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欲しがりカレシのキスの場所 後藤カレ目線

サトコとのデートの日。
車使ったのはいいが、事故の影響で待ち合わせに5分ほど遅れてしまった。

後藤
悪い、道が混んでた

駅前のモニュメントの前にサトコの姿が見え、駆け寄る。

後藤
すまない。待ったか?

サトコ
「いえ、全然。私も今来たばかりですから」

後藤
······

前まで行ったにも関わらず、サトコはそっぽを向いている。

後藤
···サトコ?

サトコ
「はい?」

声をかけても、向けられるのは視線だけ。

後藤
···どうかしたのか?

サトコ
「な、何でもないですよ?大丈夫です」

後藤
そうか···

(遅れたことを怒ってるのか?)
(だが、5分の遅れで本気で怒るとは思えない···)

だとすれば、怒ってみせている···というところだろうか。

(可愛いな)

ツンとした表情は新鮮で見ていると···何となく様子がおかしい気がしてくる。

後藤
今日は···植物園でいいんだよな?

サトコ
「はい。世界のサボテン展を見に行きましょう!」

声こそいつもと同じだけれど、決してこちらには向けられない顔。

(これは···本当に怒ってるのか?)
(5分とは言え、気の緩みだと思われたのかもしれない)

サトコが待ち合わせ時間より前に来ていたなら、5分以上待っていたことになる。
だとしたら、怒っても当然だ。

後藤
決して、今日のことを軽く考えてたわけじゃない
久しぶりに1日会える日だ。俺も楽しみにしていた
遅れたのは事故があったらしくて···

サトコ
「ち、違います!怒ってなんかいません!」

慌てた声で振り向いたサトコからは不自然な音が鳴りー-

サトコ
「···っ、い゛、いっだーっ!!」

後藤
!?

様子がおかしいのには、どうやら別の理由があるようだった。

話を聞いてみれば、昨日エステに行って揉み返しがきたらしい。
不自由そうなサトコには悪かったが、コーヒーを飲む姿で笑ってしまった。

後藤
どうしたら許してくれる?

サトコ
「ど、どうしようかな~」

少し考えたサトコが躊躇いがちに口を開く。

サトコ
「さ···」

後藤
さ?

サトコ
「触ってください!」

後藤

あ···ど、どこにだ?

サトコ
「いえ、そのっ」

(触って欲しい···物足りなく思わせてたか?)
(だが、首がこの状態では···)

下手に色気を出している場合ではないと思っていたのだが。

サトコ
「エステに行ったので、いつもよりお肌スベスベなはずなんです」
「せっかくだから触って欲しいなって···誠二さんのために、その行ったので···」

(俺のために···)

その一言が戒めを揺さぶってくる。

後藤
サトコ···

触れてみれば、確かに指にしっくりと吸い付いてくる気がする。

(全身、こんな感じなのか···?)
(いや、何を考えてる。サトコは痛みで辛い思いをしているっていうのに)

劣情を抑える一方で彼女への気持ちが強くなると、小さな嫉妬も顔を覗かせてくる。

(エステくらい女なら誰でも行くものなのかもしれないが)
(サトコの肌が綺麗になったのは···)

黒澤
あなたの黒澤透です★

後藤
······

黒澤に妙な下心がないのは知っているが、気に入らないものは仕方がない。
サトコのことになると、狭量になるのはすでに自覚済みだ。

後藤
だが、こういうことはもうやめてくれ
サトコのことは俺が綺麗にしたい

取り繕うには彼女の温もりが愛おしすぎる。

(とは言っても、美容関係のことは詳しくない)
(今の俺にできることは···首の痛みを和らげることだ)

後藤
ちょっと待っててくれ

サトコ
「はい···」

サトコの傍を離れ、スマホで揉み返しの対処法を調べる。

(冷やした方がいいのか)
(サトコの言う通りなら、これで少しは良くなるはず···)

冷凍庫からアイシングバッグを持って来て、サトコの首筋に当てた。

サトコ
「ひゃあっ!?」

跳び上がる姿が可愛く、一瞬ウサギのように思えたが。

津軽
ウーサちゃん

後藤
······

(雑念が多すぎる···)
(それだけサトコを取り巻く人間が多いということか)

取り巻くと言えば聞こえがいいが、ちょっかいを出すー-と言った方が正確だ。

(支えられている部分もあるんだろうが、それ以上に···)

余計に可愛がられているのは事実で、膨れ上がるのは独占欲。

後藤
サトコ···

サトコ
「ん···」

(寝たのか···)

何度かアイシングバックを交換して腕に抱いているうちに眠ってしまったようだ。

(こんな無防備な顔を見られるのは俺だけ、なんだよな)

首を動かさないように気をつけながら、頬に触れ、前髪を横に流してみる。
額をあらわにすると普段よりも幼く見えるようで、公安刑事の顔は隠れて見えた。

(エステなんて行かなくたって、いつもアンタは綺麗だ)
(俺はいつだって話せないのに)

後藤
あまり、綺麗にならないでくれ···

寝ているのをいいことに、勝手な言葉がこぼれ落ちる。
これ以上、彼女に手を出す奴らが増えたら職場でも感情を抑え切れないかもしれない。
仮にも “恋愛禁止” の、あの場所で。

サトコ
「誠二···さん···」

(寝言か?)

へらっと緩む口元を見れば、どんな夢を見ているのか···愛しさばかりが募って。

後藤
俺だけのものだ···

首を痛めにないように抱き締める。
嫉妬やら独占欲やら昇華するためには、この温もりを抱き締めるしか方法がなかった。

アイシングの効果があり、サトコの首は快復した。
次はマッサージに挑戦しようと思ったのが、良くなかったのかもしれない。

サトコ
「···っ」

後藤
ん?

くすぐったさから彼女が身を捩った拍子に、手が思わぬ場所に滑って行ってしまった。

サトコ
「あ···っ」

後藤

サトコ
「せ、誠二さ···あの、そこは···」

後藤
······

サトコ
「そこはマッサージしなくてっ、大丈夫でっ」

(墓穴を掘るというのは、こういうことか···)

手のひらに伝わる柔らかな感触。
泡で滑りが良くなっていることもあり、動かす手を止められない。

後藤
···悪い

サトコ
「な、何で謝るんですか!?」

後藤
それどころじゃなくなりそうだ

サトコ
「え、あ、ん···っ」

今日はずっと堪えていたからー-それが言い訳になるだろうか。
風呂で昂ぶる熱を隠すこともできず、彼女の滑らかな肌を押し上げてしまうのがわかる。

サトコ
「誠二さ···っ」

後藤
首、もう大丈夫なんだよな?

サトコ
「それは大丈夫ですけどっ。こ、これは···」

後藤
離せそうにない···

サトコ
「···っ」

特殊な性癖はないが、ローションのようにとろみのある泡は刺激になる。
滑りやすい肌が重なれば、動きを止めることができない。

サトコ
「ぁ···っ」

後藤
···っ

(これは···癖になったら大問題になりそうな刺激だな···)

新たな扉を開いてしまったような罪悪感を持ちながら。
本来はそんな予定ではなかったのだけれど。
風呂に中で今日1番、濃密な時間を過ごしてしまった。

翌日、サトコに声をかけにいった黒澤を捕まえたのは、ほぼ朝イチのこと。

後藤
黒澤、ちょっと来い

黒澤
え、ちょ、後藤さん!?首に腕かけられたら、透死んじゃう!

後藤
これを受け取れ

黒澤
え···

人気のない廊下の隅で黒澤に押し付けたのは、一通の封筒。

黒澤
これ、お金···!いや、そんな、援助交際はちょっと!
後藤さんだったら、オレ···

ぽっと頬を赤らめた黒澤が気色悪くクネクネと身を振る。

後藤
その反応をやめろ

動きを止めるために両耳を同時に引っ張る。

黒澤
きゃー!い、いやーっ!!

後藤
これはエステ代だ

黒澤
え?後藤さんもエステ行きたいんですか?
はっ!ひとりじゃ行きづらいので、これはメンズエステのお誘い!?
いいですよ。後藤さんとだったら、オレ···

後藤
だから顔を赤らめるな!

黒澤
ちょ、あ、いーっ

後藤
彼女の分だ

封筒を押し付け、距離を取る。
黒澤はネクタイを直しながら恨みがましい目を向けてきた。

黒澤
いいのに。サトコさんにはレポートをお願いしたから

後藤
あまりサトコに仕事を押し付けるな

小さなこだわりだとわかっていても。
彼女を綺麗にするのは、俺でありたい。
1番綺麗で可愛い姿は俺だけのものにしていたいからー-

Happy End

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