へのプレゼントランキングは手堅いものばかりだ。

(ネクタイ、タイピン、靴下‥ネクタイや靴下は使ってもらえるだろうけど‥)
(クリスマスだし、もうちょっと特別感のあるプレゼントないかな)



後藤さんへのプレゼントに悩むこと数日
雑誌やネットで調べても、ピンとくるものがない。

(人づての情報よりも、実際の男性の意見を聞いた方がいいかも)
(今、ちょうど後藤さんは教官室にいないし‥)

教官方にお茶を淹れて、さりげなく話を切り出してみる。

サトコ
「みなさんだったら、どんなクリスマスプレゼントが欲しいですか?」

東雲
‥わかりやすい質問

サトコ
「え?」

颯馬
可愛らしいじゃないですか
そうですね‥私が欲しいのは‥味噌汁サーバーでしょうか

サトコ
「味噌汁サーバーって、材料を入れてサーバーから味噌を注ぐだけ‥っていうアレですか?」

颯馬
ええ。あれがあれば手軽に味噌汁を飲めて、食事を忘れがちな時にもいいと思うんですよね

サトコ

「なるほど‥」

(後藤さんは食事が疎かになりがちだから‥味噌汁サーバー、役に立つかも‥)

東雲
そのうち具材を入れるのが面倒で、味噌汁だけすする人出てきそう

加賀
そこまで面倒になったら、もの食うなってレベルだな

石神
自動掃除機のロンバとかはどうだ?

サトコ
「それ、私も気になってたんです!石神教官、ロンバ欲しいんですか?」

石神
まあ‥掃除する間もないほど忙しい時は、あるといいかもな
あとは、掃除が壊滅的に苦手な人間にもいいだろう

東雲
でもアレ、部屋が片付いてないと使えないですよ
床が物で埋まってるタイプには向いてないって

サトコ
「ロンバは障害物を避けて掃除するんですよね」

(となると、床に本を積んじゃうタイプの後藤さんには向かないか)
(ん?なんかみなさん、後藤さんに合うプレゼントを言ってくれるけど‥)

サトコ
「あの‥みなさん‥」

颯馬
とはいえ、プレゼントというのは気持ちが一番大事です
貴女が選んだプレゼントなら、どんなものでも喜ぶと思いますよ

加賀
あの朴念仁がニヤける顔なんざ見たくねぇ

サトコ
「え?あの‥わ、私は特に誰にあげるとかって‥」

石神
氷川、資料室でこの本を揃えてきてくれ

サトコ
「は、はい」

(後藤さんのためにプレゼント探してるって‥バレてる‥?)
(いやいや、まさか。そんな‥はは‥)

東雲教官の薄い笑いを気にしながらも、本のリストを手に私は教官室をあとにした。
資料室で本を揃え、廊下を歩いていると向こうから千葉さんが歩いてくる。

千葉
「補佐官の仕事?」

サトコ
「石神教官に言われて資料室で本を揃えて来たところ」

(そういえば千葉さんって、今どきの若い男性の見本って感じだよね)
(千葉さんはどんなクリスマスプレゼントがいいって思うのかな?)

サトコ
「千葉さんは、どんなクリスマスプレゼントもらったら嬉しい?」

千葉
「えっ‥それって、氷川‥」

サトコ
「参考に教えてもらえたらなって」

千葉
「そうだな‥」

千葉さんは腕を組んで、やけに真剣な顔で考え始める。

サトコ
「あの、そんなに考え込まなくても‥コレいいなーとかって思ったものでいいんだけど‥」

千葉
「大事な質問に、いい加減に答えられないよ」

(千葉さんって真面目なんだなぁ)

千葉
「俺だったら身につけられるものが嬉しいかな」
「それを見ればプレゼントしてくれた人の事、いつでも想えるから」

サトコ
「身につけられるもの‥」

(そっか‥そういう考え方で選ぶのもアリなんだ‥)

千葉
「でも、俺は氷川からもらったものだったら‥」

サトコ
「え?」

後藤
氷川

サトコ
「後藤教官!」

いつの間にか近くまで来てくれていた後藤さんに、声を掛けられた。

後藤
何をしている?

<選択してください>

A: 石神教官のお使い中

サトコ
「石神教官に言われて資料室から本を持っていくところです」

後藤
アンタ、石神さんにも使われてないか?

サトコ
「そうですかね?でも、石神教官は後藤教官の上司なんですから、お役に立てれば嬉しいです」

後藤
アンタらしいが‥無理な時は断っていい
それに‥アンタは俺の補佐官だ

サトコ
「!」

B: クリスマスの話を‥

サトコ
「クリスマスの話をしてたんです」

千葉
「公安学校でクリスマス会が開かれるなんて思いませんでした」

後藤
発案が黒澤だからな‥ああいう奴も中にもいるが、お前たちは見習わなくていい

千葉
「は、はい!」

後藤
氷川、その本はどうしたんだ?

サトコ
「石神教官に資料室から持ってくるように言われた本です」

C: 教官には秘密です

サトコ
「教官には秘密です」

千葉
「ははっ、氷川もなかなか言うな」

後藤
俺に聞かれたらマズイことか?

千葉
「生徒には生徒同士の話もあるってことですよ。な?氷川」

サトコ
「はい!ふふっ!」

後藤
‥‥‥

サトコ
「あ、早くこの本を石神教官のところに届けないといけなかったんだ」

後藤
石神さんのお使い中か?

サトコ
「資料室から本を持ってくるように言われてるんです」

後藤
俺も手伝おう

サトコ
「大丈夫ですよ、これくらい」

後藤
補佐官だからってコキ使うわけにはいかない

後藤さんは私が抱えていた本を全部持ってくれた。

(後藤さん、優しいなぁ)

サトコ
「話聞かせてくれてありがとう、千葉さん」

千葉
「ああ‥クリスマス、楽しみだな。じゃ、また」

千葉さんと別れて、後藤さんと肩を並べて廊下を歩く。

後藤
クリスマス、楽しみか?

サトコ
「はい。今年のクリスマスは特に楽しみです!」

後藤
俺もだ

校内だから恋人らしい言葉を交わすことはできなくても。
一緒に歩いているだけで互いの気持ちが伝わるようだった。

それから数日後。

黒澤
いやー、1人で寂しく飾り付けかと思ってたけど
サトコさんと佐々木さんが手伝ってくれて嬉しいです!

サトコ
「カフェテラスがクリスマスっぽくなると何だか楽しいですね」

鳴子
「納会でプレゼント交換とかはしないんですか?」

黒澤
オレはしたいんですけど
男だらけのプレゼント交換会っていうのは嫌‥という意見が訓練生の中から出てまして

鳴子
「なるほど‥プレゼントといえば‥」
「クリスマス限定のテディベア、今日の『オヒルナンデスネ』でも紹介されてたよ」

サトコ
「ほんと?まだ予約できるのかな?」


「そのクマならキャンセル待ちだ」

サトコ
「一柳教官!」

声に振り向くと食堂の入り口に一柳教官が立っていた。

黒澤
一柳警部補‥石神さんに用事ですか?


「ああ、届け物の書類を渡してきた」

鳴子
「あの‥今の話ですけど、一柳教官もクリスマス限定のテディベアご存じなんですか?」


「肉球がハートのテディベアだろ?」
「あのクマを贈ったカップルは幸せになれるってジンクスを入れたのが効果的だったんだろうな」

サトコ
「え!そんなジンクスあるんですか?」


「ぬいぐるみの制作会社と神社がコラボしたって話だ。知らなかったのか?」

サトコ
「はい‥鳴子、知ってた?」

鳴子
「ううん、私も初耳。そこまでテレビで言ってなかったから。一柳教官、もしかして‥」

鳴子の目が鋭く光り、グッと一柳教官に迫る。


「‥なんだよ」

鳴子
「そのクマ、彼女にプレゼントするつもりなんですか!?」


「‥‥‥」

鳴子の質問に、一瞬、一柳教官が黙った。

(一柳教官なら恋人いても全然不思議じゃないけど‥)

黒澤
いや、一柳警部補の場合、彼女じゃなく自分‥


「黒澤」

黒澤
あーっと、クリスマスツリーの飾り付け始めますねー

鳴子
「え?何?今のやり取りなんですか?」


「それより‥」
「お前らもあのクマが欲しいのか?」

サトコ
「前にテレビで観て可愛いねって話してたんです」
「でもキャンセル待ちじゃ、とても無理ですね‥」


「あの手の限定品は数か月前から予約しねーと手に入らないからな」

(幸せになれるクマ‥そういうことなら、後藤さんへのクリスマスプレゼントにもアリだったかも)

サトコ
「キャンセル待ち、するだけしてみようかな‥」

後藤
騒がしいと思ったら、黒澤とローズマリーか


「根暗がきたから部屋が暗いな‥」
「ツリーの電飾増やした方がいいんじゃないか?」

(後藤さんと一柳教官って顔を合わせればコレだよね‥)


「サトコ、コイツへのクリスマスプレゼントはパジャマで充分だからな」

サトコ
「ぱ、パジャマ?」

後藤
お前はヒイラギの代わりにローズマリーの葉でも飾ってろ

サトコ
「まあまあ‥」

(もしかして‥これって、ケンカを楽しんじゃってるのかな?)

<選択してください>

A: 黒澤さん、とりなしてください

サトコ
「黒澤さん、とりなしてください」

黒澤
後藤さんと一柳教官のケンカはお約束みたいなものだから気にしなくていいですよ
むしろ、この二人が仲良くしてたら天変地異の前触れだと思ってください

鳴子
「そこまで言われるのもスゴイ‥」

サトコ
「ね‥」

B: 一緒に飾り付けしましょう

サトコ
「一緒に飾り付けしましょうよ」

後藤
これは公安学校のクリスマス会だ。部外者は引っ込んでてもらおうか


「鉄仮面のクリスマスの手伝いなんざ、こっちからゴメンだ」

サトコ
「鉄仮面って‥確かにポーカーフェイスの人多いですけど‥」

黒澤
そこはこの黒澤透が盛り上げますのでお任せください!

C: 大人げないですよ

サトコ
「顔を合わせれば口喧嘩なんて大人げないですよ」

黒澤
さすがサトコさん!なかなか誰も言えないイイコト言いますね!
この2人、カッコつけてるわりに子どもっぽいところあるんですよねー

後藤・昴
「どさくさに紛れて、お前が言うな!」

黒澤
いたっ!2人同時のツッコミはナシですよ!

サトコ
「えっと‥それなら後藤教官、ツリーの飾り付け手伝ってくれませんか?」
「高いところは手が届かなくて‥」

後藤
ああ、わかった

結局、私は後藤さんをツリーの前に連れて行く。

後藤
サトコ‥

サトコ
「え?」

小さな声で名前を呼んだ後藤さんの手が私の頬に触れた。

(わ、後藤さんの手、冷たい‥)

後藤
頬にモールのカケラがついてる

サトコ
「あ‥ありがとうございます」

後藤さんの手についたキラキラしたモールの切れ端。
それを取るために触れると、やはりその指先は冷えている。

(そうだ‥後藤さんへのプレゼントは‥)

いよいよクリスマスパーティ前日の夜。
私は宿直で寮にいる後藤さんの手伝いをしていた。

後藤
遅い時間まで悪かったな

サトコ
「いえ。年内に領収書をまとめられてよかったです」

後藤
下から賑やかな声が聞こえてくるのは、まだクリスマス会の準備をしてるのか

サトコ
「男子もなんだかんだ言って楽しんでるみたいです。あ、そろそろ消灯時間ですね」

後藤
今日くらい、少し大目に見てやるか
クリスマスを楽しむのが俺たちだけじゃ悪いからな

サトコ
「はい‥」

後藤さんの手に包まれると冷たくて、私は温もりを分けるように強く握り返す。
どちらともなく目を閉じると、明日を待ちきれない唇がそっと触れた。

to be continued

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