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欲しがりカレシのキスの場所 難波カレ目線

車の鍵をかけて歩き出した途端、スマートフォンが震える。
ディスプレイを見て、頬を緩めた。

(サトコからの連絡は、いつもタイミングがいいな)

難波
もしもし?

歩きながら対応すると、電話の向こうで慌てた声がした。

サトコ
『あっ、もしかして、移動中ですか?すみません、かけ直します』

難波
いいよ、どうした?

サトコ
『特に用事があったわけじゃなくて···どうしてるかなって』

難波
なんだ、暇つぶしに電話してきたのか?

からかうように言うと、サトコが狼狽える。

サトコ
『そ、そうじゃありません。あの···』

(やけに歯切れが悪いな?)

口ごもるサトコを不思議に思いながら歩いていると、

サトコ
『次は、いつ会えますか?』

部屋の前に着いたついた瞬間そんなことを言い出すので、思わず吹き出す。
笑いを堪えながら、インターフォンを押した。

サトコ
『あっ、すみません。人が···』

電話の向こうでバタバタと走る音がした、玄関のドアが開く。

(いつ会えるかって?)

難波

携帯を耳に当てた俺を見るなり、サトコが大きく目を見開いた。

サトコ
「室長···!」

一瞬にして顔を輝かせる姿に、男心がくすぐられる。

(こんな顔されて、嬉しくない男がいないだろ)

サトコの全身から、あえて嬉しいという感情が溢れ出していた。
抱きつこうとするのを察して受け入れようとすると、サトコがドアから少し顔を出す。

難波
···なにしてんだ?

サトコ
「津軽さんがどこで見てるか分からないので」

(津軽はまだ庁内だと思うが···)

サトコは用心深く廊下を見回すと、俺の腕を掴んで引っ張り込んだ。

玄関のドアを閉めて鍵をかけると、ようやく安心したのか俺の胸に飛び込んでくる。

難波
相変わらず用心深いな

サトコ
「公安刑事ですから」

そう言いながら、ぎゅうぎゅう抱きついてくる姿に笑みが零れる。

(この態度は子供みたいだが)

難波
ずいぶん熱烈だな~

サトコ
「だって、会いたくて電話したら玄関にいるんですもん。こうなります」

(可愛い)

愛しくなって背中に腕を回すと、強く抱き寄せた。

難波
俺も、会いたかった

素直に告げると、サトコが嬉しそうに頬ずりしてくる。
こういう言葉に年々抵抗がなくなっている。

(年の功か。それとも羞恥心がなくなっているのか···?)

滅多なことでは動じなくなっているし、それもあるとは思うが···
それよりも、サトコの不安を少しでも取り除いてやりたい気持ちの方が強い気がした。

(会えない間、寂しい思いをさせてるだろうしな)

せめて恋人として会えた時間ぐらいは、思いっきり甘やかしてやりたかった。

サトコが夕飯を作ってくれることになり、冷えた缶ビールを差し出される。

サトコ
「すみません、これ飲んで待っててください」

難波
お、気が利くな。サンキュ

サトコ
「すぐおつまみ作りますから」

あり合わせのもので手早く料理にしていく姿に、思わず感心する。

(若いのにたいしたもんだ)

くるくると動き回る姿は、見ていて飽きない。
ビールを飲みながら眺めていると、サトコが困惑したように俺を見た。

サトコ
「室長?座ってていいですよ?」

難波
気にすんな

サトコ
「気になります」

(まぁ、ビール飲みながら突っ立ったまま眺められたら、気になるか)

難波
酒の肴だ

サトコ
「おつまみ、すぐ作りますってば」

難波
そういう意味じゃないんだが···

苦笑しながら、最近時折込み上げてくるこの感情について考える。

難波
···いい光景だなと思って

サトコ
「え」

難波
一緒に暮らしたら、家に帰るのが楽しみになりそうだ

自然と出た言葉だったが、サトコが僅かに動揺する。
照れて反応できない姿も、可愛くて仕方なかった。

夕飯を食べた後は、一緒にDVDを見ながらくつろいだ時間を過ごす。
ソファに背もたれると、真剣に映画を観るサトコの横顔を見つめた。

(可愛く出迎えてくれて、上手い飯を食わせてくれて、一緒にいてリラックスも出来る···)
(俺はもう、コイツなしじゃダメかもしれない)

しみじみとそんなことを考えていると、小さくあくびが出る。

(いかん。最近ロクに寝てなかったから睡魔が···)

久しぶりに会った恋人との時間なのに、寝落ちはヒンシュクものだ。
必死に眠気と戦っていると、サトコからほのかにいい香りがした。

(サトコの匂い、なんかいつもと違う気が···)

ウトウトしていると、遠くでサトコが俺を呼ぶ声がした。

サトコに拒否されたので、一人で風呂に入る。

(うーん、前に一緒に入った時、ちょっとやりすぎたか···)

火照った身体が色っぽくて、つい悪戯が過ぎてしまった。
くったりと俺に倒れ込んできた姿を思い出してニヤけていると、お湯からいい匂いがした。

(さっきサトコからしたのは、この匂いだったのか)

サトコおすすめの入浴剤。
風呂に肩まで漬かると、あまりの気持ち良さに大きく息をついた。

(気持ちがいい)

疲れた心身が癒されていくのを感じる。

(あいつ、実は結構尽くし体質だよなぁ)

自分を想って入浴剤まで用意してくれたサトコに、愛しさが募った。

(まったく、出来た女だ)

両手でお湯をすくうと、バシャッと顔を洗った。

翌朝。
目覚ましも鳴っていないのに、ふっと目が覚める。

(なんか温いな)

腕の中の温もりに気付いて下を見ると、サトコがすっぽり腕の中に収まっていた。

(あれ?いつの間に···)
(ベッドでサトコが風呂から上がるのを待ってて···)

そこから先の記憶がない。
どうやら、待ちきれずに寝落ちしてしまったようだ。

(···やっちまった)

思った以上に、疲れていたらしい。
それなのに、ちゃっかりサトコを抱き締めて寝ていたことに、自分で苦笑する。

(無意識に求めるとは···俺も相当やられてんな)

そっと抱き寄せると、柔らかい髪に顔を埋める。

サトコ
「ん」

くすぐったそうに笑う姿に、笑みが零れた。
この時間が幸せ過ぎて、もう少しだけまどろんでいたい。

(とはいえ、そうも言ってられないのが公務員の哀しい性だな···)

後ろ髪を引かれながら、起こさないようベッドを抜け出す。
身支度をしていると、後ろから声がした。

サトコ
「もう行くんですか···?」

難波
お、悪い、起こしたか?

振り返ると、サトコが寝ぼけなまこで目を擦っていた。

サトコ
「いえ、私もそろそろ起きる時間なので。朝ご飯作りますよ」

難波
いいから、もう少し寝てろ

サトコ
「でも···」

(ぐずぐずしてると、本当に起きて来ちまうな)

難波
じゃあな

簡単に別れの挨拶をすると、さっさと部屋を後にした。

(まったくあいつは···)

昨日寝落ちして、ただでさえ申し訳ないのに、これ以上気を遣わせるのは忍びない。

(今度埋め合わせいないとな)

このままでは、うっかり “恋人” であえることを忘れられかねない。

難波
···あ

立ち止まると、急いでベッドルームに引き返した。

サトコ
「あれ、どうしたんですか?」

難波
忘れ物だ

驚くサトコに構わず大股で近づくと、後頭部を引き寄せてキスをする。

サトコ
「ん···」

力が抜けていく姿が可愛くて、一度で終わらず何度も口づける。
やっと満足して唇を離すと、サトコがボーッと俺を見上げた。

難波
···また連絡する。いい子で待ってるんだぞ

サトコ
「はい···」

はにかんだ笑顔に、年甲斐もなく胸が高鳴る。

(可愛すぎるのも困ったもんだ)

キスに込めた想いは伝わっているだろうか。
なかなか会えない関係だからこそ、俺は何度でもキスをしよう。
唇から愛を伝えるためにー-

Happy End

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