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#彼が野生動物だった件 後藤1話

ウサギーーそれは性の象徴として、某海外雑誌のマークにも起用されている。
大きな耳があるため音に敏感で、警戒心が強い。
しかし好奇心が強い一面も。懐くと心を許し甘えてくると言われている。

【自室】

誠二さんに送った、『しばらく、会うの控えませんか?』というメッセージ。

(津軽さんに監視されている可能性がある以上、今、会うのは危険だから···)

断腸の思いで送ったメッセージへの返事はすぐに来た。

後藤
『何かあったのか?』

(そう思うよね···)
(だけど、津軽さんのことを言ったら、誠二さんは心配するだろうし)

『任務中の都合です』と短い返信をすると、『なら仕方ないな。頑張れ』と返ってきてーー

(優しい、誠二さん···)

スマホをグッと握り締め、動物園で撮ったウサ耳誠二さんの写真を見つめた。

【公安課ルーム】

会えないと思えば会いたくなるーー世の常を振り払うように仕事に打ち込んでいると

津軽
早く動物園行きたいなー。ウサちゃんも一緒に行かない?

サトコ
「私は行ったばかりなので遠慮しておきます」

津軽
俺と行くと、また一味違った楽しさがあるよ?
ウサちゃんにウサ耳カチューシャ着けたいのになぁ
いいよね、ウサ耳って。可愛くって

サトコ
「う···」

(ウサ耳ピンポイントだなんて···!やっぱり誠二さんとの仲を疑われてる!?)

サトコ
「津軽さんはカチューシャよりもお土産に注目したほうがいいと思いますよ」
「『ヤギのフン』とか『オランウータンの鼻クソ』っていうチョコが売ってて···」

津軽
遠回しに俺のことクソ上司だって言ってる?

サトコ
「ち、ちちち、違います!人気のお土産だったんです!」

津軽
ふーん。言う通りの人気か確かめてこよっと

(圧が···)

津軽
全部買い占めて、ウサちゃんの口に突っ込んでいい?

サトコ
「何で良いと思ったんですか??」
「···とりあえず、遠慮したいです」

こういう時の津軽さんには、これ以上関わらないのが得策だ。

(というか、誠二さんに会えない分、津軽さん成分が増えてる気がして···)

正直、もうお腹いっぱいだった。

【マンション】

(誠二さんは、まだ仕事かな···)

気を抜けば頭に浮かぶのは彼のことばかり。

(しばらくって言ったけど、いつまで我慢すればいいのかなぁ)

自分で決めたことなのに、見えない先にモヤモヤしながら家に帰ると···

後藤
おかえり

サトコ
「ただいま···って、誠二さん!?」

(どうして、ここに!?)
(津軽さんも住んでるのに···って、それ、誠二さんに言ってなかった!?)

サトコ
「ダ、ダメですよ!どうして、ここに!?」

心の声が、そのまま声に出る。

後藤
聞きたいことがあるのは、俺の方だ

サトコ
「とにかく、中に!」

誰かの目がないか周囲を確認し、誠二さんを玄関へと引っ張り込んだ。

サトコ
「どうしたんですか?しばらく会うのを控えようって言ったばかりなのに···」

後藤
ああ。アンタが任務の都合だって言うから納得したが···
今日のアンタを見ている限り、特別な任務に就いているようには見えなかった
俺の勘違いなら悪いが···もし何か別の理由があるなら、言ってくれ

誠二さんの瞳には私を心配する色も浮かんでいて、私は目を泳がせる。

サトコ
「う···それはその···」

<選択してください>

正直に話す

(やっぱり誤魔化すことはできないか···)

サトコ
「実は···私たち、津軽さんに見張られてるみたいなんです」

後藤
見張られてる?

誠二さんは驚いた顔は見せずに、私の言葉を復唱した。

とぼける

(何とか誤魔化さないと···)

サトコ
「誠二さんの気のせいですよ。ああ見えて、本当は重要な任務を···」

後藤
···そうなのか?

サトコ
「う···」

(誠二さんの真っ直ぐな目に見つめられると···!)

良心が痛んで、嘘を吐いていられなくなる。

サトコ
「ごめんなさい···実は、別の理由があって」

抱きついて誤魔化す

(何とか誤魔化さないと···こうなったら···)

誠二さんにぎゅっと抱きついてみる。

後藤
···どうした?

サトコ
「ええと、その···」

しっかりと抱き留めてくれるものの、誤魔化されてくれる様子はない。

(正直に話すしかないか···)

私は誠二さんから離れると、深呼吸してから彼を見上げた。

サトコ
「実は、別の理由があって···津軽さんに見張られてるみたいなんです」

サトコ
「この間、皆さんで動物園に行った時の写真を津軽さんに見せられて···」

後藤
ああ、津軽さんか。あの時いたな。百瀬と一緒に

サトコ
「気付いてたんですか!?」

後藤
アンタは気付いてなかったのか?

サトコ
「はい···」

(くっ、これが経験値の差···!)

サトコ
「どうして、私たちを尾けて···?」

後藤
それは俺にもわからない。向こうにも任務があったかもしれないが···
俺も、そもそも動物園での任務の詳細を知らされてないしな

サトコ
「誠二さんもそうなんですか?」
「怪しい人物はそれなりにチェックして報告はした」
「だが、それが何の事件に繋がっているのか···までは知らされていない」

サトコ
「誠二さんまで知らされていないなんて···よほどの極秘捜査なんでしょうか?」

後藤
その可能性もあるが···今は何とも言えないな
津軽さんがいたのも任務なのか遊びなのかも、わからない

サトコ
「つまり、私たちの周りは謎だらけ···」

ということは、津軽さんと私と誠二さんの仲を怪しんでいる可能性もゼロではない。

(銀室は恋愛禁止···その要である津軽さんが動くことはあり得る)

サトコ
「···不安なんです」

後藤
何がだ?

ぽつりと零した言葉に、誠二さんの手が肩に置かれるのが分かった。

サトコ
「津軽さんが私たちの仲に気付いて···」
「誠二さんとの関係がこじれたりしたらって···」

後藤
···そういうことか

私の不安を理解するように誠二さんが頷くのが分かった。

後藤
相手は津軽さんで、今はアンタの上司だ。油断できないのはわかる
···そうだな。しばらく、周りの動きが分かるまで会うのは控えよう

サトコ
「はい···」

(誠二さん···)

肩に置かれていた手が離れるのに、寂しいなんて思ってしまう。

(ダメダメ!私が言い出したことなんだし、これからのことを考えたら、これくらいで···!)

サトコ
「きっと大丈夫ですよね!津軽さんのことだから、すぐに···」

後藤
サトコ

続きの言葉は紡げなかった。
強く誠二さんの腕に抱き締められている。

後藤
······
···よし

サトコ
「誠二さん···?」

大きく気合を入れるように息を吸った誠二さんが私の身体を離した。

後藤
連絡も入れず、急に来て悪かった
無理するなよ

サトコ
「はい!」

誠二さんが部屋を出て行き、私はそのまま玄関に座り込む。

サトコ
「はぁ···」

(あ、そうだ···津軽さんもここに住んでるって、言うの忘れた)
(でも、今言ったらもっと状況がややこしくなるかもしれないし···)

落ち着いたら話そうと心に決める。

(それにしても近くにいるのに、会えないなんて···)

まるで誠二さんに片思いをしていた時のような、切なさともどかしさに胸を塞がれていた。

【警察庁廊下】

翌日。
誠二さんとの密会を経てから、私の考えにも変化が出ていた。

(とにかく、じっと大人しくしてるしかないと思ってたけど)
(このまま何もせずにいるなんて、できない!)
(誠二さんと早く会えるようになりたいから···)

周りの動きが分かるまでーーということは、周りの動きが分かればいいというわけでもあり。
私は早速津軽さんが何をし、どう動いているのかを探ってみることにした。

木下莉子
「高臣くん、知ってる?」

津軽
ん?ああ、その話?

(さっそく津軽さん発見!莉子さんと何を話してるんだろう?)

津軽
ウサギって毎日が発情期なんだってね

サトコ
「!?」

木下莉子
「性欲絶倫の象徴だものね。無害そうな可愛い顔をして···」

(どうして、ウサギの性欲の話を!?)

頭の中に自然に浮かんでくるのは、ウサ耳の誠二さん。

(毎日が発情期···性欲絶倫···)
(いやいや!別に誠二さんがそういうわけじゃ···!)

ふっと機能抱き締められた腕の力強さが身体に蘇っていると···

百瀬
「おい」

サトコ
「!」

背後からかけられた低い声に自分でも驚くほど跳び上がる。

百瀬
「何赤くなってんだ。こんなところで」

サトコ
「も、百瀬さん···」

津軽
今の跳び上がり方、ほんとのウサギみたいだったね

サトコ
「!」

(見つかった!)

津軽
ウサちゃんは知ってる?ウサギの話

サトコ
「知らなくていいです!セクハラです!」

津軽
どうして?ウサギの話って言っただけだけど?何の話だと思ってるの?

サトコ
「う···」

(この笑顔···私が盗み聞ぎしたことを知ってる···!)

木下莉子
「こらこら、新人を苛めないの」

サトコ
「莉子さ~ん!」

津軽
可愛がってるだけなのに

木下莉子
「高臣くんって、そういうところ男子のままよね」
「そうだ。休憩行かない?サトコちゃん」

サトコ
「行きます!私もちょうど休憩時間なんです!」

地獄に仏とはこのことーー渡りに舟で、莉子さんの後をついて行った。

【カフェ】

向かった先は、カフェJILLE。
先日の事件で店じまいかと思っていたが、オーナーチェンジして何事もなかったように続いている。
莉子さんは季節のモンブランのケーキセットを食べさせてくれた。

サトコ
「莉子さんの優しさが甘さと一緒に染み渡ります···」

木下莉子
「高臣くんの下じゃ苦労するわね」

サトコ
「莉子さんって津軽さんと仲いいんですか?」

木下莉子
「どうかしら。気は合うけど、仲がいいかと聞かれれば、ちょっと違うわね」

(気は合う···わかる気がする。2人とも腹の中が読めないって意味で)

木下莉子
「今、似た者同士って思ったでしょ」

サトコ
「い、いえ!決して、そんなことは···!」

木下莉子
「ま、いいけどね。で、どうしたの?コソコソ高臣くんの様子を見たりして」
「もしかして、恋しちゃった?」

サトコ
「ぶっ!」

まさかの発言にカフェオレを噴き出しかけ、ぐっと堪える。

サトコ
「げほっ···」

木下莉子
「図星?」

サトコ
「ち、違います!それに、銀室は恋愛禁止なんですよ」

木下莉子
「でも、好きな気持ちって止めようと思って止められるものじゃないでしょう?」

(仰る通りでございます···)

ブラックのコーヒーを飲みながらそうのたまう莉子さんんは完全に大人の女性だ。

木下莉子
「恋に落ちちゃいけない相手と恋に落ちるのは、定番だし」

サトコ
「ロミオとジュリエットとかですか?」

木下莉子
「そうね~。あれは悲恋っていうより、お互いがお互いを信用し切れてなかった愚かな恋だけど」

ロミオとジュリエットを愚恋とバッサリ切り捨てる莉子さんは、さすがだ。

(お互いを信用し切れてなかった恋···か)

誠二さんとはしっかりと繋がっているーーそう信じるように、私は自分の手を見つめた。

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【警察庁】

その日の終業後。
私は津軽さんではない、別の人物を探していた。

(津軽さんの周りを探るのは危険が多すぎる)
(他に調べられるのは、この間の謎の動物園同窓会···)
(あの企画をした黒澤さんは “何か” を絶対に知っているはず)

もしかしたら、なぜ津軽さんたちが来て私たちを見張っていたのか···それもわかるかもしれない。

サトコ
「黒澤さん!」

黒澤
サトコさんに呼び止められるなんて嬉しいな。何か御用ですか?

サトコ
「ちょっと、こちらへ!」

黒澤
え?

ささっと周囲に誰もいないことを確認し、黒澤さんを階段近くの隅へと引っ張っていく。

黒澤
もしかして愛の告白ですか?困ったな···オレには···

サトコ
「洗いざらい吐いてください!」

黒澤
わあ、サトコさんの告白って刺激的☆

サトコ
「冗談言ってる場合じゃなくて···この間の動物園同窓会、本当は何のための集まりなんですか?」

黒澤
なかなか会えなくなった公安学校の皆さんの心の交流を···

サトコ
「何かの捜査だったってことはわかってるんです」
「あの時、津軽さんたちまで来てた理由、黒澤さんなら知って···」

黒澤
あー···それは、そのー···

詰め寄ると、黒澤さんの目が泳いだ。

(これは何か情報が得られるかも!)

サトコ
「黒澤さん、お願いします!」

黒澤
お話したいのは山々なんですが···

小さく首を振った黒澤さんが、私の背後を指差した。
言われて感じる、独特の空気。

(この気配は···)

津軽
透くんとも随分仲がいいみたいだねぇ

サトコ
「つ、津軽さん···!」

(警戒してたはずなのに!全然気付けなかった!)

黒澤
公安学校時代から、かなりの仲良しですよ

津軽
ふーん。ウサちゃんは密会が好きなの?

サトコ
「ち、違います!これは、その···」

(あの動物園のことを探っていたとは言いにくい···)
(このまま黒澤さんとの仲を疑わせておけば、誠二さんとの仲は隠せ···いや、それはナシ!)
(そんなことをしても解決しないし、誰も幸せにならない···)

津軽
さ、行くよ

黒澤
あー···これがドナドナ···

サトコ
「······」

ガッチリと黒澤さんを連れて行く津軽さんは、私の思惑などすべてお見通しかもしれない。

(もう打つ手ナシなの···?)

津軽
あ、そうそう

少し離れたところで津軽さんが振り返る。

津軽
頼みたい仕事、デスクの上に置いておいたから、お願いね

サトコ
「はい···」



【公安課ルーム】

公安課に戻った私のデスクに置いてあったのはーー

東雲
なに、その書類タワー

百瀬
「こっちに崩してくんなよ」

サトコ
「は、はは···」

(デスクに書類の壁が出来てる···)

津軽さんに先手先手を打たれる日々が続き···気が付けば、数週間の時が流れていた。

to be continued

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