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ほしがりカレシのキスの場所 東雲1話

ある日の午後。

サトコ
「確か、3階だったよね」

(LIDEで鳴子が送ってくれた住所を確認して···)
(うん、間違いない)

私の目的地は、このビルの3階にあるネイルサロン。
休みの日に、なぜこんなところにいるのかというとー-

遡ること数日前。
鳴子と映画がきっかけで『できる女』を目指し始めた頃······

(最近は毎日パックしてるし、シャンプーやボディクリームも変えた)
(少しずつ女子力向上、できる女に近づいている気がする···!)

他にも化粧を変えてみたり、仕事に支障のない範囲でいろいろ試していた。
今日もパックを終えた肌に触れながら、買ってきた雑誌を開く。

(さて、今夜も情報収集をしよう)

サトコ
「できる女、女子力、できる女、女子りょ···」
「······うん?」

(これって、最近オープンしたネイルサロンの広告?)
(そういえば、鳴子が一日で落とせるネイルがあるって言ってたっけ···)

職業柄いつ呼び出されるか分からないうえ、人の印象に残ることはできない。
それこそ、潜入捜査の時にあえてマニキュアを塗ってみるくらいだ。

(まあそれは仕事のためだから女子力ではないし)
(実は一度ネイルサロンに行ってみたかったんだよね)

サトコ
「···うん、思い立ったが吉日!」

(確か、「休日によく行くネイルサロンがある」って鳴子が言ってたはず)
(さっそくLIDEで聞いてみよう)

と、いう訳で。
できる女計画を立てた私は、鳴子に教えてもらったネイルサロンを予約したのだった。

(ネイルをしてもらった後は、歩さんと会う約束してるし)
(女子力が上がった爪を見たら、歩さんもきっと···)

東雲
へぇ···意外と女子力あったんだ
さすがはオレの彼女

サトコ
「歩さん···」

東雲
もっとよく見せてよ
近くで見たいんだけど。可愛くなったキミのこと···

サトコ
「······」

(···歩さん、こんなこと言う?)
(いや、絶対に言わないよね)
(妄想でも違和感を感じてしまうくらい言わない気がする)

<選択してください>

褒めてくれる東雲を妄想

(いや、もしかしたら褒めてくれる可能性もあるかも?)
(もう一度想像してみよう···)

サトコ
「か、可愛いですか?ほんとに?」

東雲
「わざわざウソつく必要ある?」
「似合ってるし、可愛いよ」

サトコ
「歩さん······!」

東雲
「でも···ちょっと困るかも」

サトコ
「?」

東雲
「···サトコにこれ以上可愛くなられると」

(え······誰?)
(自分で想像しておいてあれだと別人過ぎる)
(いや、もちろんこんな展開があったら嬉しすぎるけど!)
(褒められた上に名前呼びなんてご褒美すぎるけども···!)

興味なさそうな東雲を妄想

(歩さんの反応はどちらかというと···)

サトコ
「歩さん、このネイル見てください」
「ワンデーネイルに挑戦してみたんです!」

東雲
ふーん

サトコ
「どうですか?」
「女子力上がりましたか?可愛いですか!?」

東雲
ちょ···近いんだけど
てか本気で言ってる?

サトコ
「え?」

東雲
爪自体はいいんじゃない?
ただ、少し何かしたくらいで女子力が上がったって騒ぐのは謎だよね

サトコ
「?」

東雲
だってさ、そんなこと言わないだろうし
普段からちゃんと自分を磨いてる人は

サトコ
「!!?」

(ある···)
(この反応はあり得る)
(こっちの歩さんはそんなに違和感ないよ···)

自分の妄想とはいえ、説得力のある言葉にダメージを受けてしまった。

それ以外の東雲を妄想

(でも、意外と褒めてくれるかも?)
(もちろん、こんなに大袈裟に褒めてはくれなさそうだけど···)

サトコ
「ネイルに挑戦してみました!」

東雲
へぇ、いいんじゃない?
女子力上がったね

サトコ
「えっ、ほんとですか!」

東雲
うん、まあ今まで最底辺だったし
低いほど上がるのも簡単だよね

(上げて落とされた···)
(このパターンも可能性ある···)

(ダメだ···いろいろ想像してみたけど)
(結局、褒めてくれない未来しか見えない)
(···そ、そろそろ予約の時間だし)
(歩さんの反応は一旦置いておいて、いざネイルサロンへ!)

店員
「それじゃ、色はこんな感じでオッケーですか~?」

サトコ
「はい、よろしくお願いします」

私のネイルは、派手な服装とメイクをした女性が担当してくれることになった。

(綺麗なサロンだな)
(お洒落だし、これは素敵な爪に生まれ変われそうな予感···)

店員
「そういえば、今日はこのあと予定とかあります?」

サトコ
「あ、はい少し」

店員
「もしかして、そのためにネイルしに来てくれた感じですか?」
「一日だけネイルされる方って、それぞれ目的があったりするですよね~」
「結婚式とかデートとか、いろいろですけど」

サトコ
「やっぱりそうなんですね」

店員
「氷川サンの予定って、もしかしてデートだったりします?」

サトコ
「はい、実は」

店員
「あ、やっぱり?オシャレしてるからそうかなって思ったんですよ~」
「オッケーです!じゃあ、彼氏サンが驚くくらい可愛くしちゃいましょう」

サトコ
「ありがとうございます···!」

(心強い···!)
(できる女計画が主だったけど、デートにも気合が入るな)

店員
「てか、せっかく初回割引があるんでこれとかもどうです?」
「ほら、ここにハート乗せたら、めっちゃ可愛くないですか~?」

サトコ
「確かに···?」

店員
「あとはここだけラメ足すといい感じだと思うんですよね~」
「そうそう、これもオススメなんですけど」

(つ、次々にオススメしてくれてるけど全然わからない···)
(でもネイリストさんはプロだし、お任せすればいい感じになりそう)
(間違いなく、私のセンスよりは絶対的に信頼できるはず!)

サトコ
「全部お任せします!」

店員
「え、いいんですか?」

サトコ
「はい。とびきり可愛くお願いできますか」

店員
「承知です~!」

こうしてネイリストさんにすすめられるがまま、ネイルをしてもらい···

サトコ
「···すごい」

歩さんとの待ち合わせ場所で、若干重さのある自分の指先をまじまじと見つめる。
私の爪には数えきれないほどたくさんのパーツがつけられていた。

(これがいわゆるデコネイル)
(世の女性たちが身に着けているお洒落な爪···!)

指先が綺麗になったおかげか、私の気分も高揚していた。

(ちょっと背伸びしすぎた感は否めないけど···)
(仕事も自分磨きもがんばる。できる女に一歩近づいた気がする)
(歩さん、気付いてくれるかな?)

??
「お待たせ」

自然と背筋が伸びたその時、後ろから待ちわびた声がした。

サトコ
「歩さん!お疲れさまです」

東雲
お疲れ
ごめん、待たせた?

サトコ
「いえ、今来たところです」

東雲
そう
······

歩さんの視線が、私の手元で止まる。

(もしかして、ネイルに気付いてくれた···!?)
(最初にした妄想みたいに褒めてくれなくても、なにか一言くらいは感想があるはず)

東雲
······

しかし、歩さんは何も言わない。
それどころか、爪から視線を逸らされてしまった。

(え、確実に気付いたはずなのに何で···!?)

to be continued

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