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加賀 ふたりの卒業編 特典ストーリー

【教官室】

国際テロ組織が絡んだ長官や大臣襲撃事件も、首謀者の逮捕によって一応の収束を見せた。

訓練生全員の卒業も決まり、校内には珍しく平和な雰囲気が漂っている。

(チッ‥どいつもこいつも、卒業間近で浮かれやがって)

(残りの演習でミスしやがったら、落第させてイチからやり直しだな)

若干浮ついた雰囲気を感じながら仕事を片付けていると、気に入らない気配を感じた。

加賀

‥何してやがる

石神

‥‥‥

加賀

目障りだ。失せろ

石神

ここは共同の教官室だ。嫌ならお前が個別教官室へ行け

だがその前に、未提出の報告書が15件ある。それを提出してからにしろ

加賀

‥チッ

(相変わらず、融通のきかねぇ野郎だな)

(あの事件の最中のどこに、報告書を書く暇があったっつーんだ)

だが、クソ眼鏡はたぶん、滞ることなく報告書を提出しているのだろう。

その抜かりのなさに、ことさらイライラした。

(あんなチマチマした作業が苦じゃねぇとは、こいつ、変態か)

(サトコに負けず劣らずのマゾじゃねぇのか)

仕方なく、すぐに教官室へ来るようサトコにメールする。

が、業務を片付けながらいくら待っても、あいつからの返事はない。

(主人からの呼び出しを無視するとは、駄犬がずいぶんと偉くなったもんだな)

(あとできっちり、仕置きしてやる)

東雲

兵吾さん、あの子なら取調室の掃除してますよ

加賀

あ?

東雲

ついさっき始めたところだと思うから、まだ時間かかるじゃないですかね

加賀

人の補佐官、勝手にこき使ってんじゃねぇ

東雲

成田教官の伝言を伝えただけですよ。卒業前の校舎を掃除するように、って

そのあとの分担は、その場にいた訓練生たちで決めたみたいですけど

加賀

‥‥‥

(よりにもよって、成田か‥)

(あんなのに使われるとは‥どこまでクズなんだ)

日頃から何かとこっちを目の敵にしてくる成田の名前を聞くだけで、苛立ちが募る。

東雲

あーあ、寂しいなー

どうもわざとらしく聞こえる歩のつぶやきに、颯馬が反応した。

颯馬

歩、どうしました?

東雲

だって兵吾さんがあの子を服従‥じゃない、指導する姿を見られるのも、あと少しでしょ

卒業したら、上官と補佐官なんて縛りはなくなっちゃいますからねー

加賀

‥‥‥

(相変わらず、かわいげのねぇガキだな)

俺とあいつの関係になんて、とっくに気付いてやがる。

そのくせ、何が楽しいのかたまにこうして揺さぶりをかけてくるのが鬱陶しい。

(あの駄犬‥まだちんたら掃除してやがるのか)

(ここにいても、生意気なガキと眼鏡プリンがめんどくせぇ)

立ち上がり、飼い犬の躾をするため、教官室を出た。

【取調室】

取調室では、歩が言った通りサトコが掃除をしていた。

クソ真面目に、隅から隅までピカピカになるほど磨き上げている。

(手ぇ抜くことを知らねぇのか、テメェは‥)

集中しているのか、俺が部屋に入っても気付く様子がない。

半開きだったドアをわざと音を立てて閉めてやると、ようやくこちらを振り返った。

サトコ

「あれっ?加賀さん!お疲れさまです」

加賀

‥使えねぇ

サトコ

「ええ!?入って来て早々の暴言!?」

不満らしいサトコの前で、取り調べ用の椅子に座る。

加賀

携帯

サトコ

「え?」

加賀

見てみろ

不思議そうに、サトコが自分の携帯を取り出す。

だが画面を見た瞬間、その表情が凍りついた。

サトコ

「ままま、まことに申し訳ございません‥!」

加賀

飼い犬の命令は、絶対だ

サトコ

「それは、重々承知なんですけど‥!」

「でも、東雲教官からの指示が先で‥」

加賀

あ゛?

サトコ

「ひいぃ‥」

「そ、卒業前に校内を綺麗にするのは必要なことですから‥!」

後ずさりしながらも、サトコが必死に抗議してくる。

わざとゆっくり近づくと、俺から逃れるようにサトコはさらに後ろへ逃げた。

(ビクビクしやがって、小動物か)

(まあ、この反応を見るのがやめられねぇんだが)

サトコ

「なな、なんですか‥!?」

加賀

何がだ

サトコ

「なんで迫って来るんですか‥!」

焦らすように顔を近づけると、強張っていた表情にさらに焦りがにじんだ。

(この面‥どこかで見たな)

(ああ‥そういや)

サトコ

『教官!これじゃ全然、練習になりません!』

加賀

降参か?

サトコ

『だって、ずっとだんまりじゃ‥』

まだサトコが補佐官になったばかりの頃、取り調べの実地講義をしたことがある。

あのときの怯えた顔と重なり、柄にもなく懐かしい気持ちになった。

(‥なんの色気もねぇ、使えねぇ駒だと思ってた)

(それが‥)

サトコ

『それなら‥教官の勘に賭けたいです!』

『私も、教官を信じます!心中しても‥恨みっこなしです!』

(バカみてぇに正義感が強くて、死ぬかもしれねぇのに俺を追いかけてきて)

加賀

ずいぶんと‥長い家出だったな

サトコ

『家出!?』

(迷うことはあっても、最後までテメェの正義を貫いた)

サトコ

『私は、加賀さんの傍にいられるなら、平気です』

『他の誰でも、無理なんです。加賀さんとじゃなきゃ、幸せになれません』

(罵ろうが蔑もうが、厳しくしようが‥食らいついてきた)

(こんな女‥他にいねぇだろ)

サトコ

「は、離してくださいっ‥」

加賀

犬が主人に意見か?躾がなってねぇな

サトコ

「躾してるのは、加賀さんじゃないですか‥!」

加賀

ほう‥躾けられてるって自覚があんのか

サトコ

「ううっ‥」

(あんな捨て駒に、こんなに入れ込むとはな)

サトコ

「あ、あんまり見ないでくださいっ‥」

真っ赤になったサトコが、目を逸らして前髪を直す。

俺に見られただけで、今さら自分の外見を気にする姿が妙にいじらしい。

(言い返すようになっても、根本は変わらねぇ)

(前髪直したところで、何も変わりゃしねぇだろ)

笑いを堪えながら、サトコの背中を壁に押し付ける。

腕をつかみ頭の上で両手をまとめてやると、身体を押し付けてサトコの動きを封じた。

サトコ

「っ‥‥」

加賀

騒ぐなよ

耳元で、わざと小さく言ってやる。

顎を持ち上げて顔を近づけたとき、廊下を歩いてくる足音が聞こえた。

千葉

「氷川、掃除終わった?手伝いに来たんだけど‥」

ガチャガチャと、ドアを開けようとする音。

それを聞いて、サトコがわかりやすいくらいに慌てて首を振った。

サトコ

「っ‥‥!っ‥‥!」

加賀

‥‥‥

(チッ‥邪魔が入ったか)

(‥まあいい)

部屋には鍵をかけておいた。すぐには入ってこないだろう。

さらに顔を近づけると、サトコはどこか照れた様子を見せながらも、目を逸らさない。

(‥昔なら、『やめてください』とでも言いながら必死に抵抗してたな)

(‥この2年で、それなりに躾けられたか)

予想外の反応に多少驚きながらも、面白い、という気持ちの方が強い。

唇はお預けにして、耳に軽く音を立ててキスをした。

サトコ

「!?」

両手を解放してやると、耳を押さえながらサトコが真っ赤になっている。

加賀

‥何期待した?

ドアの向こうの千葉に聞こえないようにささやくと、サトコがさらに頬を染める。

口をパクパクさせながらうつむくサトコを見て、加虐心が満たされるのを感じた。

(テメェはそうやって、いつまでも俺に転がされてりゃいい)

(俺に反論するなんざ、100年早ぇ)

【寮 廊下】

その日の深夜、宿直の仕事で寮を見回る。

この2年で躾けられたのはサトコだけではなく、

どの訓練生も消灯時間と同時に寝るようになった。

(2年前は、バカみてぇに起きてる奴がいて見回りも張り合いがあったが‥)

だが、静まり返った寮のどこからか、ゴソゴソと妙な物音が聞こえてくることに気付く。

(‥サトコか?)

それは、ちょうど通りかかったサトコの部屋かららしい。

時計を見ると、もう3時を回っていた。

(こんな時間に何やってんだ‥)

(ったく‥あいつは毎度毎度、飽きねぇな)

苦笑して、見回りの続きのために部屋を通り過ぎた。

【寮 部屋】

見回りの記録を終え、帰りにもう一度通りかかるとまだ物音がしたので、カギを使って中に入る。

サトコはダンボールに囲まれながら、狭い部屋を動き回っていた。

加賀

‥何やってんだ

サトコ

「ギャーッ!」

加賀

うるせぇ。何時だと思ってる

サトコ

「かっ、加賀さん‥!?すみません、幽霊かと‥」

加賀

あ?

サトコ

「だって、時間的に‥」

「あの、すみません。もう少しで終わらせますから」

加賀

‥荷物まとめてんのか

訓練生は、卒業と同時に寮を空けなければならない。

そういえば、今回の長官襲撃事件以来、

サトコには引っ越しの準備などする時間もなかったはずだ。

捜査に報告書、テストに実践演習‥他の訓練生よりもずっと忙しい日々を過ごしただろう。

(その上、俺が入院しているときは毎日見舞いに来てたからな)

サトコ

「‥もうすぐ、この部屋ともお別れですね」

加賀

ああ

ここを出たら、一人暮らしか

サトコ

「はい‥部屋もそろそろ探さないと」

加賀

‥まだ探してねぇのか

サトコ

「じ、時間がなくて‥鳴子や千葉さんは、もう決めたみたいなんですけど」

(卒業間近だってのに、次住む場所も決まってねぇ‥)

(‥大丈夫か、こいつ)

サトコ

「それにしても‥ここに、2年もいたんですね」

加賀

最初は2週間で退去になる予定だったのにな

サトコ

「そんな予定ないですよ!ちゃんと2年頑張るつもりでした!」

「だけど、いろんな思い出ができました。なんだか寂しいな‥」

(‥思い出、か)

しんみりと部屋を見回すサトコの前で、電気のスイッチを切った。

サトコ

「加賀さん?」

加賀

この部屋の最後の思い出作りに、協力してやるよ

俺の言葉から何かを感じ取ったのか、サトコが慌てた様子で首を振る。だがそれよりも早く、その身体をベッドに押し倒した。

サトコ

「待っ‥だ、ダメです!隣の人に気付かれたら‥」

加賀

もう寝てんだろ

起きてるバカは、テメェくらいだ

珍しく抵抗を見せるサトコが、俺の身体を押し戻そうとする。

黙らせるために口を塞ぎ、服のボタンを外した。

サトコ

「っ‥‥」

加賀

声、我慢しろよ

はだけた服の向こうに見える肌に、手を伸ばす。

吸い付くような感触を味わっていると、サトコが俺の下で目に涙をにじませて頬を染めた。

サトコ

「寮で、こんなっ‥」

加賀

喚くな

舌を絡ませてやると、取調室で焦らしたせいか、サトコが背中に腕を回してきた。

我慢しているらしいが、小さな嬌声がこぼれる。

加賀

隣に気付かれるんじゃねぇのか?

サトコ

「だ、だって加賀さんがっ‥」

からかわれたのが不満らしく、サトコは軽くこちらを睨んでくる。

だが‥

(その顔が俺を煽ってるって、いつになったら気付く?)

(つくづく、虐め甲斐のあるマゾだな)

敏感なところをなぞってやると、微かな声とともに、サトコが身体を震えさせる。

それで睨まれても、なんの説得力もない。

(テメェが何をすれば反応するかは、俺が一番良く知ってる)

(俺から逃れようなんて考えるのが甘ぇ)

サトコ

「加賀さっ‥も、もう許してくださ‥」

加賀

何をだ?

サトコ

「明日っ‥講義、受けられなくなっ‥」

加賀

俺の講義で腑抜けた面してやがったら、全員の前で仕置きだ

サトコ

「な、何するつもりですか‥!?」

加賀

さあな

余計なことなど考えさせないように、こちらへ集中させる。

必死に声を押し殺しながら背中にしがみつくサトコの眼には、俺しか映っていない。

(‥俺が躾けた通りに反応する)

(どこまでも従順だな。テメェは)

目を潤ませて抱きつくサトコの腕に、力がこもった。

サトコ

「加賀さんっ‥卒業しても、私‥」

「ずっと、加賀さんと‥」

加賀

‥‥‥

東雲

卒業したら、上官と補佐官なんて縛りはなくなっちゃいますからねー

(俺たちの間に、そんな縛りなんざいらねぇ)

(テメェが望んでも望まなくても‥これから先も、俺の女だ)

サトコを見下ろして、首筋に唇を近づける。

肌に吸い付き、自分のものだという印をつけた。

(俺が、何かに執着か‥柄でもねぇ)

(こんなのは、テメェが最初で最後だ)

サトコの身体をきつく抱きしめて、その柔らかい身体に沈み込んだ。

Happy  End

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