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塩対応 石神 1話

サトコ

「自分の出来が悪い事かな‥?」

ふと、犯人を取り押さえる訓練が脳裏を過る。

サトコ

「今日、犯人を取り押さえる訓練があったでしょ?」

「あの時、なかなか上手くいかなくて、石神教官に迷惑かけちゃったから‥」

あの時のことを思い出しただけで、ため息が出る。

千葉

「氷川‥」

そんな私を、千葉さんは心配そうに見つめた。

千葉

「‥氷川はすごい頑張ってると思う」

サトコ

「え‥?」

千葉

「確かに叱られることもあるだろうけど」

「氷川は何があってもいつだって諦めずにくらいついている」

「それは石神教官だって、ちゃんと分かっていると思うんだ」

「補佐官を交代することだって出来るのに‥」

「それをしないのは、氷川のことを信じて期待してくれているからじゃないかな?」

サトコ

「千葉さん‥」

千葉さんの言葉に、胸がじんわりと温かくなる。

(そうだよね‥いつまでも落ち込んでなんか、いられないよね)

(それに、出来が悪いって石神さんから直接言われたわけじゃないし‥)

サトコ

「ありがとう!千葉さんのおかげで、元気出た!」

(生徒としても‥彼女としても、もっと認められたい。出来ることは、精一杯やらなきゃ!)

満面の笑みを浮かべると、千葉さんは頬をかきながら僅かに視線を逸らす。

千葉

「う、うん‥どういたしまして」

サトコ

「ん?どうかした?」

千葉

「な、なんでもない!ただ‥氷川が元気になって、良かったなって思ったんだ」

サトコ

「ふふっ、千葉さんって本当に優しいね‥あれ?」

(あそこにいるのは‥)

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石神さんの姿が視界に入り、私は難波室長から言われたことを思い出す。

(そうだ、DOSSシール!)

サトコ

「千葉さん、ちょっとごめん!」

私は千葉さんに断りを入れ、石神さんに声を掛ける。

サトコ

「石神教官!あの‥」

石神

‥‥‥

サトコ

「えっ‥?」

石神さんはチラリと私に視線を向けると、そのまま踵を返して校舎に入っていった。

(今、目が合ったよね?なのに、どうして‥)

千葉

「氷川?」

その場に立ち竦んでいると、千葉さんが顔を覗かせる。

千葉

「石神教官に用事でもあったのか?」

サトコ

「あっ、うん‥でも、後でも大丈夫だから‥」

笑みを浮かべながら返すものの、心の中には僅かな不安が渦巻いていた。

【教官室】

サトコ

「あ、れ‥?」

(ここは‥教官室?私、なんでこんなところにいるんだっけ‥)

加賀

おい、クズ。何をボケッとしてんだ

東雲

自分が叱られてるって自覚ある?

(叱られてる‥?)

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思考を巡らせるも、頭にもやがかかったようにハッキリとしない。

颯馬

サトコさん、貴女は本当に公安刑事を目指す気がありますか?

サトコ

「は、はい!もちろんです!」

後藤

だったら、もっとしっかりしろ

東雲

今さらしっかりしても、遅いと思うけど‥

さっさと、退学にした方がいいんじゃないですか?

サトコ

「そ、そんな‥!」

加賀

やる気だけでなんとかしようとか、甘い事考えてんじゃねぇ

加賀教官は私に背を向け、教官室から去っていく。

颯馬

いい加減、さすがの私もフォローしきれません

後藤

はぁ‥

東雲

早いうちに、再就職先を探した方がいいんじゃない?

吐き捨てるように言い、教官たちが教官室を後にする。

石神

‥‥‥

いつの間にか、石神さんが私の目の前にいた。

サトコ

「あっ‥」

何か口にしようとするも、喉が張り付いたように声が出ない。

石神

出来の悪い補佐官を持って、後悔している

サトコ

「っ!?」

石神さんの言葉を聞き、とっさに手を伸ばす。

石神

‥触るな

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無残にも振り払われた手は、行き場をなくす。

そして石神さんは、私に背を向けて歩き出し‥‥

サトコ

「待ってくださいっ!石神さん!」

【自室】

勢いよく起き上がると、そこは見慣れた部屋だった。

サトコ

「私の、部屋‥?」

ゆっくりと辺りを見回し、深い息をつく。

サトコ

「夢、か‥」

(こんなリアルすぎる夢、心臓に悪いよ)

昨日のことが頭に残っていたのかもしれない。

私は気持ちを切り替えて毛布に横になるも、なかなか眠気がやってこなかった。

(目が冴えちゃったみたい。このままだと、いつまでたっても寝付けそうにないし‥)

私は、毛布から出ると電気をつけて机に向かう。

サトコ

「あの夢が、現実にならないように‥」

(今は、少しでも出来ることをしよう!)

私は気合いを入れて、勉強を始めた。

【廊下】

翌日。

放課後になり、教官室まで集めたノートを運んでいた。

サトコ

「うー‥‥」

(なんだか、頭がボーっとする)

(朝方まで勉強していて、ロクに寝ていなかったからかな‥)

サトコ

「おっと‥」

気を抜くと、今にも寝そうになる。

(いけない、いけない‥しっかりしなきゃ!)

【教官室】

サトコ

「失礼します」

黒澤

‥なんですよ

難波

それって、信憑性はあるのか?

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教官室に入ると、黒澤さんたちが真剣な表情で話し合っていた。

サトコ

「あの‥?」

颯馬

ああ、サトコさん。ノートはそこのデスクに置いておいてください

サトコ

「はい‥」

石神さんと後藤教官、それに加賀教官は自分たちのデスクに向かっている。

颯馬教官はにこやかに、東雲教官は呆れながらも真剣そうに黒澤さんたちと話をしていた。

(何か事件でもあったのかな?)

サトコ

「それでは、ここに置いておきますね」

ノートをデスクに置き、教官室を後にしようとする。

黒澤

サトコさん

サトコ

「はい‥」

振り返ると、いつの間に距離を詰めたのか、黒澤さんの顔が目の前にあり‥‥

クイッ

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サトコ

「!?」

顎に手を添え、軽く持ち上げられる。

黒澤

‥‥‥

至近距離で、真剣に私を見つめてくる黒澤さん。

いつもの黒澤さんから想像できない真剣味を帯びた表情に、頬に熱が上がった。

<選択してください>

A: 照れる

サトコ

「あ、あのあのあの‥!」

黒澤

サトコさん、胸キュンしますか‥?

サトコ

「へっ?」

黒澤

女性はこれに弱いんですよね?

サトコ

「どういうことですか?」

「というか、そろそろ離してください!」

黒澤さんから視線を向けられ、私はサッと顔を逸らす。

サトコ

「あっ‥」

顔を逸らした先には、石神さんがいた。

石神

‥‥‥

石神さんは少しだけバツが悪そうな顔をし、書類に視線を落とす。

B: 石神に助けを求める

サトコ

「い、石神さ‥教官!助けてください!」

石神

ん‥?

助けを求める声に、石神さんが書類から顔を上げる。

石神

‥‥‥

そして僅かに眉を顰め、視線を逸らした。

サトコ

「き、教官!?補佐官がピンチなんですよ!?助けてください~!」

黒澤

ヒドイですよ、サトコさん!

そんな、人を悪役みたいに言わないでください

サトコ

「す、すみません‥」

C: 黒澤を突き飛ばす

(石神さんが見てるのに‥!)

サトコ

「や、止めてください~!」

黒澤

おっと‥

突然のことに手が伸びるも、黒澤さんは軽々と逃げる。

黒澤

ダメですよ?女の子がそんなことをしたら

そう言って、黒澤さんはニコリと笑みを浮かべた。

(黒澤さん、本当にどうしちゃったの‥?)

どうやってこの状況を打破するか、必死に考えていると‥‥

黒澤

‥みなさん、分かりましたか?これが顎クイです!

サトコ

「へ‥?」

私の顎から手を離し、黒澤さんは教官たちに振り返った。

東雲

へー、本当に効果あるわけ?

颯馬

耳つぶはどうなんですか?

黒澤

耳つぶはですね‥

サトコ

「っ!?」

黒澤さんは、今度は私の耳元に唇を寄せる。

黒澤

‥サトコさんって、素敵な女性ですね

いつもより低いトーンの声音に、思わず心臓が跳ねる。

サトコ

「なっ‥!」

私は囁かれた方の耳に手を当て、黒澤さんから距離を取った。

颯馬

フフ、サトコさん‥顔が真っ赤ですよ?

東雲

茹ダコみたい

サトコ

「だ、だって‥今、黒澤さんが‥!」

東雲

そんなんじゃ、色仕掛けなんてできないよ?

サトコ

「うっ‥今は状況が違います!」

凄んでみせるも、東雲教官はニヤリと笑みを浮かべている。

サトコ

「そもそも、何をやっているんですか!?」

難波

まあまあ、そんなに怒るな

難波室長は肩を竦め、言葉を続ける。

難波

最近の女子は、顎クイや耳つぶ‥とかいう胸キュン動作に弱いって聞いてな‥

そんなの聞いても、おっさんにはわからねぇから黒澤から教えてもらってたんだよ

黒澤

そこでちょうどやってきたのが、サトコさんだったってわけです☆

サトコ

「私を実験台にしたんですか‥」

事の真相を聞き、がくりと肩を落とす。

黒澤

どうですか、石神さん、後藤さん!効果抜群ですよ!

石神

興味がない

後藤

どうでもいい

黒澤

もう、おふたりは積極性が足りないんですよ!

仕事に関しては、異常なほど積極的なのに‥

サトコさんだって、好きな人に顎クイや耳つぶされたらドキドキしますよね?

サトコ

「え‥?」

(石神さんが、私に耳つぶを‥)

想像するだけで、心臓が早鐘を打つ。

サトコ

「そ、それは、まあ‥」

黒澤

ほら、やっぱり!女の子はみんな、ああいうのが大好きなんですよ

東雲

へぇ‥それじゃあ、サトコちゃんが練習台になってあげたら?

サトコ

「へ?練習台って‥」

黒澤

それは、名案ですね!

黒澤さんは、ぐっと親指を立てる。

黒澤

石神さん、後藤さん!サトコさんで練習しましょう!

後藤

は?

石神

‥何を言っている

黒澤

だから、胸キュンシチュエーションの練習ですよ~

まずは、先ほどお手本を見せた耳つぶからやってみましょう!

サトコ

「本当にやるんですか?」

黒澤

もちろんです!では、石神さんからいってみましょう!

<選択してください>

A: 石神さんは、お仕事中ですよ

サトコ

「だ、ダメです!石神さんは、お仕事中ですよ?」

黒澤

これも仕事のうちです!ほら、石神さんも!

石神

っ、何をする!

黒澤さんは素早く石神さんの背後に回ると、無理矢理私の前に連れて来る。

石神

‥‥‥

サトコ

「‥‥‥」

石神さんは眉間に皺を寄せ、じっと私を見つめる。

(ほ、本当にみんなの前で耳つぶを‥?)

私は恥ずかしさのあまり、ギュッと目を瞑った。

(‥‥?)

だけど、いつまでたっても石神さんの声が耳に届くことがなく、私はゆっくりと目を開く。

サトコ

「石神さん‥」

そこには戸惑いを見せながらも、私の前に立つ石神さんがいた。

B: お願いします

サトコ

「お、お願いします」

石神

氷川、何を言って‥

黒澤

ここでやらなきゃ、男がすたりますよ?

石神

なに?

黒澤さんの言葉に、石神さんの眉がピクリと跳ねる。

黒澤

ほらほら、ここが男の見せ場ですよ!

石神

っ、何をする!

黒澤さんは石神さんを無理矢理立たせると、私の前へ連れてきた。

サトコ

「石神教官‥」

私は目の前に立つ石神さんを、じっと見つめる。

石神

っ‥

すると、石神さんは私から視線を外した。

石神

はぁ‥

すると石神さんは、深いため息をついて続けた。

C: ご、後藤教官の方がいいです!

(本当に石神さんから耳つぶを‥!?)

期待で胸がいっぱいになるも、ハッと思い出す。

(だ、ダメだ‥下手に反応したら、私たちが付き合っていることがばれちゃう‥!)

サトコ

「ご、後藤教官の方がいいです!」

慌てた私は、気付いたらそう口にしていた。

後藤

なっ‥!俺か?

後藤教官は驚いたように目を丸くし、そして石神さんへと視線を向ける。

石神

‥‥‥

石神さんは平静を保っていたものの‥

バキッ!

サトコ

「‥‥‥」

後藤

‥‥‥

大きな音を立てて、石神さんのペンが折れた。

サトコ

「あ、あの‥?」

後藤

‥石神さん、お先にどうぞ

石神

俺がやるわけないだろう

黒澤

ご、後藤さんもこう言っていることですし!

石神

‥‥‥

石神

‥こんなくだらんことを、やらせるな

石神さんはそう呟くと、仕事に戻っていった。

サトコ

「はぁ‥」

目の前に教官がいなくなり、緊張の糸が切れる。

(石神さんはただでさえこういうこと苦手そうなのに、みんなの前でするわけないよね‥)

そう思いつつも、どこか残念そうに思っている自分がいた。

(石神さんの耳つぶか‥)

【寮監室】(妄想)

石神

サトコ‥

石神さんの唇が、私の耳に触れそうになるくらい近づく。

石神

明日は休みだろう?だから‥

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吐息が耳元に触れ、甘い感情が押し寄せてくる。

そして、石神さんは私を抱き寄せると‥‥

【教官室】

難波

‥氷川?おーい、氷川

サトコ

「あっ‥」

我に返ると、教官たちが私を見ていた。

東雲

耳まで真っ赤‥何を想像してたの?

サトコ

「べ、別に、何も!」

颯馬

おや、言えないようなことを想像していたんですか?

サトコ

「そ、それは‥」

教官たちの追及に耐えられなくなった私は、サッと背を向ける。

サトコ

「ほ、本当になんでもありません!失礼します!」

そして私は足早に、教官室を後にした。

【廊下】

サトコ

「はぁ、はぁ‥」

千葉

「あれ?氷川」

廊下で息を整えていると、千葉さんと鳴子に出会った。

鳴子

「なんだか、鼻息が荒いけど‥何かあったの!?」

サトコ

「そ、それは‥」

私は先ほどの出来事を、思い返す。

(世の中の女の子は、あんなことされてよく耐えられるよね‥)

鳴子

「サトコ‥?」

サトコ

「なんでもない!なんでもないの!」

千葉

「そう、なのか‥?」

サトコ

「うん!だから、気にしないで!」

鳴子

「サトコがそう言うなら、気にしないけど‥」

必死に誤魔化そうとする私に、鳴子たちは顔を見合わせて首を傾げた。

【廊下】

翌日。

サトコ

「次の訓練は、この前に続いて取り押さえの訓練なんだよね」

鳴子

「サトコがこっぴどく叱られてたやつでしょ?」

千葉

「こら、佐々木」

サトコ

「千葉さん、私なら大丈夫だよ」

「今日こそは、一発で取り押さえてみせるんだから!」

そう意気込んでいると‥‥

サトコ

「あれ‥?」

目の前から、怒りのオーラをまき散らした加賀教官がやってくる。

サトコ

「加賀教官‥?」

鳴子

「なんだか、サトコのこと睨んでない?」

千葉

「だよな‥」

サトコ

「えっ!?」

鳴子たちの言葉に緊張が走り、後ずさる。

加賀

おい

そして加賀教官は、私の前にやってくると‥

バンッ!

サトコ

「っ!」

背中には壁、目の前には加賀教官、そして顔の横には‥‥加賀教官の手

(お、お得意の壁ドン‥‥)

加賀

テメェは小学生のガキ以下か

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サトコ

「へっ?」

突然の言葉に、目をぱちくりさせる。

(なんで加賀教官に、責められてるの‥?)

to be continued

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