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#彼が野生動物だった件 黒澤2話

黒澤
オレたち2人の絆がないと出来ない計画です

【公安課ルーム】

(上手くいくかな···)

透くんから聞いた計画を思い出しながら、そっと周りをうかがう。

(でも、失敗しても成功しても透くんの命が危ういような···)

津軽
今日は朝から落ち着かないね?

サトコ
「そう、ですか?」

ひっくり返りそうになる声を抑えながら津軽さんを振り返る。

(とにかく私は、私に課せられた任務を遂行するしかない···!)

サトコ
「それより津軽さん、さっき加賀さんが探してましたよ」

津軽
兵吾くんが?

サトコ
「はい。多分もうすぐ戻ってくると思うんですけど」

透くんに頼まれた私の任務は津軽さんと加賀さんを接触させることだった。

(加賀さんにもさっき適当な理由で来てもらえることになったし···)

ちらりと津軽さんのデスクを見ると、無造作に彼のスマホが置かれていた。
そこまで考えて、ハッとする。

(これ、バレたら私も殺されるんじゃ···)

それでも、もう引き返せない。
近くを通りかかった透くんに目配せをすると、向こうも了解と返してくれる。

ガチャ

(戻ってきた···!)

公安課に戻ってくる加賀さんに、ドキドキと鼓動は速度を増していく。

津軽
兵吾くん、話って何?

加賀
あ?何のことだ

津軽
あれ、さっき···

こちらに話題が振られそうになったその時。
視界の端で透くんが何故かよちよち歩きで加賀さんの後ろに回り込んでいった。

(本当にやるんだ···!)

私と目が合った次の瞬間、ロケットのように加賀さんへと突っ込んでいく。

黒澤
うわー!早朝清掃業者がワックス掛けたばかりの床に
ついつい力を入れて足を踏み込んだことにより滑っちゃいました~~!!

加賀・津軽
「!」

それを見ていた全員が息を呑んだ。
透くんに背中を押された加賀さんは、当然のことに上体を傾ける。
目の前にいた津軽さんが反応するより先に、綺麗な形をした2つの唇が重なった。

全員
「!?」

すぐに離れたものの、バッチリとその瞬間が目に焼き付いていた。

百瀬
「···っ···!?」

後藤
今、2人の間に花びらが見えたような···

石神
後藤、それ以上言うな

東雲
オレは何も見てないですよ

颯馬
と、言いつつちゃっかりスマホを構えて···後で送ってください

(これが開けてはならない秘密の花園···)
(じゃない!今のうちに···)

部屋全体が騒然としているうちにそろそろと移動する。

加賀
·········黒澤···テメェ···

不意に聞こえてきた地を這うような加賀さんの声に室内は静まり返る。
その声を聞いた瞬間、きっと見ていた全員が透くんに胸の内で合掌した。

津軽
透くん、最後に食べたいものは何?今日出前で取ってあげる

黒澤
やだなー、ちょっと躓いちゃった先に加賀さんがいただけですよ!
事故です!事・故···☆

加賀さんと津軽さんに詰め寄られながらも笑顔で返す透くん。

(そこで物怖じしないなんて、透くんどんな精神力して···)

そんなことを思いながらも、津軽さんのデスクに置かれていたスマホを掠め取る。
すぐに物陰に隠れながら、画像ファイルを探した。

(あった!これを全部···)
(って、あれ···?)

浮かんだ違和感に画像フォルダをスクロールしていく。
どの写真も、顔が見切れたり後姿だったりと確かな証拠とは言い難い。

(はっきりと撮られてるのは1枚もない)
(どれも透くんが遮ってる···?)
(カメラが向けられる瞬間、全部気付いてたんだ)

先輩としての実力差を見せられると同時に、
私にべったりだったのはこういう意図もあったのか、と胸が熱くなる。
指先で素早く操作しながら、絶賛加賀さんに絞められている透くんを盗み見た。

加賀
明らかにわざとだろうが。そんなに地獄が見てぇか?あ゛ぁ?

津軽
詳細説明まで付いてたしね

百瀬
「······」

後藤
···百瀬···固まってるのか···?

百瀬
「!!つ、津軽さん、どこに沈めますか」

黒澤
百瀬さんの目がなんだかマジっぽいナ···☆な~んちゃって···

津軽
そうだなぁ、今時東京湾なんてありきたりだし

透くんを締める加賀さんは、ゴシゴシと唇を手で拭う。

黒澤
ウワーーーーッッッ助けてーーーーーー!!!

加賀
静かにしろ、クソが···

津軽
そんなに強く擦ると唇荒れるよ?せっかく柔らかくて···

加賀
やめろ
しばらくその顔こっちに向けるな···

津軽
ひどいな、人の唇奪っておいて!

加賀
気色悪ぃこと言ってんじゃねぇ···

黒澤
ギ、ギブ···そ、そろそろ本気で三途の川が見えてきました···

加賀
テメェは墓場行きだ

石神
黒澤···惜しい奴を失くしたな

透くんが加賀さんの腕をバシバシ叩くも、その腕が緩められることはなかった。

(透くん、ありがとう···!最後によし、これで···)

最後の1枚を消去した瞬間、手の中からスマホが奪い取られる。

サトコ
「!?」

津軽
あ···やられた

そう言いながらスマホを確認する津軽さんは全く気にする風もなく笑った。

(むしろ余裕すらある笑み···)
(でもこんな現行犯で見られて、このまま私も締められ···)

津軽
よく頑張りました

テストでいい点を取った子どもを褒めるように、津軽さんは言い放った。
私はただ呆然と津軽さんを見上げる。

津軽
試させてもらったんだよ

サトコ
「え···?」

津軽
自分の不利な情報を握られたとき、どんな行動を取るのか
まぁ、とりあえず及第点かな
まず、いつも肌身離さない俺のスマホがなぜ今日に限ってデスクにあったのか
その上、ロックが掛かってないことを怪しまずに焦りで作業を進める
他にもいろいろあるけど、この2つがキミのマイナス点だよ、ウ・サ・ちゃ・ん

サトコ
「ぅぅぅぅう゛う゛···!!」

津軽
唸らない唸らない

(確かにそうだ···この人相手にすんなりいけるわけがなかった···!)

津軽
そもそも最初っから疑ってないから

サトコ
「疑ってない···?」

津軽
あの中の誰かとキミが付き合うわけないよね

サトコ
「···!」

笑っている津軽さんの瞳は底が知れなかった。

(この笑顔はただバカにしてる···?それともまだ何か隠して···)
(というか、そうしたらこの数日間の疲労感は一体···)

サトコ
「あ、はは···そうですよね···」

(まぁでも、とりあえずはこれで···)

緊張が解けたのか、どっと疲れが押し寄せてきた。
ずるずると近くの椅子に腰掛けると、不意に耳元へと津軽さんの顔が寄せられる。

津軽
サトコちゃんみたいな子に興味ある人って
絶対変わってると思うんだよね

サトコ
「ど、どういう意味ですか···」

津軽
例えばほら···
俺みたいな男とかさ

サトコ
「え···?」

津軽さんの方を振り向くと、意味深な笑みを浮かべられる。

津軽
そういうところだよ

ポン、と肩を叩いて津軽さんは離れて行った。

(そういうところって、どういうところなの··)

結局、津軽さんに踊らされていただけの自分に大きく息を吐き出す。

その日の夜は、透くんと一緒に帰路についていた。

(津軽さんに監視されるって心配もないし···)
(こんな風に気負わずに2人で歩けるのって久々かも)

サトコ
「加賀さん、やっぱり容赦なかったけど、もう痛くない?」

黒澤
ええ···

本当に海に沈められそうになった透くんは言葉少なに返す。
ここ最近や、今日の津軽さんのことを思い出しながら、また息をついた。
とはいえ、津軽さんの試練も今回は何とかクリアできたらしい。

(それもこれも···)

サトコ
「今日はありがとう。おかげでデータも消せてよかった」

黒澤
うん···

サトコ
「あ、でも、計画とかほとんど透くんが考えちゃって」
「私ももっと色々身につけられるように頑張らないと」

黒澤
うん···

サトコ
「観察力とか、注意力とか···そしたら津軽さんの企みも気付けたかもだし」

黒澤
うん···

(2人になってから今日は何だか口数が少ないような···)
(しかもさっきから『うん』しか返してこないし···)

ふとそんなことを思い返し、チラッと隣にいる彼に視線を向ける。

(もしかして、まだ加賀さんからのダメージが抜けてないとか···?)

サトコ
「透くん?」

黒澤
うん···

サトコ
「···加賀さんに締められて気持ちよかった?」

黒澤
うん···

(ダメだ···全然聞いてない···)
(それに、何となく表情が···)

黒澤
着きましたね

サトコ
「え」

唐突に発せられた言葉に促されるように前を向く。
いつの間にか自分の家の前に着いていた。

(透くん、何も言わないけど···家寄っていく、よね?)

玄関の鍵を開け、そんなことを思いながら後ろに控える彼を振り返る。

サトコ
「送ってくれてありが···」
「!?」

玄関を開けた瞬間、肩を掴まれた。
閉める扉に掴んだ方が押し付けられ、衝撃よりも先に驚きが頭を満たす。

サトコ
「と、透くん···?」

黒澤
······

そろそろと顔を上げると、瞳に影を落とす透くんと視線がかち合った。
表情は抜け落ちたまま無言で、それ以上何も言えなくなる。

(ど、どうしよう後ろから何か黒いオーラのようなものが見える···)
(何か私怒らせるようなこと···ダメだ。思い当たることが多すぎて···)

黒澤
オレが怒ってる理由、わかります?

サトコ
「!」

<選択してください>

津軽さんに見つかったこと

サトコ
「さ、最後に私が津軽さんに見つかったから···?」

黒澤
そんなことは遅かれ早かれ分かることなのでどうでもいいんです

サトコ
「そうですよね···」

(でも、じゃあ何で···?)

ぐるぐると頭を混乱させる私に透くんは息を吐く。

透くんに頼ったこと

サトコ
「や、やっぱり透くんを囮になんて最低だよね···!」

黒澤
······

サトコ
「計画も全部透くんが考えたようなものだし」
「結局痛い目にあってるの透くんばっかりで···」

黒澤
それは、オレから巻き込んでもらったようなものですから気にしてません

サトコ
「え?じゃあ···」

分からない

(どうしよう、正直に分からないって言ってもいいのかな···)

黒澤
······

(でも、変に取り繕う方が火に油だろうし···)

サトコ
「ごめんなさい···」

黒澤
分からないですか?

サトコ
「思い当たる節が多すぎて···」

黒澤
サトコさんは正直ですね

黒澤
やっぱり分かってないみたいですね

ボソッと呟いた唇が私の唇を塞ぐ。

サトコ
「···んっ!」

柔らかいその部分を押し付けるように重ねられる。
鼻が潰れそうなほどに求められ、肩を掴んでいた彼の手が鎖骨へと伸びてくる。

黒澤
最後の津軽さんの一言、何ですか、あれ···

サトコ
「津軽さん···?」

私がその名前を口にしたことも気に食わないように、唇を乱暴に奪われる。
呼吸が上手くできなくて、苦しさに涙が滲んだ。

(最後のあれって···)

津軽
例えばほら···
俺みたいな男とかさ

(あの時の会話、聞いてたの···?)

サトコ
「あんなの、津軽さんのいつものからかいで···」

黒澤
本気かウソかなんて、関係ないです

するっと指先が首筋をなぞる。
その感触にぞくぞくと身体が震え、思わず彼の身体にしがみついた。

黒澤
あなたに触れて、あんな意味深なセリフ吐いて···
それだけで、こっちは気が気じゃないんです

サトコ
「······っ」

触れてくる手が怪しく動き、どうしようもなく反応してしまう。

黒澤
オレが触れるだけでこんなになるのに···

耳元に寄せられた唇は、低くいつもの明るさからは想像できない声音で囁く。
それだけで、腰に甘い痺れが走った。

黒澤
あなたにはオレだけ···
違うの?

透くんの瞳は真っ直ぐに私だけを映している。

(そんなの、答えは決まってる···)

そんな瞳を真っ直ぐに見返しながら、ゆっくりと口を開いた。

サトコ
「透くんだけだよ」

私を見据える瞳が微かに揺れる。

サトコ
「だから···本当に触れてほしいのも、透くんだけ」

黒澤
サトコさん···
オレ、その言葉鵜呑みにしちゃいますよ?

サトコ
「鵜呑みにしてくれて、大丈夫だから」

先ほどまで覆っていた陰が少しだけ和らいだような気がした。

黒澤
じゃあ、今夜はいっぱい触れてあげます

サトコ
「っ······ぁ」

漏れた甘い声を飲み込むように、透くんは口を塞ぐ。
先ほどよりもどこか優しいキス。
啄むように何度も重ねられ、時折深く交わり合う。

サトコ
「は···っ」

溢れた息が熱い。
身体に触れていた手が、留まっているボタンにかける。

サトコ
「こ、ここで続けるんですか···?」

背中越しに感じる外の気配に、一瞬身を固くした。

黒澤
いつもと雰囲気が違うって言うのも、燃えますよね

サトコ
「!」

黒澤
···なんて、冗談ですよ

透くんはふっと笑みを浮かべてみせる。
それがようやく見覚えのある透くんの笑顔で、内心ホッとしてしまった。

黒澤
せっかく味わうなら、大事に味わいたいですから

サトコ
「あ、味わうって···」

(しかも大事に···)

黒澤
言葉通りです

紡がれるその言葉にドキドキと心臓は高鳴る。

黒澤
それに、加賀さんたちに締められた分も慰めてください!

サトコ
「そ、それは···うわっ!?」

急に抱え上げられ、その不安定さから透くんの身体に抱きつく。

黒澤
そういうことなので、このままベッドまで連行しちゃいます

サトコ
「······!」

ベッドに優しく降ろされると、そのまま透くんが私の上に覆いかぶさってくる。
瞳が近付いてきて、押し付けられる唇にベッドのが彼の身体ごと私を受け止めた。

サトコ
「んっ···」

黒澤
いいですね。そういう表情

そっと頬を撫でてくる感触に、触れられたところから熱を持ち始める。

黒澤
サトコさんを味わえてる、って感じがします

サトコ
「!」

ペンギンの食性は、魚類・甲殻類・頭足類などを海中で捕食。
つまり···『肉食』である。

Happy End

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