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マリアージュ 難波カレ目線

【難波マンション リビング】

サトコ

「カジノで遊んだあとは、天空プールに行って‥そこからの夜景がもう最高なんです!」

難波

へえ‥

さっきからサトコはずっと、昼間にしていたというハネムーンの妄想に着いて話し続けている。

その様子があまりに楽しそうで幸せそうで、微笑ましい。

難波

そんなことを妄想してたとはな‥

(こうやって訓練や講義の大変さを紛らわせてるのかもしれねぇな)

(愚痴ってる後ろ向きなヤツも時々見かけるが、こいつは本当にポジティブだ‥)

サトコの前向きさに引っ張られるように、俺の気持ちもシンガポールへと飛ぶ。

難波

シンガポール‥いいなぁ

確かにカジノは行ってみてぇし、そこそこ勝てる自信もある

ハネムーンは本当にそこでもいいかもな

サトコ

「え‥?」

サトコが驚いたように俺を見た。

(おっと‥俺も妄想が過ぎちまったか‥)

俺はどんな顔をしていいか分からず、何気ない風を装って続けた。

難波

でも、公安刑事がそんな長期休暇取れる訳もねぇか‥はははっ

サトコ

「ですよね‥」

頷きながらも、サトコは明らかに落ち込んでいる。

(こいつ、もしかして‥本気で俺とハネムーンしたがってるのか?)

妄想なんて、仲間とのおしゃべりのただのネタかと思っていたが。

サトコが思い描いていたのは、妄想というより願望だったのかもしれない。

俺と描く未来への。

(無理だなんて、悪いこと言っちまったな‥)

サトコが寮に帰った後、俺は1人になってしみじみ反省した。

サトコはまだまだ若い。だから結婚なんてそんなに身近に感じていないと思っていた。

でもハネムーンなどと言い出したということは、

あいつもそういうことを考えているということなんだろう。

(サトコもそう思ってくれてたと分かれば話が早い)

(俺ももっと本腰入れて、サトコとの将来を考えていかないとな‥)

難波

結婚か‥

一気に2人の関係のステージが進んだ気がして、身が引き締まった。

【学校 廊下】

あれから色々考えた俺は、まずはサトコを落胆させた埋め合わせに、

とっておきのデートを計画しようと思い立った。

(日本にいながらにして外国に行った気分になれる、みたいなのがあるといいんだけどな‥)

行けるものなら海外に連れて行ってやりたいが、こればかりは現時点ではどうにもならない。

俺はサトコに使い方を教えてもらったスマホをいじりながら、必死にプランを考えていた。

サトコ

「室長、お疲れさまです」

突然声を掛けられて顔を上げると、いつの間にかサトコが目の前に立っていた。

難波

おお、サトコ。いいところで会ったな

まだノープランの状態だが、とにかくサトコの予定だけでも押さえておくことにする。

難波

今度の休日、何か予定あるか?

サトコ

「別にありませんけど‥?」

難波

じゃあ、空けといてくれ

一緒に行きたいところがあるんだ

サトコ

「は、はい‥!」

サトコの顔にパッと喜色がさした。

そのまま、スキップでもしそうな勢いで次の講義の教室へと去っていく。

(こいつは本当に、分かりやすくてかわいいねぇ)

あんなに喜ばれたら、ますますこのデートは外せない。

(さて、どうするか‥)

【室長室】

コンコン!

黒澤

室長、黒澤です!

難波

おう、入ってくれ

カチャッ

黒澤

失礼します!お呼びですか、室長

困った俺は、とりあえず黒澤を呼び出した。

黒澤

室長がオレに御用とは、不測の事態発生ってとこですかね?

ですが、オレが来たからにはご安心ください。何でも任命される準備はできております!

黒澤は俺の呼び出しが嬉しいのか、ハイテンションに1人でまくし立てている。

(こいつもある意味、すごく前向きだな‥)

難波

呼び出したのは他でもない。お前に聞きたいことがあるんだ

黒澤

何でしょう?なんなりとお聞きください!

難波

どこかこの辺でリゾートっぽい場所はねぇかと思ってな

黒澤

リゾートですね。すぐにリストアップしますので

黒澤は抱えていたタブレット端末を手早く操作し、俺に見せた。

黒澤

ここなんかどうでしょう?

難波

‥リゾート風ショッピングモール?

黒澤

はい。ショッピングモールと言っても、ただ買い物をするだけじゃありません

リゾートの雰囲気の中で

まるで海外にいるようなプチ旅行気分を味わえると、今ドキ女子に人気のスポットですよ

難波

プチ旅行気分か‥

黒澤

なんと、ホテルも併設されてます!

(泊りがけなら、ますます旅行気分が高まりそうだな‥)

写真で見た感じもなかなか悪くない。

黒澤

室長‥今回の協力者は大物なんですか?」

ずいぶん手厚い待遇ですよね

黒澤はニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んだ。

難波

うるせぇな、いちいち‥

誰とリゾートに行くか勘付いている黒澤をあしらいながら、サトコに想いを馳せる。

(よし、デートの場所はここにしよう。あいつ、喜んでくれるかな?)

【ショッピングモール】

それから一週間。

ついにデートの日がやってきた。

俺たちは広いショッピングモールの中を歩き回り、リゾート気分を満喫する。

サトコ

「あ、あのアロハシャツかわいいですね!」

難波

ん?どれだ?

【ショップ】

サトコに手を引かれて店に入ると、色とりどりのシャツが俺たちを迎えてくれた。

サトコ

「ほら、これ。室長に似合いそう‥!」

難波

そ、そうか‥?なんかちょっと、おっさんには派手な気が‥

サトコ

「アロハは派手くらいがいいんですよ。あ、同じ柄のドレスもある!」

サトコはサマードレスを顔にあて、鏡の前に立った。

難波

似合ってるよ。お前が買った方がよさそうだ

サトコ

「そんなこと言わずに、お揃いにしましょうよ。ね?」

難波

お揃いって‥

(昔流行ったペアルックってやつか?)

想像しただけで恥ずかしいが、サトコはかなり本気だ。

サトコ

「とにかく、試着だけでも」

難波

ちょ、ちょっと待てって‥

【試着室】

サトコに強引に試着室に押し込まれ、しぶしぶアロハに袖を通した。

難波

やっぱり派手だろ、これ‥

ブツブツ言いながら試着室を出ると、いつの間にかサトコもサマードレスに着替えている。

難波

おお、似合うな‥

サトコ

「室長もすごく似合ってますよ?」

サトコは嬉しそうに俺と腕を組み、鏡の前に連れて行く。

サトコ

「ほら、どうですか?」

難波

ああ‥

サトコの眩しい笑顔がアロハの柄に似合いすぎて、俺はその姿に釘付けになった。

(こんなに喜んでくれてるなら、記念に買っとくか‥)

難波

よし、買おう。これに決まりだ

サトコ

「本当ですか?やったー!」

飛び上がらんばかりに喜ぶサトコ。

俺が買ったのは、アロハじゃなくてこの笑顔だ。

(楽しんでくれてるみたいで、よかった‥)

【ホテル】

夜は、ショッピングモールに併設されたホテルへ。

シンガポールには勝てないと分かりながらも、

『夜景の一番きれいな部屋を』とリクエストしてあった。

サトコ

「ステキです。すごく‥」

難波

シンガポールよりか?

後ろからサトコを抱きしめてちょっとからかうように聞いた俺に、サトコは真顔で言う。

サトコ

「もちろん。だってこれは現実で、しかも室長が私のためにプレゼントしてくれた夜景ですから」

難波

そんなこと、言ってもらえると思わなかったな

サトコのかわいすぎる言葉に、俺はもうキスしたい気持ちを抑えきれなくなった。

サトコの身体を正面に向け、唇を近づける‥‥

サトコ

「ちょ‥ちょっと、待ってください」

難波

サトコ

「これって、現実ですよね?」

難波

ん?どういう意味だ?

サトコ

「ステキすぎるし幸せすぎるし、また私の妄想なのかな‥なんて」

難波

何言ってんだよ。俺はちゃんとここにいるぞ

(ここにいて、ちゃんとお前との未来を考えてる)

(妄想なんかじゃなくて‥卒業して結婚したら、本物のハネムーンに連れてってやりてぇな)

想いを込めて、キスを落とした。

互いの存在を確認するように、何度も何度も。

難波

サトコ‥

もし、結婚したら‥ちゃんと海外ハネムーン行こうな

サトコ

「室長‥」

「その時は、お揃いのアロハを着たいです!」

サトコの目が輝いた。

その輝きを少しを逃すまいとするように、俺はサトコを抱きしめる。

いつか来るかもしれない『その日』を思い描きながら、俺たちは夜の闇へと溶けていった。

Happy  End

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