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欲しがりカレシのキスの場所 後藤1話

就寝前のパックにヘアトリートメントまでケアして寝た翌日。

(今朝は髪のまとまりもよかったし、メイクのノリもよかった気がする!)
(1回でも、こんなに効果出るものなんだな~)

潜入捜査明けにも関わらずくたびれていないのは、美容効果に違いない。

サトコ
「♪~」

津軽
あ、枝毛発見

サトコ
「!?」

いきなり横からぴんっと髪を引っ張られた。

サトコ
「許可なく女性の髪に触るのはセクハラですよ!」

津軽
え、ご褒美?

サトコ
「最初から人の話聞く気ゼロですね···」

津軽
ボロネズミみたいなカッコで一緒に潜入してたのに、女性とか言われてもね~
張り込み中から、ずっと気になってたんだよね。ウサちゃんの髪パサパサ

(昨日、トリートメントしたばっかりなのに!?)

津軽
ここにも枝毛、こっちも···よいしょっと

サトコ
「よいしょっとって、なにしたんですか!?」

津軽
リボン結びの完成~

サトコ
「リボン結び!!??」

津軽
知らない?最近、こういうヘアアレンジが流行ってるんだよ

サトコ
「流行とか、どうでもいいです!これ、ちゃんとほどけるんですか!?」

(せっかく朝、キレイにしてきたのに!)

サトコ
「いたた···これ、どうなってるの···?」

後藤
どうした?

結ばれた髪と格闘していると、後ろから降って来たのは心を落ち着かせる低い声。

サトコ
「後藤さん···おはようございます」

後藤
おはよう。問題発生か?

サトコ
「いえ!ただ、津軽さんが私の髪をリボン結びにしてしまって、ほどけないんです···」

津軽
告げ口はんたーい

後藤
···なぜ、そんなことを?

誠二さんの静かな声が津軽さんに向けられた。

津軽
流行ってるんだよ?リボン結び。誠二くんは、そういうの疎いだろうけど

後藤
こんな頭で仕事する刑事はいません
氷川、いいか?髪に触れても

サトコ
「は、はい」

(恋人の誠二さんですら、聞いてくれるというのに!)

津軽さんを睨んだところで、当然こっちを見ていない。

後藤
···指に引っかかるな···悪い、痛くないか?

サトコ
「大丈夫です···すみません」

(引っかかる···やっぱり引っかかるんだ···)
(一晩のトリートメントじゃ焼け石に水な現実!)

後藤
これがこうなって···ん?いや、これは···
······

サトコ
「あの···どうなってます?」

後藤
リボンがその、団子に···

サトコ
「団子!?」

後藤
いや、大丈夫だ。きっと何とかする!

石神
···朝から何をやっている

サトコ
「!」

後藤
石神さん。おはようございます
それが、氷川の髪が···

石神
···風呂くらい入れ

サトコ
「入ってます!髪だって、朝は綺麗だったんです!」

後藤
いろいろあって絡まってしまって···

石神
全く···颯馬

颯馬
お呼びですか?

石神
「氷川のこれを何とかしてやってくれ」

颯馬
これは、なかなか···後藤が?

後藤
そもそもは津軽さんが···ひどくしたのは俺です
すまなかった、氷川

サトコ
「いえ、後藤さんは助けてくれようとしたんですから!」

颯馬
ちょっと待っててください。歩から道具借りてきます

颯馬さんが東雲さんのところに向かい、クシやらヘアオイルやらを調達してくれた結果。

サトコ
「あ···」

後藤
ほどけた···

(1分もかからず···)

サトコ
「ありがとうございます!」

颯馬
全体的に潤いが足りてないのかもしれないですね

サトコ
「ハイ···」

(重々承知しております···)
(今日から欠かさず、トリートメントしよう!)

朝からひと騒ぎあり、それを乗り越え潜入捜査の後処理を進めていると。

黒澤
あ、サトコさん、ここにいたんですね!

サトコ
「黒澤さん、お疲れさまです。何か御用ですか?」

黒澤
潜入捜査でお疲れのサトコさんに、渡したいものがありまして
はい、“極上エステフルコース券” です!

サトコ
「え、どうして···」

黒澤
エステとかなかなか自分じゃ行かないかな~と思いまして
サトコさんのお肌、このところ若干お疲れが···

サトコ
「か、顔に出てますか!?」

黒澤
仕方ないですよ。潜入捜査中は昼夜逆転、睡眠不足が当たり前ですし
これでぴかっと磨いてきちゃってください!

サトコ
「いえ、でも、こんなお高いものを頂くわけには···銀座のエステじゃないですか」

黒澤
そこはご心配なくです!魚心あれは水心あり···
ひとつ協力していただきたい案件があるんです

(やっぱり···!)

サトコ
「そういうことなら、別の人に···」

黒澤
いやいや、そう言わずに最後まで話を聞いてください!そんなに難しい仕事じゃないです!
実は協力者のマダムが、このエステの詳細な施術レポートを欲しがってまして

サトコ
「どうして、そんなものを···?」

黒澤
詳しくは言えないんですが、まあ、いろいろ事情があるんですよ~
オレが行くわけにはいかないし、お願いします!

サトコ
「本当に施術レポートだけでいいんですか?いわゆるレビュー的な」

黒澤
本当にそれだけで大丈夫です!
おまけのアンケートくらいの気持ちで、砂漠化したお肌を復活させてきてください!

サトコ
「砂漠化···」

(私の肌、そんなに死んでる···?極潤パックの意味とは···)

予約が取れたのは、奇しくも誠二さんとのデートの前日だった。

(よくわからない仕事を押し付けられたわけだし)
(明日のデートのために綺麗になってもいいよね!)

エステティシャン
「本日担当させていただきます、矢吹です。よろしくお願いします」

サトコ
「よろしくお願いします」

エステティシャン
「なにかお悩みのところなどございますか~?」

サトコ
「その、全体的にカサカサな感じが気になっていて···」

エステティシャン
「潤い不足ですかね~?かしこまりました!うるうるのお肌にしちゃいましょう!」

サトコ
「は、はい」

(スタッフのテンションは意外と高め···施術は···)

サトコ
「···っ、いっ···!あ、あの、ちょっと痛いんですがっ」

エステティシャン
「あー、リンパのマッサージですからね~」
「痛いのはいいことですよ~。老廃物、ゴリゴリ流していきますね~」

サトコ
「え、あ···いっ···」

(いたーっ!これ、いいことなの!?)

エステティシャン
「美しさのためには、時には我慢も必要ですよ~」

サトコ
「は、はい···」

(半分寝落ちながらでも、頑張ってケアしなきゃいけなくて)
(ときには痛みを我慢しなきゃいけないなんて)
(『美は1日にして成らず』とは、まさにこのこと···)

エステティシャン
「では、次は首のリンパいきま~す」

サトコ
「~っ、いたっ、いたたたーっ!?」

奥歯を噛み締めること2時間半。
悶絶の極上エステは終わった。

そして翌日。
誠二さんとのデート当日。

(く、首が痛い···っ。揉み返し···?)

時計を見る首の可動域もあまりないけれど、頑張って見ると待ち合わせ時間を5分過ぎていた。

(めずらしいな。誠二さんが遅れるなて)

後藤
悪い、道が混んでた

駆けてくる誠二さんの靴音ー-顔はよく見えない。

後藤
すまない。待ったか?

サトコ
「いえ、全然。私も今来たばかりですあkら」

笑顔で答えてはいるのだけれど···微妙に横を向いたまま。
そっぽを向いて答えることになってしまった。

to be continued

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