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魅惑の!?恋だおれツアー! 津軽2話

お昼の手作りピザを食べて、お土産を買ったあと。
午後は乗馬体験をすることになった。

津軽
ウサちゃん、馬乗ったことある?

サトコ
「はい。何度かこういう所に遊びに来たことあるので」
「津軽さんは?」

津軽
馬は乗ったことないなー
まあ、馬の犬も同じようなもんでしょ

飼育員
「はい、では次の方、どうぞー」

サトコ
「お先にどうぞ」

津軽
じゃあ、お言葉に甘えて

(津軽さんなら、軽く馬も乗りこなしちゃうんだろうな)

ひょいと馬に津軽さんが跨る。

津軽
へえ、なかなかいい眺め

(白馬の津軽さん···え、王子様?)

風に髪をなびかせる姿に不覚にも見惚れた、その瞬間。


「ヒヒヒーンッ!」

津軽
わっ

馬が前脚を上げ、津軽さんが転げ落ちた。

サトコ
「大丈夫ですか!?」

飼育員
「お怪我は!?どうどう···おとなしくするんだ!」

津軽
いってぇ···ケツ割れたんだけど

サトコ
「大丈夫みたいですね」

津軽
蒙古斑になってたら、ウサちゃんのせいだからね

サトコ
「私、関係ないんですけど!?」

津軽
優しくしてくれないから、傷ついた

サトコ
「最初に駆け寄ったの私ですよね?」

飼育員
「すみません、いつもはおとなしい子なんですが···」

津軽
この子、女の子?

飼育員
「はい」

津軽
じゃあ、きっとドキドキさせすぎちゃったんだねー

サトコ
「津軽さんの顔の良さは馬にも通じると?」

津軽
そこは魅力って言いなさい

津軽さんに手を貸して立たせると、今度は私が白馬に跨る。

飼育員
「大丈夫ですか?別の馬でも···」

サトコ
「平気です。いい子だもんねー。よしよし」


「ブルフフーン···」

優しくたてがみを撫でると、白馬は落ち着いてくれた。

サトコ
「この子の名前、教えてもらえますか?」

飼育員
「モモちゃんです」

サトコ
「モモ、ちゃん···」

津軽
モモに乗るウサちゃん···か

サトコ
「意味深に呟かないでください!」


「ブルッフゥ」

サトコ
「あ、ごめんね。大丈夫だよ、モモちゃん」

津軽
モモを乗りこなすウサちゃん···

サトコ
「おかしなことばっかり言ってないで、後ろに乗りますか?」
「私なら乗りこなせますよ」

(私にも津軽さんより上手くできること、あるんだから!)

得意げに見下ろして反応を窺うと、彼はニコリと微笑んだ。

津軽
たまにはウサちゃんにも華を持たせてあげるよ

サトコ
「お手をどうぞ、お嬢様」

津軽
鼻の穴膨らませすぎ

サトコ
「しっかりつかまっててくださいね」

後ろに乗せると、軽く歩かせていく。

津軽
モモに乗ると、こんな感じなんだ

サトコ
「津軽さんに限っては、名前を呼ばない方が···」

(百瀬さんの顔が、さっきからチラチラして···!)

頭の中の百瀬さんに睨まれていると、モモが少し駆け足になって回された腕が強くなった。

サトコ
「わ!」

津軽
な、なに?

サトコ
「あ、い、いえ···」

(いきなりぎゅってするから!というか、この体勢は “彼氏の腕の中にすっぽり” のフォーム!)
(ちょっと馬に乗れるからってドヤ顔しちゃったけど)
(心臓がもたないのは私の方では!?)

サトコ
「······」

津軽
急に黙りこくっちゃって、どうしたの

サトコ
「その、せっかくなので乗馬に集中しようかな、なんて」

津軽
俺よりモモをとるんだ?

サトコ
「だから、そいういう言い方しないでください!」

津軽
だってさ、せっかく2人きりなのに

なぜか『せっかく』の口調を真似て津軽さんは返してくる。
そのせいか、妙に子どもっぽく聞こえた。

(今、どんな顔してるんだろ)

こんな時こそ顔を見たいのに、肝心の顔は頭の上だ。

津軽
誰もいないから聞くけど

サトコ
「な、何ですか···」

内緒話でもするように囁かれれば、牧場の風の感触も遥か彼方。
背中から伝わってくる体温と鼓動、息遣いしか感じられなくなってくる。

(上手く呼吸が···酸欠で倒れたら、どうしよう!)

津軽
最近、太った?

サトコ
「は!?」

津軽
間食増えたんじゃない?

サトコ
「間食が増えたんだとしたら、津軽さんが変なお菓子ばっかり食べさせるからです!」
「ていうか、どさくさでどこ揉んでるんですか!」

津軽
上司としては部下の体重管理は当然だよ?

サトコ
「体調管理だって言ってください···」

津軽
···間違えたの

サトコ
「え?」

津軽
今のは、素の間違いだから

サトコ
「え?え···?」

(素で『体重』と『体調』を間違えた···?)
(いかにもわざと間違えそうな津軽さんが?)
(どうして?)

津軽
······

サトコ
「······」

沈黙がおりると、触れ合っているところばかり意識してしまう。
背中に伝わる鼓動が、さっきより速いような、そうでもないような。

サトコ
「馬の···」

津軽
ん?

サトコ
「この牧場の馬のキーホルダーが、お土産であるみたいなんです」

津軽
へえ、そう

サトコ
「名前入りらしいので、百瀬さんにモモのキーホルダーを買って帰るのは···」

津軽
ウサちゃん、あげたら?

サトコ
「私があげた日には、その場で叩き割られますよ」

(脳内の百瀬さんの睨みで平常心を保つしかない!)

意識して気もそぞろにしながら、津軽さんとの乗馬タイムは終わった。

津軽
あのさ、ウサちゃ···

サトコ
「わ、私、チーズの食べ比べの時間なので、行ってきます!」

津軽
ちょ···

(どんな顔すればいいのか、わからないよ!)

背中から津軽さんの温もりが、なかなか消えてくれなくて。
それが収まるまで、せめて···と、逃げ出してしまった。

(ふー···チーズケーキ食べたら落ち着いた···)
(お詫びにソフトクリームでも···)

さっき別れた場所に戻ると。

津軽
ハイヨー、モモ!

サトコ
「え!?」

落馬したはずの津軽さんが華麗にモモを乗りこなしていた。

サトコ
「この短時間で乗りこなしたの···?」

飼育員
「いや、本当にすごい方です!モモをわかろうと頑張ってくれて···」
「何度も蹴られそうになったり、振り落とされそうになったんですけど」

サトコ
「そうだったんですか···」

言われて見てみれば、その服のところどころが汚れている。

(別に馬に乗れなくてもいいのに、それでも乗りこなすまでやるって···)
(津軽さんって負けず嫌いっていうか、意外と努力家?)

努力もせずに、何でもできちゃう人のような気がしていたけれど。

(よく考えたら、バッティングセンターでもあたるまで打ち続けてたっけ···)

できないことをできないで、そのままにしておく人じゃないのかもしれない。

(こういう姿は私も見習わなきゃいけないよね)

白馬のモモで草原を駆け抜ける彼を見つめていた。

帰りのバスの中。
津軽さんはネックピローを膨らませていた。

サトコ
「お疲れですか?」

津軽
ウサちゃんは?

サトコ
「どうでしょう···よくわからなくて」

(体力的には問題ないんだけど、心が疲れたというか···ドキドキしすぎたというか)

津軽
だから、これがいるって言ったでしょ

膨らませたネックピローを手渡してくれた。

サトコ
「腕枕···」

津軽
ん?

サトコ
「その、もし、腕枕の方がいいとかって言ったら···」

津軽
乗馬して腕痛いんだけど

サトコ
「で、ですよね!」

津軽
これならいいよ

サトコ
「え···」

肩を抱き寄せられ、その胸に頬を預けるような体勢になった。

(座席の間にある肘置きがお腹に当たって痛い!)

津軽
着いたら起こしてあげるから、おやすみ

サトコ
「は、はい···」

(痛いけど、この体勢を崩すのは···!)

津軽さんに頭を撫でられれば···背に腹を変えてしまった。

津軽
ほら、そんな眠そうな顔しないの。家に帰るまでが、バスツアーなんだから

サトコ
「私は帰宅してるんですが···」

(結局肘置きがずっと脇腹に当たってて、一睡もできなかった···)

津軽
遠足の締めくくりって言ったら、お土産見せっこタイムだよね

サトコ
「お土産って、次の日とかに渡しません?」

津軽
え、帰りのバスの中で開けるでしょ

サトコ
「そうですか···?」

(文化の違いかな···)

津軽
はい、これはウサちゃんへのお土産

サトコ
「私にも買ってくれたんですか···?」

手のひらに置かれたのは、牧場で飼われているウサギのキーホルダーだった。

津軽
その子、鼻をひくひくさせるところが似てたから

サトコ
「私、そんなに鼻ひくつかせます···?」

思わず鼻を隠したのは、ニヤけそうな顔を隠すためでもあった。

(一緒に行ったのに、お土産買ってくれるなんて···)

津軽さんからのお土産コレクションが増えたことが嬉しい。

サトコ
「私のお土産、チーズばっかりなんですけど。よかったら味見して行きませんか?」
「ツアー限定の “幻のチーズ” も切りますね!」

津軽
じゃあ、いただいていこうかな

浮かれていたのは間違いない。
チーズの盛り合わせを出して、何か飲み物でも···とキッチンに戻った、ほんの一瞬だった。

サトコ
「ああー!チーズに何かけてるんですか!」

津軽
津軽さん特製スパイス

サトコ
「 “幻のチーズ” にまで、こんなにかけて!台無しです!」

津軽
美味しいよ?

サトコ
「津軽さんが美味しいなら、もうダメじゃないですか···」

(この “幻のチーズ” を食べるのが、1番の楽しみだったのに···)

津軽
また行けばいいじゃん

サトコ
「え···」

津軽
牧場、また行って、チーズ買おうよ。馬のモモにも会いたいし

サトコ
「······っ···」
「津軽さんが、また行きたい、なら···」

(これって、次のデートのお誘いだって思っていいの···?)

津軽
ハチミツ持ってきてくれたんだ。これもかけよ

サトコ
「ちょ、スパイスの上に!?」

津軽
はい、あーん

サトコ
「むぐっ」

放り込まれたのは待望の “幻のチーズ” 。
ただし、スパイスとハチミツまみれの。

(辛くて甘くて、口の中で爆発しそう!)

それはまるで津軽さんみたいなチーズだった。

Happy End

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