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加賀 ふたりの卒業編 1話


【カフェテラス】

講義後、いつものように鳴子と千葉さんと、カフェテラスでまったり‥

のはずが、学校内にはなんとなく、いつもとは違う雰囲気が流れていた。

男子訓練生A

「じゃあお前、卒業後は結局地元に帰るのかよ」

男子訓練生B

「ああ。いろいろあって‥家業を継ぐことにしたんだ」

「でも教官たちにしごかれたし、ちょっとやそっとじゃへこたれない自信がついたよ」

鳴子

「卒業、かあ‥」

周りの話を聞いて、鳴子がため息をつく。

鳴子

「なんか最近はみんな、卒業の話で持ち切りだね」

「卒業って聞くと、身が引き締まる思いがするな~」

千葉

「その前に、試験に合格しないと」

鳴子

「もう、千葉さん!現実に引き戻さないでよ」

千葉

「いや、目を逸らしちゃいけない現実だろ‥」

(卒業‥試験‥なんだか、急に身近になった気がする)

(入学してから、がむしゃらにやってきて‥あれから、もう2年になるんだ)

周りの空気に感化されたのか、私たち3人の間にも、しんみりした空気が漂う。

鳴子

「ねえ‥ふたりとも、2年間、どうだった?」

千葉

「そうだな‥キツかった」

サトコ

「何度も死にそうな目にあった‥」

千葉

「そうだな‥氷川は冗談抜きで、本当にそういうとこが結構あったよな」

サトコ

「うん‥捜査とかでも何度も地獄を見たんだけど」

「なんていうか‥わりと、日常でも‥」

鳴子

「ああ‥そうだね。加賀教官という名の地獄をね‥」

ふたりは、なぜか私と目を合わせてくれない。

(確かに、辛いことが多い2年間だったけど)

(でもそれ以上に、得るものが多かった‥それに)

加賀

お前は‥俺といて、幸せか?

(少し前‥政治家たちを狙ったテロ事件で腕を撃たれたとき)

(もう、傷は治ったのに‥加賀さんに『幸せか?』って聞かれた)

私は、『加賀さんのそばにいられるなら平気』と答えた。

今も、その気持ちに変わりはない‥いや、それ以上に強い気持ちが、今の自分の中にはある。

(‥私も、加賀さんを守れるようになりたい)

(ちゃんと卒業して‥守られるだけでなく、私も大事な人を守れるような刑事になろう)

加賀さんは、いつだって近くにいてくれた。

厳しくも愛のある言葉で、私を育ててくれた。

(加賀さんと並べる刑事になることが、この学校でお世話になった恩返しになる)

(そしていつか、加賀さんに頼ってもらえるように‥)

そんな私の決心に返事をするかのように、携帯が鳴る。

画面を確認すると、加賀さんからの着信だった。

サトコ

「はい、氷川です」

加賀

5分以内に正門前に来い

サトコ

「えっ?5分!?」

加賀

遅れたらどうなるかわかってんだろうな

『わかってんだろうな』と聞いてきたのに、私の返事も聞かず加賀さんは電話を切ってしまった。

その瞬間、弾かれたように立ち上がる。

サトコ

「ふたりとも、ごめん!私‥」

鳴子

「呼び出し?」

千葉

「大変だな‥頑張れよ」

サトコ

「うん、ありがとう!じゃあね」

飲み物の容器を片付けて、急いでカフェテラスを飛び出した。

鳴子

「呼び出された瞬間に立ち上がるなんて‥サトコもこの2年間でほんと、よく躾けられたよね」

千葉

「ああ‥たまに、氷川の後ろに尻尾が見えるもんな‥」

ふたりが苦笑しながらそんなふうに話していることなど、全く知らずに‥

【ラブホ】

加賀さんと合流したあと、ほぼ無理やり車に押し込められ‥

問答無用で拉致された先は、なんとラブホテルだった。

(な、なんで‥!?まさか、加賀さんが私に発情‥!?)

(‥いやいや、冷静になろう。そんなことあるはずがない)

<選択してください>

A: どうしてここに?

サトコ

「あの、ど、どうしてこんなところに」

加賀

‥‥‥

余計なことは言うな、と言わんばかりに加賀さんに睨まれた。

(この暗黒オーラ‥逆らったら、命はない‥!)

(これは絶対、プライベートじゃない‥とすると、仕事‥?)

B: 捜査ですか?

サトコ

「もしかして、捜査‥ですか?」

加賀

テメェ‥

つい尋ねてしまった私に、加賀さんの眉間のシワが濃くなった。

(しまった‥万が一捜査だったら、口にしちゃいけないんだった‥!)

C: 無言で加賀を見る

聞きたいことをすべて飲み込み、加賀さんを見る。

加賀

‥‥‥

加賀さんは目で何かを伝えるように、チラリと私を見た。

(言葉にしない‥つまり、これは捜査‥?)

(そういえばこのラブホ、確か‥)

(東雲教官が、大物政治家がお忍びで来てるって情報を掴んだ‥って言ってたような)

それを思い出した瞬間、加賀さんの意図が分かった気がした。

車を降りた直後、加賀さんが私の腰を抱き寄せて歩き出す。

サトコ

「っ‥‥」

加賀

‥‥‥

チラリと加賀さんを見ると、どこか厳しい表情をしていた。

(やっぱり、これは捜査なんだ‥だとしたら、恋人同士らしく演じないと)

(でも、腰に添えられた手がくすぐったい‥緊張する‥!)

なんとか平静を装って加賀さんに目配せすると、一緒にホテルへと足を踏み入れた。

【部屋】

部屋に入ると、加賀さんが私の身体から手を離す。

解放されるとすぐに、ベッドの下、コンセントなど、部屋の隅から隅までチェックした。

サトコ

「加賀さん、OKです」

加賀

‥‥‥

サトコ

「盗聴器はありません。この部屋、盗聴されてないと思います」

「隣の音声、拾えますか?」

私の言葉にニヤリと笑うと、加賀さんがポケットからリモコン式の受信機を取り出した。

それと同時に、私にインカムを渡す。

加賀

色気なさすぎだ

サトコ

「す、すみません‥でも、前にもこんなことがあったので」

加賀

ああ‥テメェがまだ使えねぇクズでグズでカスだった頃か

サトコ

「うわぁ、辛らつな言葉‥」

加賀

今朝の件、お前のせいでしくじった

どう落とし前つけてもらおうか

思い出すのはまだ公安学校に入学したばかりの頃。

突然ラブホに連れていかれてベッドに押し倒され、何事かと慌てたのを思い出す。

(確かに、あの頃の私は駒としてすら使えないほどだった‥)

(いや、今もどれだけ使えるのか怪しいけど‥あれよりは成長できたはず‥)

加賀

テメェも、少しはマシな駄犬になったな

サトコ

「それでもまだ、駄犬ですか‥」

でもそれは、加賀さんなりの褒め言葉だ。‥たぶん。

加賀

毎週、この時間にマル被が愛人を連れてやって来る

どうやら、外国人スパイに情報を渡しているらしい

サトコ

「情報って、やっぱり‥」

加賀

国家機密だろうよ

『マル被』とは、被疑者のことだ。

そして今回のマル被は、東雲教官が言っていた大物政治家だろう。

サトコ

「もう、盗聴器は仕掛け済みなんですよね?」

加賀

毎回、ご丁寧に同じ部屋を取るらしいからな

東雲

兵吾さん、マル被、入りました

インカムから聞こえてきたのは、東雲教官の声だ。

どうやら、監視カメラにアクセスしているらしい。

(さすが東雲教官‥って言っても、こんなの朝飯前だろうけど)

(それにしても、外国人スパイに情報を流してるなんて‥)

それからしばらく、加賀さんと一緒に受信機から聞こえてくる音声に集中する。

間違いなく、政治家は女性に国家機密を話していた。

加賀

盗聴されてる危険も考えねぇとは、クズの極みだな

サトコ

「でも、書面やデータだと証拠が残りますよね」

「結局、どっちが安全なんでしょう?」

加賀

どっちも同じだけリスクがある

やがて、逢瀬に見せかけた情報漏えいが終了する。

盗聴データを本庁に送りながら、加賀さんはいつものように口の端を持ち上げて笑った。

加賀

上出来だ

サトコ

「欲しい情報はありましたか?」

加賀

テメェで判断しろ

(加賀さんの表情‥は、読めないけど)

(でもたいしたことない情報だったら舌打ちのひとつはするだろうし、成功だったのかな)

サトコ

「それじゃ、学校に戻って報告書ですね」

帰ろうと立ち上がった瞬間、腕を掴まれて引き寄せられた。

加賀

こんなところまで来て、何もしねぇうちに帰るつもりか

サトコ

「えっ‥」

声を出す前に、キスで口を塞がれる。

サトコ

「かっ、加賀さ‥」

加賀

喚くな

そのままベッドに押し倒されて、キスがさらに深くなる。

舌が絡まる音が室内を満たして、抵抗する気力も奪われていく‥

(インカム‥電源‥切ったっけ‥?)

(もし切れてなかったら‥)

加賀

聞かせてやりゃいい

サトコ

「っ‥‥」

加賀

テメェの、発情した声をな

サトコ

「待っ‥」

必死に加賀さんを押し戻そうとするけど、手に力が入らない。

ようやく唇が離れると、加賀さんが自分のインカムの電源を切った。

(電源‥入ってた‥!今の今まで‥!!!)

東雲教官に聞かれたかもしれないと思うと居たたまれず、両手で顔を覆う。

でもそれすら許さないというように、加賀さんが私の腕を引っ張ってベッドから起こした。

サトコ

「うう‥鬼畜‥」

加賀

あぁ゛?

サトコ

「なんでもないです‥それより、早く学校に戻らないと」

加賀

必要ねぇ

加賀さんが、さっさとドアの方へ歩いて行く。

加賀

明日は講義ねぇだろ

サトコ

「はい。でも、訓練が‥」

加賀

さっさとしろ

私の意見など聞く耳持たない様子で、加賀さんが部屋を出て行った。


【花の家】

連れて来られたのは、加賀さんのお姉さんの家だった。

(この展開は、もしかして‥)

インターホンを鳴らしてドアを開けた瞬間、小さな身体がドーン!と加賀さんに体当たりした。

「ひょーご!おかえりなさい!」

加賀

お前‥

「あれっ?サトコもいっしょ!」

サトコ

「花ちゃん、久しぶり。大きくなったね」

「だって、もうねんちょうさんだもんねー」

(そっか‥初めて会ったときはまだ3歳だったけど)

(花ちゃん、もう年長さんになったんだよね)

サトコ

「それで、今日はなぜここに‥」

加賀

姉貴が忙しいらしい

サトコ

「なるほど、それでまた加賀さんが花ちゃんのお世話を」

「そういえば、お姉さんたちはホテルを経営してるんでしたっけ」

加賀

ああ‥今日は泊まりで子守だ

サトコ

「花ちゃん、今までひとりで待ってたの?」

「ちゃんとねー、カギかけてたからねー」

「ピンポンなったら、カメラでひょーごかどうかちゃんとみたしねー」

花ちゃんは片手に加賀さん、もう片方の手で私の手を取る。

そして、嬉しそうに自分の部屋へと案内してくれた。

【花の部屋】

食事ができたので、花ちゃんの部屋にふたりを呼びに行く。

すると、花ちゃんの後ろで盛大に舌打ちしている加賀さんがいた。

加賀

チッ‥なんでほつれんだ

「ひょーご、ちゃんとかわいくしてよー」

加賀

‥そのままでもいいだろ

「だめー!むすんだほうが、もっとかわいくなる!」

どうやら、花ちゃんの髪を結んであげるために四苦八苦してるらしい。

途中、何度か諦めかけながらも、花ちゃんに叱咤激励されてなんとか髪を結んであげていた。

加賀

ほらよ

「ひょーご、ありがと!」

花ちゃんが嬉しそうに、加賀さんに抱きつく。

不意を突かれたのか、加賀さんは少し驚いたようにその小さな身体を抱きしめた。

「はな、かわいくなった?」

加賀

ああ

サトコ

「花ちゃん、よかったね」

「その‥ちょっと独創的な髪型だけど」

加賀

‥‥‥

サトコ

「ほ、褒めてるんですよ‥」

「はなねー、ひょーごにやってもらうのが、いちばんうれしい!」

(ふふ‥花ちゃん、本当に加賀さんのことが大好きだよね)

加賀

いい加減、離れろ。暑い

「やーだー!だっこだっこ!」

加賀

もうすぐ小学生だろ。そろそろ抱っこは卒業しろ

サトコ

「加賀さん‥」

<選択してください>

A: 私も抱っこしてください

サトコ

「あの、私も‥」

抱っこしてください、と口走りそうになり、慌てて言葉を引っ込めた。

(あ、危ない危ない‥さすがに抱っこは恥ずかしい)

加賀

なんでテメェを抱っこしなきゃなんねぇ

(バレてる‥)

B: 嬉しそうですね

サトコ

「なんだかんだ言いながら、嬉しそうですね」

つい思ったことを言ってしまい、慌てて口を押えたけど手遅れだった。

加賀

‥覚えてやがれ

サトコ

「す、すみません‥!つい、本音が‥」

加賀

‥‥‥

(ダメだ‥喋ると墓穴掘る!)

C: ごはんできましたよ

サトコ

「‥ごはんできましたよ」

加賀

なに笑ってやがる

サトコ

「そ、そんな‥笑うなんて」

(加賀さんが『抱っこ』なんて言うと思ってなくて‥って正直に言ったら)

(花ちゃんの前でアイアンクローされそうだから、黙ってよう‥)

「サトコ、ごはんできたー?」

サトコ

「うん、今日はオムライスだよ」

「はな、オムライスすき!」

花ちゃんが、嬉しそうに部屋を出て行く。

(花ちゃん、かわいいな‥でももし今日、このお泊りがなかったら)

(さっきのラブホで、あのあと‥)

サトコ

「‥いやいや!」

あらぬ妄想をしていると、クッと加賀さんが笑った気がした。

サトコ

「加賀さん?」

加賀

物足りねぇ顔してんな

サトコ

「え‥」

(まさか‥さっきのこと思い出したの、気付かれてる!?)

サトコ

「は、早くしないとごはん冷めちゃいますから!」

妙に恥ずかしくて、逃げるように部屋を出た。

【リビング】

食事のあと、洗い物を終える。

ちょうどそのタイミングで、携帯が鳴った。

(ん‥?翔真から?)

弟からの珍しい着信に、首を傾げながら通話ボタンを押す。

サトコ

「はいはい。翔真?どうしたの?」

翔真

『姉ちゃん、大変だ‥!母さんが倒れた!』

電話の向こうから、翔真の切羽詰まった声が聞こえてくる。

その瞬間、ときが止まったように、頭の中が真っ白になった‥‥‥

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