カテゴリー

欲しがりカレシのキスの場所 後藤3話

私がコーヒーを飲む姿を見て、笑いが堪えられなくなった誠二さん。
遠い目をした私を宥めるように、後ろから抱きしめてくれる。

後藤
どうしたら許してくれる?

サトコ
「ど、どうしようかな~」

(誠二さんがご機嫌取りをしてくれるなんて!)
(この好機をどう活かすか···)

後藤
何か美味いものでも買ってくるか?

サトコ
「食べ物より、傍にいて欲しいです」

後藤
そうか···首をどうにかしてやりたいが
下手にマッサージしない方がいいと言われてるしな···

(どうしよう···何をおねだりする?)
(いい女のおねだりと言えば、やっぱり色っぽいことでは···!)

サトコ
「その、あの···」

後藤
ん?

サトコ
「さ···」

後藤
さ?

サトコ
「触ってください!」

後藤

あ···ど、どこにだ?

サトコ
「いえ、そのっ」

(もっとさらっと格好良く誘うつもりだったのに!)
(痴女のようになってしまった!)

サトコ
「エステに行ったので、いつもよりお肌スベスベなはずなんです!」
「せっかくだから触って欲しいなって···誠二さんのために、その行ったので···」

(う、全然格好良くない···は、恥ずかしすぎる!)

後藤
サトコ···

サトコ
「い、今のは聞き流してください!そうだ、何か甘いものでも!」

後藤
ここなら触っても平気か?

サトコ
「ぁ···」

そっと指が撫でたのは、私の右頬。
まるで猫をあやす時のように、指先で優しくくすぐられる。

後藤
確かに、いつもより指に吸い付く

サトコ
「本当ですか?」

後藤
ああ。触り心地がいい。ずっとこうしていられそうだ

指先が手の平になり、支えるように包まれると心地良い。

(ずっとこうされていたら、私の方が溶かされてしまう···)

後藤
だが、こういうことはもうやめてくれ

サトコ
「エステ···ですか?やっぱり似合わないっていうか···今はそれどころじゃないですよね」
「今は仕事1本で···」

後藤
そいうことじゃなくて。黒澤に綺麗にしてもらったアンタは見たくない

サトコ
「え···?」

誠二さんの声は直接耳に吹き込む体勢で囁かれる。
その顔を見たくても、首が動かない。

サトコ
「どうして黒澤さんが?」

後藤
サトコのことは俺が綺麗にしたい

サトコ
「···っ」

顔が見えない分、その声の甘さを余計に意識してしまう。

サトコ
「でもエステは何というか。プロの技術なので···今回はうまくいかなかったですけど」

後藤
···美容に効くツボを調べるか

サトコ
「本気ですか!?」

後藤
本気···と言いたいところだが、素人のツボ押しは今回みたいな事態を招きかねない
俺は俺にできる方法で、アンタを綺麗にする

サトコ
「は、はあ···」

(それって、どういう方法なんだろう···)

あれこれ想像や妄想の翼をはばたかせていると、不意に背後の温もりがなくなった。

サトコ
「誠二さん?」

後藤
ちょっと待っててくれ」

サトコ
「はい···」

(あれ?なんだかんだで、おねだりのチャンスを活かしきれなかった!?)

頬には触ってもらえたけれど、実のところもっと絵に描いたようないちゃいちゃを想定していた。

(おねだりといい、いちゃいちゃといい···映画のようにするのは難しい···)

頭の中を『パシフィック8』の美女たちがふわふわと通り過ぎていると。

後藤
ひやっとするぞ

サトコ
「ひゃあっ!?」

首に冷たいものが触れ、ソファの上に小さく跳び上がった。

サトコ
「な、何ですか?この冷たいの···」

後藤
アイシング用のパックだ。さっき調べたら、揉み返しなら冷やした方がいいらしい
これでよくならなかったら、明日朝イチで病院に行こう

サトコ
「何から何まで、ありがとうございます···」

後藤
さっき笑ったお詫びだ

(私の邪な考えと違って、誠二さんはちゃんと私の身体のことを考えてくれてる···)

実に甲斐甲斐しく、定期的に冷やし続けた結果ー-

後藤
······

(あれ···いつの間にかソファで眠っちゃったんだ···)

私を背中から抱きしめ、誠二さんも眠っている。
ぬるくなったアイシングパックが肩から滑り落ちてきた。

(そういえば、首···)

おそるおそる誠二さんの方に顔を動かしてみると。

(首、動く!痛くない!)

サトコ
「誠二さん、治りました!」

後藤
ん?ああ···寝てたのか···

サトコ
「はい。でもおかげで首、動くようになりました!」
「あっち向いてホイもできます!」

後藤
よかったな···これで安心だ

後藤
首が動かなければ、不測の事態にも対応できない

サトコ
「誠二さんがずっと冷やしてくれたおかげです」

後藤
これでやっと···こうできるな

誠二さんの手が両頬を包み、上を向かされる。
そして柔らかな口づけが降りてきた。

サトコ
「あの、誠二さん?こ、これは···」

後藤
俺が綺麗にすると言っただろう

サトコ
「いや、でも、そのっ」

後藤
···この石鹸みたいなものは、こっちのネットで泡立てればいいのか?

誠二さんが持っているのは、私がエステでもらったお土産のボディケアグッズの数々。
鞄に入れっぱなしだったそれが、今、彼の手の中にある。

後藤
たったこれだけで、こんなに泡立つのか···

サトコ
「誠二さん、泡立てるの上手いですね···」

後藤
この泡でマッサージすればいいんだろう?

サトコ
「え、ひゃ···くすぐったっ」

後藤
動くと危ない

サトコ
「だ、だって···っ」

背中に泡が塗られて、大きな手が肩甲骨の辺りを撫でていく。

(気持ち良さとくすぐったさの両方が···っ)

サトコ
「···っ」

後藤
ん?

身を捩った拍子に、ぬるっと誠二さんの手がわきの下を滑って前に回ってしまった。
鷲掴みにされたのは、言うまでもなくー-

サトコ
「あ···っ」

後藤

サトコ
「せ、誠二さ···あの、そこは···」

後藤
······

サトコ
「そこまマッサージしなくてっ、大丈夫でっ」

(ん?いや、豊胸マッサージ的な!?)

後藤
···悪い

サトコ
「な、なんで謝るんですか!?」

後藤
それどころじゃなくなりそうだ

サトコ
「え、あ、んっ···」

横抱きにされ唇を塞がれる。
その間にも泡で濡れた手が肌の上を滑っていく。

サトコ
「誠二さ···っ」

後藤
首、もう大丈夫なんだよな?

サトコ
「それは大丈夫ですけどっ。こ、これは···」

後藤
離せそうにない···

サトコ
「···っ」

(あ、熱いのがあたって···っ)

後藤
アンタも···

サトコ
「え、あ···」

いつの間にか泡だらけになっている手を誠二さんの身体に導かれればー-

後藤
···っ

サトコ
「誠二、さ···っ」

後藤
サトコ···

シャワーの蒸気で熱いのか、互いの吐息で熱いのかがわからなくなる。
おねだりの妄想から遅れてやって来た現実は、映画並みに刺激的で蕩けそうなものだった。

翌日。

黒澤
うわー!エステ、効果抜群ですね!?

サトコ
「え···」

黒澤
サトコさんのお肌、珠のようにツヤッツヤじゃないですか~
2日経ってこの効果···昨日って、何か特別なことしました?

サトコ
「昨日は···」

蘇るのは、言うまでもなくお風呂での出来事。

サトコ
「···っ」

黒澤
あれ?そういえば、昨日は後藤さんも休みでしたよね
もしかして、そのお肌は···

サトコ
「ち、ちがっ」

後藤
黒澤、ちょっと来い

黒澤
え、ちょ、後藤さん!?首に腕かけられたら、透死んじゃう!

首に腕を回した誠二さんが黒澤さんを連行していく。

黒澤
きゃー!い、いやーっ!!

サトコ
「······」

津軽
ねえ、今の声、なに?

サトコ
「さ、さあ···?」

(もしかして誠二さんがいればエステいらず···)
(いやいや、職場で考えることじゃない!)

津軽
ウサちゃんと誠二くん、今日、同じ匂いするよね

サトコ
「!?」
「き、気のせいですよ!嫌だな~。この書類、倉庫に片付けてきます!」

颯馬
あれ?サトコさん、今日は調子良さそうですね

東雲
なに付け焼き刃的に女子力上げてんの?

サトコ
「は、ははは···ちょっとエステに行ったので···っ」

(私って、そんなに分かりやすいの!?)

こんな事態になるとは思ってもいなかったけれど。
私は誠二さんの手で、目に見えてわかるほど綺麗にされたようで。
彼がいなければ私の女子力はいらないー-のかもしれなかった。

Happy End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする