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欲しがりカレシのキスの場所 難波3話

リビングで待っていると、室長がお風呂から出てきた。

難波
ふう、スッキリした

サトコ
「気持ち良かったですか?」

難波
ああ

リラックスできたのか、心なしか表情が柔らかくなっている。

(良かった)

嬉しくなっていると、室長が隣に腰掛けた。
お風呂でほかほかした体温を近くに感じて、思わずドキッとする。

(隣に座られただけで、なに照れてるんだろ)

なんだかいつもよりドキドキするのは気のせいだろうか。
バスソルトのいい香りが、私たちを包んだ。

サトコ
「いい匂いですね」

気付けば、石神さん達とまったく同じ発言をしてしまっていた。

(あれ、これ私もセクハラ···?)

室長が私の手首を鼻に寄せて微笑む。

難波
そうだな

サトコ
「···香り、強すぎませんか?」

難波
ん?そこまで気にならないけどな

(そうかな)

室長から香って来る香りは、バスソルトそのものを嗅いだ時と少し違う気がする。
明らかに香りが強くなって、強烈に引き寄せられるような感覚があった。

(フ、フェロモン促進剤とか入ってないよね?)

高鳴る胸をそっと抑える。
先程から鼓動が速いのは、この香りのせいかもしれない。

(いい匂い。もっと近くで···)

香りに引き寄せられるように、無意識に身体を寄せてしまう。

難波
···

触れるか触れないかの距離で寄り添っていると、室長が手を伸ばした。
体温の高い手に優しく頬を撫でられ、気持ちが良くて目を閉じる。

(あったかい···)

黙ってされるがままになっていると、優しく抱き寄せられる。

難波
···ずいぶん、この香りを気に入ってるみたいだな

言い当てられて、ドキッとする。
恥ずかしくて黙っていると、ボソッと呟く声がした。

難波
これからは、サトコを誘惑したいときはこれを使うか

サトコ
「ゆ、誘惑って···」

照れる私を見て、室長が喉の奥で笑う。

難波
お前も風呂入って来いよ

そう言いつつ、室長は私を腕に抱き締めたままだ。

サトコ
「あの、離してくれないと···」

難波
んー、なんかお前がそんな顔するから、離すの名残惜しくなってきた

室長はニヤッとすると、私を抱きしめたまま後ろに倒れ込んだ。

サトコ
「きゃ」

室長の胸に乗っかる形になり、慌てて床に手をつく。

サトコ
「あ、危ないじゃないですか」

焦って起き上がろうとすると、がっちりとホールドされて阻まれた。

サトコ
「···重くないですか?」

難波
重くない

(そうは言っても···)

身じろぎすると、さらに腕の中に閉じ込められる。

難波
いいから、じっとしてろ。俺の癒しタイムなんだから

(そうなの?)

室長がリラックスしたように息を吐き出した。

難波
···入浴剤もいいけど、こっちの方が癒される

そう呟くと、心地よさそうに目を瞑る。
目を閉じたまま優しく髪を撫でられ、私もおずおずと広い胸に頬を寄せた。

(幸せ···)

抱き合っているだけで心が満たされ、癒されていく。

難波
なんか···このまま寝れそうだ···

今にも寝そうな声に、慌てて体を起こした。

サトコ
「ダメです!こんなところで寝たら風邪ひきますよ!ベッドに行ってください」

難波
分かってるって。サトコも、早く風呂あがって来いよ?

サトコ
「え」

難波
お前がいなくちゃ、寝られないだろう

甘えるような笑顔に、胸がキュンとする。

(なんか可愛い)

顔を綻ばせると、ぎゅうっと抱きついた。

サトコ
「はいっ」

(いいお湯だった~)

ほかほかしながら、ドライヤーを取り出す。
髪を乾かすと、バスソルトのいい香りがした。

(ほんといい匂い。室長もリラックスできたみたいだし、良かっ···ん?)
(そういえば、なんでデパートに行ったんだっけ?)

最初は女子力を上げる計画だったはずなのに、いつの間にかすっかり目的を忘れていた。

(うーん···まぁいいか)

サトコ
「室長も喜んでくれたし」

納得するように、小さく呟いた。

サトコ
「お待たせし···」

部屋に入るなり、慌てて口を閉じる。
室長は、ベッドの上ですやすやと眠っていた。

サトコ
「私がいないと寝られないって言ったくせに···」

文句を言いつつも、頬が緩む。
ベッドに近づくと、そーっと寝顔を覗き込んだ。

難波
···

(ふふ···室長のこんな無防備な姿見られるの、私だけだよね)

わりかし幼い寝顔に微笑むと、起こさないよう隣に滑り込む。
枕を整えていると、室長の腕が伸びてきて私を抱き寄せた。

(起きて···!?)

驚いて顔を上げると、安らかな寝息が聞こえる。

難波
すー···

(寝てる···)

一瞬寝たフリかとも思ったけれど、どうやら本気で寝ているらしい。

(無意識···?)

眠っているくせにしっかりと抱き締めてくる室長に、顔がニヤける。

(なんか愛を感じちゃうな)

私も甘えるように抱きつくと、いい匂いに包まれる。
もはやどちらから香っているのか分からない中、心地良くまどろんでいった。

ガサゴソと小さな物音がして、うっすらと目が覚める。
カーテンの隙間から、光が漏れていた。

(ん···もう朝?)

あまりに深い眠りで、隣のぬくもりが消えたことに気付かなかった。
部屋を見回すと、背を向けた室長がスーツのジャケットを羽織っていた。

サトコ
「もう行くんですか···?」

難波
お、悪い。起こしたか?

室長が申し訳なさそうに振り向く。

サトコ
「いえ、私もそろそろ起きる時間なので」

難波
まだ早いだろ

サトコ
「朝ごはん作りますよ」

難波
いいから、もう少し寝てろ

話しながら手早く帰る支度を整えていく姿に、胸が切なくなる。

サトコ
「···次は、いつ会えますか?」

室長が難しい顔で首を捻った。

難波
うーん···すぐには無理そうだなぁ

(そっか···そうだよね)

忙しい人だと分かっているけれど、寂しくなる。
顔には出さないよう、慌てて笑顔を取り繕った。

サトコ
「やっぱり朝ご飯作りますよ。急いで支度を···」

起きようとするのを留めるように、室長が私の頭をポンとした。

難波
もう出るから

サトコ
「···」

難波
じゃあな

最後に髪をくしゃっとすると、室長はさっさと部屋を出て行ってしまった。

(行っちゃった···)

昨夜はずっとくっついて寝ていたせいか、もうぬくもりが恋しい。

サトコ
「ちょっと寂しいなぁ」

思わずため息が零れたその時、
バタバタと足音がして、室長が戻って来た。

サトコ
「あれ、どうしたんですか?」

驚く私に、室長が大股で近づいてくる。

難波
忘れ物だ

そう言うなり、突然唇を塞がれた。

サトコ
「!」

咄嗟に身じろぎすると、室長が私の後頭部を引き寄せ、さらに深く口づける。

サトコ
「ん···」

難波
···

角度を変えて何度もキスをされ、身体の力が抜けていく。
崩れ落ちる私を、室長がキスしたままベッドに横たえた。

サトコ
「室長···」

難波
まだ寝てろ

室長が私を見下ろし、あやすように髪を撫でる。

難波
···また連絡する。いい子で待ってるんだぞ

サトコ
「はい···」

はにかんで微笑むと、室長も優しく微笑んで部屋を出て行った。

サトコ
「ふふ···」

甘い余韻に、先ほどまでの寂しさがすっかり消える。
布団に滑り込むと、室長の残り香がした。

(室長の腕の中にいるみたい···)

目を閉じると、室長の言う通り、もう少しだけこの心地良さに浸ることにした。

Happy End

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