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本編③(後編) 津軽1話

津軽さんが帰って来なくなってから、3日。

(そろそろ聞いてもいいよね···)
(仕事が忙しい、で片付けられないように聞かないと)

給湯室に見えた背中に静かに近付いていく。

津軽
······

サトコ
「どうして···返ってこないんですか?」

津軽
······
ん?

津軽さんが振り返る。
その口元に浮かぶのは薄い笑み。

サトコ
「どうして家に帰ってこないんですか?」

津軽
仕事があるんだよ。ウサちゃんと違って警視だし

サトコ
「だけど、急にそんな···」
「そもそもあの家にいるのだって仕事のうちですよね?」

津軽
正確には家族を装うこと、でしょ
帰りが遅い父親なんていくらでもいるし、出かける時は一緒に行くよ

津軽さんはココアにタバスコをドバドバ入れている。

(今日はいつにも増して入れ過ぎじゃない?)

津軽
ウサちゃんも飲む?

<選択してください>

いただきます

(同じものを飲んだら、何か変わるかな)

サトコ
「いただきます」

津軽
じゃ、このタバスコ使っていいよ

(淹れてくれるわけじゃないんだ···)

結構です

サトコ
「結構です」

津軽
ふーん。じゃ、タバスコとココア片付けといて

(いかにも形だけ誘ったってのが、バレバレですよ)

胃を壊しますよ

サトコ
「胃を壊しますよ」

津軽
俺はへーき

(そうだよね。胃が壊れてるなら、とっくの昔に···だよね)

口調は軽く笑っているけれど、目は笑っていない。
私の名前を覚えていなかった頃の津軽さんを思い起こさせる。

(色々考えて思い当たるのは、連絡もせずに遅くなったことくらいだったけど···)

津軽
あ、そうだ
プチトマト、別に嫌いじゃないから

···ちがう。

(きっと、そんなことで怒って帰らなくなったわけじゃない)

津軽
ノアに好き嫌いしないで食べさせてね
頑張りなよ、新米ママ

期待しないような声。
津軽さんとの間に距離がある。
何があったの?
わかりたいのに、知りたいのに。

(···教えてもらえないんだろうな)

突き放されるだけ。

(···津軽さん)

私、エスパーじゃないんです。
あなたの悲しみとか辛さとか、
誰よりわかりたいって思うのに。

(これじゃ、わからないですよ···)

残るのはココアの甘い匂いだけ。
握る拳の爪が食い込んだ。

食欲はなかったけれど、お昼はタイミングよく鳴子と千葉さんが誘いに来てくれた。

佐々木鳴子
「ね、津軽さんと付き合ってるってほんと?」

サトコ
「ぶっ!」

食べていたキツネうどんを噴き出しかけた。

サトコ
「···っ」

千葉大輔
「ほら、水」

サトコ
「ありがと···」

千葉さんがくれた水で息を整える。

(そういえば、そんな噂が出回ってるんだった!)

サトコ
「まさか。ただの噂だよ。私と津軽さんなんてないない···」

千葉大輔
「よかった···」

サトコ
「ん?」

千葉大輔
「いや、銀室に限ってないと思ってたよ。俺は」

佐々木鳴子
「なーんだ。面白い恋バナ聞けるかなと思ってたのに~」

サトコ
「その噂聞いたら、さりげなく否定しておいてくれる?」

千葉大輔
「もちろん」

佐々木鳴子
「私は噂でもいいから、津軽さんと付き合いたいな~」

鳴子が夢見がちな声を出した時。
向こうから津軽さんと百瀬さんが歩いてくるのが見えた。

(う、どうしよう···無視するわけにはいかないし···)

佐々木鳴子
「あ、津軽警視、お疲れさまです!」

津軽
お疲れ。君たち、仲良しだよね~。同期の絆ってヤツ?

百瀬
「金魚のフンみたいだな」

津軽
ま、大事にしなよ。公安学校組

例の薄い笑みのまま、津軽さんは去っていく。
公安学校組···を嫌味だと気付いたのは私だけだろう。

(いつもなら私が食べてるものにちょっかい出したりしてるくせに)

ここ数日、珍妙なお菓子を口に放り込まれることもなかった。

サトコ
「やっぱり、おかしい···」

佐々木鳴子
「津軽さんのこと?普通じゃない?」

サトコ
「···そう見える?」

(おかしいって感じてるのは私だけ?)

佐々木鳴子
「いつも通りの津軽警視って感じだったよ」
「相変わらずカッコいいし、いるだけで空気が澄む~♪」

サトコ
「そんな空気清浄機みたいな···」

佐々木鳴子
「一家にひとり、あのイケメンがいたら最高じゃん!」

千葉大輔
「美人は3日で飽きるって言うけど···」

佐々木鳴子
「ウソウソ!」
「あの顔だったら、ずーっと見てても飽きないでしょ」

(ドアップになると、結構うっとうしい時もあるけど)
(···そんなふうに思えてた頃が懐かしい)
(もしかして、もしかしてだけど)
(私の好きって気持ちがバレた···とか···?)

サーッと血の気が引く。
それなら距離を取られても仕方ないかもしれないが。
家に帰ったあのタイミングで知られるとは思えない。

(そもそもあの時の津軽さんは···目の前の私を見てなんかいなかった)
(もっと遠くの···何かにとらわれるような···)

千葉大輔
「そういえば、最近空振りの空き巣事件が増えてるの知ってる?」

サトコ
「それって···」

(殺人事件と並行で起きてる空き巣事件の件?)

サトコ
「うん、聞いたことはあるよ」

佐々木鳴子
「ほんと?私は全然」

公安課内でも所属ごとに方針はそれぞれで、情報開示や共有についても所属次第だ。
当然私は銀室で動いている件を話すわけにはいかない。

千葉大輔
「空き巣に入って何も取らないを繰り返すって···」

佐々木鳴子
「誰かが何かを探してるとか?」

サトコ
「普通に考えれば、その線だよね」

けれどそれが2件の殺人事件と関係しているなら。
探し物につなげていくのは、なかなか難しい。

(何かを探しに押し入って、見つかったから殺した?)
(だけど、薬物が検出されていることを考えると、もっと周到な計画の気がする)

サトコ
「······」

佐々木鳴子
「うどん、伸びるよ?」

サトコ
「あ、うん」

津軽さんのこと、事件のこと···考えることが多すぎる。

お昼を食べ終えて課に戻ると。

津軽
先に現場に何人か行かせる

百瀬
「はい」

津軽班が騒然としている。

サトコ
「何かあったんですか?」

百瀬
「だらだら飯食ってんじゃねぇ!3件目の殺しだ」

サトコ
「!」
「それってまた、子どもだけが···」

津軽
子どもが病院に搬送された。所轄が子どもの聞き取り調査を病院で始めるらしい
百瀬と氷川は聴取に立ち会え

百瀬
「はい」

サトコ
「はい!」

(防げなかった···)

鉛を呑み込んだような重さに、ぐっと歯を食いしばった。

to be continued

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コメント

  1. やきうさ より:

    satoさん、初めまして(*^-^)
    以前からこのblogを拝見してました。
    すっかり公安刑事に嵌まり、
    毎回更新を楽しみにしております。
    SP編の時からずっと、
    黒澤さんがイチオシでしたが、
    津軽さんが登場してからは、
    津軽さんからも目が離せなくなりました。
    これからも更新を楽しみにしております
    (*^-^)

    • sato より:

      やきうささん
      コメありがとうございます(^^)/
      ようこそ公安沼へ(#^^#)
      津軽さん・・・いいですよね笑
      更新がんばります!
      遅くなったらごめんなさい汗

      サトコ